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都道府県の脳卒中・急性心筋梗塞対策、予防や回復期・慢性期のリハビリなども重視―厚労省・医療計画検討会

2016.10.7.(金)

 2018年度から第7次医療計画において、広範かつ継続的な医療提供が必要な5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)について、対象疾病は維持しながら、予防施策などとの調和を図るとともに、都道府県の施策につながるような指標を設定し、さらなる重点的な取り組みを促してはどうか―。

 こうした方向が、7日に開かれた「医療計画の見直し等に関する検討会」で概ね確認されました(関連記事はこちら)。

 5疾病の医療提供体制に関する具体的な方向性については別の会議(がん診療提供体制のあり方に関する検討会など)で個別に固められ、「どのような指標を設定するべきか」といった事項などは本検討会で議論することになります。

10月7日に開催された、「第5回 医療計画の見直し等に関する検討会」

10月7日に開催された、「第5回 医療計画の見直し等に関する検討会」

がん、脳卒中、急性心筋拘束、糖尿病、精神疾患の5疾病は維持

 医療計画では、広範かつ継続的な医療提供が必要な疾病(5疾病)として、(1)がん(2)脳卒中(3)急性心筋拘束(4)糖尿病(5)精神疾患―を定め、医療確保に関する事項として▼患者動向・医療の現状把握▼必要な医療機能▼各医療機能を担う医療機関などの名称▼数値目標と必要な施策―を記載することが必要となります。

厚生労働大臣が基本方針を示し、これに沿った作成指針を厚生労働省医政局長らが示し、都道府県がこれらに沿って医療計画を策定する

厚生労働大臣が基本方針を示し、これに沿った作成指針を厚生労働省医政局長らが示し、都道府県がこれらに沿って医療計画を策定する

 検討会では、6月15日の会合で「現在の5疾病を維持する」方針を概ね確認しています。なお、相澤孝夫構成員(日本病院協会副会長)からは「高齢化の進展で誤嚥性肺炎が急増している。医療計画に肺炎対策を位置づけるべき」との指摘が出されましたが、厚労省は「高齢者の肺炎の7割は誤嚥性肺炎であり、誤嚥性肺炎を引き起こす嚥下障害の原因疾患の6割は脳卒中である」というデータを示し、現在の5疾病の中の(2)脳卒中対策に含めることとしています。

 ただし、相澤構成員は「住民の健康を守るためにどのような医療が必要か、という議論をしっかりする必要がある」、西澤寛俊構成員(全日本病院協会会長)は「5疾病を個別・縦割りでなく、全体として把握し、2次医療圏ごとにどのような状況・体制になっているのかを見て、総合的な議論をする必要があるのではないか」との注文も付けています。

がん対策、均てん化を進めながら、高度放射線治療などは集約化も検討

 5疾病の「医療確保に関する事項」については、本検討会とは別の会議体で専門家による議論が進んでいることから、7日の会合では厚労省の担当課から詳細な説明が行われました。

 (1)のがん対策については、厚労省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」で、「引き続き『均てん化』を推進する」とともに、「ゲノム医療などの分野については一定の『集約化』を検討する」という方向が固まりつつあります。

 均てん化とは、いわば「日本のどこに住んでいても、良質ながん医療を受けられる」体制を整備することを意味し、がん診療連携拠点病院(2次医療圏に1つ以上設置)、地域がん診療病院(拠点病院空白地域に設置、拠点病院の基準を一部緩和)の整備などが具体的な施策の1つです。

がん診療連携拠点病院よりも要件を若干緩和した「地域がん診療病院」の整備により、拠点病院空白地域(2次医療圏)は、2014年4月に108か所あったが、2016年4月には75か所に減少した

がん診療連携拠点病院よりも要件を若干緩和した「地域がん診療病院」の整備により、拠点病院空白地域(2次医療圏)は、2014年4月に108か所あったが、2016年4月には75か所に減少した

 一方、最新のゲノム医療や高度な放射線治療機器(粒子線治療機器)などをすべての拠点病院で実施する体制を整備することは非現実的であることから「集約化」という考え方も出てきているのです。

 検討会でも、概ねこうした方向で進めることを確認しています。

がん診療提供体制については、均てん化(例えば拠点病院の整備など)を今後も進めるとともに、ゲノム医療や高度放射線治療機器の整備などは一定の集約化も検討していく

がん診療提供体制については、均てん化(例えば拠点病院の整備など)を今後も進めるとともに、ゲノム医療や高度放射線治療機器の整備などは一定の集約化も検討していく

脳卒中・急性心筋拘束、急性期治療だけでなく回復期・慢性期対策も重要

 (2)の脳卒中、(3)の急性心筋梗塞については、厚労省の「脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会」および、下部組織であるワーキンググループで議論が進められています。

 厚労省では、「慢性心不全患者の4割が1年以内に再入院しているため、『予防』にも力を入れる必要がある」「要介護の原因疾患第1位が脳血管疾患であり、急性期だけでなく『回復期』『慢性期』対策(リハビリなど)も非常に重要である」といった視点を示しています。この点について加納繁照構成員(日本医療法人協会会長)は「脳卒中の急性期治療として血栓除去術などの血管内治療も進んでいる。そうした新たな急性期治療の推進についても医療計画に盛り込む必要がある」と指摘しました。なお、加納構成員は「脳卒中などの救急搬送患者の多くは2次救急医療機関が受け入れているが、会議のメンバーに入っていないという。議論の体制を再度整える必要がある」と厚労省に注文を付けています。

脳卒中・急性心筋拘束対策としては、現状の「急性期治療」(搬送後1時間以内のt-PA投与など)のほか、「予防」や「回復期・慢性期対策」(リハビリなど)も重要になってきている

脳卒中・急性心筋拘束対策としては、現状の「急性期治療」(搬送後1時間以内のt-PA投与など)のほか、「予防」や「回復期・慢性期対策」(リハビリなど)も重要になってきている

糖尿病対策、「重症化予防」の視点に立った指標を検討

 (3)の糖尿病については、「重症化予防」が注目され、今年(2016年)4月には厚労省・日本医師会・日本糖尿病対策推進会議が合同で「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」が策定されました。

 あわせて国民健康保険では医療費適正化に向けた予防・健康づくりを進めた場合に、後期高齢者支援金(若人の加入する医療保険が、後期高齢者医療費の一部を負担する仕組み)の減算(国保財政が改善する)を行う「保険者努力支援制度」がスタートします(本格実施は2018年度だが、2016年度から前倒し実施)。この指標の1つとして「糖尿病重症化予防の取り組み状況」が設定されています。さらに国保では、前述の「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」に準じた事業を行った場合には、国から補助金を受けることも可能です。

 厚労省はこうした各種の取り組みを医療計画に反映させる考えです。また、糖尿病対策(とくに重症化予防)の進捗状況を図る十分な指標も存在しないことから、厚労省医政局地域医療計画課の担当者は「検討会で指標に関する議論をしてもらう」との考えを示しています。

2018年度から、医療保険者それぞれの特性に合わせて、予防事業などに積極的に取り組み保険者に報奨(インセンティブ)を与える仕組みがスタートする。国保では糖尿病重症化予防などを指標とする「保険者努力支援制度」が設けられており、2016年度からの前倒し実施も可能

2018年度から、医療保険者それぞれの特性に合わせて、予防事業などに積極的に取り組み保険者に報奨(インセンティブ)を与える仕組みがスタートする。国保では糖尿病重症化予防などを指標とする「保険者努力支援制度」が設けられており、2016年度からの前倒し実施も可能

 

 また(4)の精神疾患対策については、厚労省の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」で、「認知症を除く1年以上の長期入院精神障害者の4割について、基盤整備を行うことで地域生活への移行が可能」と考えられる調査結果を踏まえて、▼機能分化▼地域での支援▼多様な疾患への対応―などを柱に据えた議論が進んでいます。

 検討会では、こうした議論を踏まえて、医療計画について、障害福祉計画などと整合性を図りながら必要な見直しを行っていく方向が概ね確認されました。

検討に時間のかかる分野については、3年目の中間評価での対応も

 このように、5疾病の具体的な方向は「厚労省内の各種会議体」で議論されている途中であり、検討会の期限(12月中の意見とりまとめ)までに結論が出るかどうかが必ずしも明らかになっていません。特に、脳卒中・急性心筋拘束の医療提供体制の在り方については議論に時間がかかっています。

 こうした状況を踏まえ、厚労省医政局地域医療計画課の担当者は「医療計画に順次反映させることができるよう、必要に応じて見直す」こととしています。ただし、例えば●●年にがん対策、■■年に脳卒中対策などの見直しを行うとなれば都道府県の負担が大きくなってしまいます。そこで厚労省医政局地域医療計画課の担当者は「第7次医療計画は6年計画となり、3年で中間見直しをすることになっている。会議体での検討が間に合わない部分については、中間見直しに合わせて医療計画の該当部分見直しを求めることも考えられる」と述べ、都道府県に過重な負担をかけないよう配慮する考えを明確にしています。

 

 また各種会議体では、5疾病それぞれの医療提供体制について議論しますが、医療計画に盛り込む「指標」などを直接検討しているわけではありません。医療計画にどう記載するのか、各疾病対策の進捗状況などを評価する「指標」をどう設定するのかは、今後、本検討会で議論することになります。

 なお、第6次医療計画から各都道府県において医療計画の目標と実績を把握しPDCAサイクルを回すことになっていますが、必ずしも十分にサイクルは回っていません。この要因の1つとして、地域医療計画課の担当者は「毎年確認できない指標や、行政施策と関連の薄い指標なども設定されていることがある」と指摘。今後、適切な指標の設定や、厚労省からのデータ提供などを行い、都道府県が円滑にPDCAサイクルを回せるよう努める考えも明らかにしました。

 
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