勤務員の健康確保に向け、勤務間インターバルや代償休息、産業医等による面接指導など実施―医師働き方改革検討会(2)
2019.2.7.(木)
医師は一般労働者に比べて長時間労働が生じやすいため、「健康確保」措置が極めて重要になる。このため、28時間以内の連続勤務時間制限や9時間以上の勤務間インターバルの設置が求められるが、医療現場の実態を踏まえれば、これらをクリアできない場面もでてくる。そうした際、事後に「代償休息」を付与することなどを医療機関に義務付けてはどうか―。
2月6日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)では、こういった議論も行われました。構成員から出された意見・提案などを踏まえ、詳細な制度設計を行うことになります。
目次
医療現場では勤務間インターバルの厳格実施が困難なケースも、代償休息制度が必要
お伝えしているように、検討会では、「地域医療の確保」と「医師の健康確保」との両立を可能とする「医師の働き方改革案」策定に向けて議論を進めいます(2019年3月までに意見を取りまとめる)。これまでに、2024年4月から適用される「勤務医の時間外労働上限規制」について、厚生労働省は▼原則として年960時間・月100時間未満(いわゆるA水準)▼救急医療機関など地域医療確保のために必要な特例水準として年1900-2000時間程度以内(いわゆるB水準)―としてはどうか、との提案を行っています(関連記事はこちらとこちら)。
医療には、▼不確実性(患者の急変等は完全に予見できない)▼公共性▼高度の専門性▼技術革新と水準向上—という特殊性があることから、当面、一般労働者よりも長時間上限を設定するものですが、医師の健康確保を確保するために、各医療機関に次のような措置(追加的健康確保措置)をとることを義務付けてはどうか、とも厚労省は提案しています。
【追加的健康確保措置1】
▼連続勤務時間を28時間までに制限する▼9時間以上の勤務間インターバルを設ける―ことを、A水準の医療機関では努力義務、B水準の医療機関では義務とする
【追加的健康確保措置2】
インフルエンザ流行などで「月100時間」を超える時間外労働となる勤務医に対しては、医師が「面談」を行い、その結果を踏まえて「勤務制限」(ドクターストップ)を行うことを全医療機関に義務付ける
2月6日の検討会では、この【追加的健康確保措置】について厚労省からより詳しい提案が行われ、これに基づく意見交換が行われました。
まず【追加的健康確保措置1】の連続勤務時間制限などは、「医師の健康を確保するためには、連続した6時間以上の睡眠が極めて重要である」との研究結果を踏まえたものと言えます。しかし、医療現場において、こうした仕組みを極めて厳格に運用することが難しい場面も出てきます。例えば、医師が手術中に「連続勤務時間が28時間となった」からといって、メスを置いてしまう、といった有り得ないケースを考えれば、厳格運用の難しさを理解できるでしょう。
このため厚労省は、やむを得ず連続勤務時間制限などをオーバーしてしまう場合には、「代償休息」を付与することを提案しています。具体的な制度設計はこれからですが、オーバー事例等が発生する都度に時間単位での休息を付与する(時間単位の休息や、インターバルの延長など)ことも、まとめて「1日分の休暇」とすることも可能ですが、オーバー事例発生の「翌月」に付与することが必要となる見込みです。
この提案に対し、労働組合を代表する立場で参画している村上陽子構成員(日本労働組合総連合会総合労働局長)は「連続勤務制限などを骨抜きにしてしまう」として、代償休息の仕組み導入に反対していますが、上述のような医療の特殊性に鑑みれば、現実的な健康確保措置の導入を考えるべきでしょう。勤務医代表として参画する猪俣武範構成員(順天堂大学附属病院医師)も「合理的な仕組みだ」と厚労省案を高く評価しています。
月100時間超の時間外労働となる勤務医を対象に、産業医等が面接・指導
【追加的健康確保措置2】は産業医等が面接指導を行うもので、▼B水準の医療機関では、例えば月80時間の時間外労働となっている医師を対象に、「事前」に月100時間超となることを想定して面接スケジュール等を組む▼A水準の医療機関では、例えば月80時間の時間外労働となっている医師の疲労状況(睡眠負債、うつ、ストレスの状況)を検査し、基準値を超える(疲労の程度が重い)医師では事前に、そうでない医師では事後(月100時間超となった後)に面接を行う―こととしてはどうか、と厚労省は提案しています。
また、すべての医療機関で産業医を確保することが難しい状況に鑑み、当該医療機関の医師が一定の研修を受けた場合には、面接担当者になることを認めることになりそうです。ただし、院長などの「管理者」が面接を行うことは認められません(中立性を確保するため)。
この点について三島千明構成員(青葉アーバンクリニック総合診療医)は「医師にはヒエラルキーがあり、若い勤務医が上司に十分にものを言えないこともある」とし、中立性の担保を十分に行うことが重要と強調。また黒澤一構成員(東北大学環境・安全推進センター教授)は、「医師には『自分が休めば、誰が患者を診るのか』という思いがあり、実際の面接でもそう述べる」とし、「休んでも代わりの医師が確保されている」体制を組み、それを的確に伝えることが必要であると訴えています。
追加的健康確保措置はB水準医療機関の義務、未実施は「特定の取り消し」も
こうした健康確保措置は、医療機関の「義務」となります(追加的健康確保措置2は全医療機関での義務、追加的健康確保措置1はA水準では努力義務、B水準では義務)。この義務について厚労省は「医療法などの医事法制で規定してはどうか」と提案しています(医療現場は医事法制に馴染みが深く、関心も高いため、実効性が期待できる)。しかし、村上構成員らは「労働安全衛生法などの労働法制で規定するべきか」と再三指摘しています。この点、例えば「医事法制で規定されたとして、労働行政担当部局が追加的健康確保措置についてノータッチとなる」わけではなく、いずれの法制で規定されたとしても大きな違いはないようです。
別稿で述べたように、B水準医療機関として特定されていても、追加的健康確保措置が実施されていない場合には、「特定の取り消し」となります。したがって、都道府県では「追加的健康確保措置が確実に実施されているか」を確認する(例えば年1回の医療監視・指導の一環として確認するなど)ことが、各医療機関では確認のために「追加的健康確保措置の実施状況・内容を記録し、保存する」ことが求められます(関連記事はこちら)。
さらに、厚労省では、こうした記録確認等を行うことで、「産業医でない医師が面接を行う場合でも、一定の中立性が担保されるのではないか」と考えています。
【関連記事】
全医療機関で36協定・労働時間短縮を、例外的に救急病院等で別途の上限設定可能―医師働き方改革検討会(1)
勤務医の時間外労働上限「2000時間」案、基礎データを精査し「より短時間の再提案」可能性も―医師働き方改革検討会
地域医療構想・医師偏在対策・医師働き方改革は相互に「連環」している―厚労省・吉田医政局長
勤務医の年間時間外労働上限、一般病院では960時間、救急病院等では2000時間としてはどうか―医師働き方改革検討会
医師働き方改革論議が骨子案に向けて白熱、近く時間外労働上限の具体案も提示―医師働き方改革検討会
勤務医の働き方、連続28時間以内、インターバル9時間以上は現実的か―医師働き方改革検討会
勤務医の時間外労働の上限、健康確保策を講じた上で「一般則の特例」を設けてはどうか―医師働き方改革検討会
勤務医の時間外行為、「研鑽か、労働か」切り分け、外形的に判断できるようにしてはどうか―医師働き方改革検討会
医師の健康確保、「労働時間」よりも「6時間以上の睡眠時間」が重要―医師働き方改革検討会
「医師の自己研鑽が労働に該当するか」の基準案をどう作成し、運用するかが重要課題―医師働き方改革検討会(2)
医師は応召義務を厳しく捉え過ぎている、場面に応じた応召義務の在り方を整理―医師働き方改革検討会(1)
「時間外労働の上限」の超過は、応召義務を免れる「正当な理由」になるのか―医師働き方改革検討会(2)
勤務医の宿日直・自己研鑽の在り方、タスクシフトなども併せて検討を―医師働き方改革検討会(1)
民間生保の診断書様式、統一化・簡素化に向けて厚労省と金融庁が協議―医師働き方改革検討会(2)
医師の労働時間上限、過労死ライン等参考に「一般労働者と異なる特別条項」等設けよ―医師働き方改革検討会(1)
医師の働き方改革、「将来の医師の資質」なども勘案した議論を―社保審・医療部会(1)
勤務医の時間外労働上限、病院経営や地域医療確保とのバランスも考慮―医師働き方改革検討会 第7回(2)
服薬指導や診断書の代行入力、医師でなく他職種が行うべき―医師働き方改革検討会 第7回(1)
業務移管など「勤務医の労働時間短縮策」、実施に向けた検討に着手せよ―厚労省
【2018年度診療報酬改定答申・速報4】医療従事者の負担軽減に向け、医師事務作業補助体制加算を50点引き上げ
医師事務作業補助体制加算、より実効ある「負担軽減」策が要件に―中医協総会 第387回(2)
非常勤医師を組み合わせて「常勤」とみなす仕組みを拡大へ—中医協総会(2)
医師の労働時間規制、働き方を変える方向で議論深める―医師働き方改革検討会(2)
勤務医の負担軽減目指し、業務移管など緊急に進めよ―医師働き方改革検討会(1)
タスク・シフティングは段階的に進める方向で議論―医師働き方改革検討会
医師の勤務実態を精緻に調べ、業務効率化方策を検討―医師働き方改革検討会
罰則付き時間外労働規制、応召義務踏まえた「医師の特例」論議スタート—医師働き方改革検討会
医師への時間外労働規制適用に向けて検討開始、診療報酬での対応も視野に—厚労省
医師も「罰則付き時間外労働の上限規制」の対象とするが、医療の特殊性も検討―働き方改革
医療・介護従事者の意思なども反映した供給体制の整備を—働き方ビジョン検討会
医師偏在是正の本格論議開始、自由開業制への制限を求める声も―医師需給分科会
医師の地域偏在解消に向けた抜本対策、法律改正も視野に年内に取りまとめ—医師需給分科会(2)
地域枠医師は地元出身者に限定し、県内での臨床研修を原則とする—医師需給分科会(1)
医師偏在対策を検討し、早期実行可能なものは夏までに固め医療計画に盛り込む—医療従事者の需給検討会
医師の働き方改革、細部論議の前に「根本的な議論」を改めて要請―四病協
医師の働き方改革に向け、議論の方向を再確認してもらうための提言行う—四病協
地方勤務の意思ある医師、20代では2-4年を希望するが、30代以降は10年以上の希望が増える—厚労省
医師の働き方改革、地域医療提供体制が崩壊しないよう十分な配慮を―四病協
「医療の危機的状況」を明らかにし、患者・家族の「不安」を解消して、適切な医療機関受診を促せ―厚労省・上手な医療のかかり方広める懇談会
医療現場の窮状、国民にどう周知し、理解してもらうかが重要な鍵―厚労省・上手な医療のかかり方広める懇談会
「ここに行けば正しい医療情報が得られる」サイト構築等の検討を―厚労省・上手な医療のかかり方広める懇談会
医療は危機的状況、良質な医療確保のため「上手に医療にかかる」ことが必要不可欠―厚労省・上手な医療のかかり方広める懇談会
「webサイト構築で情報伝達」は幻想と認識し、ターゲットにあった伝達経路を考えるべき―厚労省・上手な医療のかかり方広める懇談会
医療現場の窮状、国民にどう周知し、理解してもらうかが重要な鍵―厚労省・上手な医療のかかり方広める懇談会
「ここに行けば正しい医療情報が得られる」サイト構築等の検討を―厚労省・上手な医療のかかり方広める懇談会
看護師特定行為研修、▼在宅・慢性期▼外科術後病棟管理▼術中麻酔―の3領域でパッケージ化―看護師特定行為・研修部会
看護師の特定行為研修、「在宅」や「周術期管理」等のパッケージ化を進め、より分かりやすく―看護師特定行為・研修部会
感染管理など、特定看護師配置を診療報酬算定の要件にできないか検討を—神野・全日病副会長
看護師に特定行為研修を実施する機関、34都道府県・69機関に―厚労省
看護師の行う特定行為「気管挿管」「抜管」を除く38行為に―15年10月から研修開始、医道審部会
特定行為研修、厚労省が詳細を通知―10月施行に向け
特定行為研修を包含した新認定看護師を2020年度から養成、「特定認定看護師」を名乗ることも可能―日看協
「将来においても医師少数の都道府県」、臨時定員も活用した地域枠等の設置要請が可能―医師需給分科会(3)
医師数順位が下位3分の1の地域を「医師少数区域」とし、集中的に医師派遣等進める―医師需給分科会(2)
「医師少数区域等での勤務」認定制度、若手医師は連続6か月以上、ベテランは断続勤務も可―医師需給分科会(1)
外来医師が多い地域で新規開業するクリニック、「在宅医療」「初期救急」提供など求める―医師需給分科会
将来、地域医療支援病院の院長となるには「医師少数地域等での6-12か月の勤務」経験が必要に―医師需給分科会
入試要項に明記してあれば、地域枠における地元の「僻地出身者優遇」などは望ましい―医師需給分科会(2)
医師多数の3次・2次医療圏では、「他地域からの医師確保」計画を立ててはならない―医師需給分科会(1)
「必要な医師数確保」の目標値達成に向け、地域ごとに3年サイクルでPDCAを回す―医師需給分科会(2)
2036年に医師偏在が是正されるよう、地域枠・地元枠など設定し医師確保を進める―医師需給分科会
新たな指標用いて「真に医師が少ない」地域を把握し、医師派遣等を推進―医師需給分科会
CT・MRIなどの高額機器、地域の配置状況を可視化し、共同利用を推進―地域医療構想ワーキング(2)
主要手術の公民比率など見て、構想区域ごとに公立・公的等病院の機能を検証―地域医療構想ワーキング(1)
公立・公的病院の機能分化、調整会議での合意内容の適切性・妥当性を検証―地域医療構想ワーキング
地域医療構想調整会議、多数決等での機能決定は不適切―地域医療構想ワーキング
大阪府、急性期度の低い病棟を「地域急性期」(便宜的に回復期)とし、地域医療構想調整会議の議論を活性化—厚労省・医療政策研修会
地域医療構想調整会議、本音で語り合うことは難しい、まずはアドバイザーに期待―地域医療構想ワーキング(2)
公立・公的病院と民間病院が競合する地域、公立等でなければ担えない機能を明確に―地域医療構想ワーキング(1)
全身管理や救急医療など実施しない病棟、2018年度以降「急性期等」との報告不可―地域医療構想ワーキング(2)
都道府県ごとに「急性期や回復期の目安」定め、調整会議の議論活性化を―地域医療構想ワーキング(1)
都道府県担当者は「県立病院改革」から逃げてはいけない―厚労省・医療政策研修会
学識者を「地域医療構想アドバイザー」に据え、地域医療構想論議を活発化―地域医療構想ワーキング(2)
再編・統合も視野に入れた「公立・公的病院の機能分化」論議が進む―地域医療構想ワーキング(1)
2018年度の病床機能報告に向け、「定量基準」を導入すべきか―地域医療構想ワーキング
2025年に向けた全病院の対応方針、2018年度末までに協議開始―地域医療構想ワーキング
公的病院などの役割、地域医療構想調整会議で「明確化」せよ—地域医療構想ワーキング
急性期病棟、「断らない」重症急性期と「面倒見のよい」軽症急性期に細分―奈良県
「入院からの経過日数」を病棟機能判断の際の目安にできないか―地域医療構想ワーキング(1)
急性期の外科病棟だが、1か月に手術ゼロ件の病棟が全体の7%—地域医療構想ワーキング(2)
公的病院や地域医療支援病院、改革プラン作成し、今後の機能など明確に—地域医療構想ワーキング(1)