OTC類似医薬品使用する場合の患者特別負担、正常分娩の現物給付化等を盛り込んだ健保法改正案—社保審・医療保険部会
2026.3.19.(木)
3月19日に社会保障審議会・医療保険部会が開催され、昨年(2025年)末までの医療保険制度改革論議を踏まえた「健康保険法等改正案」が報告されました(▼OTC類似医薬品の保険給付の在り方▼後期高齢者医療制度における金融所得の勘案▼出産に対する支援▼高額療養費制度—など)。
委員からは改正法案に対し様々な意見が出されており、改正法成立後の詳細を詰める論議やその後の運用、さらに今後の医療保険制度改革の中で、こうした意見も踏まえた対応が検討されていくことになるでしょう。

3gatu9日に開催された「第211回 社会保障審議会 医療保険部会」
2025年の医療保険部会論議を踏まえて、政府で「健康保険法等改正案」を国会へ上程
Gem Medで報じているとおり、医療保険財政が厳しさを増しており、今後もさらにその度合いを増していきます。
まず「医療技術の高度化」により医療費が高騰していきます。例えば、脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)、白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、キムリアに類似したやはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場してきています。
また、新たな認知症治療薬「レケンビ」が保険適用され、さらに新たな認知症治療薬「ケサンラ」の保険適用も行われました。患者数が膨大なことから、医療保険財政に及ぼす影響が非常に大きくなる可能性があります。
他方、小児の「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」(DND)治療に用いる「エレビジス点滴静注」の保険適用が行われ、薬価はなんと「3億円超」に設定されました(関連記事はこちら)。
大企業の会社員とその家族が主に加入する健康保険組合の連合組織「健康保険組合連合会」では、こうした高額薬剤によって超高額レセプトの発生が増加し、医療保険財政を圧迫している状況を強く懸念しています(関連記事はこちら)。
あわせて「高齢化の進展」による医療費高騰も進みます。人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が2022年度から75歳以上の後期高齢者となりはじめ、今年度(2025年度)には全員が後期高齢者となります。後期高齢者は若い世代に比べて、傷病の罹患率が高く、1治療当たりの日数が非常に長く、結果、1人当たり医療費が若年者に比べて3.66倍と高くなります(関連記事はこちら)。このため高齢者の増加は「医療費の増加」につながるのです(医療費は1人当たり医療費×人数で計算できる)。
このように医療費が高騰していく一方で、支え手となる現役世代人口は2025年度から2040年度にかけて急速に減少していきます。
「減少する一方の支え手」で「増加する一方の高齢者・医療費」を支えなければならないために医療保険の制度基盤が極めて脆弱になり、さらに今後も厳しさを増してくと考えられるのです。
こうした中では、「医療費の伸びを、我々国民が負担できる水準に抑える」ための取り組み(医療費適正化方策)が強く求められます。
こうした状況を踏まえて医療保険部会では、昨秋(2025年秋)から昨年末(2025年末)にかけて「医療保険制度改革論議」(▼OTC類似医薬品の保険給付の在り方▼後期高齢者医療制度における金融所得の勘案▼出産に対する支援▼高額療養費制度—など)に関する議論を行い、意見を取りまとめました(関連記事はこちらとこちら)。
政府は、この医療保険部会の意見などを踏まえて「健康保険法等の一部を改正する法律案」を作成し、国会に提出しました(本年(2026年)3月19日時点で審議中、衆議院のサイトはこちら)。

健保法等改正の概要【全体】(社保審・医療保険部会1 260319)
3月19日の医療保険部会では、厚生労働省保険局総務課の姫野泰啓課長から「健康保険法等の一部を改正する法律案」の概要が報告されました。これまで医療保険部会で議論されてきた内容のうち「法律事項」を整理したもので、既に報じた内容と重複しますが、簡単に眺めてみると、次のような点がポイントです。
(1)OTC類似医薬品の保険給付の在り方(関連記事はこちら)
▽「医療用医薬品(OTC類似薬)の給付を受ける患者」と「OTC医薬品(一般用医薬品)で対応している患者」との経済的負担の公平性(一般に前者<後者)、現役世代を中心とする医療保険料負担上昇の抑制のため、「OTC医薬品(要指導医薬品または一般用医薬品)との代替性が特に高い薬剤」を用いた場合、費用の一部(OCT類似医薬品の4分の1を想定)を保険給付の対象としない仕組み(新たな「一部保険外療養」制度)を創設する
→2027年3月施行を想定
→対象医薬品の範囲(OTC医薬品と成分・投与経路が同一で、1日最大用量が異ならない医療用医薬品を機械的77成分・約1100品目ピックアップし、今後、専門家の意見を踏まえて具体化する)や患者の特別負担(薬剤費の4分の1を想定)については、改正法成立後に詰めていく(厚生労働大臣告示となる見込み)

健保法等改正の概要【OTC類似薬の保険給付】(社保審・医療保険部会2 260319)

患者特別負担の対象となるOTC類似薬品の候補1(あくまで機械的な選定で、今後、専門家の意見を踏まえて決定する)(社保審・医療保険部会8 251225)

患者特別負担の対象となるOTC類似薬品の候補2(あくまで機械的な選定で、今後、専門家の意見を踏まえて決定する)(社保審・医療保険部会9 251225)
(2)後期高齢者医療制度における金融所得の勘案(関連記事はこちらとこちらとこちら)
▽後期高齢者において、上場株式の配当などは「確定申告の有無により保険料・窓口負担等が変わる不公平が発生している」点を是正する
→金融機関等に対し「税務署長に提出が義務付けられている報告書等」(法定調書)を、後期高齢者医療広域連合へオンライン提出する義務を課すし、上場株式の配当等の金融所得を保険料の算定や窓口負担割合等の判定に公平に反映する
→システム改修等の時間を考慮し、「改正法の公布後5年以内の政令で定める日」から施行

健保法等改正の概要【後期高齢者医療制度での金融資産勘案】(社保審・医療保険部会3 260319)

金融所得を把握して医療保険料を設定する仕組みのイメージ(社保審・医療保険部会(2)4 251204)
(3)出産に対する支援(関連記事はこちら)
▽「一次施設(産科クリニック等)をはじめとした地域の周産期医療提供体制の維持」「サービス・費用の徹底した見える化により、妊婦自身が納得感を持ってサービスを選択できる環境の整備」を実現しつつ、▼出産の標準的な費用(保険診療以外の分娩対応の費用、いわゆる正常分娩の費用)を現物給付化(全国一律の基本単価を国が定め、医療保険から医療機関に直接支払う)し、妊婦に自己負担が生じない仕組みとする▼別に、すべての妊婦に一定の現金給付を行い、保険診療部分(分娩の伴う医療行為等)の一部負担金(3割負担)などの費用に充て、一定の負担軽減を図る―こととする
▽新たな仕組み(上記の現物給付)と、従来の仕組み(出産育児一時金)とを、施設(医療機関等)が選択可能とする
▽医療機関に対し「出産に伴うサービスの内容・費用等の情報」を提供することを義務付ける(出産なびに掲載する)
→詳細(基本単価、現金給付など)は、改正法成立後に詰めていく
→「改正法の公布後2年以内の政令で定める日」から施行

健保法等改正の概要【出産支援】(社保審・医療保険部会5 260319)
▽妊婦健診における経済的負担を軽減するため、国が健診の「標準額」を定め、市町村・医療機関にこれを勘案する努力義務を課すとともに、国が健診内容・費用を出産なびで公表する
→「改正法の公布後2年以内の政令で定める日」から施行

健保法等改正の概要【妊婦健診の負担軽減】(社保審・医療保険部会6 260319)
(4)高額療養費制度の見直し(関連記事はこちら)
▽政令において支給要件等を定めるに当たって、「特に長期療養者の家計への影響が適切に考慮される」よう、健康保険法等に明確化を行う
→本年(2026年)8月1日の施行を予定
→高額療養費における月額上限の見直しなどの詳細は「政令」(健康保険法施行令)に規定される
(5)その他
▽医療機関の業務効率化・勤務環境改善への支援を行う(地域医療介護総合確保基金に「業務効率化・勤務環境改善への支援」メニュー創設、業務効率化・勤務環境改善に積極的・計画的に取り組む医療機関の認定制度創設、医療機関への業務効率化・勤務環境改善に向けた努力義務創設など、関連記事はこちら)
→2027年4月(基金の新メニュー創設など一部は1月)から施行

医療機関における業務効率化・勤務環境改善を支援する仕組みを医療法等に創設(社保審・医療部会3 250309)
▽国民健康保険制度の見直し(子育て世帯の保険料負担軽減など)
→2027年4月から施行

健保法等改正の概要【国保制度改革】(社保審・医療保険部会7 260319)
▽「協会けんぽ」(主に中小企業のサラリーマンとその家族が加入)における「保健事業の推進」「国庫補助に係る特例減額」(積み立てている準備金残高が多くなっていることを踏まえ、2026-28年度の3年間に限り、減額の幅を大きくする)
→改正法の公布日から施行

健保法等改正の概要【協会けんぽ改革】(社保審・医療保険部会8 260319)
●一般国民向けの平易な医療保険制度改革に関する広報資料はこちら
出産支援、「新制度への早期一本化」求める声と、「新旧両制度の当面併存」求める声
こうした改正法案の内容について委員からは、いくつかの指摘が出ています。項目ごとに目立つ意見を整理してみました。
(1)OTC類似医薬品の保険給付関連
▽一般用医薬品等(OTC医薬品)使用患者と、医療用医薬品(OTC類似医薬品)使用患者との公平性確保、現役世代の保険料抑制の観点から「着実な実施」を強く求める(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)
▽特別負担(一部保険外療養)の創設は患者負担増になるため、患者・国民の理解を得られるように丁寧に説明していくべき(林鉄兵委員:日本労働組合総連合会副事務局長)
▽医療安全の確保、患者の受療行動にも配慮した仕組みとすべき(實松尊徳委員:全国後期高齢者医療広域連合協議会会長/佐賀県神埼市長)
▽本来は医療用医薬品で治療すべきところを、患者が自己判断で一般用医薬品(OTC医薬品)を使用するとなれば、非常に危険である。制度の詳細については引き続き丁寧に検討していくべき(城守国斗委員:日本医師会常任理事)
▽今後、一般用医薬品も含めた薬歴管理を行う仕組みを構築していくべき(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)
(2)後期高齢者医療制度における金融所得勘案関連
▽今後、世代間・世代内の公平な負担を実現するために「全世代について所得等を精緻に把握できる」仕組みを検討していく必要がある(林委員)
▽市町村や後期高齢者広域連合のシステム改修について、国が支援を行うべき。世代間・世代内の「全体」として公平な負担を実現するべき(實松委員、田島健一委員:全国町村会副会長・佐賀県白石町長)
(3)出産に対する支援関連
▽妊婦サイドが新制度のメリットを実感できることが非常に重要であるが、保険者の財政負担にも配慮した「基本単価」設定等を行ってほしい。また、新制度(現物給付)と旧制度(出産育児一時金)とが混在すれば、不公平感や保険者等の事務負担増にもつながる。当初はやむを得ないが、一定の期限を切って新制度へ全面移行すべき(佐野委員)
▽新旧制度を医療機関が選択可能とする経過措置は、あくまで「例外」とすべき。期限を切って新制度へ移行すべき(島弘志委員:日本病院会副会長、前葉泰幸委員:全国市長会相談役・社会文教委員/三重県津市長、林委員、)
▽妊婦が安心・安全なお産をするためには、「1次施設(産科クリニック等)の経営継続」が前提となる。このために、様々な財源を投入して「十分な水準の基本単価」を設定することが重要だが、現時点ではその水準は見えていない。そうした段階では「新制度(現物給付)への一本化」は難しい。当面は「新旧制度の選択を認める」ことが、産科医療機関の安心につながる(城守委員)
(4)高額療養費制度の見直し関連
▽「レセプト」等と「患者の所得」とを紐づけ、重症傷病が家計等にどのような影響を及ぼすのかを見える化すべき(中村さやか委員:上智大学経済学部教授)
▽「年間上限の設定」など、相当程度の改善が図られるが、まだ「転職・退職などで医療保険者が変わった場合には、自己負担額が通算されない」などの課題もあり、引き続き制度改革に向けた検討を続ける必要がある(城守委員)
(5)その他
●医療機関の業務効率化・勤務環境改善関連
▽医療機関経営は非常に厳しい。2026年度診療報酬改定でも医療DXを支援する加算が創設されたが、医療DXに向けた機器・システムでは、導入だけでなく、運用・メンテナンスの費用も掛かり、この点への支援も行ってほしい(島委員)
●「協会けんぽ」関連
▽協会けんぽへの国庫補助導入は「健保組合に比べて所得水準が低い」からである。安定的に協会けんぽを運営できるように配慮すべき(林委員、北川博康委員:全国健康保険協会理事長、藤井委員)
多様な観点での意見が出されており、改正法成立後の詳細を詰める論議やその後の運用、さらに今後の医療保険制度改革の中で、こうした意見も踏まえた対応が検討されていくことになるでしょう。
なお、2021年2月から医療保険部会の部会長を務めてきた田辺国昭氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)が、今回で部会長を退任。田辺部会長は「国民負担・患者負担の急激な増加はできるだけ避けたい。その一方で、制度の見直しをしなければ医療保険制度の持続可能性ができない。両者のバランスをとって、国民が納得できる医療保険制度改革案を今後も皆で議論してほしい」とコメントしています。短いながらも、医療保険制度改革の難しさの本質を捉えたコメントです。
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