「複数医療機関の再編・統合」を国が財政・技術面で重点支援、1月中に第1回目の対象選定―厚労省
2020.1.16.(木)
地域医療構想の実現に向けて、複数医療機関の再編・統合等を国が直接する「重点支援区域」を定める。重点支援区域への選定を希望する都道府県は国(厚生労働省)へ申請を行ってほしい―。
申請は随時募集するが、1月中に「第1回目の重点支援区域選定」を行う―。
厚生労働省は1月10日に通知「重点支援区域の申請について」を発出して、都道府県にこうした依頼を行うとともに、医師会や病院団体等にも情報提供を行っています(日本病院会のサイトはこちら)。
目次
再編・統合が進まない事例を国が「直接」に財政面・技術面で支援する
2025年度の「地域医療構想の実現」を目指し、各地域医療構想調整会議(以下、調整会議)で「病院の自主的な機能改革」に向けた議論が進められています。まず2018年度中(2019年3月まで)に「地域の公立病院・公的病院等の機能改革等」(公立病院・公的病院等でなければ担えない機能への特化)に関する合意を得ることになっており、ほとんどの公立病院・公的病院等で「機能改革」に関する合意が完成していますが、「形だけの機能改革論議や現状追認にとどまっているケースがある」との指摘もあります。
そこで、厚労省の「地域医療構想ワーキンググループ」(「医療計画の見直し等に関する検討会」の下部組織)では、「急性期医療の診療実績が特に少ない」あるいは「近隣に急性期医療機能を代替できる病院がある」と思われる424の公立・公的等医療機関を対象に「機能分化や再編・統合を含めた再検証を求める」方針を固めました。自治体等からは「地域に欠かせない病院を廃止するのか」という誤解に基づいた指摘もありますが(関連記事はこちらと こちら)、再検証の結果「地域に欠かせない医療機関であり、現在の形で存続させる」などの結論が出されることも十分に考えられます。
また、424公立・公的等医療機関以外にも「再編・統合」や「機能分化」「ダウンサイジング」は、今後の医療提供体制改革において極めて重要です。人口減少が進む我が国において、多くの医療機関が現状の形で存続を希望すれば「症例の分散」による、医療の質の低下・経営の質の低下が避けられないからです。Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンと、米国メイヨークリニックとの共同研究では、「症例数に分散により、医療の質が低下してしまう」ことが明確になっています。
ところで、こうした機能改革論議は地域医療構想調整会議を中心に進められますが、議論が難航する地域も出てくると思われます。例えば【再編・統合】等となった場合、吸収・廃止等される側の自治体などからは「近隣に病院がなくなってしまう。我々を見捨てるのか」という反対意見が出てくることも予想されます。また、首長が「病院の建設・存続・増床」などを公約に掲げている場合には、再編・統合論議は「政治的」な様相を帯びてくることも予想されます。このため厚生労働省は「再編・統合論議を国が重点的に支援する地域」を定める考えを示しました(2019年5月31日の経済財政諮問会議で根本匠厚生労働大臣が発表)。
今般、厚労省はこの「重点的に国が支援する地域」(重点支援区域)は都道府県の申請をベースに選定する考えを明確にし、都道府県に「申請」を依頼したものです。
もっとも都道府県が自らの判断で「重点的に支援してほしい」と国に申請するものではなく、事前に「当該区域の地域医療構想調整会議で『重点支援区域への申請』を行う旨の合意を得る」ことが必要です。さらに言えば、「●●構想区域におけるA病院とB病院の再編・統合について国による直接の支援を希望する」と、対象病院を明確にしたうえで関係者間の合意をあらかじめ得ることが求められます。
また「重点支援区域への選定」イコール「当該区域の医療機関は再編・統合される」という単純な構図にないことにも留意が必要です(支援の過程で、現状通りの存続が必要などと判断されることもありうる)。
複数医療機関の再編・統合事例が選定対象、単一病院のダウンサイジングは対象外
厚労省は「重点支援区域」には、次のような地域が対象になるとの想定事例をあらかじめしています。言わば「最低基準」と言えるでしょう。
▽複数医療機関の再編・統合(ダウンサイジング、機能分化・連携、集約化、機能転換なども含む)の事例であり、「単一医療機関のダウンサイジング」は対象とならない
▽再検証対象医療機関(424の公立・公的等医療機関)以外の再編・統合も対象となる
▽複数区域にまたがる再編・統合も対象となる(この場合、該当するすべての地域医療構想調整会議において「重点支援区域への申請」を行う旨の合意が必要。都道府県をまたぐ再編・統合事例は厚労省への照会が必要)
関係者が多いなど「困難」で、病床削減効果の大きな事例を優先的に支援
また、上記最低基準を満たす申請が多数なされた場合には、次のような事例が優先的に選定されます(優先判断基準)。「再編・統合協議が困難なケース」や「再編・統合の効果が大きなケース」が優先的に支援される格好です。その際、424の公立・公的等医療機関が含まれているか否かは優先判断基準に含まれません(424以外が優先されることもある)。
▽複数の設置主体による再編・統合
▽多数の病床削減(少なくとも関係病院の総病床数の10%以上)を伴う再編・統合
▽「異なる大学病院等からの医師派遣を受けている医療機関」同士の再編・統合
▽人口規模・関係者の多さから「より困難である」と想定される再編・統合
病床ダウンサイジングの補助金を優先かつ手厚く活用
重点支援区域に選定された場合には、国による直接の▼財政的支援▼技術的支援―を受けられます。
財政的支援としては、2020年度予算案に盛り込まれた「国費でのダウンサイジング支援」(国費84億円)が活用されます。稼働病床を1割以上減少させる場合に、将来得られたであろう利益(逸失利益)を補助するもので、厚労省医政局総務課の佐々木裕介課長は▼重点支援区域での病床削減>▼複数病院の合併による病床削減>▼単一病院の病床削減―という具合に補助に傾斜を設ける考えを示していました。今般の「重点支援区域での複数医療機関の再編・統合に伴う病床削減」では、最も手厚い補助がなされると考えられます。
技術的支援としては、▼地域医療構想調整会議への「地域の医療事情に係るデータ提供」と「議論の場や講演会などへの国職員の出席」▼都道府県に対する「関係者と議論を行う際の資料作成支援」「議論の場や住民説明会などへの国職員の出席」「関係者の協議の場の設定」―などが想定されています。
都道府県による申請では、▼どの地域医療構想調整区域を重点支援区域に選定してほしいのか▼どの医療機関を再編・統合の対象とするのか―を明示したうえで、「再編・統合が必要な理由」「各病院の方向性」「これまでの議論進捗状況」「必要な支援内容」を詳しく情報提供することが求められます。
また重点支援区域の募集は随時行われる見込みです(1月中に「第1回目の重点支援区域選定」が行われる)。
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