医師の働き方改革、地域医療提供体制が崩壊しないよう十分な配慮を―四病協
2018.10.15.(月)
地域医療を守りながら、医師の働き方改革を進める必要がある。宿日直許可基準については医師の働き方の実態を踏まえた見直しを行うとともに、厚労省医政局でガイドラインを定めて、医療行政当局が運用・監督することが求められる。より多職種にタスク・シフティングできるような仕組みを検討する。時間外労働の上限については、地域医療を確保するために「特例」「例外」を検討する必要がある―。
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会で構成される四病院団体協議会(四病協)は10月10日、根本匠厚生労働大臣に宛てて、こういった内容の「医師の働き方改革」に向けた要望を行いました(日病のサイトはこちら)。
「医療の質低下」「地域医療の崩壊」が生じないような働き方改革が求められる
安倍晋三内閣の進める「働き方改革」の目玉の1つに「罰則付き時間外労働の上限規制導入」があります。時間外労働の限度を「1か月当たり45時間、かつ1年当たり360時間」等と定め、これらに違反した場合には事業主に罰則が科されることになります(労使合意による上限超過も可能だが、そこにも厳格な制限を課す)。
勤務医も、この時間外労働規制の対象に含めることとされましたが、医師の応召義務など、医療には特殊性があるため、「医療界の参加の下で検討の場(検討会)を設け、質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し、規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る」こととされました。
検討会では、「単なる労働時間」の議論では、地域医療の確保が難しくなり、また将来の医療水準が低下してしまうことなどを危惧し、さまざまな角度から「医師の働き方改革」を検討。今年度末(2019年3月)の意見とりまとめに向けて、(A)働き方改革の議論を契機とした、今後目指していく医療提供の姿(▼国民の医療のかかり方▼タスク・シフティング等の効率化▼医療従事者の勤務環境改善—など)(B)働き方改革の検討において考慮すべき、医師の特殊性を含む医療の特性(応召義務など)(C)医師の働き方に関する制度上の論点(▼時間外労働の上限時間数の設定▼宿日直や自己研鑽の取扱い―など)—の3つのテーマを併行して議論していく方針を決め、これまでに「宿日直許可基準を現代の医療に合うように見直す」「自己研鑽と労働の区分けを明確にしていく」などの方向が固められています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
さらに、検討会には「医療界の統一見解」となる「医師の働き方改革に関する意見書」も提示されました。また、日本医師会や四病協の幹部のみならず、若手医師も交えて、▼医師の労働時間上限に関する特別条項を設け、過労死ライン等を参考に労働時間上限を設定する▼「特別条項」を超えた労働をしなければならない時期等もあり、「特別条項の特例」を設け、第三者機関で特例の対象としてよいかの承認を得る―といった仕組みを検討する必要性を訴える内容となっています(関連記事はこちら)。
そうした中で四病協では、根本厚労相に宛てて(1)医師の応召義務(2)タスク・シフティング(3)宿日直許可基準(4)自己研鑽(5)時間外労働時間の医師特例―の5点について要望を行いました。今後、佳境を迎える検討会論議に大きな影響を与えそうです。
まず(1)の応召義務については、▼地域の医療提供体制▼医療機関の義務▼医師個人の義務―の関係、「労働時間規制と応召義務」の関係を明確に整理するよう求めています。この点、厚生労働省研究班では「応召義務は、倫理的規定に過ぎず、医師は厳しく捉え過ぎている」(これが長時間労働を招く一因)とし、今後、▼救急医療▼勤務時間外の対応▼病状等に応じた適切な医療機関への転院▼患者の迷惑行為―など、場面に応じた「応召義務の在り方」を体系的に示していく考えを示しています(関連記事はこちら)。
ただし四病協では、「常に労働時間規制が優先され、結果として患者の生命が脅かされることがあってはならない」と強調。国民の医療へのニーズや医師の社会的使命に鑑みた整理が必要と訴えています。
また(2)のタスク・シフティングについては、現在でも「特定行為研修制度」(定められた特定行為研修を修了した看護師は、医師の包括的指示の下に一定の医行為(特定行為)を実施できる)があり、医師の業務負担軽減に一役買うと期待されています。しかし現在の特定行為研修制度では、「個別行為(行為・分野ごとに特定行為研修が定められている)ごとにしか業務を担えない」ため、十分にタスク・シフティングを進められないと四病協は指摘。今後、例えば「術後の病棟管理業務」など、一連の業務を担えるよう、財政支援も含めた制度の見直しを行うよう求めています。
この点、特定行為研修制度の見直しが、医道審議会・保健師助産師看護師分科会の「看護師特定行為・研修部会」で議論されており、厚労省は「在宅」「介護」「周術期管理」という一連の行為を対象にした研修実施を可能とする仕組みを提案しています。四病協の要望とどこまで合致するのか、今後の部会論議にも注目が集まります(関連記事はこちら)。
さらに四病協では、▼薬剤師▼看護師▼臨床工学技士▼救急救命士―などの有資格者に対し、「一定の教育」の下で、役割分担にとらわれない業務移管が可能な仕組みも検討するよう求めています。特定行為研修制度を他職種にも広く拡大するイメージに近いかもしれません。
さらに(3)の宿日直許可基準については、検討会で議論されているように「現在の医師の働き方に即したもの」へ見直すとともに、▼厚労省医政局で「ある行為が宿日直許可基準に該当するのか」のガイドラインを作成し、医療行政当局が監督する(医療の専門家でない労働基準監督署では判断内容が区々となってしまうため)▼宿日直許可を受けられない勤務実態にある病院では、労務管理・勤務管理適正化に向けた財政支援を行う(宿日直許可を得られない場合、夜間の医師業務には時間外手当の支払いが必要となり、また時間外上限に達してしまうため、より多くの医師を雇用する必要がある)—よう求めています(関連記事はこちら)。
一方、(4)の自己研鑽については、「医師は、患者の治療に自ら参加することでしか十分な研鑽を積めない」点を重視し、「研鑽を抑制しないような制度」を検討するよう強く求めています。検討会では、「労働に近い自己研鑽」「労働に該当しない純粋な自己研鑽」などの区分けをすることが議論されていますが、例えば「自己研鑽の多くが労働に近い」とされれば、より早く時間外上限に達してしまうため、自己研鑽を十分に行えなくなってしまう可能性があります。また医師が自主的に自己研鑽を行おうとしても、病院側が労基法違反等を恐れ「早く帰宅しなさい。病院に残っていてはいけない」との指導を行えば、医師のモチベーションは下がりかねず、結果として「医療の質低下」につながる可能性があります。これは患者・国民にとっても大きな不利益となるため、現場の実態にマッチした仕組みが求められます(関連記事はこちら)。
なお、(5)の「上限の特例」に関しては、「一律に医師の労働時間を制限すれば、医療提供体制の崩壊につながる」ことを四病協は危惧。1人1人の医師の労働時間を制限した上で、今の医療提供体制を確保しようとすれば、「より多くの医師」を確保しなければなりません。しかし、現在でも「医師不足」が叫ばれている地域では、これ以上の医師確保は困難であり、また、医師が不足していない病院であっても「人件費の高騰」に直結してしまいます。一方、医師を増やさずに、労働時間を制限すれば、それは「医療提供の縮小」(救急医療の制限など)を意味します。四病協では、こうした状況を総合的に考え、「時間外労働の上限の『例外』『特例』に十分に配慮する」よう強く求めています。
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