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「預貯金」も含めて高所得と判断できる要介護高齢者には介護サービス利用料を「2割」としてはどうか—社保審・介護保険部会

2025.11.25.(火)

公平な介護サービス利用、介護保険制度の持続可能性確保に向けて、例えば「介護サービス利用時に、通常1割負担であるところ、2割の負担を求める高所得者」について、収入に加えて「預貯金」も踏まえた基準を設けることをどう考えるか―。

現在「無料」のケアマネジメント利用料について、高所得者や有料老人ホーム利用者には「有料」とすることをどう考えるか―。

11月20日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で、こうした議論が行われました。やはり賛否両論あり、どういった形で決着するのか今後の動きに要注意です。

介護保険の2割負担を求める高所得者の判断に、収入に「預貯金」も加えるべきか

Gem Medで報じているとおり介護保険制度改革論議が進められています。介護保険制度では「3年を1期」とする介護保険事業計画(市町村計画)・介護保険事業支援計画(都道府県計画)に沿って「地域のサービス提供体制をどの程度の量確保するか、そのサービス量を確保するために保険料をどの程度に設定するか」を定めます。2027年度から新たな第10期計画(2027-29年度が対象期間)が始まるため、▼2025年に必要な制度改正内容を介護保険部会で固める→▼2026年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ→▼改正法等を受け、2026年度に市町村・都道府県で第10期計画を作成する→▼2027年度から第10期計画を走らせる―というスケジュールで議論が進められています。

ところで、高齢化の進展や介護保険制度の浸透とともに「介護費」が増加し(関連記事はこちらこのため従前より「介護保険制度の持続可能性確保」のために、次のような論点を検討してきています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

(1)高所得者の1号保険料の負担の在り方
→国の定める標準段階の多段階化、高所得者の標準乗率の引上げ、低所得者の標準乗率の引下げ等について検討を行う

(2)「一定以上所得」の判断基準
→「一定以上所得」(2割負担)の判断基準について、後期高齢者医療制度との関係、介護サービスは長期間利用されること等を踏まえつつ、高齢者の方々が必要なサービスを受けられるよう高齢者の生活実態や生活への影響等も把握しながら検討を行う

(3)多床室の室料負担
→介護老人保健施設・介護医療院の多床室の室料負担の導入について、在宅でサービスを受ける者との負担の公平性、各施設の機能や利用実態等を踏まえつつ介護報酬の設定等も含めた検討を行う

(4)ケアマネジメントに関する給付の在り方
→利用者やケアマネジメントに与える影響、他のサービスとの均衡等も踏まえながら、包括的に検討を行う

(5)軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方
→介護サービスの需要が増加する一方、介護人材の不足が見込まれる中で、現行の総合事業に関する評価・分析等を行いつつ、第10期計画期間の開始までの間(つまり2026年度中)に、介護保険の運営主体である市町村の意向や利用者への影響等も踏まえながら包括的に検討を行う

(6)被保険者範囲・受給権者範囲
→介護保険を取り巻く状況の変化も踏まえつつ、引き続き検討を行う

(7)補足給付に関する給付の在り方
→補足給付に係る給付の実態やマイナンバー制度を取り巻く状況なども踏まえつつ検討を行う

(8)「現役並み所得」の判断基準
→「現役並み所得」(3割負担)の判断基準については、医療保険制度との整合性や利用者への影響等を踏まえつつ検討を行う



11月20日の会合では、厚生労働省老健局介護保険計画課の西澤栄晃課長から、いくつかの論点について新たな考えが提示されています。

まず(2)(8)は「負担能力の高い高齢者には、相応の負担(2割負担・3割負担)をしてもらう」という考え方に基づくものですが、「収入」だけでなく「預貯金」も勘案して「2割負担の対象者を広げてはどうか」という論点が示されました。もっとも「より収入の低い者に負担増となる」「介護は⾧期利用となる」などの点を踏めて、例えば▼当分の間、一定の負担上限額を設ける▼負担への金融資産の保有状況を反映する—などの配慮措置も併せて検討してはどうか、との考えも示されています。

「収入が少なくとも、高額な消費をしている」高齢者が一定程度いることを踏まえれば「預貯金も勘案して負担能力を判断する」ことは非常に合理的です。

収入が少なくとも、消費の多い高齢者が一定程度いる(社保審・介護保険部会1 25112)



このため、伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)や井上隆委員(日本経済団体連合会専務理事)、幸本智彦委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)、鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)、津下一代委員(女子栄養大学教授)、佐藤主光委員(一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)らは、この提案内容に賛意を示しています。

一方、「能力に応じた負担」という考え方には賛同するものの、▼預貯金を正確に把握する方法が現在はない((7)の補足給付においては預貯金を勘案しているが「自己申告」であり、不正確さが指摘されている)ため、公平性が担保できない▼利用控えにつながり、重度化を招いてしまう▼物価が高騰し、高齢者の生活が厳しい中、「利用者負担増」は今は実施すべきではない▼多くの高齢者では、預貯金は「減る」ことはあっても「増える」ことは考えにくい―などの点に鑑みて、現時点では本提案に賛同できないとの声も和田誠委員(認知症の人と家族の会代表理事)や山際淳委員(民間介護事業推進委員会代表委員)、平山春樹委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局局長)、大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)、石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会副理事長、名古屋学芸大学看護学部客員教授)、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)らから出されています。

双方の意見ともに頷ける部分が多く、さらに議論を深める必要があるでしょう。

なお、野口晴子部会長代理(早稲田大学政治経済学術院教授)は「高齢者では資産保有のバラつきが大きく、預貯金を反映させて負担能力を把握することに合理性がある」としたうえで、▼正確な預貯金把握が難しい▼介護サービス利用控えが生じ、家族の介護負担が増えるおそれがある▼資産行動をゆがめてしまう(預貯金が増えないように行動してしまう)—という問題もあり、例えば「預貯金3000万円以上などといった具合に対象を絞り込む」「家族介護へ配慮を行う」などの対応を検討してはどうかと提案しています。

高所得者や有料老人ホーム利用者にはケアマネジメントの利用料負担を求めてはどうか

また(4)のケアマネジメントにかかる利用者負担については、次のような新たな提案がなされました。「段階的に利用者負担を導入してはどうか」との意見を踏まえたものと言えるでしょう。

(a)まず、「利用控えの懸念」に配慮し、ケアマネジメントの利用者負担の判断に当たって「利用者の所得状況」を勘案することをどう考えるか(まず高所得者にケアマネ利用料を負担してもらってはどうか)

(b)利用者の所得に関わらず、次のような対応を行うことをどう考えるか
【有料老人ホームに係る対応】
一定の有料老人ホームへの事前規制の強化・ケアマネジメントプロセスの透明化の必要性・「住宅型」有料老人ホームにおけるケアマネジメントの関係性についての整理が提起されている
▽住宅型有料老人ホーム等は、利用者の住まいでありながら「同一・関連法人等の居宅介護支援事業所を通じ、ホームで提供される居宅サービスの提供内容の決定に事実上関与している」ケースが見られ、▼拠点運営▼ケアプラン作成▼介護サービス提供—が一体的に実施され、それぞれについて一体的に利用者負担の対象としている「介護保険施設」や「特定施設入居者生活介護」との均衡を考える必要がある(建物に入居して介護サービスを受けるという点で介護保険施設等と有料老人ホームとは類似しているが、ケアマネ利用料は前者は利用者が負担し、後者では利用料負担はない)

▼特定施設入居者生活介護「以外」の「住宅型」有料老人ホーム(該当するサービス付き高齢者向け住宅を含む)の入居者について、ケアマネジメント利用者負担を求めることをどう考えるか

住まい種類別のケアプラン作成等状況(社保審・介護保険部会2 251120)



【業務負担のあり方】
ケアマネジャーが専門性を一層発揮できる環境を整備する必要がある

▼「給付管理に係る業務」は、現場の負担感が大きく、必ずしもケアマネジャーが行わなければならない業務ではないと考えられるため、「ICTによる業務効率化」を進める必要がある
▼「給付管理に係る業務」の「ICTによる効率化」が十分に進展するまでの間、事務に要する実費相当分を利用者負担として求めることをどう考えるか



この点については、▼利用者負担を導入すれば、介護保険全体の利用控えが生じかねない(和田委員、平山委員)▼有料老人ホームの介護サービスは「外付け」であり、施設サービスとは異なる。両者を同視すべきではない。また事務の実費を利用者に負担させることは筋が違う(山際委員)▼ケアマネジメントの利用者負担を嫌い、ますます「本来必要なサービス」から離れる事態(セルフプランの増加など)が生じてしまうのではないか(橋本康子委員:日本慢性期医療協会会長)▼高所得者にケアマネ利用料を求めること、事務実費負担を求めることには違和感がある。有料老人ホームでは、施設側から「これをセルフプランとして提出すれば、自己負担は発生しない」との不適切な動きが出るのではないか(小林広美委員:日本介護支援専門員協会副会長)▼ケアマネジャーは単なる「ケアプラン作成者」ではない。必要な介護サービス利用を厭う認知症高齢者に対し、行政や医療関係者と共同して、時間をかけてサービス利用を促すなどの対応も行っている点を考慮すべき(粟田主一委員:認知症介護研究・研修東京センターセンター長)▼介護保険施設の入所者は、すでに実質的にケアプラン利用料を負担している(基本報酬等の中に、施設におけるケアマネジメントが包括評価されている)が、有料老人ホームを同列に考えてよいかは慎重に判断すべき(山田淳子委員:全国老人福祉施設協議会副会長)▼事務実費を利用者負担とすれば、ますますケアマネジャーの業務負担は増すのではないか(染川朗委員:UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)▼介護保険施設と有料老人ホームとは全く異なり、また不適切利用を利用者負担導入で解決できるわけでもない。事務実費負担もこれまでの介護保険にはない考え方であり、利用者・家族への説明はきわめて困難であり、導入は認められない(江澤委員)—など慎重派・反対派の意見が目立ちました。

一方、▼有料老人ホームの適切かつ透明なケアマネジメント確保のため、利用者負担導入は効果的と考える(伊藤委員)▼利用の意識を高めるために、幅広い利用者にケアプラン利用料を求めるべき(井上委員)▼ケアマネジャーのシャドーワーク(本来業務でないが、利用者の求めに応じやむなく実施せざるを得ない業務)なども考慮すれば、一定の利用者負担導入も理解できる(津下委員)—との声もあります。

この点についてもさらに議論を深める必要があります。



このほか、介護保険部会委員からは▼被保険者の範囲は、現在の「40歳以上:から「18歳以上」に拡大すべき(平山委員)▼現役世代の負担増を避けるため、被保険者範囲の拡大はすべきでない、給付と負担の関係もさらに薄くなる(伊藤委員、井上委員、山田委員)—といった意見が出たほか、多くの委員から「公費負担の拡充」を求める声が出ています。

サービスの質・量を拡充していくためには「介護費を拡大する」ことが必要となります。ただし、それは「現役世代の負担増」につながります。これを両立するためには「公費の拡充」が1つの選択肢となりますが、国家財政も厳しくなる中では、そう簡単に公費拡充は行えない点にも留意が必要です。



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

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