医療計画の「基準病床数」と地域医療構想の「病床必要量」、両者の整合性をどう考えるか―厚労省・地域医療構想WG(1)
2016.7.29.(金)
大阪府では、現在の病床数は「基準病床数」を超えているため増床できないが、現在の病床数(既存病床数)は地域医療構想実現の「病床必要量」と比べると1万6000床ほど不足している。このような医療計画の「基準病床数」と地域医療構想の「病床必要量」の関係について、いくつかの都道府県の状況を見ながら、両者の整合性をどのようにとるのかを考えていく―。
このような方針が、29日に開かれた「医療計画等の見直しに関する検討会」の下部組織である「地域医療構想に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)で固まりました(関連記事はこちら)。
ワーキングでは9月中に考え方を整理、親組織である検討会に報告し、次期(第7次)医療計画策定方針に反映されます。
基準病床数と病床必要量、目的も計算方法も異なる
2018年度から第7次医療計画がスタートしますが、計画の中には「基準病床数」を記載する必要があります(医療法第30条の4第2項第14号)。一方、現在、各都道府県で策定が進められている地域医療構想には、高度急性期・急性期・回復期・慢性期といった機能ごとの「病床必要量」を定めることになります(同項第7号イ)。
前者の基準病床数は、我が国で遍く良質な医療を受けられるように「病床の地域偏在」を是正することが主な目的とされ、現在の病床数が「基準病床数」を上回る地域では実質的に増床することは認められません。また、基準病床数は、▽医療計画作成時点の人口をベースにする▽長期入院患者は必ずしもカウントしない▽医療資源投入量の低い患者について特段の考慮はしない―などという考え方に基づいて算定されます。
一方、後者の病床必要量は「将来あるべき医療提供体制」を地域ごとに描くもので、計算に当たっては、▽2025年時点の人口をベースにする▽現に入院している患者(長期入院患者も含む)に基づく▽医療資源投入量の低い患者のうち、一定数は在宅医療などに移行するという前提を置く―ことなどとされています(関連記事はこちらとこちら)。
このように、両者の目的・性質・計算方法は大きく異なっています。これらの関係をどう考えるのか、次期医療計画の策定において重要となるため、厚労省はワーキングを設置して集中的な議論を行うこととしました。
厚労省医政局地域医療計画課の担当者は、ワーキングの検討項目について、(1)基準病床数と病床必要量の考え方・計算式に関する整理(2)基準病床数と病床必要量の関係(3)地域医療構想実現に向けた都道府県知事の権限行使要件(医療機関の自主的な取り組みが前提)―の大きく3点を提示しており、29日のワーキングでは(2)の「基準病床数と病床必要量の関係」について、さまざまな意見が出されました。
ちなみに厚労省は(1)に関する論点も29日のワーキングに提出しており、それについては別稿でお伝えします。
大阪府、病床不足だが病床過剰?
前述のように、基準病床数と病床必要量は目的も考え方も異なるため、作成された地域医療構想を見ると一見「不思議」な現象が生じています。
大阪府が先頃まとめた地域医療構想では、4機能の病床必要量合計が10万1471床であるのに対し、既存病床数(2014年7月の病床報告結果、未回答の約6000床を除く)は8万5471床で、およそ1万6000床(未回答分を加味してもおよそ1万床)の不足が生じている、つまり「今後、整備していかなければいけない」ことが分かりました(大阪府のサイトはこちらとこちら)。
一方で、大阪府の医療計画(第6次)では基準病床数は6万7263床とされている(つまり2万床弱、病床が過剰と判断されている)ため、現段階で「病床必要量に比べて既存病床数が不足しているので増床する」ことはできないのです(大阪府のサイトはこちらとこちら)。
前述のように計算方法が異なる(例えば人口について、基準病床数は直前をベースにしているが、病床必要量では2025年の未来をベースにしている)ので、当然、結果も異なりますが、「病床を整備(増床)していかなければいけないが、『病床過剰』であり整備(増床)はできない」という不思議な現象も起きてしまうのです。
29日のワーキングでは、多くの構成員から「こうした事態をどう考えていくのか」という指摘が相次ぎました。ただし「基準病床数と病床必要量とで、可能な限り整合性を図っていくべき」(本多伸行構成員:健康保険組合連合会理事)という意見もあれば、「両者は目的も計算方法も異なり、安易に整合性を求めると混乱する」(中川俊男構成員:日本医師会副会長)という考え方もあります。
このため厚労省は、すでに地域医療構想の策定が済んでいる自治体について、「基準病床数」と「病床必要量」「既存病床数」の関係をパターン分けして、8月下旬予定の次回会合に提示する考えです。
例えば、前述の大阪府のように「病床必要量」>「既存病床数」>「基準病床数」となっている地域もあれば、これとは異なる関係性となっている地域もあるので、それらを分類(パターン化)して、「こういう地域ではこういった課題がある」という整理が行われる見込みです。
ちなみに、地域医療構想はすでに作成済の都道府県もあるため、この考え方(策定ガイドライン)を変更することはできません。仮に「基準病床数と必要病床数の整合性を図る」ことになれば、基準病床数の考え方を見直すことになります。
この見直し方向について厚労省医政局地域医療計画課の担当者は、「両者は目的も計算方法も異なるので、一致する性質のものではない。ただし、施策の方向性が全く異なってもいけない」と述べるにとどめています。
【関連記事】
次期医療計画での基準病床数の算定式、平均在院日数の動向は地域別に考えるべきか―厚労省・医療計画検討会(1)
2018年度からの医療計画、CT・MRIの配置状況や安全確保状況なども考慮―厚労省・医療計画検討会(2)
2次医療圏、5疾病・5事業それぞれの特性も踏まえた設定を―厚労省・医療計画検討会(1)
5疾病・5事業は第7次医療計画でも維持、肺炎は脳卒中対策などの中で勘案―厚労省・医療計画検討会(2)
疾病ごと・事業ごとの医療圏設定推進など、2018年度からの第7次医療計画に向けて検討―厚労省・医療計画検討会
高度急性期や急性期の患者数推計の計算式示される、リハの扱いに注意を―地域医療構想策定の関係省令
地域医療構想策定ガイドライン固まる、回復期は175点以上に設定
「混乱招く」と医療需要の計算方法は全国一律に、地域医療構想ガイドラインの検討大詰め