訪問看護ステーション、「年間請求額が高額・1件当たり請求額が高額」等のケースではサービス内容確認等のため指導等実施へ—中医協総会(1)
2025.3.12.(水)
一部に不適切な訪問看護を提供しているケースがあると考えられるため、適切な訪問看護提供を目指して次のような指導の仕組みを設ける—。
(1)複数都道府県にわたって広域で運営されている訪問看護ステーションについて、より効果的な指導を実施するため、厚生労働省本省・地方厚生(支)局・都道府県による指導の仕組みを設ける
(2)たとえば「レセプト請求額が高額である」など、一定の基準に該当する指定訪問看護ステーションに対し、教育的な視点による指導機会(選定基準)を設ける
(3)現在、講習形式で実施している集団指導について、訪問看護ステーションの受講機会・利便性確保のため「eラーニングによる集団指導」を検討する
3月12日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした方針が了承されました。同日には、医薬品の安定供給確保に向けた「薬機法等一部改正法案の概要」説明も行われており、こちらは別稿で報じます。
広域展開する訪問看護ステーションには国・県が共同した指導実施も
訪問看護は、▼医療・介護双方のニーズを有する要介護高齢者の自宅生活継続を可能とする▼がん末期患者などの「自宅で最期を過ごしたい」というニーズに対応する▼退院直後の不安定な状態の患者に対するサービスを提供することで、円滑な自宅復帰を支援する—などの極めて重要な役割を担っています。
このため診療報酬・介護報酬でも「重度者への対応」や「24時間365日対応」などに力を入れる訪問看護ステーションについて高い評価を行うなど、評価の充実が図られてきています(2024年度診療報酬改定に関する記事はこちら、24年度介護報酬改定に関する記事はこちら)。
こうした評価の充実・利用者ニーズの増加を踏まえて、事業者数(ステーション数)や訪問看護医療費は増えてきていますが、次のような問題点が浮上していることが厚労省保険局医療課医療指導監査室の町田宗仁室長から紹介されました。
▽「年間医療費の総額」(=年間の総請求額)が大きなステーションの増加が著しい(年間医療費1500万円未満のステーションは2018年度から23年度にかけて122%の増加率だが、同2億5000万円以上のステーションは同じく1280%となっている)

年間請求額の高い訪問看護ステーションの増加が著しい(中医協総会(1)1 250312)
▽「レセプト1件当たりの平均医療費」(=1件当たり単価)が大きなステーションの増加が著しい(レセプト1件当たりの平均費用額が10万円未満の訪問看護ステーションは2018年度から23年度にかけて136%の増加率だが、同50万円以上のステーションは同じく717%となっている)

平均単価が高い訪問看護ステーションの増加が著しい(中医協総会(1)2 250312)
もちろん「請求額が多い、単価が高い」=「悪い、不適切なサービス提供を行っている」わけではありません。大規模なステーションでは利用者が多いため必然的に請求額が大きくなり、重症者対応を積極的に行うステーションでは必然的に単価が高くなります。
ただし、「単価が高い訪問看護ステーションでは、訪問看護の日数や回数が一律に多い可能性がある」と町田室長は指摘し、後述のように「指導・監査などを通じて、サービス提供の実態をまず把握できるようにする必要がある」との考えを示しています。
また述べるまでもなく、訪問看護は「利用者の状態に応じて適切な回数」のサービス提供を行うことが求められます。例えば医療保険の訪問看護では、▼原則として週に3日以内▼いわゆる別表7(末期がんや重症筋無力症など)・別表8(在宅気管切開患者指導管理を受けている患者、気管カニューレ、留置カテーテルを使用している患者など)などでは制限なし—という具合に、算定日数の上限が設定されています。

医療・介護の訪問看護利用者イメージ(社保審・介護給付費分科会(1)6 231011)
しかし、一部に「利用者の状態にかかわらず一律に上限回数までの訪問看護を行う」などの事例があるとの指摘があり(とりわけ精神科訪問看護での過剰訪問が指摘される)、厚労省は昨年(2024年)10月22日に事務連絡「指定訪問看護の提供に関する取扱方針について」を示し、訪問看護ステーション等に次のような点への留意を求めました(関連記事はこちら)。
▽訪問看護の▼日数▼回数▼実施時間▼訪問する人数—については、訪問看護ステーションの看護師等が訪問時に把握した利用者や家族等の状況に即して、主治医から交付された訪問看護指示書に基づき検討することが求められる
▽このため、▼訪問看護ステーションの看護師等が利用者の個別の状況を踏まえずに一律に訪問看護の日数等を定める▼利用者の居宅への訪問に直接携わっていない指定訪問看護事業者の開設者等が訪問看護の日数等(日数、回数、実施時間、訪問する人数)を定める—ことなどは認められない
ただし、「不適切な訪問看護を行っている事業所」への指導や監査について、現在は「情報提供」に頼っており、利用者や家族などから「不適切ではないか?」といった情報が上がってこない場合には指導や監査を行うことが困難です。このため、2018年度から23年度にかけての指導件数は「年間7-20件」にとどまっています。
また、株式会社等が広域(複数都道府県)で訪問看護を提供する場合には、実態を把握しにくいという問題もあります。そこで今般、町田室長は、より適切な訪問看護提供を目指して次のような「新たな指導の仕組み」を設けてはどうかと中医協に提案しました。
(1)広域に運営されている訪問看護ステーションへの対応
▽複数都道府県にわたって広域で運営されている訪問看護ステーションについて、より効果的な指導を実施するため、厚労省本省・地方厚生(支)局・都道府県による指導の仕組みを新設してはどうか
→これにより「ある県での指導内容が、他県へ横展開され、指導効果が高まる」ことが期待される
(2)教育的な視点による指導機会の確保等
▽(個別指導の選定基準の見直し)訪問看護ステーションに対する指導は主に「情報提供」のみが端緒となっているが、例えば「高額な請求を行っている」など一定の基準に該当する指定訪問看護ステーションに対し「教育的な視点による指導機会」(選定基準)を設けてはどうか
▽保険者・審査支払機関等へ「積極的な情報提供(例えば、請求内容に疑義がある場合、他の訪問看護ステーションに比べて請求額が非常に高い場合等)を改めて依頼する」ことも検討してはどうか
→これらにより、利用者等からの「不適切では?」などの情報提供を待たずに指導等を行うことが可能となる
▽(集団指導のeラーニング化)現在、講習形式で実施している集団指導について、訪問看護ステーションの受講機会・利便性確保の観点から「eラーニングによる集団指導」を検討してはどうか

訪問看護ステーションの指導要綱改正1(中医協総会(1)3 250312)

訪問看護ステーションの指導要綱改正2(中医協総会(1)4 250312)
この提案に異論は出ておらず、今後、詳細(指導対象の基準など)を厚労省で詰め「訪問看護ステーションに係る指導要綱」改定などが近く行われます(2025年度の早い時期に通知改正し、適用)。中医協委員からは、▼訪問看護療養費は毎年大幅に増加し、保険者はその状況を注視している。年間請求額が多い・単価が高いステーションに問題があるのかどうか、新たな仕組みで確認をしてほしい。また、訪問看護療養のオンライン請求も原則義務化されており、「年間請求額が多い・単価が高いステーション」と「営利法人・非営利法人」との関係なども今後分析していく必要がある(支払側の松本真人委員:健康保険組合連合会理事)▼多くの訪問看護ステーションは日々、質の高い訪問看護提供に尽力しており、一部の不適切な事業所の存在は遺憾に思う。訪問看護ステーションについても、医療機関と同様の考え方で指導・監査等を行い、個別性の高い指導機会が増えることで、より適切な訪問看護提供が実現することに期待している(木澤晃代専門委員:日本看護協会常任理事)▼多くの訪問看護ステーションにおいて、現場は在宅療養を支えるために尽力している。経営者や管理職などが適正運営を行っているかも見ていく必要があろう(支払側の佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長者)—などの意見が出されています。
このほか3月12日の中医協では、次のような点の了承・報告受領なども行われています。
【能登半島地震を踏まえた診療報酬特例】
▽本年(2025年)1月時点での特例措置利用は51施設(医療機関:12施設、薬局:39施設)あり、うち医療機関5施設(すべて石川県内)、薬局32施設(新潟県内24施設、石川県内1施設、富山県内3施設、福井県内4施設)では「本年(2025年)3月末時点で特例措置が解消されない」状況である
▽上記37施設では「仮設建物で保険診療等を行っている」などの状況に鑑み、現に利用している特例措置について、地方厚生(支)局に届出の上「本年(2025年)9月30日まで継続利用できる」こととする

能登半島地震に伴う診療報酬特例を継続(中医協総会(1)5 250312)
【新たな医療機器の保険適用】(今年(2025年)7月に保険適用予定)
▽近赤外線分光法(NIRS)を用いて血管壁の脂質コアプラーク(LCP)を検出し、画像情報を診断のために提供するNIRS機能を有するカテーテル「TVC NIRS カテーテル」(13万2000円)
【新薬の保険適用】(今年(2025年)3月19日の薬価基準収載予定)
▽11成分・19品目
→うち▼中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療に用いる「ゼポジア」▼慢性リンパ性白血病に用いる「ブルキンザ」▼てんかん患者の部分発作治療に用いる「ブリィビアクト」▼再発乳がん治療に用いる「ダトロウェイ」—については、高額ゆえにDPC包括対象外(当該薬剤を用いる入院治療全体が出来高)とする
→うち肥満症治療薬「ゼップバウンド」については、「適切な治療管理を多職種で実施できる施設で、脂質異常症・2型糖尿病をもつ肥満症患者にのみ使用する」ことなどを定めた最適使用推進ガイドラインに沿って使用することが求められる

保険適用される新薬一覧(中医協総会(1)6 250312)

高額ゆえDPC制度で出来高となる新薬(中医協総会(1)7 250312)
【在宅自己注射指導管理料の対象薬剤追加】(関連記事はこちら)
▽血液凝固第VIII因子または第IX因子に対するインヒビターを保有しない先天性血友病患者における出血傾向の抑制に用いる「マルスタシマブ(遺伝子組換え)」(販売名:ヒムペブジ皮下注150mgペン)
▽全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)の治療に用いる「ロザノリキシズマブ(遺伝子組換え)」(販売名:リスティーゴ皮下注280mg)
▽気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)治療等に用いる「ベンラリズマブ(遺伝子組換え)」(販売名:ファセンラ皮下注30mgシリンジ、同皮下注30mgペン、ただし「4週間以内の投与間隔の場合」のみ)
【費用対効果評価結果に基づく薬価の見直し】
▽円形脱毛症治療に用いる「リットフーロカプセル50mg」(成分名:リトレシチ ニブトシル酸塩)の薬価を「5802円40銭」から「5584円30銭」に引き下げる(本年(2025年)6月1日から)
※胸部大動脈瘤治療等に用いる医療機器「ゴア CTAG 胸部大動脈ステントグラフトシステム」については、費用対効果が優れていたため、価格引き下げは行わない(149万円を維持)
【DPC病院の合併後もDPC参加継続等】
▽北光記念病院(北海道札幌市)・時計台記念病院(同)が、カレス記念病院(同、本年(2025年)4月1日から)と時計台記念病院(同、来年(2026年)4月1日から)に再編統合され、前者はDPC参加継続を認め、後者は出来高病院となる
【DPC制度からの退出】
▽津久見市医師会立 津久見中央病院(大分県、DPC参加基準を満たさないため、本年(2025年)6月1日に退出)

DPC病院の再編等(中医協総会(1)8 250312)
【関連記事】
訪問看護の日数・回数等は利用者や家族等の状況に即して個別検討せよ、一律に上限回数まで訪問することなどは認められない—厚労省
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