大学病院本院が「医師派遣・養成、3次救急等の広域医療」総合提供の役割担うが、急性期基幹病院にも一定の役割期待—新地域医療構想検討会(2)
2024.10.18.(金)
新たな地域医療構想・病床機能報告では「病棟・病床の機能」報告に加えて、「医療機関の機能」報告も求めることになる—。
新たな「医療機関の機能」に関しては、「医師派遣・医師養成・3次救急等の広域医療提供」など、地域医療構想区域を超えた、より広域的なエリア単位を想定する機能も重要となるが、これらを総合提供する役割は主に大学病院本院が担ってはどうか―。
もっとも急性期の基幹病院を限定していく方向や、現在の実績などに照らせば、例えば3次救急等の広域医療提供などは「地域の急性期病院の役割」(地域の基幹病院など)でもあると考えられ、こうした基幹病院にも一定の役割が期待される—。
10月17日に開催された「新たな地域医療構想等に関する検討会」(以下、新検討会)では、こうした方向も概ね固められました。同日の検討会では「外来医療」に関する議論も行われており、これらは別稿で報じます(同日の「医療機関機能」報告に関する記事はこちら)。
大学病院本院に「医師派遣・医師養成・広域医療提供」の総合的機能を期待
現在の地域医療構想は2025年をゴールに据えていますが、その後も▼高齢者人口そのものは大きく増えない(高止まりしたまま)ものの、85歳以上の高齢者比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、認知症高齢者の比率が高まる)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)▼人口構造の変化は、地域によって大きく異なる—ことなどが分かっています。こうした状況に対応できる医療提供体制を構築する必要があり、2040年頃を念頭においた「新たな地域医療構想」策定論議が検討会で進んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
新たな地域医療構想では、現在の地域医療構想で医療機関に求められている「病棟の機能」報告に加えて、新たに「医療機関の機能」報告も求めることになります(関連記事はこちら)。地域住民に対し「どの病院がどういった機能を持っているのか」を示すことが、医療機関選択の視点から非常に重要であるとの考えに基づくものです。
これまでの検討会論議では、新たな「医療機関の機能」は次の4区分とする方向が示される(関連記事はこちら、下図の上段の青色の機能)とともに、「広域的な観点からの医療機能」として(a)医師の派遣機能(b)医育機能(c)より広域的な観点で診療を行う機能(例えば3次救急など)—を検討していく方針が固められています(関連記事はこちら、下図の下段の桃色の機能)。
(1)高齢者救急の受け皿となり、地域への復帰を目指す機能
(2)在宅医療を提供し、地域の生活を支える機能
(3)救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能(いわば急性期病院機能)
(4)その他の機能(例えば「回復期リハビリテーションを主に提供する機能」(いわゆる回リハ病院)や「一部の診療科に特化した医療機関」(専門病院)など)
10月17日の検討会では、後段の「広域的な観点からの医療機能」をターゲットに据えた議論も行っています(上記(1)から(3)の報告等に関する議論の記事はこちら)。
「広域的な観点からの医療機能」として、前述のとおり、これまでに次の3機能が示されています。
(a)医師の派遣機能
(b)医育機能
(c)より広域的な観点で診療を行う機能(例えば3次救急など)
これらの機能については、次のように「大学病院本院」が大きな役割を果たしているとのデータが示されました。
【(a)「医師の派遣機能」】
▽「大学病院」が大きな役割を果たしている(約6万人程度の常勤医師の派遣等、医療提供体制の確保に貢献)
【(b)医育機能】
▽専門医養成を行う専門研修プログラムの相当程度は大学病院本院に設置されている
▽大学病院本院(82)のうち55施設で、19基本領域すべての専門研修プログラムが設置されている
▽医師免許取得者が臨床に携わるために必要な2年間の臨床研修について、大学病院が一定の役割を担っている
▽医師・歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38項目の診療上の補助(特定行為)を実施するための「特定行為研修」について、大学病院が一定の役割を担っている
【(c)より広域的な観点で診療を行う機能】
▽腎移植を除く「臓器移植」は、多くが大学病院本院で行われている
▽「難病」診療連携拠点病院、都道府県「がん」診療連携拠点病院、「救命救急」センター、「総合周産期母子医療」センターについても、大学病院本院が一定の役割を担っている
これらのデータを見ると、(a)(b)(c)の機能は「主に大学病院本院がその機能を果たしており、今後もその機能を維持・拡充すべき」と考えられそうです。ただし、「大学病院」と、地域医療構想をはじめとする地域の医療提供体制整備の責任者である「都道府県」との連携は必ずしも十分には行われていないことも分かっています。
こうした状況を踏まえて厚生労働省大臣官房の高宮裕介参事官(救急・周産期・災害医療等、医療提供体制改革担当)は、(a)(b)(c)の「「広域的な観点からの医療機能」について、次のような考え方を提案しています。
▽「広域な観点で担う常勤医師や代診医の派遣」、「医師の卒前・卒後教育」、「看護師の育成」、「広域な観点が求められる診療」を総合的に行う機能について、大学病院本院が担う【医育及び広域診療機能】として位置づける
↓
▽こうした機能を確保するため、大学病院本院と都道府県が必要な連携を行うことを求める
もっとも、上記データからも分かるように「大学病院以外の医療機関」(例えば都道府県の中核病院、基幹病院など)が医師派遣や医師養成、広域的な医療を一定程度担っていることも確かです。そこで、高宮参事官は次のような考えも併せて提案しました。
▽その他の病院(大学病院本院以外の病院)であっても、「医師の派遣」、「救命救急センター」、「総合周産期母子医療センター」などの2次医療圏等を超えた広域的・総合的な機能を有する医療機関
↓
▽【救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能】(下図の青色の機能の1つ、Gem Medでは【急性期病院】機能としている)などを発揮する中で、広域な観点での診療、人材の育成、医師の確保等についての議論や国民・患者への共有に資するよう、これら機能を有することやその実績を都道府県に報告する
大雑把に整理すると、▼「医師派遣・医師養成・3次救急などの広域医療」を総合的に担う機能は大学病院本院が持つ▼その他の病院であっても医師派遣・医師養成・3次救急などの広域医療機能を持つケースがあり、それは都道府県に報告する—となりそうです。
こうした方針に異論・反論は出ていませんが、▼大学病院からの医師派遣は主に「地域の基幹病院」に対して行われる。そこから地域の様々な病院に対する医師派遣は「地域の基幹病院」から行われるケースも多く、その点を勘案すべき(望月泉構成員:全国自治体病院協議会会長)▼医師派遣などは「地域で誰がリーダーシップを発揮するか」が重要になる。大学病院と都道府県にとどまらず、様々な主体が連携すべき(岡俊明構成員:日本病院会副会長、江澤和彦構成員:日本医師会常任理事)▼大学病院と都道府県との連携を「支援」する策も考える必要がある(玉川啓構成員:福島県保健福祉部次長(保健衛生担当))▼1県1医大の地域にある大学病院と、複数の大学病院がある地域の大学病院とでは、機能が異なるのではないか。地域に複数の大学病院がある場合には、それぞれの機能分化や、各施設の連携なども考える必要がある(伊藤伸一構成員:日本医療法人協会会長代行)▼大学病院には医師派遣機能や医師養成機能などのほかにも「研究機能」などもあり、バランスが重要である。また大学病院-都道府県連携は1対1ではなく、『複数の大学病院-1つの県』や『1つの大学病院-複数の県』などのケースもある。連携は柔軟に考えていくべき。さらに医師派遣や医師養成、広域医療などを行うには相応の体力が必要であり、その確保(大学病院支援策)なども重要になる(大屋祐輔構成員:全国医学部長病院長会議地域の医療及び医師養成の在り方に関する委員会委員長)—などの意見が示されています。今後、より詳細に各機能を考える上で重視されます。
また、猪口雄二構成員(全日本病院協会会長)や玉川構成員は、「救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能」(下図上段(青色)の右機能、関連記事はこちらの【急性期病院】機能)と、「より広域な観点で診療を担う機能」(下図下段(桃色)の右機能、上述)とは「相当程度、重複するのではないか?整理を行うべき」と指摘しています。
この点についてはさらに掘り下げた議論が行われますが、たしかに、3次救急などをイメージすると「両者はほぼ重なる」ことが考えられます。【急性期病院】機能を相当程度限定していく方針が固められたことからも、「両者が重なる」ことを強くイメージできます。詳細は「新地域医療構想ガイドライン」論議の中で詰めることになりますが、その前の「制度論議」(本年(2024年)内の新地域医療構想の大枠を固める論議)の中でも一定の方向が確認されると見込まれます。
今後、さらに精力的に議論が進められ、年内(2024年内)の最終とりまとめを目指します。
なお、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、機能再編や経営強化プランを策定する公立病院を支援するサービスメニューも準備しています。
GHCが「先行して新公立病院改革プラン改訂を行った病院」(市立輪島病院:石川県輪島市)を支援したところ、「入院単価の向上」「戦略的な病床機能強化の推進」などが実現されています。「経営強化」「機能強化」を先取りして実現している格好です。
ガイドラインでは「外部アドバイザーの活用も有効である」と明示していますが、コンサルティング会社も玉石混交で「紋切り型の一律の改革プランしかつくれない」ところも少なくありません。この点、GHCでは「膨大なデータとノウハウ」「医療政策に関する正確かつ最新の知識」をベースに「真に地域で求められる公立病院となるための経営強化プラン」策定が可能です。
●GHCのサービス詳細はこちら
従前より「地域単位での医療提供体制見直し」に着目してコンサルティングを行っているGHCマネジャーの岩瀬英一郎は「従来通りの考えにとどまらず、より緻密な分析を行い、戦略をもった検討をベースとして『地域に必要とされる公立病院の姿』を個々の病院の実情に合わせて検討する必要がある」と強調しています。
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