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高齢者医療、フレイル対策や窓口負担のあり方などが検討テーマに―医療保険部会

2016.5.30.(月)

 高齢者のフレイル(虚弱)対策をはじめとした保健事業の推進、後期高齢者の医療機関窓口負担や高額療養費などのあり方を、今年末(2016年末)にかけて議論していく―。

 このような方針が、26日の社会保障審議会・医療保険部会で、厚生労働省保険局高齢者医療課の藤原朋子課長から発表されました(関連記事はこちらこちら)。

5月26日に開催された、「第95回 社会保障審議会 医療保険部会」

5月26日に開催された、「第95回 社会保障審議会 医療保険部会」

若人では「メタボ」対策、高齢者では逆に「フレイル」(虚弱)対策が重要

 高齢化の進行で医療費が膨張し、我が国の経済・財政を圧迫していると指摘されます。高齢者の1人当たり医療費は、若人よりも高いことが知られています。例えば2013年度で見ると、40-44歳の1人当たり医療費は入院で4万1000円、入院外で8万6000円、60-64歳では入院13万4000円、入院外20万5000円ですが、80-84歳では入院41万5000円、入院外44万円となっています。40-44歳と80-84歳を比べると、入院ではおよそ10倍、入院外ではおよそ5倍の開きがあります。

1人当たり医療費を見ると、入院・入院外とも増加傾向にあるが、特に入院では0-4歳、75-84歳、入院外では80歳以上で増加幅が大きい

1人当たり医療費を見ると、入院・入院外とも増加傾向にあるが、特に入院では0-4歳、75-84歳、入院外では80歳以上で増加幅が大きい

 こうした事態を重く見て、厚労省や自治体では、被保険者の特性にあわせた予防・健康づくり対策を進めています。例えば若年期や壮年期には、特定健診や特定保健指導といった生活習慣病予防に向けたメタボ対策が重点的に行われています。さらに、厚労省はこの春から糖尿病の重症化予防(重症化して透析に移行する患者を減らす)に力を入れています。

 一方で高齢期になると、メタボとは逆に「フレイル」(虚弱)対策に力を入れていく必要があります(関連記事はこちら)。

 フレイル(虚弱)とは、「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能など)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響も受けて生活機能が障害され、心身の脆弱化が出現した状態」のことですが、一方で、適切な介入・支援によって生活機能の維持向上が可能な状態でもあります。

フレイルの概念、身体機能が低下しているが、適切な介入・支援で「健康」を取り戻すことが可能

フレイルの概念、身体機能が低下しているが、適切な介入・支援で「健康」を取り戻すことが可能

 国立長寿医療研究センター理事長特任補佐の鈴木隆雄氏は、75歳以上の後期高齢者には「フレイル」「慢性疾患の複数保有」「老年症候群(認知機能障害や視力障害、難聴、摂食・嚥下障害など)」「多医療機関受診、多剤処方」のほか、「個人差が大きい」といった特性があります。このため、今後、高齢者に対する保健事業を進めるに当たっては、次のような点がポイントになると指摘します。

▽フレイルに着目した対策への転換(若年期のメタボ対策から徐々に転換する)

▽生活習慣病などの重症化予防や、低栄養、運動機能・認知機能の低下などフレイル進行の予防

▽高齢者の特性に応じた健康状態や生活機能の適切なアセスメントと適切な介入支援

▽広域連合が保有する健診・レセプト情報などを活用しながら、専門職によるアウトリーチを主体とした介入支援(栄養指導など)

▽医療機関と連携した保健事業

 厚労省はこうしたポイントを踏まえて、2016年度予算で「高齢者の低栄養防止・重症化予防」を進めるための経費(3億6000万円)を新規に計上しています。具体的には、地域の医療機関・訪問看護ステーション・地域包括支援センター・専門職(保健師や管理栄養士)が連携して、後期高齢者の元を訪問し、▽低栄養・過体重▽摂食などの口腔機能▽服薬―などの指導を行ったり、後期高齢者からの相談に対応する体制を構築するとともに、これを全国展開することを目指しています。

 神奈川県大和市では、すでに▽低栄養改善事業▽糖尿病性腎症の透析予防事業―を実施しており、こうした好事例の全国展開を図りたいと藤原高齢者医療課長は強調しました。

 また保険者に対する「医療費適正化対策実施へのインセンティブ」でも、後期高齢者医療において「フレイルなど、高齢者の特性を踏まえた保健事業の実施状況」などが指標に盛り込まれています(関連記事はこちら)。

医療費適正化を推進するためのインセンティブについて、後期高齢者医療制度では「フレイル対策」も指標の1つに

医療費適正化を推進するためのインセンティブについて、後期高齢者医療制度では「フレイル対策」も指標の1つに

 厚労省は、近く「高齢者保健事業のあり方」を集中的に議論する検討ワーキンググル―プを設置するとともに、効果的な保健事業の実施に向けたガイドラインを作成する考えです。

 なお、26日の部会で武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、「急性期病棟における入院の後期には、フレイルが一気に進行することがある。特に脳卒中で嚥下障害が生じた患者では、栄養不良からフレイルに陥り、やがて死を迎えるケースもすくなくない。急性期におけるフレイル対策が重要ではないか」と指摘しています(関連記事はこちら)。

「公平性」の視点に立ち、論理的に「高齢者の負担のあり方」を検討

 高齢者医療については、「患者負担」のあり方についても検討していくことになります。政府の経済財政諮問会議からは、社会保障改革に向けて44の検討項目と工程表が示されており、そこでも「高齢者の患者負担のあり方」を検討するよう指示が出されています(関連記事はこちら)。

 例えば75歳以上の後期高齢者の医療機関窓口負担は、原則1割、現役並み所得(年収が約370万円以上)の場合には3割となっています。また高額療養費についても、外来特例を設けるなど、若人よりも負担が緩和されています。

年齢階級別に見た、患者負担(窓口負担)および高額療養費の概要

年齢階級別に見た、患者負担(窓口負担)および高額療養費の概要

 一般に、高齢者は収入の多くを年金に頼る世帯が多く、負担水準を若人より緩和することには一定の合理性がありますが、年齢階級別に「収入に対する負担(保険料と自己負担を加味)の割合」を見ると、若人(現役世代)では9-10%なのに対し、高齢世代では8-9%と若干低くなっており、より「負担の公平性」を考慮すべきとの指摘もあります。

収入に対する「患者負担(窓口負担)+保険料」の割合を見ると、高齢者は若人(現役世代)よりも若干低いことが分かる

収入に対する「患者負担(窓口負担)+保険料」の割合を見ると、高齢者は若人(現役世代)よりも若干低いことが分かる

 こうした状況を踏まえ、医療保険部会では年末に向けて高齢者の負担のあり方を検討していくことになります。

 この点について白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)は、後期高齢者医療制度の財源が▽公費5割▽現役世代からの支援金4割▽高齢者自身の保険料1割―という財源構造について、「現在のままでは現役世代の負担が伸び続ける。高齢者自身の負担や公費の拡大を検討する必要がある」旨を強調。さらに、「高齢者の負担増という議論になると、政治が介入してくるが、論理的に議論していく必要がある」とも指摘しました。

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