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GemMed塾 看護モニタリング

罰則付き時間外労働規制、応召義務踏まえた「医師の特例」論議スタート—医師働き方改革検討会

2017.8.2.(水)

 医師にも「罰則付きの時間外労働上限規制」が適用されますが、応召義務などの特殊性を踏まえてどのような「特例」を設けるか—。

 「医師の働き方改革に関する検討会」の初会合が2日に開催され、こういった議論がスタートしました(関連記事はこちら)。2年を目途に結論を出すことになりますが、まず年内(2017年内)を目途に中間整理を行い、それを新たな医師需給推計に反映させることになります。

8月2日に開催された、「第1回 医師の働き方改革に関する検討会」

8月2日に開催された、「第1回 医師の働き方改革に関する検討会」

まず2017年内目途に中間整理を行い、新たな医師需給推計に反映

安倍晋三内閣総理大臣が議長を務める働き方改革実現会議は3月28日に「働き方改革実行計画」を決定しており、以下のような「罰則付きの時間外労働の上限規制」を導入し(労働基準法改正)、医師もこの規制の対象となります(関連記事はこちら)。

▼時間外労働の限度を「1か月当たり45時間、かつ1年当たり360時間」(時間外労働の限度の原則)とし、違反した場合には、特例の場合を除いて罰則を課す

▼労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間(特例)を年720時間(=月平均60時間)とする。かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限を設ける

▼特例の上限を▽2か月から6か月の平均でいずれも80時間以内▽単月で100時間未満―とし、特例の適用は年6回を上限とする

 ただし、医師には応召義務(医師法第19条)が課されるなどの特殊性があることから、▼医療界の参加の下で検討の場を設け、質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し、2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る▼法改正から5年後を目途に規制を適用する—こととされています。前者の検討の場として、今般の「医師の働き方改革に関する検討会」が設置されました。

 初会合となった2日には、塩崎恭久厚生労働大臣も出席し、「罰則付き時間外労働上限の『特例の在り方』について議論してもらう。同時に医師の勤務環境を改善し、働き方改革を進めることも重要だ。『新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会』では、▼タスクシェアリングやタスクシフティングによる医療従事者の業務負担の最適化▼複数医師によるグループ診療—などが提言されている。これらを通じて、医師の働き方は変わりうるものであり、どうすれば若手医師が将来のキャリアに展望をもって生き生きと人間らしい働き方ができるのかを議論してほしい」と要望しました。

上述のとおり検討会は、およそ2年かけて規制の特例などに関する意見を取りまとめますが、厚労省は▼年内(2017年内)を目途に中間整理を行う▼中間整理を医師需給分科会でまとめる新たな「医師需給推計」に反映させる—考えを明らかにしています(関連記事はこちら)。

医師需給分科会では、医師偏在の是正に向けて、早期実行可能な対策をまとめるのとは別に、抜本対策の議論を秋から行う

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2日の初会合では構成員間の自由討議が行われ、労働者を代表するとの立場で参画している構成員(村上洋子構成員:日本労働組合総連合会総合労働局長、森本正宏構成員:全日本自治団体労働組合総合労働局長)からは、「毎年、過労死する医師が後を絶たないなど、長時間労働の改善が急務である。勤務医も労働者であり、罰則付き時間外労働上限規制の適用を前提に、業務改善の知恵を出し合うべき」旨の意見が披露されました。

病院管理者のみならず、現場医師からも「一律の時間外労働規制」に疑問の声

これに対し、医療者側の構成員からは「一律の規制適用は慎重に行うべき」との意見が多数出されています。医療機関の管理者(つまり院長など)である医師会、病院団体の代表者のみならず、病院の勤務医の立場で参画している構成員からも慎重論が出されている点には注目が集まります。

例えば市川朝洋構成員(日本医師会常任理事)は、「医師には、応召義務以外にも自己研鑽・高い倫理意識などが求められている点が一般労働者と異なる。自己研鑽の中には診療に直結するものとそうでないものとが混在しており、『労働』部分の切り分けは困難である。また国民皆保険・フリーアクセスの中で、国民には『誰でもどこでもいつでも』医療を受けられる体制が確保されているが、上限規制の適用でこの医療提供体制が変化してしまう。国民の理解も得ながら、慎重に議論する必要がある」と医療の特殊性を強く訴えました。山本修一構成員(千葉大学医学部附属病院院長)も「大学病院では診療のほかに、研究・教育も行っており、それぞれがモザイク状に入り混じり、切り分けは難しい。このため教員と異なり臨床に携わる医師では、診療も行うために裁量労働制も馴染まないとされた」ことを説明し、現場目線に立った慎重な議論を求めています。

また日本病院会副会長でもある岡留健一郎構成員(福岡県済生会福岡総合病院名誉院長)は、「医師の労働者性を根本から問う必要がある」とし、より根本的な議論を改めてする必要があると指摘。さらに「今の医師がどのような働き方しているのかタイムスタディ調査を行うことが重要」とも要望しました。この点、工藤豊構成員(保健医療福祉労働組合協議会事務局長)も、「長時間労働の原因を明確にしてから議論する必要がある」としたほか、「病院の外来を改めて考えなおす必要がある」と具体的な言及を行っています。軽症者が大病院の外来を受診し、これが勤務医を疲弊させているとかねてから指摘され、「紹介状なしでの大病院受診における特別負担」などが導入されていますが、「これまで以上の大ナタを振るうべき」との方向性が見いだされる可能性もあります。

 また黒澤一構成員(東北大学環境・安全推進センター教授)は、地域で1つの病院しかなければ、そこで多くの患者に対応しなければならないとの地方の医療実態を訴えています。医療者の多い都市部と、医療者の少ない地方部とで同じ議論をすれば、いずれかに(あるいは双方に)歪みが生じてしまう可能性があり、医療の特殊性はもとより、「地域の特殊性」なども勘案した検討が必要でしょう。

一方、臨床現場で働く勤務医の立場で参画している赤星昂己構成員(東京女子医科大学東医療センター救急医)は、「私は20代の救急医で、もっとも労働時間が長いとされているが、周囲には『もっと働きたい』という若手医師も少なくない」ことを紹介。「働き方を選択できる仕組み」や、「医師よりも他職種のほうがうまくできる業務(文書作成など)の他職種へのシフト」などを検討してはどうかと提案しています。臨床医として大学病院に勤務する猪俣武範構成員(順天堂大学附属病院医師)も「質の高い医療を提供するためには自己研鑽・研究が重要で、それらに対して画一的な労働時間上限規制を設けるべきではない」と強く指摘。タスクシェアリングやICT導入などによって、勤務環境の改善を図ることが重要と訴えています。

 
なおタスクシェアリング・シフティングに関しては、中島由美子構成員(医療法人恒貴会訪問看護ステーション愛美園所長)や戎初代構成員(東京ベイ・浦安市川医療センター集中ケア認定看護師)から「特定行為研修を受けた看護師への業務移譲」「一部の医療行為を行える新たな医療職種の創設」などを求める声が出されたほか、豊田郁子構成員(特定非営利法人架け橋理事長)から「医師事務作業補助者の活用などはまだ十分には進んでいない。既存職種の活用拡充も重要である」との意見が出ています。

 
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