公立・公的病院等の再編・統合、国が「直接支援」する重点地域を2019年夏に策定―厚労省・医療政策研修会
2019.6.7.(金)
今夏から「各地域(地域医療構想区域)の病院がそれぞれどのような診療実績を有しているのか」などのデータをもとに、公立病院・公的病院等の機能改革内容を再検証し、検証結果によっては再編・統合等の検討を行うことになる。それと前後して、国と都道府県とで協議し、「再編・統合等に向けて国が重点的に支援する地域」を定め、国が「直接の支援」を行う―。
厚生労働省が6月7日に開催した「都道府県医療政策研修会」(以下、研修会)で、こういった点が明確にされました。
目次
診療実績データもとに、公立・公的病院等の機能改革について再検証
2025年度の「地域医療構想の実現」を目指し、各地域医療構想調整会議(以下、調整会議)で「病院の自主的な機能改革」に向けた議論が進められています。まず2018年度中(2019年3月まで)に「地域の公立病院・公的病院等の機能改革等」(公立病院・公的病院等でなければ担えない機能への特化)に関する合意を得ることになっており、ベッド数ベースで、▼公立病院は95%(2018年12月末から47ポイント向上)▼公的病院等は98%(同38ポイント向上)―の合意が得られています(ほとんどの公立病院・公的病院等で「機能改革」に関する合意ができた)。
ただし、機能別の病床数割合の推移を見てみると2017年度から2025年度にかけて大きな変化は見られず、また「合意を急ぐあまり、形だけの機能改革論議や現状追認にとどまっているケースがある」との指摘もあります。
そこで、厚労省の「地域医療構想ワーキンググループ」(「医療計画の見直し等に関する検討会」の下部組織、以下、ワーキング)では、次のように「合意内容の検証をする」ことを決めました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
▽各医療機関(民間も含めて)における▼がん手術の実績▼がん化学療法の実績▼心血管疾患の診療実績▼脳卒中の診療実績▼救急医療の実績▼小児医療の実績▼周産期医療の実績―などの精緻なデータを洗い出す(厚労省で分析中、2019年夏頃に結果が示される見込み)
▽データをもとに、公立病院・公的病院等の果たしている機能を分析し、合意内容を検証。検証結果を踏まえて、必要な対応を要請する
▼公立・公的等でなければ果たせない機能に特化していると判断された場合
→現在の機能を維持する公立・公的病院等
▼民間病院と競合している機能(例えば、がん診療、循環器領域など)があると判断された場合
→民間病院のキャパシティなども考慮した上で、当該機能を民間病院へ移管することができないかを検討する(【一部の機能転換】等の検討)
▼多くの病院に手術症例等が拡散しているなどと判断された場合
→地理的要素(患者のアクセス)なども考慮したうえで、「病院同士の再編・統合」を検討する(【再編・統合】等の検討)
公立・公的病院等の機能改革、「民間との競合がないか」などが重要な視点
地域医療構想の実現に関しては、「病棟が実際に果たしている機能」と「病床機能報告で報告されている機能」とをできる限りマッチさせることが重要です。病床機能報告結果が「実際の機能」と乖離していれば、調整会議での「急性期と報告する病床がニーズに比べて過剰なので、不足する回復期機能への転換を促してはどうか」などといった議論が意味をなさないからです。
さらに公立病院・公的病院等では、上述のように「公立病院・公的病院等でなければ果たせない機能に特化しているか」「民間病院との競合はないか」という視点が欠かせません。
この点、例えば、ある公立病院の「急性期」病棟について、「実質的には回復期である」として回復期機能への転換を考えたとします。機能のマッチという視点からは「回復期への転換」が妥当ですが、「公立・公的等の役割」「民間との競合」という視点では、疑問も残ります。地域では「公立病院が高度急性期から回復期までの機能を網羅し、患者の囲い込みをしている」との指摘も出ており、地域で「当該公立病院が回復期病棟を持つことが適当か」という点を十分に議論する必要が出てきます。
国が再編・統合を「直接支援」する重点地域を、都道府県と協議して設定
この再検証スキームについて厚労省は、「診療実績データの多くは、病院名も明らかにした上で公表する」との考えを提示。全国の病院の等身大の姿が「見える化」されることになり、客観的なデータに基づいた再編・統合論議が各調整会議で進むことが期待されます。
もっとも調整会議の議論が難航する地域も出てくると考えられます。例えば【再編・統合】等となった場合、吸収・廃止等される側の自治体などからは「近隣に病院がなくなってしまう。我々を見捨てるのか」という反対意見が出てくることも予想されます。また、首長が「病院の建設・存続・増床」などを公約に掲げている場合には、再編・統合論議は「政治的」な様相を帯びてくることも予想されます。こうした中で「調整会議で議論を進めよ」と依頼することは酷な場合もあります。
このため国は、「再編・統合論議を国が重点的に支援する地域」を定める仕組みも準備する考えを示しています(5月31日の経済財政諮問会議で根本匠厚生労働大臣が発表)。さらに、6月7日の研修会では、▼重点的に支援する地域は、国と都道府県とで協議する▼重点的に支援する地域の決定は、診療実績データの提示・公表と前後して行う(2019年夏頃の予定)▼国が「直接」支援を行う―考えが厚労省医政局地域医療計画課から明らかにされました。
対象地域がどの程度になるのかは明らかにされていませんが、国が「直接」に支援を行うためにその数は限られ、多くとも「十数程度」になるのではないか、と考えられます。今後、国と都道府県とで対象地域を検討します。
なお、5月29日の「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」取りまとめでは、民間病院についても「大規模化・協働化」を提言しており、これは「民間病院についても再編・統合を進める」内容と言えます(関連記事はこちら)。
今夏(2019年夏)以降、公立・公的等にとどまらず、民間をも含めた「病院の大再編」が進む可能性があります。今後の様々な動きに注目する必要があります。
地域医療構想・医師働き方改革・医師偏在対策の整合性が重要
なお、こうした医療提供体制改革は、「医師の働き方改革」「医師の偏在対策」とも整合性をとって進める必要があります。厚労省医政局地域医療計画課の鈴木健彦課長もその点を強調するとともに、「今後、医療環境がめまぐるしく変化していく。各施策(地域医療構想・医師働き方改革・医師偏在対策)の狙いを自治体・関係団体(医師会・病院団体等)にも十分に理解してもらい、医療行政の推進に協力してほしい」と強く要請しました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
このため研修会では「医師働き方改革」について、▼勤務医の時間外労働上限を、2024年4月から「原則960時間以下」「地域医療確保に欠かせない救急科などは暫定的・特例的に1860時間以下」「研修医や高度技能獲得を目指す医師は暫定的に1860時間以下」とする▼今後、5年の間に「労務管理の徹底」「労働時間の短縮」を強力に進める―ことなどが詳細に解説されました。
また医療提供側がどれだけ働き方改革を進めても、患者が「夜間のほうが待ち時間がない」などと考えて夜間救急外来を一般の外来のように受診したのでは、医師の労働時間は短縮しません。このため厚労省は、有識者も交えて「上手な医療のかかり方」の考えをまとめ、これを普及・啓発していく考えを強調しています。この点について、11月を「上手な医療のかかり方月間」とし、都道府県にも振興に向けた協力を要請しています。
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