介護情報を共有し良質な介護サービス目指す【介護情報基盤】、2026年4月導入目指すが、市町村のシステム改修に不安も—社保審・介護保険部会
2024.9.20.(金)
介護情報を利用者・ケアマネ・介護事業者・市町村(介護保険者)・医療機関で共有する【介護情報基盤】を構築し、共有された情報をもとに「より質の高い、効率的な介護サービス提供」などにつなげていく—。
こうした仕組みについて2026年4月からの全国展開を目指すが、市町村(介護保険者)におけるシステム改修等が予定通りに進むかどうかで課題もあり、施行時期については今後の状況も踏まえながら、慎重に見極めていく—。
また、介護サービスでは小規模な事業所も多く、システム整備や運用にかかる「支援」を、国が予算を確保して多面的に行っていく—。
こうした議論が9月19日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で行われました。
目次
介護情報の共有で、業務負担の効率化、より質の高い介護サービス提供を目指す
医療分野と同様に、介護分野においても「利用者の同意の下、過去の介護情報を介護事業者、市町村、ケアマネ、利用者、医療機関間で共有し、質の高い、効率的な介護サービスを提供する」ことが重視されます。例えば、要介護認定時に主治医から「●●の点に留意すべし」との意見が示されていた場合、その情報は市町村内にとどめず、ケアマネジャーにも共有することで、より安全・有効なケアプラン作成が実現できます(もちろん介護サービスにも活かされる)。また、要介護高齢者の多くは何らかの医療ニーズ(生活習慣病や整形外科疾患など)を抱えるケースが多く、ケアプラン(現在、どういった介護サービスをどの程度利用しているのか)やLIFE(利用者の状態やケア提供内容、効果などのデータ)情報を、かかりつけの医療機関に共有することでより適切な医療サービスにもつながると期待できます。
このため、政府は、新たに介護情報を多くの介護事業所やケアマネジャー、医療機関、利用者、市町村などの間で共有する仕組み【介護情報基盤】を構築します(医療・介護・健康等の情報を一元的に管理する全国医療情報プラットフォームの1要素となる)。
これまでに健康・医療・介護情報利活用検討会「介護情報利活用ワーキンググループ」で、【介護情報基盤】において、「どういった情報を」「どういった関係者の間で」「どのように共有」するかを議論し(中間とりまとめ、関連記事はこちら)、介護保険部会において「介護情報基盤の実装」に向けた詰めの議論が始まっています(関連記事はこちら)。
9月19日の介護保険部会では、(1)介護情報基盤の構築・運用によるメリットの明確化(2)安全な通信環境の確保(3)介護事業所等の支援(4)導入スケジュール—について議論を行いました。
まず(1)の「メリットの明確化」は極めて重要です。メリット・デメリットが不明確では、介護サービス利用者や家族は「他者が自身等の介護データを閲覧する」ことを嫌がり、「仕組みは作ったが、誰も利用しない(できない)」といった事態に陥ってしまいかねません。
このため、厚生労働省老健局老人保健課の堀裕行課長は、「介護情報基盤の構築・運用により、▼業務の効率化(職員の負担軽減、情報共有の迅速化)を実現できる▼事業所間、多職種間の連携の強化、本人の状態に合った適切なケアの提供など、介護サービスの質の向上に繋がることも期待される—」という2つのメリットを明示。併せて、例えば「要介護認定の調査票や主治医意見書、審査会書類、審査結果通知などの郵送が不要となり、認定審査にかかる時間の短縮が見込める」、「LIFEの情報、過去のケアプラン等の情報を活用し、予後の可能性を利用者と共有しながら、より効果的なケアプランを立てられる」などの具体的な効果を紹介しています。介護保険部会でも、こうしたメリットの実現を期待する声が数多く出ており、今後、「より具体的に、利用者・家族、介護事業所、ケアマネジャー、医療機関、市町村等がどういったメリットを享受できるのか」を明らかにし、PRしていくことになります。
市町村、特に大規模市町村で、システム改修に遅れもあり、施行時期は見通せず
このように、介護情報基盤導入には大きなメリットがあるため、市町村も「早期の導入」に期待を寄せています(人手不足の中で、事務負担軽減などダイレクトな効果が期待できる)。厚労省は、これまでに(4)のスケジュールについては、▼年内(2024年内)に介護保険部会で意見をまとめる→▼それを踏まえて市町村(介護保険の保険者)のシステム標準化も踏まえて2025年度中に改修を行う→▼希望する市町村等で2025年度中に介護情報基盤の運用をはじめ、2026年4月から本格運用(全国展開)する—との考えを示していました(関連記事はこちら)。
しかし、次のように、このスケジュールには「課題もある」ことが明らかになってきました
(a)市町村(介護保険の保険者)の基幹業務(住民基本台帳、戸籍、固定資産税、個人住民税、法人住民税、子ども・子育て支援、就学、児童手当、児童扶養手当、国民健康保険、国民年金、後期高齢者医療、介護保険など)に関するシステム標準化が2025年度までに完了することが目指されているが、昨年(2023年)のデジタル庁・総務省調査では、171団体(10%)・702システム(2%)が移行困難(端的にスケジュールに間に合わない)と回答している
(b)(a)の標準化(2025年度)に加え、【介護情報基盤】の整備(2026年度スタートに向け、2025年度中にシステム整備)を行うことが目指されているが、今夏(2024夏)の厚労省調査では、半数超(56.5%)の市町村が移行困難(スケジュールに間に合わない)と回答し、とりわけ大規模な自治体(政令指定都市や23区)では9割超が移行困難と回答している
「(a)のシステム標準化に加え、(b)の介護情報基盤対応で、さらに市町村の負担が大きくなっている」状況が伺えます。さらに、ある市町村で(a)のシステム標準化が遅れれば、(b)の介護情報基盤対応がさらに遅れていきます。こうした実態を無視して「2026年4月の全市町村での稼働を強行する」ことはできません(いわば「先行列車」の遅れで、電車が遅れている人に対し、「遅れは許されない、時間通りに来なさい」などと求めることはできない)。
一方、「介護情報基盤は、すべての市町村が参加しなければ意味がない。全市町村で準備が整うまで待とう」と考えることも、「先行してシステム整備を進めた市町村の努力を無にし、業務効率化を遅らせてしまう」ことになるため、好ましくなさそうです。
こうした複雑な状況の中で、堀老人保健課長は「現時点では、明確なスケジュールを立てることは困難であり、今後、状況を見極めながら検討していく」との考えを示しました。
この点について介護保険部会委員からは、▼システム改修遅れの要因分析を行ったうえで具体的な課題解決支援を国が行ってほしい。さらに市町村の意見も踏まえながらスケジュールを詰め、柔軟な対応を検討してほしい(大西秀人委員:全国市長会介護保険対策特別委員会委員長/香川県高松市長)▼2024年4月の全市町村稼働は難しい状況だ。一方、一部市町村で先行すればサービスに格差がでかねず、十分な支援を行う必要がある(中島栄委員:全国町村会行政委員/茨城県美浦村長)▼2024年4月に準備が整った市町村から介護情報基盤を稼働させるべきである(幸本智彦委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)▼まずは実態を正確に把握し、スケジュールを丁寧に考えていくべき(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)▼スタートで差が出ることは好ましくない。全市町村・全事業所で一斉スタートできるような工夫を検討すべき(小林広美委員:日本介護支援専門員協会副会長)—など、さまざまな意見が出されています。
法律上(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)は「2027年5月18日まで」(法公布の2023年5月19日から5年以内)の政令で定める日までに施行することが求められており、「施行期日をどう考えるのか」「例えば一部市町村での先行導入で良しと考えるのか」なども含めて厚労省、介護保険部会で検討が進められます。
介護事業所のICT導入経費や知識・技術獲得など、国が予算確保し実効性ある支援
【介護情報基盤】には、業務負担軽減や介護サービスの質向上といった大きなメリットが期待されますが、「各種の情報を、ICT技術を活用して登録等・共有する」ことになるため、情報を活用するにあたって「ICT環境の整備」などが必要になります。
例えば、介護事業所では、ある利用者の介護情報を介護情報基盤から、「介護保険資格確認等WEBサービス」を経由して閲覧し、ケアプラン情報、LIFE情報を介護情報基盤に登録することになります。その際、介護事業所では▼情報登録・確認用のコンピュータ▼インターネット回線の整備▼各種セキュリティ対策ソフトの購入・インストール—など準備が必要となります(さらに、マイナンバーカードを介護保険の資格確認の鍵とする場合には「利用者のマイナンバーカードを読み取る機器」も必要となる)。
また、医療機関は「主治医意見書」を介護情報基盤に登録することになりますが、その際▼上述の「介護保険資格確認等WEBサービス」を活用して提出・登録する方法▼自院の電子カルテシステムなどに、「自治体の介護保険事務システムで受領可能な主治医意見書の仕様で送信する機能」を搭載し、オンライン資格確認等システム経由で提出・登録する方法—の2つがありますが、後者を選択する場合(こちらが多いのではないかと推測される)には、上記整備に加えて電子カルテシステムなどの改修が必要となります。
これらを新たに準備する場合には、当然「購入費・改修費」などが必要となります。また、ICTに関する一定の知識・技術も必要となります。
しかし、介護事業所は小規模なところも少なくなく、こうした機器購入や知識・技術獲得などに関する負担が、相対的に「非常に重くなる」ことが考えられます。これを「自前でやってください」と突き放したのでは、小規模介護事業所が「情報を登録できない、情報を閲覧できない」→「業務負担が軽減されない、介護サービスの質向上も期待できない」こととなってしまいます。
そこで堀老人保健課長は、(3)の「総合的な支援」を行う考えを明らかにしました。支援の内容は今後詰められますが、国が必要な予算を確保し(2024年度補正予算が組まれれば補正予算で、組まれなければ2025年度予算の中で)、実効性のある支援を行っていく見込みです。
こうした支援策については多くの委員が「歓迎」の意を示すとともに、▼迅速に介護情報共有の仕組みを整備するために、介護事業所支援は「期限を切って」行うべき。また一定規模以上の事業所では「鞭」としての対応(介護報酬算定の要件化など)もセットで検討すべき(佐藤主光委員:一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)▼物品やソフト購入費にとどまらず、小規模事業では「ICT関連スキル修得支援」などの技術的支援も検討してほしい(染川朗委員:UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長、山本則子委員:日本看護協会副会長、鳥潟美夏子委員:全国健康保険協会理事、山際淳委員:民間介護事業推進委員会代表委員)▼介護事業所は「何を準備すればよいのか」が分からない。その点を明確に示しながら支援を行ってほしい(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)—などの提案を行っています。
このほか、▼既存の「ケアプランデータ連携システム」や「LIFEデータ」などの稼働も芳しくない。この点の普及・促進も進めるべき(山田淳子委員:全国老人福祉施設協議会副会長、山際委員、江澤委員)▼医療分野でも情報連携の仕組み(電子カルテ情報共有サービスなど)があるが、将来的に医療・介護情報の連携が可能となるような視点を持って介護情報基盤整備を進める必要がある(橋本康子委員:日本慢性期医療協会会長、東委員)▼介護保険サービス利用者のほとんどは高齢者だが、ICTの知識などが乏しい者が多い。そうした利用者・家族への支援も検討してほしい(松島紀由委員:全国老人クラブ連合会常務理事)—などの注文もついています。
こうした意見も踏まえながら「限られた予算の中での実効性ある支援策」を厚労省で探っていきます。
なお、支援財源の確保方法ついて東委員や江澤委員は、「地域医療介護総合確保基金を活用する支援方法も考えられるが、自治体の負担が発生するために、地域で支援内容等に大きな格差が生じ、『全国の介護事業所で介護情報を活用する』という趣旨にマッチしない。基金ではなく、国が予算を確保して支援を行うべき」と進言しています。
このほか、(2)の「安全な通信環境」について堀老人保健課長は▼「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」での安全性確保に関する考え方▼介護現場の実情—のバランスを考慮して「インターネット回線においてTLS1.3+クライアント証明書を使用する方式を想定している」ことを明らかにしました。
詳細は今後、明確にされますが、堀老人保健課長は「OSがWindows11であれば特段の対応は不要。Windows10でもブラウザ上の対応で必要な対策がとれる(特別なソフト等は不要)と聞いている」と情報提供を行っています。
介護保険部会では、さらに「情報共有に関する利用者・家族の『同意』の在り方」や「介護保険被保険者証のペーパーレス化」(「ペーパーレス化」と、上述の「介護情報基盤構築」とは別の検討テーマであるが、両者をセットで行うことで、書類(紙の保険証)のやり取りなどが不要となり、より業務負担軽減効果が大きくなる)などを議論し、「年内の意見とりまとめ」を目指します。
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