医師の勤務実態を精緻に調べ、業務効率化方策を検討―医師働き方改革検討会
2017.9.21.(木)
医師における「罰則付きの時間外労働上限規制」の特例を検討するにあたり、当面、「医師の勤務実態の精緻な把握」「労働時間の捉え方」、「勤務環境改善策」、「医療の質や安全性、健康との関係」などを議論していく—。
9月21日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」では、こういった方針を固めました(関連記事はこちら)。年明け(2018年)早々に「今後の医師の働き方の在り方」に関するいくつかのシナリオを盛り込んだ中間整理を行い、それを2020年度以降の医学部定員の検討につなげ(医師需給分科会で議論)、さらに特例に関する議論などを深め2019年3月に報告書を取りまとめることになります。
病院の種類で医師の働き方がどう異なるのか、詳細に調査せよとの要請
医師も「罰則付きの時間外労働の上限規制」(▼1か月当たり45時間・1年当たり360時間の上限を違反した場合には罰則課す▼労使が合意しても年720時間(月平均60時間)の上限を超えてはならない▼労使合意による特例の上限を、2か月から6か月の平均で80時間以内、単月で100時間未満、年6回までとする)となることが決まっていますが、医師には応召義務(医師法第19条)が課されるなどの特殊性があるため、検討会で「規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策」などを議論します。
厚生労働省は▼10-12月に医師の勤務実態や勤務環境改善策などを議論する▼年明け(2018年)1月に中間整理を行う(結果を踏まえて、医師需給分科会で2020年度以降の医学部定員を検討する)▼検討会で引き続き、働き方改革について検討し、2019年3月目途に報告書を取りまとめる—という大きなスケジュール案を示しました。
さらに、8月2日に開催された初会合の議論を受け、今後の論点として(1)医師の勤務実態の精緻な把握、労働時間の捉え方(労働時間への該当性や宿直・研究活動の扱いなど)(2)勤務環境改善策(タスクシフト、タスクシェア、AIの活用、勤務環境改善支援センターの機能強化など)(3)整理が必要な事項(応召義務、医療提供体制の確保、国民の理解)(4)時間外労働規制の在り方(上限の在り方、医療の質・安全性確保など)―を例示しています。
このうち(1)で「勤務実態の把握」については、今年(2017年)4月に公表された「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(いわゆる10万人調査、昨年12月に実施)結果があり、例えば▼医師の39%で週当たり勤務時間が60時間を超え、ほとんどが病院勤務医である▼診療科によって勤務時間や、その内訳は多様である▼当直回数が5-8回のケースと9回以上のケースとを比べると、「待機時間」に大きな差がある(診療時間や研究などの診療外時間に大きな差はない)▼大学病院では勤務時間、とくに研究などの診療外時間が他病院より長い傾向にある▼20-40代で子供のいる女性医師では勤務時間が比較的短くなる—といった状況が明らかになりました。
過去最大規模で詳しく行われた「現時点で最良のエビデンス」(渋谷健司構成員・東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授)となる調査結果ですが、例えば診療外時間となる研究が、自発的に行われたものなのか、管理監督の下で行われたものなのか、などは明らかになっていないという限界もあります。このため、今村聡構成員(日本医師会女性医師支援センター長)らは「勤務実態をより詳細・整理に把握するための調査」を行うよう要望。厚労省は「検討する」との答えにとどめていますが、例えば「大学病院と地方の一般病院とで、研究時間にどのような差があるのか」などをタイムスタディ形式で調べることも視野にいれた新調査設計が検討される見込みです。この点、山本修一構成員(千葉大学医学部附属病院院長)も「現在の医療提供体制、とくに救急・産科において、どれだけの時間外勤務に依存しているのかなどが見えるようにしてほしい」と強く求めています。
同じく(1)の労働時間の捉え方では、例えば「学会発表のための研究・資料作成」が労働時間にどこまで含まれるのか、「宿直」のうちどの部分が労働時間に含まれるのか、などを検討することになります。現在、「宿直許可基準」では▼宿直の中で行われる業務は、定時巡回・少数の要注意患者の定時検脈・検温など、特殊の措置を必要としない軽度・短時間のものに限る▼応急患者の診療、出産などで昼間と同態様の労働従事が状態のものは許可しない—といった例示をしていますが、さらに具体的な例示に向けた検討なども行われる可能性があります。
救急・産科医療をどう確保するのか、国民への「適正受診」の勧奨も重要課題
また(2)の勤務環境改善に関しては、▼特定看護師の活用なども含めたタスクシフト・タスクシェアの推進▼AI・ICT・IoTの活用―などによる業務効率化、▼勤務環境改善支援センターの機能強化▼労働時間管理(経営管理)▼女性医師の活躍支援—といった方策などを幅広く議論します。
この点について山本委員は「例えば大学病院では積極的な研究が必要となる」点を強調(このために勤務時間が他病院よりも長くなる)。タスクシフトを含めた『業務の効率化』なども積極的に議論すべきと訴えています。
なお業務効率化に関しては、今村構成員らから院内会議・文書作成の効率化・簡略化を求める声が出ています。診療報酬改定に向けた議論でも、こうした指摘がなされており、2018年度の診療報酬改定における対応にも期待が集まります(関連記事はこちら)。
(3)の整理が必要な事項では、▼応召義務の在り方▼医療提供体制確保との関係▼国民の理解—という難しいテーマが列挙されました。
医師法第19条には応召義務(診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない)が定められおり、これが長時間労働を招く大きな理由の1つとなっています。この点、渋谷構成員は「時代にあった応召義務を検討することも必要かもしれない」とコメント。「国民の理解」とも関係しますが、例えば夜間の救急外来に極めて軽症の患者が来た場合にも「応召義務」があるために当直医が対応しなければならないのか、いわゆる「適正受診の啓発」というテーマにも真正面から検討が行われる見込みです。
また「医療提供体制確保」に関して岡留健一郎構成員(福岡県済生会福岡総合病院名誉院長、日本病院会副会長)は「とくに救急医療、産科医療における時間外労働が重要テーマになる」と指摘。重点的な議論を要請しています。
さらに(4)では「時間外労働規制の上限の在り方」や「医療の質・安全の確保」などが論点として挙げられていますが、馬場武彦構成員(社会医療法人ペガサス理事長)や渋谷構成員、今村構成員らから「新たな裁量労働制」も検討してはどうかとの意見が出ています。
現在でも教授研究業務に従事する医師には「専門業型裁量労働制」を適用することが可能ですが、時間配分の決定を自身で行えない臨床医は「裁量労働制の適用に馴染まない」とされています。しかし、渋谷構成員や今村構成員は、医師の働き方が多様化する中で「例えば特殊な技術を持ち、自身の裁量で時間配分を行える臨床医もいるのではないか。新制度検討の余地は残しておくべきである」と要望しています。今後、おそらく年明け(2018年)に検討テーマの1つとなる可能性があります。
医師への時間外労働規制適用に向けて検討開始、診療報酬での対応も視野に—厚労省
医師も「罰則付き時間外労働の上限規制」の対象とするが、医療の特殊性も検討―働き方改革
医療・介護従事者の意思なども反映した供給体制の整備を—働き方ビジョン検討会
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