将来の「日本の医療のグランドデザイン」を定めたうえで地域医療構想や医療計画、診療報酬にブレイクダウンしていくべき—日病・相澤会長
2025.10.29.(水)
病院経営が危機的な状況にあり、物価や人件費高騰がその背景にある。ただし、より根本的には将来の「日本の医療のグランドデザイン」が定まっておらず、場当たり的な対応にとどまっているところに問題がある。
「日本の医療のグランドデザイン」を定めたうえで地域医療構想や医療計画、診療報酬にブレイクダウンしていかなければ、どのような対応をしても、すぐに別の問題が浮上してくる—。
こうした点の重要性を踏まえた提言を早ければ年内(2025年内)にもまとめ、政府や関係審議会・検討会へ提言していく—。
日本病院会の常任理事会(10月25日)においてこうした議論が始まったことが、10月28日に定例記者会見に臨んだ相澤孝夫会長から報告されました。早ければ年内にも「日病の意見」を取りまとめ、政府関係者や関係審議会・検討会に提言が行われる見込みです。

10月28日の定例記者会見に臨んだ日本病院会の相澤孝夫会長
日本の医療提供体制は供給過剰、必要病床数・基準病床数の関係整理など進めよ
2040年頃を目指した「地域医療構想の実現」が、医療提供体制における重要なテーマとなっています。
「地域医療構想の実現」とは、端的に「地域の医療ニーズ」と「地域の医療資源」(病床、医療従事者、設備など)とを過不足なくマッチさせることを意味します。「A地域には慢性期患者が多いが、急性期病院しかない」のでは、地域の医療ニーズ(慢性期入院医療)と地域の医療資源(急性期入院医療)との間にミスマッチがあり、患者に効果的かつ効率的な医療を提供できません。このため両者をマッチさせるべく、データに基づいて「急性期入院医療から慢性期入院医療へのシフト」を進めていくことが求められるのです。
その際、「地域の医療ニーズ」を表現したものが【地域医療構想】、「地域の医療資源」を表現したものが【病床機能報告】と言えます。地域の協議の場(地域医療構想調整会議など)で関係者が膝を突き合わせて、【地域医療構想】(医療ニーズ)と【病床機能報告】(医療資源)との調和をどう図っていくかを議論し、合意のうえで「病院・病床の機能転換」や「規模の最適化」などを進めていくことが求められます。
現在、「2025年頃をゴールとした地域医療構想の実現」に向けた取り組みが各地域で進んでいます。人口の大きなボリュームゾーンを占める「団塊世代」が、2025年度に全員、75歳以上の後期高齢者となり、地域の医慮鵜・介護ニーズが急速に増大していくためです。
その後2040年頃にかけて、高齢者人口そのものは大きく増えない(高止まりしたまま)ものの、▼医療・介護双方のニーズを抱える85歳以上高齢者の比率が高まる▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。少なくなる一方の若年世代で、多くの高齢者を支えなければならず、「効果的かつ効率的な医療提供体制」の構築がますます重要になってきます。
また、こうした人口構造の変化は、地域によって大きく異なります。ある地域では「高齢者も、若者も減少していく」ものの、別の地域では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに別の地域では「高齢者が増加する一方で、若者が減少していく」など区々です。
そこで、2025年以降、2040年頃までを見据えた「医療提供体制の新たな設計図」【新たな地域医療構想】が求められているのです(関連記事はこちらとこちら)。
現在、厚生労働省の「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を中心に、各都道府県が地域医療構想(将来の医療提供体制の設計図)を策定する際の拠り所となるガイドライン作成論議が進んでいます(関連記事はこちら)。
ただし、日病幹部(会長、副会長、常任理事クラス)の間では、例えば次のような点を十分に検討したうえでガイドラインをまとめるべきではないか、との意見が多数出ていることが相澤会長殻報告されています。
▽現在、我が国の医療は「供給過剰」な状況となっている。一方で、今後の人口減少の中で中長期的に「医療ニーズは減少していく」と推測されるため、そうした点への対応を十分に考える必要がある(例えば、多くの地域・多くの病院で高度な設備(超高度な放射線治療機器など)を導入し、結果、コストが大きく膨れ上がり経営が困難になっている状況もあると考えられる)
▽入院患者「数」に着目した検討も行われているが、これは特定の日(例えば月末、●年10月1日など)だけを見たものであり、本来は「急性期からどの程度回復し、包括期病棟や療養病棟、介護施設などで転棟・転院等しているか」を見ていかなければならない(さもなければ、真に必要な機能別の病床数推計などを行うことが困難である)
▽「過去のデータを基本とした基準病床数」(地域の実質的な病床数上限)と、「将来予測に基づく必要病床数」との関係が、必ずしも明確になっておらず、両者の関係性整理・整合性確保を図らなければならない(病院の病床整備を行う上で、極めて重要な点である)」
▽医療計画における「2次医療圏」と、地域医療構想における「地域医療構想区域」との関係を、より明確にすべき(一致していない地域ではどう考えていくべきかを明確にし、必要に応じて圏域設定も見直す必要がある)
▽必要病床数の計算方法、病床機能報告の基準、さらに「新たな医療機関機能」と「病床機能」との関係などを整理していく必要がある
▽少子化が進む中で「医療人材の確保」が今後、極めて重要な検討テーマとなるが、これは将来の病床数・病院や病棟の機能・地域の医療ニーズの変化などによって、大きく変わってくる。こうした点も踏まえた検討をしなければならない
▽医療人材の中でも看護師の確保が非常に難しくなっている。地域の看護学校が努力しているが、入学者確保に苦労しており、他職種でも同様の傾向にある。医療人材の確保については、国が責任をもって取り組む必要があり、今後の対応方針などを明確にする必要がある
▽ガイドラインで各種の基準をきっちり固めすぎれば、地域での柔軟な対応、状況変化への機動的な対応が困難になるとともに、「基準数値のクリア」だけを追い求め、本末転倒の状況に陥りかねない。こうした点も踏まえたガイドライン作成が求められる
▽地域の自立的な対応・行動を重視すべきであり、そのためには関係者(国、都道府県、市町村、医療機関、地域住民など)間で十分な情報共有をしたうえで、十分に話し合うことが重要である。こうした点を担保する仕組みも必要である
さらに、日病幹部の間では「日本の医療は大きな岐路に差し掛かっており、『現状の手直し』ではなく、2040年以降も見据えた『医療のグランドデザイン』を関係者で十分に議論して固め、そこから逆算して『ここ1年、2年はどう動くべきか』を検討するべきである」との点で認識が一致しています。
こうした状況を踏まえて「新たな地域医療構想、将来の医療提供体制全体に関する日病の意見」を取りまとめ、政府や「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」、社会保障審議会・医療部会などに提言する方向が日病幹部の会合(常任理事会)で固められました。
相澤会長は「広範な点を議論しなければならないが、できれば2回程度の議論で意見をまとめたい」との考えを披露しており、早ければ「年内」(2025年内)にも政府や関係審議会・検討会への提言が行われると見られます。
あわせて相澤会長は「将来のグランドデザインを明確にしたうえで、地域医療構想や医療計画、診療報酬などを検討しなければならない。物価・人件費上昇も問題だが、そこへの手当てだけでは、当座は乗り切れても、すぐに別の問題が生じてしまう」ともコメントしています。
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