2026年度にプラス2.03%の臨時(期中)介護報酬改定を行い、介護従事者全体の処遇改善(月1万円以上)目指す―上野厚労相(2)
2025.12.25.(木)
来年度(2026年度)には期中(臨時)の介護報酬改定が行われ、介護職員等処遇改善加算について「対象者を介護従事者全体に拡大する」「訪問看護やケアマネジメントなどにも拡大する」方向で議論を進める。処遇改善額(賃上げの幅)は「月あたり1万円」をベースとし、最大で「月あたり1万9000円」を目指す。その際、改定率は2.03%となる―。
2027-29年度を対象とする介護保険事業(支援)計画に向けて介護保険制度改革論議が進んでいるが、懸案となっていた「介護サービスの利用時に2割負担(通常は1割負担)をお願いする高齢者の範囲を拡大すべきか否か」という点については、現時点では結論を出さず「第10期介護保険事業計画のスタート前まで(つまり2026年度中)に結論を出す」こととする―。
12月24日に開催された、来年度(2026年度)の予算案編成に向けた上野賢一郎厚生労働大臣と片山さつき財務大臣との折衝では、こうした介護報酬改定・介護保険制度改革の方向も正式決定されています(2026年度診療報酬改定、医療保険改革に関する決定事項の記事はこちら)。

12月24日日に、来年度(2026年度)予算案編成に向けた片山財務大臣との折衝を終え、その内容を発表する上野賢一郎厚生労働大臣
2026度臨時(期中)介護報酬改定で「介護従事者」の処遇改善等にプラス2.03%を措置
2026年度には臨時の介護報酬改定が行われます。
介護従事者の賃上げを目指した加算創設、これによる給与増が進んでいます(関連記事はこちら)が、介護従事者と他産業との賃金格差は拡大してしまっており、「介護人材不足にますます拍車がかかってしまう」ため、高市早苗内閣は2025年度補正予算案の中で介護従事者の賃上げに向けた補助金創設方針を打ち出し、これを継続するための2026年度臨時(期中)介護報酬改定が期待されており、社会保障審議会・介護給付費分科会でもその旨を提言しています(関連記事はこちら)。

2025年度補正予算案より10
なお、介護報酬は3年に一度改定されますが「人件費が急騰している中で、3年後の状況を見越すことは極めて困難である」ために、「2024年度には24・25年度分のみを見越した処遇改善加算の財源を確保し、2026年度には期中改定も含めて改めて検討する」こととされており、今般の2026年度の臨時介護報酬改定は「想定されていたもの」と考えることもできます(関連記事はこちら)。
両大臣は、2026年度の介護報酬改定について次のような点を固めました。
【全体像】
▽「『強い経済』を実現する総合経済対策」を踏まえ、2027年度介護報酬改定(通常の3年に一度の改定)を待たずに「期中改定」を実施する
▽改定率は「プラス2.03%」とする(2026年度予算において国費を518億円投入する。介護保険の財源は、国25%・都道府県12.5%・市町村12.5%・保険料50%で構成されるため介護費は2072億円程度増加すると見込まれる)
【処遇改善】
▽政府経済見通し等を踏まえた介護分野の職員の処遇改善、介護サービス事業者の生産性向上や協働化の促進等のため、以下の措置を講じる
▼介護職員のみならず、介護従事者を対象に幅広く「月あたり1万円(3.3%)の賃上げ」を実現する措置を行う
▼さらに、生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員を対象に「月あたり7000円(2.4%)の上乗せ」を実施する
→これらの合計で、介護職員については最大で「月あたり1万9000円(6.3%)の賃上げ(定期昇給2000円込み)」が実現する見込みである
▽上記の措置を実施するため、介護職員等処遇改善加算について次の見直しを行う
▼処遇改善加算の対象について、「介護職員のみ」から「介護従事者」に拡大する
▼生産性向上や協働化に取り組む事業者に対する上乗せの加算区分を設ける
▼これまで処遇改善加算の対象外だった、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援等について新たに処遇改善加算を設ける
【食費の基準費用額見直し】
▽2027年度介護報酬改定を待たずに、介護保険施設等における「食費の基準費用額」について、1日当たり100円引き上げる
▽ただし低所得者については、所得区分に応じて利用者負担を据え置き、または1日当たり30-60円の引上げに軽減する
【2027年度の介護報酬改定】
▽2027年度の通常介護報酬改定においては、▼介護分野の賃上げ▼経営の安定▼離職防止▼人材確保—を図るため、「介護事業経営実態調査」等で介護サービス事業者の経営状況等について把握した上で、「物価や賃金の上昇等を適切に反映するための対応」を実施する
▽同時に、介護保険制度の持続可能性を確保するため、介護給付の効率化・適正化に取り組む必要がある
▽後述する有料老人ホームに関する制度改正の内容も踏まえつつ、サービスの提供形態に応じた評価の在り方について所要の措置を講じることを検討する(関連記事はこちら)
概ね介護給付費分科会の「審議報告」と同じ内容です。今後、上記方針に沿って詳細を介護給付費分科会で詰めていきます。
なお、後述するように介護保険制度では「3年を1期」とする介護保険事業計画(市町村計画)・介護保険事業支援計画(都道府県計画)に沿って「地域のサービス提供体制をどの程度の量確保するか、そのサービス量を確保するために保険料をどの程度に設定するか」などを定めます(3年間、保険料は固定される)。介護報酬の上げ下げは「介護費」の増減に深くかかわるため、通常は介護保険事業計画と同じサイクルで3年に一度行われています。
この点、期中(臨時)の介護報酬プラス改定を行えば「想定していなかった事態により介護費が増加してしまう」ことになり「保険料の引き上げが必要になるのではないか?」と思われます。この点について厚生労働労老健局総務課の江口満課長は、「多くの保険者では介護費を高めに見積もっている(そうでなければ容易に財源不足に陥ってしまう)。また市町村が不測の事態(大災害や加入者の大幅減など)で保険料収入が減少する際に備えて積み立てている介護給付費準備基金の取り崩しや、翌年度(2027年度)以降への繰り越しなどによって保険料を引き上げずに対応できるのではないか」と見通しています。
「介護保険の利用料2割をお願いする高齢者」の範囲を拡大すべきか、結論は持ち越し
前述のとおり、介護保険制度では「3年を1期」とする介護保険事業計画(市町村計画)・介護保険事業支援計画(都道府県計画)に沿って「地域のサービス提供体制をどの程度の量確保するか、そのサービス量を確保するために保険料をどの程度に設定するか」などを定めます。
2027年度から新たな第10期計画(2027-29年度が対象期間)が始まるため、▼2025年に必要な制度改正内容を介護保険部会で固める→▼2026年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ→▼改正法等を受け、2026年度に市町村・都道府県で第10期計画を作成する→▼2027年度から第10期計画を走らせる―というスケジュールで社会保障審議会・介護保険部会の議論が進められています。
制度改革の内容は概ね固められましたが、1点、「通常は介護費の1割である介護サービスの利用料について、2割負担をお願いする高齢者の範囲を拡大すべきか?」という論点について、2026年度予算編成とも兼ね合いがあり結論が出ていません(関連記事はこちら)。
この点について両大臣は次のように決定しています。
▽能力に応じた負担と、現役世代を含めた保険料負担の上昇を抑える観点から、利用者負担が2割となる「一定以上所得」の判断基準の見直しを検討する必要がある
▽検討に当たっては、介護サービスは長期間利用されること等を踏まえつつ、要介護高齢者が必要なサービスを受けられるよう、▼高齢者の生活実態や生活への影響等▼2026年度に見込まれる医療保険制度における給付と負担の見直し(高額療養費の上限額引き上げなど、関連記事はこちら)▼補足給付について現在行われている預貯金等の把握に係る事務の状況—などを踏まえ、「第10期介護保険事業計画期間の開始(2027年度から)の前まで」に結論を得る
「結論を出せず、再び先送りしてしまった」と批判的に見る向きもありますが、「医療保険制度でも高齢者の負担増が予想される中、二重三重の負担増を避けるために、やむなく結論を先送りした」と好意的に見る識者も少なくありません。
医療保険、介護保険など、各種の社会保障制度は「別個に負担の在り方、給付の在り方」を議論しています。そうした中で「医療では負担増が必要である」「介護でも負担増が必要である」との結論が出た場合、我々国民の財布は1つであるため「過重な負担増になってしまう」危険もあります。こうした点を大局的な視点で厚生労働大臣・財務大臣が調整している(「すべての負担増は国民生活を苦しくするだけなので、今回はこの部分だけの負担増とし、他の部分は次回以降にしよう」と調整している)と見ることができます。
このほか、介護保険制度改革に関して両大臣は次のような点を確認しています。介護保険部会の議論を尊重していることが分かります。
【ケアマネジメントの利用者負担導入】
▽ケアマネジメントについて利用者負担を求めてこなかったが、ケアプラン作成を含めて利用者負担を求めている介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)等との均衡等の観点から「住宅型有料老人ホームの入居者に係る新たな相談支援の類型」を設けた上で、利用者負担を導入する(関連記事はこちら)
【補足給付の見直し】(関連記事はこちら)
▽介護保険施設とショートステイにおいて、低所得者の居住費・食費・光熱費負担を補填する「補足給付」について、能力に応じた負担の観点から、所得区分の設定の精緻化を行うとともに、区分間の利用者の負担限度額のバランスをとる措置を講じる
▼2026年8月から「年金収入等120万円超の所得区分の居住費の負担限度額を月3000円円引き上げる
▼2027年度中に、所得区分の設定を精緻化し、年金収入等100万円超120万円以下・140万円超の所得区分について、負担限度額の見直しを行う
【今後の介護保険制度改革】
▽介護保険制度の持続可能性を確保するため、「1号(65歳以上)保険料負担」「多床室の室料負担」「軽度者への生活援助サービス等に関する給付」「高額介護サービス費の在り方」など、給付と負担の在り方の不断の見直しに向けた検討を行う(関連記事はこちら)。
このほか両大臣は、介護保険制度の維持・確保・充実に向けて、次のような点も確認しています。
【介護現場の生産性向上】
▽介護事業者が、介護職員の業務負担の軽減、介護サービスの質の向上に資する生産性向上に一層取り組むことが重要であり、介護分野の「省力化投資促進プラン」を踏まえつつ、2026年度介護報酬改定において処遇改善加算の上乗せ区分の要件とするケアプランデータ連携システムを含めた、介護テクノロジーの導入支援や伴走支援などを通じて、介護現場の生産性向上を推進していく
【地域支援事業、保険者機能強化推進交付金】
▽地域支援事業(介護予防などの市町村事業)、保険者機能強化推進交付金(自立支援・重度化防止に実際に取り組み、成果も出す市町村により多くの補助金を交付する仕組み、いわゆるインセンティブ交付金)については、その適正な執行を確保しつつ、今後の執行状況を十分に勘案した上で、必要に応じて所要の対応の検討を行う
▽その際、健康寿命の延伸等を背景とした「要介護認定率の改善」傾向を確たるものとしていくため、第10期介護保険事業計画期間(2027-29年度)を見据え、保険者(市町村)管理の下、多様な主体が参画し「高齢者が多様なサービスから選択できる」よう、成果指向型の保険者機能強化に向けた支援や介護予防・日常生活支援総合事業の充実を図るための取り組みを検討する
【地域医療介護総合確保基金】
▽地域医療介護総合確保基金(介護分)について、適正な執行を確保しつつ、今後の執行状況を十分に勘案した上で、地域における介護人材・サービスが適切に確保されるよう、既存メニュー(介護施設等の整備(地域密着型サービス等)、介護従事者の確保)の整理も含めた見直しを行いつつ、必要に応じて所要の対応の検討を行う
【関連記事】
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介護情報を関係者間で共有し、質の高い効率的な介護サービスを実現する【介護情報基盤】を2026年4月から全国展開—社保審・介護保険部会
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少子高齢化の進展により地域包括支援センターの相談支援業務の重要性増加、ケアマネ事業所との役割分担等進めよ—社保審・介護保険部会(1)




