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地域医療構想実現に向け国が技術的・財政的支援を行うモデル推進区域、石川県「能登北部」など12区域を指定—地域医療構想・医師確保計画WG(1)

2024.7.11.(木)

地域医療構想の実現に向けて、「都道府県に1-2か所の推進区域を定め、地域医療構想実現に向けた取り組みを加速化する対応方針を策定する」、「全国に10-20か所のモデル推進区域(推進区域の中で選定)を定め、そこへは厚生労働省が技術的・財政的支援を行う」こととなっています。

「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織、以下、ワーキング)が7月10日に開かれ、厚労省が推進区域・モデル推進区域の指定状況を報告しました。厚生労働省と都道府県でさらに調整が進められ、「推進区域対応方針」や「財政支援・技術的支援を含めた伴走支援」による地域医療構想実現に向けた取り組みが強化されます。

なお、同日のワーキングでは「地域医療構想の進捗状況報告」、「2024年度病床機能報告」(報告内容の一部見直し)も議題にあがっており、別稿で報じます。

7月10日に開催された「第15回 地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」

推進区域を設定し、地域医療構想実現に向けた取り組みを加速化する「対応方針」策定

2025年度に団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達することから、今後、急速に医療ニーズが増加・複雑化していきます(しかも状況は地域ごとに千差万別である)。この増加・複雑化する医療ニーズに的確に対応できるような医療提供体制の構築が強く求められ、その一環として【地域医療構想】の実現が目指されています(関連記事はこちら)。

しかし、2025年を目前に控えた現時点でも、「病床の必要量(必要病床数)と2025年の病床数見込みとの乖離があり、それに関する分析が進んでいない地域もある」「医療提供体制の課題解決に向けた工程表作成が進んでいない地域もあり」など、地域によって地域医療構想の実現に向けた取り組みには大きなバラつきがあること、さらに「すべての構想区域で、医療提供体制に何らかの問題(救急医療提供体制や医師確保など)を抱えている」ことも分かっています(詳細は別稿で報じます)。

そこで厚労省は、地域医療構想実現に向けた動きを加速化するために、次のような取り組みを行う方針を固めました(関連記事はこちらこちら

(1)各都道府県に概ね1-2か所ずつ「推進区域」を指定。当該地域における「推進区域対応方針」作成を求め、地域医療構想実現に向けた取り組みを加速化してもらう

(2)(1)の「推進区域」のうち10-20か所程度を「モデル推進区域」として指定。厚労省が技術的・財政的支援を含めた伴走支援を行い、地域医療構想実現に向けた取り組みを強化する

あわせて厚労省は、「地域の医療提供体制の見える化」「都道府県がなすべき事項に関するチェックリストの作成」などの支援も行います(関連記事はこちらこちら)。



7月10日のワーキングでは、7月5日時点の推進区域・モデル推進区域の指定状況が報告されました。まだ厚労省と都道府県で調整中の区域もあり、今後、新たな区域等が入ってくる可能性もあります。

まず(1)の指定区域について見てみると次のような状況です(【】内が対象となる推進区域)。
▽北海道【調整中】
▽青森県【青森】
▽岩手県【両磐】
▽宮城県【石巻・登米・気仙沼】
▽秋田県【大館・鹿角、能代・山本】
▽山形県【庄内】
▽福島県【会津・南会津】
▽茨城県【土浦、鹿行、取手・竜ケ崎】
▽栃木県【宇都宮】
▽群馬県【伊勢崎、藤岡】
▽埼玉県【北部】
▽千葉県【香取海匝】
▽東京都【区中央部、区南部、区西南部、区西部、区西北部、区東北部、区東部、西多摩、南多摩、北多摩西部、北多摩南部、北多摩北部、島しょ】
▽神奈川県【県西】
▽新潟県【中越】
▽山梨県【峡南】
▽長野県【上小】
▽富山県【新川】
▽石川県【能登北部】
▽岐阜県【飛騨、東濃】
▽静岡県【駿東田方】
▽愛知県【東三河北部】
▽三重県【松阪】
▽福井県【嶺南】
▽滋賀県【湖北】
▽京都府【丹後】
▽大阪府【南河内】
▽兵庫県【調整中】
▽奈良県【調整中】
▽和歌山県【有田、新宮】
▽鳥取県【調整中】
▽島根県【調整中】
▽岡山県【真庭】
▽広島県【呉】
▽山口県【宇部・小野田】
▽徳島県【東部】
▽香川県【東部】
▽愛媛県【松山】
▽高知県【中央】
▽福岡県【調整中】
▽佐賀県【中部、南部】
▽長崎県【長崎】
▽熊本県【熊本・上益城】
▽大分県【東部、北部】
▽宮崎県【西諸】
▽鹿児島県【姶良・伊佐】
▽沖縄県【中部、南部】

推進区域(7月5日時点)(地域医療構想・医師確保WG(1)1 240710)



上述のとおり、「推進区域」では、当該区域の実情を踏まえ、どのように地域医療構想の実現に向けた取り組みを強化していくかを明確化した「推進区域対応方針」を作成します。具体的には、▼区域の医療提供体制に関するグランドデザイン▼区域の現状と課題、課題の背景、年度目標、これまでの取り組み状況、進捗状況の検証、地域の医療機関・住民等への周知▼今後の対応方針、対応方針実現の具体的、病床の必要量と現状との乖離の是正策、対策を行った場合の2025年の状況見込み▼今後の工程表—などを定め、「いつまでに何をするのか」をより明確化したうえで、地域医療構想の実現に向けた取り組みを加速化することが求められます。

推進区域対応方針の様式イメージ1(地域医療構想・医師確保WG(1)3 240710)

推進区域対応方針の様式イメージ2(地域医療構想・医師確保WG(1)4 240710)



なお、東京都ではすべての構想区域が推進区域となっています。▼多くの人口を抱えていること▼今後、高齢化が急速に進行すること▼医療機関数が多いこと▼大学病院が多いこと—などなど、東京都は特殊な事情を数多く抱えており「どのように地域医療構想を進めていくのか」が注目されています。こうした点も手伝って、異例の「すべての構想区域を推進区域に指定した」という背景がありそうです。どういった推進区域対応方針が作成されるのか、大きな注目を集めます。

推進区域対応方針は、各都道府県において「本年度(2024年度)中に策定」することが求められます。

地域医療構想実現に向けたラストスパート2(地域医療構想・医師確保計画ワーキング7 240313)

モデル推進区域を指定し、厚労省が技術的・財政的支援を行う

次にモデル推進区域に目を移すと、7月5日時点の指定状況は次のようになっています。上記(1)の推進区域のうち、例えば都道府県や地域の「この地域において、地域医療構想を強力に進めたい」という希望・要望も十分に踏まえて設定されました。今後、対象が増加する可能性もあります。
▽秋田県【大館・鹿角、能代・山本】
▽山形県【庄内】
▽栃木県【宇都宮】
▽群馬県【伊勢崎、藤岡】
▽石川県【能登北部】
▽山梨県【峡南】
▽三重県【松阪】
▽滋賀県【湖北】
▽京都府【丹後】
▽山口県【宇部・小野田】
▽高知県【中央】
▽長崎県【長崎】

モデル推進区域(7月5日時点)(地域医療構想・医師確保WG(1)2 240710)



モデル推進区域は、(1)の推進区域でもあり、まず上述のとおり「推進区域対応方針」を策定します。

あわせて、モデル推進区域に対しては厚労省が技術的・財政的支援を含めたアウトリーチ型の伴走支援を行います。具体的には次のような内容です。

【技術的支援】(▼は重点支援区域では行っていない新規支援事業)
▽地域の医療事情に関するデータ提供・分析
▽構想区域からの依頼に基づく議論の場・講演会、 住民説明会などへの厚労省職員の出席
▽関係者との議論を行う際の資料作成支援
▽関係者の協議の場の設定
▼都道府県コンシェルジュ(ワンストップ窓口)の設置
▼「推進区域対応方針」(上述)の作成支援
▼構想区域内の課題の把握
▼分析結果を踏まえた取組に関する支援
▼地域の枠組みを超えた構想区域や都道府県間の意見交換会の設定
▼定量的基準の導入に関する支援
など

【財政的支援】
▽モデル推進区域が属する都道府県に対し、重点支援区域への支援と同様に、地域医療介護総合確保基金について「事業区分II(居宅等における医療提供事業)・IV(医療従事者の確保事業)の優先配分を行う」ほか、個別医療機関の再編統合を実施する場合における上乗せの財政支援を行う



ところで、国は都道府県から要請に基づいて重点支援区域を指定し、地域医療構想の実現に向けた技術的・財政的支援を行っています。

今回のモデル推進区域は、「厚労省と都道府県が協議して指定している」という点、「支援内容がより充実している」という点で、重点支援区域と若干の違いがありますが、いずれも「対象となる地域からの『一定の支援を行ってほしい』との意向を踏まえて指定している」ものであることに留意が必要です。能登北部区域は震災で大きなダメージだを負いましたが、石川県から「震災からの復興も含め医療提供体制改革を進めたい」との意向がある旨が厚労省から報告されています。

関係者の中には、「地域医療構想が進まない地域には、都道府県や厚労省が自ら乗り出し、強力に推進すべきではないか」と発言する方もおられます。しかし、地域の意向を無視した、いわば「押しつけ・強制」のような改革は、形だけのものに終わり、実効性が伴いません。したがって、厚労省による支援も「地域の意向を尊重したうえで行われる」ものになると期待されます。

形式的に「病床の必要量」と「2025年病床数見込み」を合わせても意味がない

ところで、例えば財務省等からは「病床の必要量(地域医療構想)と、2025年の病床数見込み(病床機能報告)との間の乖離」解消が強く求められています。

もちろん両者にあまりにも大きな乖離が生じることは好ましくありませんが、▼病床の必要量は「2025年の患者数を推計し、それを受け入れる機能別の病床数」として計算したもの▼2025年の病床数見込みは「各病院が、各病棟の機能を考えたもの」(ある病棟に急性期患者が25名、回復期患者が15名入院していた場合には「急性期」と報告することが多く、その場合、15名分の回復期機能を持つベッドは表に出てこない)—という違いがあり、両者は一致しません。

ただし、こうした「考え方・計算方法の違い」だけでは説明できない乖離もあることもわかっており、「なぜ乖離が生じているのか」「その乖離は考え方・計算方法の違いで説明できるのか、できないのか」などを詳しく分析したうえで、地域医療構想調整会議で「乖離の解消に向けた検討」を進めていくことが極めて重要です。単なる「数合わせ」議論はかえって有害でしょう。

また、地域医療構想実現の重要ツールとして「医療機関の再編・統合」があります。例えば、「小規模で過酷な勤務体制を敷かざるを得ない複数の医療機関を統合し、個々の医療従事者の負担を軽減する」ことや、「救急機能が分散し、個々の医療機関の救急部門スタッフの負担が過重になっている場合に、救急機能を一部の医療機関に集約する」ことなどが思いつきます。これは、地域医療構想の実現にとどまらず、「医師働き方改革」や「医師偏在対策」にもつながる重要な要素です。

ただし、この再編・統合についても「地域の意向」が極めて重要になることは述べるまでもありません。例えば「住民の医療アクセス」は確保されるのか、「馴染みのスタッフとの関係性」は維持されるのか、なども慎重に考える必要があり、厚労省は推進区域対応方針策定などにあたって「病床の削減や統廃合ありきではなく、各都道府県が地域の実情を踏まえ、主体的に取り組みを進めるものである」との考えを強調しています。



厚労省は、さらに都道府県と推進区域・モデル推進区域の指定に関する調整を進めます。新たな地域医療構想に向けた議論も進んでおり、両者(現在の地域医療構想の実現に向けた動き、新たな地域医療構想策定論議)をセットで見ていくことが重要でしょう。





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