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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

勤務医の宿日直・自己研鑽の在り方、タスクシフトなども併せて検討を―医師働き方改革検討会(1)

2018.9.4.(火)

 医師の働き方改革を巡る議論が、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)で熱を帯びてきました。今年度(2018年度)末の最終取りまとめに向けて、岩村正彦座長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、(1)タスクシフトや患者の受診の仕方など「今後目指していくべき医療提供の姿」(2)応召義務など「医療の特殊性」(3)宿日直の取扱いや時間外労働の上限など「制度」—という3分野の議論を併行的・総合的に進めていく方針を示しています。

9月3日の検討会では、(1)のタスクシフトや(2)の応召義務に関し、有識者や学会からヒアリングを行うとともに、(3)の宿日直や自己研鑽について突っ込んだ議論を行っています。今回は、(3)の宿日直・自己研鑽に焦点を合わせてみましょう。

9月3日に開催された、「第9回 医師の働き方改革に関する検討会」

9月3日に開催された、「第9回 医師の働き方改革に関する検討会」

 

勤務の時間外労働上限、タスクシフトや患者の受診行動などを合わせた検討が必要

安倍晋三内閣の進める「働き方改革」の目玉の1つに「罰則付き時間外労働の上限規制導入」があり、時間外労働の限度を「1か月当たり45時間、かつ1年当たり360時間」と定め、これに違反した場合には罰則が科されることになります(労使合意による上限超過も可能だが、そこにも厳格な制限を課す)。勤務医も、この時間外労働規制の対象となりますが、医師には応召義務が課されるなど医療には特殊性があるため、「医療界の参加の下で検討の場(検討会)を設け、質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し、規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る」こととされました。

検討会では、さまざまな角度から「医師の働き方改革」を検討していますが、例えば「地域医療を守りながら、医師の時間外労働に上限を設ける」ためには、「医師でなくても可能な業務を他職種に移管していく」(タスクシフト)ことや、「患者にも『適正受診』についてしっかりと考えてもらう」ことの重要性が再確認されました。そのため、岩村座長は次の3分野を併行的かつ統合的に議論していく方針を示したのです。9月3日の検討会でも、「宿日直」に議論をする中で、「タスクシフト」や「応召義務」に議論が及ぶ場面が度々ありました。
(1)働き方改革の議論を契機とした、今後目指していく医療提供の姿(▼国民の医療のかかり方▼タスク・シフティング等の効率化▼医療従事者の勤務環境改善—など)
(2)働き方改革の検討において考慮すべき、医師の特殊性を含む医療の特性(応召義務など)
(3)医師の働き方に関する制度上の論点(▼時間外労働の上限時間数の設定▼宿日直や自己研鑽の取扱い―など)

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宿日直の許可基準、現代の医療に合うように見直す案を厚労省が提示したが・・・

このうち「宿日直」は、労働基準法において「労働密度がまばらで、労働時間規制を適用しなくとも、必ずしも労働者保護に欠けることのない一定の断続的労働」として、労働基準監督署長の「許可」を受けた場合には労働時間規制の適用から除外される(時間外労働に該当しない)こととされています。逆に、労働密度がまばらでないなどの場合には、宿日直としては許可されず、時間外労働と扱わなければなりません。

この点、医療(医師、看護師等)においては、▼病室の定時巡回▼異常患者の医師への報告▼少数の要注意患者の定時検脈、検温—など、「特殊の措置を必要としない軽度の、または短時間の業務に限る」といった基準(宿日直許可基準)が1949年に設けられています。しかし、医療が高度化した現代社会には、この基準は医療現場の実態に合っておらず、「基準の見直しを行うべき」との強い指摘があります。この基準のままでは医療現場で実効性のある「宿日直」の実施ができないとの悲鳴に似た声も聞かれます。
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一方、四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)の調べでは、今年(2018年)7月30日から8月3日の5日間において、「宿日直の許可を得ながら、長時間の患者対応を実施している」病院が一部にあることが分かりました(一過的に救急患者等が集中し、長時間の患者対応が発生してしまった可能性も否定できないが)。1949年の基準に照らせば、長時間の患者対応は「宿日直」には該当せず、時間外労働と扱うのが本来の姿です。
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こうした点を総合的に踏まえ、厚労省はまず「宿日直許可基準」について、現在の医療現場の実態に合うよう、次のような見直しを行ってはどうかと提案しました。法規の面で、現実的な対応をまず行う考えと言えるでしょう(適正な宿日直の運用は、その後に検討する、とも思われる)。

▽▼病棟当直において、少数の要注意患者の状態の変動への対応について、問診等による診察、看護師などの他職種に対する指示、確認を行うこと▼非輪番日等の外来患者の来院が通常想定されない休日・夜間において、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動について、問診等による診察、看護師等他職種に対する指示、確認を行うこと―などは、「特殊の措置を必要としない軽度の、または短時間の業務」に該当する(これらの業務は宿日直の範囲に含まれ、時間外労働には該当しない)

▽結果として「休日・夜間に入院となる」ような対応が生じる場合もあるが、昼間と同態様の労働に従事することが稀であれば、宿日直許可は取り消さない

 
この提案に対し、馬場武彦構成員(社会医療法人ペガサス理事長)らは「検討会とりまとめとは別に早急な見直しをしてほしい」と歓迎。対して、村上陽子構成員(日本労働組合総連合会総合労働局長)は、否定こそしないまでも「基準の見直しが、勤務医の負担軽減につながるのか見えない」と慎重姿勢を見せました。また、今村聡構成員(日本医師会副会長)も、基準見直しを否定しないものの、「医師でない労働基準監督署長が、医療内容に関する判断を適正に行えるのだろうか」と運用面での課題に言及しています。

さらに、島田陽一構成員(早稲田大学法学学術院教授)らは「医師の宿日直は、救急患者や急変患者への対応という側面がある。労働基準法の宿日直とは分けるべきではないか」と指摘し、宿日直許可基準の見直しにとどまらず、より根本的な議論をすべきと求めています。

引き続き、宿日直許可基準の見直し・根本的な宿日直の在り方を含めた議論が行われます。

時間外労働には割増賃金、「診療体制の確保」や「賃金原資の確保」などをどう考えるか

ところで、宿日直許可基準の見直しの有無に関わらず、基準を厳格に運用すれば、長時間の患者対応などは「時間外労働」に該当し、病院側は宿日直の担当医に割増賃金を支払わなければなりません。この点について厚労省は、次の3つの論点を示しています。
▼十分な医療(診療体制)を確保した上で、現行の給与体系に沿って割増賃金を支払うためには「賃金原資の確保」が必要となる
▼現行の給与体系に沿うが、賃金原資の確保が困難となれば「診療体制の縮小」が必要となる
▼賃金原資の確保が困難な中で、診療体制を確保するためには「給与体制の見直し」(基本給の引き下げ)が必要となる

しかし、これらはいずれも困難な選択です。例えば「賃金原資の確保」は、社会保障費の適正化が求められる中では困難であり、「診療体制の縮小」は地域医療の確保と矛盾します。また「給与の引き下げ」は、医師の生活・モチベーションを損なうことになってしまいます。3者のバランスをどう図っていくのか、今後、慎重に検討していくことが求められます。

「時間外労働」と「自己研鑽」を切り分けられるのか?

働き方改革の根底には、「長時間の時間外労働を是正し、労働者の健康を守る」ことがあります。この点、医師については「時間外労働の中に、『労働に該当する』ものと、『自己研鑽に該当する』ものとか混在している」という特殊性があります。

これを放置したままでは、例えば▼すべてを時間外労働と扱えば、割増賃金が膨大となり医療機関経営がままならなくなる▼すべてを自己研鑽と扱えば、医師のモチベーションが著しく低下する(自己研鑽を阻害し、医療水準の低下につながりかねない)―という大きな弊害が生じてしまいます。そこで、「どういった行為が労働に該当し、どういった行為が自己研鑽に該当するのか」の切り分けを行うことが考えられますが、両者の性質を併せ持つものも少なくありません。厚労省は、切り分けの第1弾として、例えば次のような行為は「使用者の指揮命令下になく、明らかに労働には該当しない」のではないか、との考えを示しました。

▼病院外で行われている学会や勉強会で、使用者の指示がなく業務時間外に任意に参加しているもの
▼使用者の指示がなく、業務時間外に任意に行っている執筆活動
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この切り分け案には、明確な反論こそ出ていないものの、「切り分けは事実上、不可能ではないか」という意見が多くの構成員から出されたほか、次のような具体的な提案もなされています。

▽ドイツのように、個別医師がオプトアウト(いわば、医師側からの申告)で自己研鑽を行い、それに対し一定の手当てを認めることとしてはどうか(遠野千尋構成員:岩手県立久慈病院副院長)

▽使用者の指揮命令下にあるもののみを「時間外労働」と扱い、自己研鑽については「丸めでの評価」としてはどうか(例えば1か月当たり●時間の自己研鑽をするものとし、一定の手当てを支給するなど)(黒澤一構成員:東北大学環境・安全推進センター教授)

 両提案には頷ける部分も大きいのですが、「指揮命令下にあるかどうか、を客観的に判断しなければならないが、困難も伴う」という問題もあり、運用面での課題は残りそうです。例えば「○○業務を行いなさい」という明示の指示があれば、時間外労働であることは明確です。しかし、こうした指示こそないものの、いわゆる「黙示の指示」による業務については、「どのように時間外労働と認定するのか」という問題がどうしても残ってしまうのです。

 このテーマについても、引き続き「さまざまな角度からの検討」が行われます。
 
 
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