介護保険では、高齢利用者の利便性に配慮し「被保険者証」と「マイナンバーカード」とを併用してはどうか—社保審・介護保険部会
2025.7.29.(火)
公的介護保険サービスを利用するためには、様々な場面で「被保険者証」(保険証)が必要となるが、今後、電子的に利用者の介護情報を関係者(ケアマネジャー、介護サービス事業者、市町村、利用者・家族)で共有できる【介護情報基盤】が2026年4月から段階的に始まっていくことを踏まえて、「紙の被保険者証」に加えて、「マイナンバーカード」による資格確認等も可能としてはどうか—。
また、「紙の被保険者証」は、65歳到達時に交付されているが、実際に介護保険サービスを利用するのは10年後、20年後であることが多く、「被保険者証を紛失してしまう」ことも少なくないため「要介護認定の申請時に交付する」などの運用見直しを行ってはどうか—。
他方、介護サービス利用者が災害に被災し、「紙の被保険者証」を持たずに避難した場合でも、【介護情報基盤】を活用して従前の介護サービス情報を把握し、円滑に「切れ目のない介護保険サービスを利用できる」環境を整えてはどうか—。
7月28日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で、厚生労働省がこういった提案を行いました。次回以降、中身について議論を行い、制度改正に繋げていきます。

7月28日に開催された「第123回 社会保障審議会 介護保険部会」
介護保険サービスの利用、「紙の保険証」と「マイナンバーカード」とを併用してはどうか
医療分野と同様に、介護分野においても「利用者の同意を前提に、過去の介護情報を介護事業者、市町村、ケアマネジャー、利用者、医療機関間で共有し、質の高い、効率的な介護サービスを提供する」ことが重視されています。例えば、要介護認定時に主治医から「●●の点に留意すべき」との意見(主治医意見書)が示されていた場合、その情報は市町村内にとどめず、ケアマネジャーや介護サービス事業者にも共有することでより安全・有効なケアプラン作成・サービス提供が実現できます。また、要介護高齢者の多くは何らかの医療ニーズ(生活習慣病や整形外科疾患など)を抱えるケースが多く、ケアプラン(現在、どういった介護サービスをどの程度利用しているのか)やLIFE(利用者の状態やケア提供内容、効果などのデータ)情報を、かかりつけの医療機関に共有することでより適切な医療サービスにもつながると期待できます。
このため、政府は、新たに介護情報を多くの介護事業所やケアマネジャー、医療機関、利用者、市町村などの間で共有する仕組み【介護情報基盤】を構築します(医療・介護・健康等の情報を一元的に管理する全国医療情報プラットフォームの一要素となる、関連記事はこちら)。

介護情報基盤活用の流れ(社保審・介護保険部会(1)1 250317)

全国医療情報プラットフォームの一部に、介護情報を広く関係者で共有し「質の高い介護サービス提供」を目指す【介護情報基盤】を構築する(介護情報利活用ワーキング1 240205)
●介護情報基盤の導入スケジュールに関する議論の記事はこちら
●介護除法基盤を活用して利用者の情報の閲覧等するために必要な「同意」の在り方に関する記事はこちら
【介護情報基盤】は、2026年4月より「準備の整った自治体」から運用が始まるため、例えば(a)介護情報基盤を活用した介護保険被保険者証のペーパーレス化(介護保険制度でもマイナンバーカードを保険証として活用する)(b)情報利活用にあたっての本人同意(c)情報セキュリティ対策—などの運用の詳細を詰める必要があります。
このうち(a)の被保険者証の取り扱いに関して、「介護情報基盤を活用した電子的手法による情報の共有」という趣旨を徹底するのであれば、「紙の被保険者証(保険証)」は廃止し、マイナンバーカードによる資格確認等(介護保険のマイナ保険証)に完全に一本化するほうが合理的・効率的でしょう。しかし、介護保険を利用する「高齢者」では、ICTに不慣れな方も少なくないため「紙の保険証を廃止し、介護保険のマイナ保険証に一本化する」ことは現時点では難しく、当面は「紙の保険証」と「介護保険のマイナ保険証」とを併用することが現実的と考えられます(マイナンバーカード保有者も含めて、全員に「紙の介護保険証」が交付される)。
もっとも、「紙の保険証」についても、利用実態を踏まえると「解決・整理すべき課題」があります。
こうした状況を踏まえて、厚生労働省老健局介護保険計画課の西澤栄晃課長は、次のような点を7月28日の介護保険部会に行いました。
●介護被保険者証の事務・運用等の見直し
(1)介護被保険者証の交付時期の見直し
【現状】介護被保険者証は「65歳到達時」に全被保険者に対して交付している
【課題】実際の介護保険の利用は、多くの高齢者では75歳、85歳になってから(交付から10年、20年間保管しなければならない)であり、ADLや認知機能が低下して要介護認定を申請する際に「紛失」しているケースが少なくない(この場合、市町村に申し出て再発行を受ける)
↓
【見直し案】「要介護認定の申請をする」時に、介護被保険者証を交付する対応に変更してはどうか
(2)介護被保険者証に係る事務の取扱いの見直し
【現状】介護被保険者証に加え、「負担割合証」と「負担限度額認定証」を別途、発行している(3つの資格確認等書類が交付される)
【課題】複数の書類の管理が煩雑である(管理を行うのは高齢者である)
↓
【見直し案】
▽取り扱いの利便性向上等の観点から、情報を分ける方向で整理してはどうか
・被保険者番号や氏名等、基本的に変更が行われない情報
・要介護度や負担割合、負担限度額等、定期的に変更がありうる情報
▽後者の「定期的に変更がありうる情報」は、利用者自身等がマイナポータルで最新情報を確認することが可能となるが、利用できない者もいることから「定期的に情報を確認できるものを配付」してはどうか
(3)サービス利用時の本人確認の見直し
【現状】介護サービスの利用毎(毎回)に、被保険者証の確認を行うことを必要としている
【課題】利用者、介護サービス事業者の負担がある
↓
【見直し案】
▽次のように整理、簡素化することを可能としてはどうか
・初回(介護サービス利用開始時):被保険者証やマイナンバーカードによる本人確認を必要とする
・2回目以降:事業者・利用者の負担軽減を図るため、簡素化を可能とする
●介護マイナ保険証の利用
▽介護情報基盤に介護保険資格確認等WEBサービスを利用してアクセスする際には、「介護被保険者証」に加えて、「マイナンバーカード」による確認も可能とし、事務効率化や利便性向上を図る
(参考)
▼介護保険資格確認等WEBサービス利用のメリット
・保険者:市町村への電話や窓口への確認、ケアプラン作成等に必要な要介護認定情報の窓口・郵送での提供が不要となり、業務負担やコストが軽減される
・事業者: 要介護認定の進捗状況等の市町村への問合せや情報提供依頼、窓口・郵送の受け取りが不要となり、業務が効率化される/サービス提供時の保険証確認等に係る業務負担が軽減される
・利用者:書類等のやりとりが円滑になり、要介護認定に要する期間が短縮される(つまり、より早期に介護サービス利用が可能となる)
▼マイナンバーカードの利用メリット
・事業者:PC・スマートフォン等での読み取りが可能(簡単となり)、で手間が少なくなる/介護保険資格確認等WEBサービス利用のための手入力が不要となりミスがなくなる/訪問系サービスについて、携行しやすいスマホ等で資格情報が読み取り可能なため、訪問先で利用しやすくなる
・利用者:マイナポータルにおいて、自らの最新の介護情報を確認することが可能となる

マイナンバーカードの介護保険被保険者証利用例(社保審・介護保険部会1 250728)
7月28日の介護保険部会では審議時間がとれず、上記提案内容に関する審議は次回以降に行われます。そこでの意見等を踏まえて具体的な見直し内容を、厚労省を中心に、自治体(市町村)や介護サービス事業者などの意見も踏まえながら練っていきます。
なお、現在の介護保険法では、例えば第27条第1項で「介護認定を受けようとする被保険者は、厚生労働省令で定めるところにより、申請書に被保険者証を添付して市町村に申請をしなければならない」と、同条第7項で「市町村は、(略)認定審査会の審査及び判定の結果に基づき要介護認定をしたときは、その結果を当該要介護認定に係る被保険者に通知しなければならない。この場合において、市町村は、次に掲げる事項(要介護状態区分等)を当該被保険者の被保険者証に記載しこれを返付する」と規定されています。
したがって、上記の「マイナンバーカード」による介護保険利用を行う場合には、これらの規定を見直すための介護保険法改正が必要となると考えられます。ただし、いつから「介護マイナ保険証を利用可能とするか」等の詳細は今後、検討していきます(【介護情報基盤】の運用は上記のとおり、「準備の整った市町村」より、2026年4月から運用されるが、必ずしも、これと同時に介護マイナ保険証を利用可能とするものではない)。
また西澤介護保険計画課長は、災害が発生した際に「介護情報基盤」を活用して、利用者に円滑かつ切れ目のない介護サービス提供が行える環境を整備してはどうか、との提案も行っています。例えば、要介護高齢者が被災して一時避難所等に避難した際にも、介護情報基盤で「従前は●●の介護サービスを利用していたな。その場合に◆◆に留意すべきと主治医がコメントしているな」などと把握できれば、円滑に「従前と同様の介護サービス」を提供し、ADLや認知機能の低下を防止できるという大きなメリットがあります。
【通常時】
▽介護サービス提供をする事業者が、「本人のマイナンバーカードをカードリーダーで読み取る」、あるいは「紙の保険者証の提示を受けて保険者番号・被保険者番号を含む本人の情報を介護保険資格確認等WEBサービスに入力する」方法により本人確認を行い、介護情報基盤上の情報が閲覧できるようになる
↓
【災害時】
▽被保険者証等を携帯せずに避難する方がいることが想定されるため、介護サービス提供事業者等による閲覧の必要性が高い場合には、特別措置として、災害の規模等に応じて「介護事業所の範囲・期間を限定して、被保険者証等を紛失等した場合でも、本人氏名や保険者名等を介護保険資格確認等WEBサービスに入力することで、閲覧を可能とする」ことが考えられる
→「介護事業所の範囲・期間限定」に関しては、例えば「災害救助法が適用されている地域に所在する介護事業所等において、必要最小限の期間のみ閲覧可能とする」ことなどが想定される

災害時モードの利用イメージ(社保審・介護保険部会2 250728)

災害時モードの利用シーン例(社保審・介護保険部会3 250728)
こちらも、今後の介護保険部会論議を踏まえて、詳細な事務フロー等について災害時の事務の特性を踏まえて検討・設定していくことになります。
今後の審議に注目が集まります。
なお、7月28日の介護保険部会には、▼2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ(すでに行われた中間とりまとめに福祉分野での取り組み方針を追記している)▼「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」における議論の整理」(関連記事はこちら)—が報告されたほか、今後の地域包括ケアシステム深化論議に向けた意見発表(⾧崎県の離島・中山間地域等の現状・施策/介護人材確保策における課題の着眼とプラットフォーム機能の充実/地域包括ケアシステムの推進における相談支援体制の現状と課題(千葉県柏市))も行われました。
長崎県では「離島」が極めて多く、サービス提供者の確保、利用者のサービスへのアクセスに大きな困難が伴います。このため市町村を通じて「サービス提供事業者への支援」や「サービス利用にあたっての渡航費(船賃)の助成」などが行われています。今後、中山間地などにおけるサービス確保を考えるうえで、重要な参考事例となります。
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