介護業務を「専門性が必須な業務」と「そうでない業務」に切り分け、後者についてAI活用で短時間労働ニーズとマッチングを—厚労省検討会
2025.3.4.(火)
中山間地域では介護サービス確保が難しく、大胆な人員配置基準の緩和などを考える必要があるのではないか。もっとも、介護サービスの質の維持、スタッフの負担なども十分に勘案する必要がある—。
介護業務などを「専門職でなければ実施できない業務」と「専門職でなくとも実施可能な業務」とに切り分け、後者についてはICTやAI技術を活用し、地域の「短時間労働したい」というニーズとのマッチングを行ってはどうか。介護業務以外では「隙間バイト」などとして認知されている—。
2月2日に開催された「『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。
検討会では、今春(2025年春)の中間とりまとめを目指して、さらに議論を具体化させていきます(障害福祉や児童施策などを含めて今夏(2025年夏)に最終とりまとめ)。中間とりまとめは社会保障審議会・介護保険部会に報告され、今後の介護保険制度改正や2027年度以降の介護報酬改定などの重要な検討要素となります。

3月3日に開催された「第4回 『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」
目次
中山間地域等での人員配置基準緩和をどう考えるか
2025年度までに、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達します。2025年度以降は、高齢者人口そのものは大きく増えないものの(高止まりしたまま)、▼85歳以上高齢者の比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、医療・介護の複合ニーズを持つ高齢者、認知症高齢者などの比率が高まっていく)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。少なくなる一方の若年世代で多くの高齢者を支えなければならず、「効果的かつ効率的な医療・介護提供体制」の構築がますます重要になってきます。
また、こうした人口構造の変化は地域によって大きく異なります。中山間地域などでは「高齢者も、若者も減少していく」、大都市では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに一般市では「高齢者が今後増加するが、そう遠くない将来に減少していく」など区々です。
検討会では、こうした状況下でも高齢者向けサービス等を確保できる方策を議論しています。3月3日の会合では、厚労省がこれまでの議論、ヒアリングを踏まえた次のような「検討の方向性」案が提示されました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
(1) 人口減少・サービス需要の変化に応じたサービスモデルの構築や支援体制
▽介護保険法の「尊厳の保持と自立支援」の理念、国民連帯の理念などは変わらない
▽「中山間・人口減少地域では柔軟な対応」、「大都市ではICT、AIなども活用した包括的なサービス提供」、「一般市では需要変化を見越した対応」といった形に区分して、サービスの維持・確保を考える必要がある
(2) 介護人材確保・定着、テクノロジー活用等による生産性向上
▽介護人材確保はサービス提供体制を確保するための最大の課題であり、処遇改善をはじめ、国や地方における介護人材確保に向けた取り組みを充実する必要がある
▽「雇用管理等による介護人材の定着」、「テクノロジー導入・タスク・シフト等の職場環境改善・生産性向上」も行っていく必要がある
(3) 雇用管理・職場環境改善などの経営支援
▽地域の様々な専門機関等の関係者が連携し、雇用管理、職場環境改善・生産性向上の取り組みを進め、介護事業者の経営改善に向けた支援を行っていく必要がある
▽介護事業者の抱える課題の多くは、人材不足、経営効率化、DX化など日本の中小企業が等しく抱えている課題と言える
▽大規模化によるスケールメリット(離職率低下、法人全体での有資格者の確保、経営安定化、利用者ニーズへの対応強化、テクノロジー機器等の一括仕入れによるコスト減)などを示しつつ、まずは協働化や事業者間の連携を促していく必要がある
(4)介護予防・健康づくり、地域包括ケアと医療介護連携、認知症ケアの推進
▽地域包括ケアシステムを深化させ、医療・介護、介護予防、認知症ケアを切れ目なく提供するため、地域資源を把握・分析し、様々なサービスや事業の組み合わせや連携を図っていく必要がある
▽認知症高齢者の増加に伴い、特に「独居の認知症高齢者」への対応が課題となる。地域で不足している資源を検証し、診断後の関係機関とのつなぎも含め、独居の認知症の人が社会的支援を利用できる認知症ケアパスの再構築が必要である
こうした基本方向を踏まえて、構成員からはより前向きかつ具体的な提案・意見が極めて多数だされました。気になるものをピックアップしてみましょう。
まず(1)の「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービスモデルの構築や支援体制」については、次のように「サービス提供に係る基準の緩和」を求める意見が目立ちました。
▽中山間地域等では圧倒的な人手不足がすでに始まっており、「人員配置要件などの緩和」が必要となるが、サービスの質を維持・確保したうえでの緩和を考えることが重要となる。例えば夜勤の人員配置要件緩和(関連記事はこちらとこちら)を他サービスにも拡大することや、複合型サービス(例えば訪問+通所など)を柔軟に認めることなどを検討してはどうか。一方、都市部では土地代・建築費が高く施設・居住系サービスが圧倒的に不足している。都市部では通常の賃貸住宅等でも狭い点を踏まえて居室面積や廊下幅、訓練室設置などの基準を緩和してはどうか(斉藤正行構成員:日本介護ベンチャーコンサルティンググループ代表取締役)
▽中山間地域などでも特別養護老人ホームや老人保健施設などは相当程度整備されており、そこから柔軟に訪問サービスを行えるような「みなし指定」を行ってはどうか。老健施設では訪問リハビリは「みなし指定」がなされているが、さらに訪問看護についても「みなし指定」するなどの対応を検討すべき(東憲太郎構成員:医療法人緑の風介護老人保健施設いこいの森理事長)
▽「施設サービス」「居宅サービス」「地域密着サービス」の枠を取り払い、サービスの融合・集約化などを検討すべき時期に来ている。また特別養護老人ホームなどの箱ものを、通期の介護サービスや在宅医療などの拠点として活用することを積極的に考えるべき(江澤和彦構成員:医療法人和香会理事長)
もっとも、「人員配置基準緩和などでサービスが維持できるのかの検証が必要である」(池端幸彦構成員:医療法人池慶会池端病院理事)という声も出ています。安易に要件緩和をすれば「利用者の安全確保」「スタッフの過重労働」などにつながる可能性もあり。池端構成員は「モデル事業などで効果検証を行ってはどうか」とも提案しています。
さらに、「過疎地など、どれだけ工夫してもサービス提供が困難な地域も出てこよう。サービス提供ができない場合の責任規定を介護保険法に明示し、市町村・都道府県・国が連携してサービス提供を確保する方策なども考えておく必要がある」と笠木映里構成員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は指摘しています。
介護人材不足に対応するため、AI・ICTを積極的に活用せよ
また(2)の「介護人材確保・定着、テクノロジー活用等による生産性向上」に関しては、次のような極めて前向きかつ具体的な提案がなされています。
▽「介護人材の確保は困難」との前提に立ってサービス提供維持方策を考える必要がある。介護事業所やケアマネ等の業務を「専門職でなければできない業務」と「専門職でなくとも実施可能な業務」にきちんと切り分け、後者についてはAIを活用し、いわゆる「隙間バイト」のようなイメージで地域住民が気軽に実施できるような仕組みを全国で考える必要がある(香取幹構成員:やさしい手代表取締役社長)
▽介護業務のタスク・シフト(介護助手等の活用)とテクノロジー活用とを車の両輪として進めていくべき。その際、介護助手の人件費を捻出できるような介護報酬上の手当てを検討するとともに、テクノロジー導入の補助を充実すべき(東構成員)
▽ケアマネジャーの処遇改善を考慮すべき。介護職員との格差が大きくなってしまっている(斉藤構成員、関連記事はこちら)
▽ICT・AI技術の活用で介護現場の業務が大きく変化した好事例があり、これらを参考に「夜間の人員配置基準緩和」などを大胆に進めるべき。ただし、その場合でも介護報酬は維持してほしい(大山知子構成員:社会福祉法人蓬愛会理事長)
例えば香取構成員の提案は、単に「AI・ICTを活用せよ」と要望するにとどまらず、「どのようにAI技術を活用するべきか」を、実際の事例で成果を上げている裏付けをもってなされたものであり、大いに参考になりそうです。
「大規模化」と一口に考えず、地域特性などを考慮せよ
他方、(3)の「雇用管理・職場環境改善などの経営支援」に関しては、次のような意見が出ています。
▽「大規模化」でも地域特性を考える必要がある。中山間地域では高齢者は散在しており、事業者を集約してもサービス提供の効率化は実現できないため、「小規模サテライト事業所を各地域に設置して介護サービスを提供し、事務業務などを担うバックオフィスの集約化を進める」ことが求められる。一方、大都市では「介護サービス提供拠点そのものの集約化」が効果的であろう。また保険者の集約化も検討すべき時期に来ている(大屋雄裕構成員:慶應義塾大学法学部教授)
▽介護事業者が「外部からの経営支援を受ける」費用について、地域医療介護総合確保基金を活用できるようにするなどの対応を検討すべき(中村厚構成員:日本クレアス税理士法人富山本部長)
▽介護事業所間の連携が進まない背景の一つに「報酬上の要件が複雑すぎる」点があるのではないか。連携を評価する各種加算の要件を再整理することが重要であろう(松田晋哉構成員:産業医科大学教授)
▽介護事業所の大規模化により「ICT、AIにスタッフ1人1人が向き合いやすくなる」という効果もある。弊社(やさしい手)では「AIに関して気軽にWEB相談できる」取り組みを実施するなどの工夫もしている(香取構成員)
なお、斉藤構成員は「大規模化が絶対ではない。中小事業所にも重要な役割があり、大規模化のメリットを中小事業所で設けられるような環境整備が必要」と改めて訴えています(関連記事はこちら)。
もはや医療・介護「連携」ではなく、医療・介護を「統合」提供すべき時期に来ている
さらに(4)の「介護予防・健康づくり、地域包括ケアと医療介護連携、認知症ケアの推進」に関しては、次のような意見が出されています。
▽もはや医療・介護は「連携」ではなく「統合」の時代に来ている。地域密着型の医療機関(地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟などを持つ病院)と介護事業所とのさらなる連携強化を推進すべき(池端構成員)
▽認知症対応では、「独居」以外の高齢者対応も極めて重要な点を忘れてはならない(斉藤構成員)
こうした意見を踏まえ、厚労省は次回会合に「中間とりまとめ」案を示す考えです。非常に前向きかつ具体的な提案が多数なされており、「中間とりまとめ」も相当程度具体的な内容になりそうです。その後、介護保険部会で制度改正(介護保険法改正等)に向けた議論につなげられます。
また、構成員からは「介護報酬」に関する提案もなされており(人員配置基準緩和など)、「中間とりまとめ」は介護報酬改定を議論する社会保障審議会・介護給付費分科会にも報告される見込みです。もっとも「報酬水準はそのままに、基準は緩和する」という声には相当の反発も予想されます。
ところで、介護保険制度では【基準該当サービス】という仕組みが創設当初から設けられています。地域によっては「人手不足などにより、指定介護サービス(基準を完全に満たされなければ指定を受けられない)の確保が難しい」が、地域の介護ニーズに応えなければならないため、「介護保険法や条例の厳格な基準を完全には満たしていないものの、設備や人員体制を一定程度整備しており、介護サービス提供を適切に行える」と市町村が自ら認めた事業所を介護保険の適用対象とできるものです。まさに「人員基準等の緩和」要望に応える仕組みと言えます。
しかし、2023年度時点で基準該当サービスを実施している保険者は204にとどまっており(全体のわずか13.0%)、「人員配置基準などの緩和はどこまで必要なのだろうか」と疑問の声を発する識者もいます。基準見直し論議の必要性・重要性は述べるまでもありませんが、併行して「既存の基準・制度の中で何ができるか」を考えることも重要でしょう。
なお、江澤構成員は「どのような取り組みを行うにしても、行きつくところは『財源の確保』である。各種施策が実施できるように財源確保に力をいれてほしい」と厚労省に強く要望しています。
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