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中山間地等では「介護人員の配置基準緩和」など、大都市では「AI・ICT活用」などにより介護サービス提供を維持せよ—厚労省検討会

2025.4.8.(火)

地域によって人口動態が大きく異なる中、中山間地・人口減少地域では「介護事業所の人員配置基準緩和やインセンティブ付与」などによって、大都市では「AI・ICT活用」などによって、地域の介護ニーズにマッチした「介護サービス提供体制」を維持・確保することが重要である—。

また、介護人材の確保に向けて「処遇改善」はもとより、「職場環境改善」「生産性向上」「都道府県単位のプラットフォーム機能構築」「事業所の連携強化、大規模化」などを総合的に実施せよ―。

さらに、医療・介護ニーズを複合的にもつ要介護高齢者等が増加する点など踏まえて「医療・介護連携」「介護予防」「認知症対策」なども強化することが必要である—。

4月7日に開催された「『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」(以下、検討会)で、こういった中間とりまとめ案が大筋で了承されました。野口晴子座長(早稲田大学政治経済学術院教授)と厚生労働省で最終の文言調整等を実施。近く、社会保障審議会・介護保険部会に報告され、今後の介護保険制度改正や2027年度以降の介護報酬改定などの重要な検討要素となります。また検討会では、さらに障害福祉や児童施策などを含めて議論を深め、今夏(2025年夏)に最終とりまとめを行います。

●中間とりまとめ案はこちら(今後、一部修正される可能性あり)

4月7日に開催された「第5回 『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」

中山間地域等、大都市、一般市のそれぞれで「介護サービス提供体制確保」策を構築

今年度(2025年度)までに、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達します。2025年度以降は、高齢者人口そのものは大きく増えないものの(高止まりしたまま)、▼85歳以上高齢者の比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、医療・介護の複合ニーズを持つ高齢者、認知症高齢者などの比率が高まっていく)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。少なくなる一方の若年世代で多くの高齢者を支えなければならず、「効果的かつ効率的な医療・介護提供体制」の構築がますます重要になってきます。

また、こうした人口構造の変化は地域によって大きく異なります。中山間地域などでは「高齢者も、若者も減少していく」、大都市では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに一般市では「高齢者が今後増加するが、そう遠くない将来に減少していく」など区々です。

検討会では、こうした状況下でも高齢者向けサービス等を確保できる方策を議論しています。4月7日の会合では、これまでの議論やヒアリング結果を踏まえた「中間とりまとめ」案をもとに議論を行いました(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



まず介護サービス提供体制の確保に向けては、日本全国を(1)中山間・人口減少地域(2)大都市(3)一般市—に区分けし、例えば次のような対応をとることを提言しています。

(1)中山間・人口減少地域
▽「人口減→サービス需要減」となる中で、様々なサービスを組み合わせて維持・確保できるように、次のような対策を検討する
▼地域のニーズに応じた柔軟な対応
・配置基準等の弾力化(地域の中核的なサービス提供主体に対して、「地域に残り続け、他の介護事業者との協働化・連携によってサービスを維持・確保していく」などの条件を付したうえで、人員配置基準等の弾力化やインセンティブ付与などの新たな柔軟化の枠組みを検討する)
・包括的な評価の仕組み(現在の訪問サービス等は「回数」を単位として評価するため、利用者の事情でのキャンセルや利用者宅間の移動に係る負担が大きいため、介護保険全体の報酬体系との整合性や自己負担の公平性等にも配慮しながら「包括的な評価の仕組み」を検討する)。
・訪問・通所などサービス間の連携・柔軟化
・市町村事業によるサービス提供などの検討
▼地域の介護機能の維持等のため、地域の介護を支える法人等への支援
▼社会福祉連携推進法人の活用促進

(2)大都市部
▽大都市に集団就職した団塊世代が後期高齢者となるため「介護需要の急増」が生じることから、例えば次ような対応によってサービス基盤を整備する
▼公と民の多様なサービス提供を進める
▼ICTやAI技術などの民間活力を活用したサービス基盤の整備を進める
▼重度の要介護者や独居高齢者等に対応可能な、「ICT技術等を用いた24時間対応可能な効率的かつ包括的なサービス」の検討(定期巡回・随時対応型訪問介護看護でも「平時における夜間の訪問」ニーズは必ずしも高くなく、かえって利用者・サービス提供者双方の負担となっていることから、「ICTやAI技術を活用して24時間の見守りを行い、夜間は『緊急時』にのみ訪問対応する」ような新たなサービス構築を検討する)

(3)一般市等
▽サービス需要が「当面は増加する」ものの、「近い将来、減少する」中で、既存の介護資源等を有効活用しサービスを過不足なく確保する
▽将来の需要減少に備えた準備と柔軟な対応を可能とする



これまでの議論を踏まえた内容であり、多くの構成員がこうした方向を歓迎。さらに▼中山間地・人口減少地域において、介護サービス提供のオンコール対応やオンライン実施なども可能とするような制度的枠組みをさらに検討してほしい(大山知子構成員:社会福祉法人蓬愛会理事長)▼中山間地・人口減少地域において「訪問介護員と訪問看護師」が同行支援することで、サービスの質向上と移動コストの効率化が期待でき、そうした取り組みの実施も可能となるような検討をしてほしい(藤原都志子委員:前公益社団法人徳島県看護協会看護小規模多機能型居宅介護あい管理者)—などの追加意見が出ています。

今後、「3区分に向けてどのような基準を設定するのか」(端的にどの地域を中山間地・人口減少地域とするのか)、「具体的な取り組み内容について、介護保険制度面・介護報酬面でどう対処するのか」などを介護保険部会や社会保障審議会・介護給付費分科会などで検討していきます。

なお、例えば「中山間地・人口減少地域における人員配置基準の柔軟化」などについて「介護報酬上の対応に止める」のか、「制度的な対応・報酬上の対応の双方を行う」のかは、今後、慎重に検討していく必要があります。

この点について津下一代構成員(女子栄養大学教授)は「段階的に柔軟化し、効果などを検証しながら進めるべき」と進言しています。2021年度2024年度介護報酬改定論議の中でも指摘されましたが、人員基準の緩和には「スタッフの負担が過剰にならないか」「サービスの質は低下しないか」「安全性に問題はないのか」などの懸念点があります。この点を踏まえて津下構成員は「少し緩和→検証→問題がなければもう少し緩和→検証・・・」という段階的緩和を進めることを提案しています。頷ける提案ですが、一方で「中山間地・人口減少地域でのサービス確保は困難さを極めており、急ぎの対応が必要である」との声もあります。

また、「サービスの質を確保しながら、人員配置基準等の緩和」を進める方策の1つとして、池端幸彦構成員(医療法人池慶会池端病院理事)と松田晋哉構成員(福岡国際医療福祉大学看護学部教授)は「サービスを可視化し、外からサービスの質が低下していないかをチェックできるような仕組みの構築」「レセプトで異常値を示している事業者は不適切なサービスを提供している可能性が高く、そこから指導等につなげる仕組みの構築」を提案しています。

介護人材の確保に向け、処遇改善、職場環境改善、生産性向上などを総合実施せよ

上述した介護サービス提供体制確保の大前提として「介護人材の確保」が極めて重要な課題であることは述べるまでもないでしょう。この点について中間とりまとめ案では、次のような提言を行いました。

▽国や地方における介護人材確保に向けた取り組み(賃上げや処遇改善の取り組みの継続、地域における人材確保状況等の見える化・精緻な分析、対策の検討、地域の公的な機関等の連携やプラットフォーム機能の充実等、入門的研修の強化、業務の整理・切り出し、多様な人材とのマッチングなど)

▽雇用管理等による介護人材定着に向けた取り組み(介護事業者の適切な雇用管理、介護人材の多様なキャリアモデルの見える化・キャリアアップの仕組みなど)

▽職場環境改善・生産性向上の取り組み(テクノロジー導入・運営の支援、介護助手等によるタスク・シフト/シェア、デジタル中核人材の育成、科学的介護の推進など)

▽介護事業者の経営改善に向けた支援、都道府県単位で雇用管理・生産性向上など経営支援をする体制の構築(地域の専門機関や専門職等との連携)

▽他事業者との協働化、事業者間の連携、大規模化(小規模の良さを活かし、大規模化によるメリットを示しつつ、間接業務効率化や施設・設備の共同利用など、協働化や事業者間連携をまず推進する、大規模化を事業者間でも進めるとともに、社会福祉連携推進法人の活用が進む仕組みを検討する)



こうした方針についても検討会構成員は歓迎しており、▼「大規模化が絶対」という誤解を生まないように工夫すべき(松原由美座長代理:早稲田大学人間科学学術院教授、中村厚構成員:日本クレアス税理士法人富山本部長)▼事業者連携による一括仕入れにおいては、中核的な役割を果たす事業者の事務コスト等が増加することも多い。その場合、何らかのインセンティブを付与し、連携を阻害しないように配慮すべきである(大屋雄裕構成員:慶應義塾大学法学部教授)▼人材確保・定着に向けて「プラットフォーム」機能設定は極めて重要である。都道府県単位の公的なプラットフォームのほか、市町村単位などインフォーマルな形でのプラットフォーム設定も可能とすべき(鈴木俊文構成員:静岡県立大学短期大学部教授)▼介護人材確保に向けたドラスティックな対策を国が打ち出すべき(江澤和彦構成員:医療法人和香会理事長)▼小規模な事業所ではICT・AIなどの導入にあたって様々なハードルがある。デジタル中核人材を複数の介護事業所で共同確保し、小規模事業所へICT・AIの導入・運営を支援しやすくなるような仕組みを考えるべき。「人材のシェア」が今後、非常に重要な考え方となる(香取幹構成員:株式会社やさしい手代表取締役社長)—などの追加意見が出されています。



さらに、地域包括ケアシステムの深化に向けて、▼医療介護連携の推進(地域包括ケアにおける医療介護連携の強化、退院して在宅復帰するまでの老人保健施設、地域の中小病院等の医療機関の役割強化、介護保険事業(支援)計画と地域医療構想との接続▼介護予防・健康づくり、介護予防・日常生活支援総合事業等の強化▼認知症ケアの推進—方向も打ち出しています。

この点については、▼「医療的な知識・技術を身につけた介護福祉士」などを育成することも重要になってこよう。また喀痰吸引が可能な介護福祉士等において、より広範な業務を任せられるような制度的枠組みも検討すべき(池端構成員)▼地域の介護ニーズを精緻に分析し、必要なサービス確保に向けた「地域介護構想」が必要で、そのための「協議の場」を地域に設置し、そこで医療・介護連携推進策を地域単位で議論・実行していくことが重要である(江澤構成員)—などの追加意見が出されています。



非常に具体的かつ建設的な提言が盛り込まれていますが、実現に当たってはさらに議論を深めていく必要があります(例えば、人員配置基準を緩和した場合に、報酬水準をどう考えるのか(同じ単位数でよいのか)、サービスの質確保をどう考えるのか、該当地域をどう設定するのか、など)。

野口座長と厚労省で最終調整を行って「中間とりまとめ」の内容を確定。近く開かれる社会保障審議会・介護保険部会などに報告され、今後の介護保険制度改正や2027年度以降の介護報酬改定などの重要な検討要素となります。今後の制度改正論議に注目が集まります。



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