地域枠医師は地元出身者に限定し、県内での臨床研修を原則とする—医師需給分科会(1)
2017.6.15.(木)
医師偏在の是正に向けた「早期に実行可能な対策」として、地域医療支援センターの作成するキャリア形成プログラムにおいて▼大学との十分な連携を図る▼地域枠入学生は地元出身者に限定し、当該都道府県での臨床研修を原則とする▼勤務地や診療科を限定する—ことなどを促す。また来年度(2018年度)予算において▼代診医師の派遣▼遠隔診療—に関する補助の拡大を目指す―。
15日に開催された医師需給分科会(医療従事者の需給に関する検討会の下部組織)で、こういった方向が了承されました。厚生労働省は、近く通知などで都道府県に伝達する考えです。
また分科会では構成員から「より大きな医師偏在対策」を求める声が相次いで出され、厚労省は、今秋から「抜本的な医師偏在対策」を議論することを説明しました。この点については別途、お伝えします。
目次
医師偏在是正に向け、「早期に実行可能な対策」を整理
地域間・診療科間の医師偏在が大きな問題となっており、例えば新たな専門医制度についても「医師偏在を是正しないよう、地域医療への十分な配慮を行う」ことになっています。しかし、偏在の解消に向けた規制的手段の検討などには時間がかかるため(関連記事はこちら)、そうした議論・検討を行いながら、まず「早期に実行可能な対策」を取ることが必要とし、今般、具体的な4つの対策案を提示しました。
(1) キャリア形成プログラムの改善
(2) へき地における医師確保
(3) 若手医師へのアプローチ
(4) 医師の勤務負担軽減
地域枠の医師の「地域定着」を目指し、臨床研修先などの限定を
まず(1)のキャリア形成プログラム改善を見てみましょう。地域枠の医師には、原則として「一定期間、地域の医療機関で勤務する」ことが求められます。これは医師が不足する地域や診療科を解消するために極めて重要かつ効果的な施策ですが、対象医師には「きちんとしたキャリアを形成できるのか」という不安もあります。そこで都道府県の地域医療支援センターが、主に地域枠の医師が▼2年間の初期臨床研修▼その後の専門研修—において、どの医療機関・診療科に従事するのかの選択肢を提示し、キャリアを積みながら、偏在解消に資する医師就業を目指すプログラム(キャリア形成プログラム)を策定するものです。
しかし、各都道府県のプログラムを見ると、▼未策定や大学との連携が不十分な地域がある▼修学資金貸与を地元出身者に限定していないケースが多い▼初期臨床研修を県内に限定していない—といった課題があります。厚労省の調査では「初期臨床研修を行った地域への医師定着率が高い」ことが分かっており、現在のプログラムでは「偏在の解消」効果が減殺されてしまっていると言えそうです。
こうした状況から、厚労省は「地域枠医師が増加していく中で、効果的な偏在対策を行うためにはキャリア形成プログラムの改善が必要」と考え、都道府県に対し、次のような点を促すことを提案しました。
▼全都道府県で、大学(医学部・付属病院)と十分連携して、必ずキャリア形成プログラムを策定する
▼地域枠の入学生は地元出身者に限定し、大学所在都道府県で初期臨床研修を受けることを原則とする
▼勤務地や診療科を限定する
▼修学資金貸与事業における就業義務年限を自治医科大学と同程度の年限(9年程度)とする
こうした見直しによって、キャリア形成プログラムの中で「地域枠の医師は地元出身者に限定され、本都道府県に所在する●●病院、◆◆病院、■■病院のいずれかで初期臨床研修を受ける」ことなどが原則になれば、地域に定着する医師が増加すると期待されます。
この提案に対し明確な反論は出ていませんが、鶴田憲一構成員(全国衛生部長会会長)は「静岡県では240名程度の臨床研修医が必要だが、浜松医科大学出身医師は1年間で120名程度しかおらず、他県からの医師を招くために奨学金などを出している。各県の事情なども考慮する必要がある」と要望。この点、今村聡構成員(日本医師会副会長)は、鶴田構成員の要望を「理解できる」と述べた上で、「国が一定のルールを示さなければ、都道府県も動けないであろう。その際、県の事情を汲んでもらえるようにすればよいのではないか」とコメントしました。厚労省医政局地域医療計画課の担当者も「臨床研修医が不足するなどの状況があれば、柔軟な対応を検討する」旨の考えを述べています。
厚労省は、今後、全国的な医師の分布状況などを詳細に把握するために▼氏名▼医籍登録番号▼主たる従事先▼従たる従事先▼就業形態▼専門医資格—などのデータベースを構築する予定です。厚労省はこのデータベースを、例えば「キャリア形成プログラムごとの県内定着率などを比較し、プログラムの改善し、医師定着率向上を図る」などといった用途にも活用したい考えです。
なお、厚労省の調査では、地域医療支援センターからの医師派遣は「公立病院に偏っている」ことが明らかになっています。そこでキャリア形成プログラムでは「特段の理由なく、特定の開設主体に派遣先が偏らない」よう留意することも求められます。もっとも、公立病院への偏りが、「へき地医療などを担い、医師不足が深刻な病院が公立病院である」からなのか、それとも「単に県立病院の職員を確保するためだけに派遣をしている」からなのか、今後、実態調査が行われる予定です。
地域医療支援センターとへき地医療支援機構、連携・統合を進めよ
(2)の対策は、「地域医療支援センター」と「へき地医療支援機構」との連携・統合を促す内容です。
両組織ともに都道府県が設置しますが、地域によっては十分な連携が取れておらず、別個の方針で医師を派遣するという非効率があると指摘されます。しかし青森県では両組織を統合し、効率的かつ効果的な医師派遣が実現できているといいます。
厚労省は、▼両組織の統合も視野に、一体的な医師確保(へき地を含めたキャリア形成プログラムの策定など)を行う▼統合が直ちには行えない場合でも、キャリア形成プログラム策定や派遣調整に当たって、両組織が十分な連携を図る—よう求めていきます。
この点についても鶴田構成員は「1県1大学であれば統合も可能であろうが、複数の大学医学部がある場合には困難である」と指摘し、柔軟な対応の余地を残すよう要望しています。
へき地以外への代替医師派遣や遠隔診療支援への補助を目指す
また(4)の負担軽減は、▼代替医師の派遣▼遠隔での診療支援―に対する補助の対象拡大を目指すものです。
代替医師の派遣においては「へき地医療拠点病院からへき地診療所へ代替医師を派遣する場合」、遠隔での診療支援においても「へき地医療拠点病院がへき地診療所を支援するための機器導入など」を行う場合に限り、支援(補助金)が行われます。したがって、大学医学部が、へき地でない地域の医療機関に対して遠隔での診療支援を行う場合には、機器導入や運営維持経費は、すべて「自分たちで賄う」ことになります。
厚労省医政局地域医療計画課の担当者は、来年度(2018年度)予算に向けて、この経費の対象拡大(へき地以外での代替医師派遣、同時に複数の医師の派遣、他病院への代替医師派遣依頼、へき地以外での遠隔診療支援など)を目指す考えを示しています。
さらに、医師不足地域の病院勤務医の勤務環境を改善するために、地域医療支援センターと医療勤務環境改善支援センターの連携も促していくことになります(派遣前に医療勤務環境改善支援センターが勤務環境確認し、助言を行うなど)(関連記事はこちら)。
なお(3)は、若手医師の地方勤務を促すためにSNSなどを活用した広報を行うことなどを推進していくものです。
構成員からは、「こうした対策では抜本的に医師偏在を解消できないが、当面の方策としては了承する」との意見が出されています。厚労省は、2018年度からの第7次医療計画を作成するための指針を出していますが、そこでは医師確保に関する部分、いわば空欄になっています(関連記事はこちらとこちら)。今般の了承を踏まえ、厚労省は「早期に実行可能な医師確保策」として、上記(1)から(4)の内容を都道府県に通知などによって伝達する考えです。もっとも(3)の広報などは、来年度(2018年度)を待たずに実行できることから、都道府県による積極的な取り組みに期待が集まります。
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