医療連携の推進、介護施策との整合性確保などを柱とする第7次医療計画の方向性固まる―医療計画見直し検討会
2016.12.8.(木)
2018年度からの第7次医療計画策定に向けて、「医療計画の見直し等に関する検討会」が意見を取りまとめました。
これをベースに都道府県が医療計画を作成するため骨格となる基本方針案について、年明けからパブリックコメントを募集し、所要の手続きを経て塩崎恭久厚生労働大臣が告示を行うことになります。さらに詳細な内容については、厚労省医政局長と同局地域医療計画課長が3月にも通知を発出する予定です。
なお「医師偏在対策」「看護配置4対1などを満たさない医療療養病床の新介護保険施設などへの転換」については、結論が出ていない(新介護保険施設の方向は定まったが、法律への記載などは今後)ため、年明けに改めて議論することになります。
目次
ロコモやフレイル、肺炎などへの対策も推進
2018年度から第7次医療計画がスタートするため、検討会ではその拠り所となる基本方針(厚労省告示)や解釈通知の策定に向けた議論を行ってきました。検討会の意見について、改めて振り返ってみましょう。
第7次医療計画におけるポイントを1つに絞るとすれば、「介護保険事業(支援)計画との連携・整合性の確保」が挙げられるでしょう。このため、医療計画と介護保険事業(支援)計画の上位指針となる総合確保方針では「都道府県と市町村の関係者で『協議の場』を設置する」ことなどが指示されます。検討会でも、▼都道府県・市町村関係者による協議の場の設置▼在宅医療に関する介護保険事業計画と整合性のある目標設定―を行うことを明確に指示しています。
また医療計画は、計画期間(2018年度から6年間)における医療提供体制の整備に関する事項を定めるものです。いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年に向けて、医療(とくに慢性期医療)・介護ニーズが飛躍的に高まると予想され、第7次医療計画でも「病院・病床の機能分化と連携の推進」と「地域包括ケアシステムの構築」の2点の推進が重要となります。このため検討会では▼5疾病・5事業、在宅医療に加えて、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)、フレイル(虚弱)、肺炎、大腿骨頸部骨折について疾病予防・介護予防を中心に総合的な対策を講じる▼医療機関と関係機関(薬局や訪問看護ステーション)との連携をさらに強化する―よう求めています(関連記事はこちら)。
さらに、質が高く、効率的な医療提供体制を推進する観点から、医療機器の安全管理に関連して、高度な医療機器の▽配置状況▽稼働状況▽保守点検―についての評価も行われます。診療所におけるCT・MRIなどについては、保守点検状況などが必ずしも十分に評価されていない現状があり、「都道府県への定期的な報告」が義務付けられることになります(関連記事はこちら)。
基準病床数の算定式を見直し
医療計画では、地域で適切かつ効率的な医療提供を行うために、事実上の病床整備上限となる「基準病床数」を定めます。検討会では、第7次計画における基準病床数の計算式などについて、次のような見直しを行うことを決めました(関連記事はこちらとこちら)。
【2次医療圏の設定】
▼人口規模20万人未満、圏内の流入入院患者割合20%未満・流出入院患者割合20%以上となっている2次医療圏は「入院医療を提供する区域」として成りたっていないと考えられ、見直しを検討する
▼2次医療圏と地域医療構想区域とを一致させることが適当であり、必要な見直しを行う
【病床利用率】(一般病床および療養病床)
▼一般病床は76%、療養病床は90%を下限値とし(2010-15年の平均)、「都道府県における直近の値」が下限値よりも高い場合は、その数値を上限値として都道府県が設定する
【平均在院日数】(一般病床)
▼平均在院日数の経年変化や、ブロック毎の平均在院日数の乖離などを踏まえ、地方ブロックごとに「2009から15年にかけての平均在院日数の変化率」(直近6年の短縮率)をベースとする
▼地域差是正のため、▽平均在院日数が全国平均を下回るブロックでは、当該ブロックの直近6年の短縮率を使う▽平均在院日数が全国平均を上回るブロックでは、当該ブロックの直近6年の短縮率と『全国値+α』とを比較し、より高い短縮率を使う(ただし計算式に関する告示では、地方ブロックごとの平均在院日数のみが示される)
【介護施設対応可能数】(療養病床)
▼在宅医療等対応可能数へ見直す(具体的な内容は、都道府県の状況などに応じて見込めるよう、今後その考え方を国が整理する)
【流出入】(一般病床および療養病床)
▼流出先または流入元の都道府県と協議を行い定めた数とする
また、東京都や大阪府のように「地域医療構想の必要病床数」>「既存病床数」>「基準病床数」となっている地域においては、▼高齢者人口の増加などに伴う医療需要の増加を勘案して毎年「基準病床数」を検討▼基準病床数算定時の特例措置(急激な人口増などが見込まれる場合には基準病床数を増やせる旨の措置)―という2つの対応で、必要な増床措置を図ることが可能です。ただし、こうした地域でも将来的な人口減(=病床の必要量の減少)が予想されるため、慎重な検討が必要とされています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
なお、ICUなどの病床数については、今後、定義などを見直した上で「基準病床数に組み込む」ことになりますが、既存のICUなどの扱いは現行どおりとなるため、「ICUの分、ベッドを削減して調整する」といったことにはなりません(関連記事はこちら)。
5疾病・5事業と在宅、PDCA回せるように評価指標を見直し
5疾病・5事業および在宅医療については、関連施策との連携をとった見直しが行われます。例えば、5疾病のうち「がん」については、厚労省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」の議論を踏まえ、▼「均てん化」(拠点病院の整備など)をこれまで通り推進する▼高度な放射線治療やゲノム医療、希少がん、小児がんなどの分野では「集約化」を行う▼合併症予防や社会復帰に向けた支援を行う―といった方向性が示されています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
さらに「5疾病・5事業などの進捗状況を評価し、目標や施策の見直しを行う(PDCAサイクルを回す)ことが求められているが、評価指標が都道府県自ら把握することが困難なものとなっているため、PDCAサイクルが十分に回っていない」という課題があるため、評価指標の見直しも行われます。
5疾病のうち「糖尿病」については、「医療機関などの連携体制構築」(地域で医療機関と薬局、保険者などが連携し、健診者・治療中断者への受診勧奨を行う体制構築など)と「多職種による取り組み」(日常生活に近い場でも栄養・運動指導を行えるよう、医療従事者が地域での健康づくり、疾病予防に参加できる機会の創出)を推進するため、▼糖尿病透析予防指導管理料の算定件数▼外来栄養食事指導料の算定件数―を新たな指標として追加することになります。また厚労省は、▼糖尿病の有病者数▼標準的治療の実施割合▼治療中断率▼合併症(糖尿病網膜症、歯周病など)の発症率▼地域連携クリティカルパスの普及状況―などを新たな指標として追加できないかを検討する方針も示しています。この点について、佐藤保構成員(日本歯科医師会副会長)は「歯周病の発症率を都道府県で把握する(たとえばレセプトから抽出する)ことは難しいのではないか」と指摘しており、厚労省医政局地域医療計画課の担当者は「学会などと相談したい」と答弁しています。
また在宅医療については、前述のように「介護保険事業(支援)計画」との整合性のほか、「圏域設定」「課題把握」の徹底、多様な職種・事業者の参加、医師会との連携などが強調されています。この点について、厚労省医政局地域医療計画課の担当者は「在宅医療に適した圏域設定が必要」という点を強調しています。
評価指標としては、▼在宅患者訪問診療料、往診料を算定している医療機関数▼24時間体制をとる訪問看護ステーション数▼歯科訪問診療料を算定している医療機関数▼在宅患者訪問薬剤管理指導料(診療報酬)、居宅療養管理指導費(介護報酬)を算定している薬局・医療機関数▼退院支援加算を算定している医療機関数▼ターミナルケア加算を算定している医療機関数―を新たに盛り込むこととし、さらに「退院後訪問指導料を算定している医療機関数」を盛り込むことが可能か、さらに検討することになります。厚労省医政局地域医療計画課在宅医療推進室の伯野春彦室長は「これまで在宅療養支援診療所数などを指標としてきたが、それだけでは在宅医療の提供実績が把握できない。実績を把握できる指標を導入する」と見直しの考え方を改めて説明しています(関連記事はこちらとこちら)。
検討会の意見やパブコメを踏まえて、年明けに医療計画作成の基本方針を告示へ
7日の検討会では、こうした意見が概ね了承されたことを受け、厚労省から「医療提供体制の確保に関する基本方針」の見直し案も提示されました。基本方針は、都道府県が医療計画を作成する際のベース(骨格)となる「告示」で、詳細な内容は、年明け3月までに別途通知が発出されます。
見直しのポイントとしては、前述の内容のほか、▼都道府県が地域医療構想調整会議の議論を通じて、病床の機能分化・連携、在宅医療を推進していく▼機能分化・連携を推進するため、都道府県が地域の医療機関の役割を明確化・確認する―という点が付記されたことがあげられます。
病床機能分化・連携は、地域で各医療機関が自主的に進めることが重要となり、都道府県にはそのための支援が求められます。具体的には、▼救急医療や災害医療などの中心的な医療機関が担う医療機能▼公的医療機関、国立病院が担う医療機能▼地域医療支援病院、特定機能病院が担う医療機能―をまず明確化し、さらに、こうした医療機関と他の医療機関との連携や、地域のニーズを踏まえ、それぞれの役割を明確化。その上で、各医療機関の役割を調整会議のメンバーが共有することで、自ずと「自院がどういった方向に進むべきか」が見えてきます(関連記事はこちら)。
厚労省は、この点に関連して、放射線治療装置などの「高額な医療機器」について、医療資源の有効活用の観点から、地域での活用方法や新たな導入に向けた方針について、調整会議で協議を行い、共有することも求めています。
厚労省は、基本方針について年明けからパブリックコメントを募集し、それを踏まえて基本方針を告示、追って詳細な内容を規定する解釈通知(医政局長通知、地域医療計画課長通知)などを発出する予定です。
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