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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

医師の労働時間上限、過労死ライン等参考に「一般労働者と異なる特別条項」等設けよ―医師働き方改革検討会(1)

2018.7.10.(火)

 医師は労働者であるとともに、「患者の生命を守る」責務を負い、またその働き方は極めて複雑・多様である。このため一律の上限規制を設定することは難しく、▼医師の労働時間上限に関する特別条項を設け、過労死ライン等を参考に労働時間上限を設定する▼「特別条項」を超えた労働をしなければならない時期等もあり、「特別条項の特例」を設け、第三者機関で特例の対象としてよいかの承認を得る―といった仕組みを検討する必要がある。

 こういった提言・意見書が、7月9日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」に医療界の統一見解として提出されました(検討会に関する厚労省のサイトはこちらこちら(参考、日医委員会の答申))。

意見書では、このほかにも「自己研鑽の在り方」「宿日直の在り方」「研修医等の在り方」などについて基本的な考え方を示すとともに、今後、具体的な検討を行うべきと提言しています(関連記事はこちらこちらこちら)。

7月9日に開催された、「第8回 医師の働き方改革に関する検討会」

7月9日に開催された、「第8回 医師の働き方改革に関する検討会」

 

医療界の総意として、「医師の働き方改革」に関する意見・提言

 安倍晋三内閣が進める「働き方改革」の一環として、医師にも「罰則付きの時間外労働の上限規制」を導入(改正労働基準法)することになりました。ただし、医師には応召義務(医師法第19条)が課されるなどの特殊性があることから、▼規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る▼法改正から5年後を目途に規制を適用する—こととされています。

 このため、厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)を設置し、医師の労働時間上限に関する「特例」の設定などに向けた議論を行っており、そこでは、今村聡構成員・日本医師会副会長から「医療界で、新たな労働時間制度(例えば、医療版の裁量労働制のような仕組みが考えられないか)を提案する」考えが示されていました(関連記事はこちら)。

今般、今村構成員や岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)、馬場武彦構成員(日本医療法人協会副会長)、山本修一構成員(全国医学部長病院長会議「大学病院の医療に関する委員会」委員長、千葉大学病院長)といった医療界の重鎮に、赤星昂己構成員(東京女子医科大学東医療センター救急医)ら現場の医師も加わり、医療界の統一提案と言える「医師の働き方改革に関する意見書」(以下、意見書)が取りまとめられ、検討会に報告されたものです。いわば、今後の検討会論議のたたき台の1つと言えるでしょう。

医師の労働時間、過労死ライン等踏まえた特別条項と、さらなる特例を

意見書ではまず、▼医師には「学ぶこと」そのものが職業の中に組み込まれている▼医療は個別性・複雑性が高く、治療方針やリスクなどについて、個々の患者・家族に「説明と同意」を行うことが求められる▼医師は、その働き方が厳しくなろうとも、「地域医療の質と量」を維持しなければならない責務を負っている▼「地域医療の継続」と「医師の健康への配慮」とのバランスをとることが求められている―などといった点をまず確認。

また「学ぶこと」に関連して、医師には日々自己研鑽を行うことが求められていますが、その内容はカルテ作成や地域連携業務など「労働」に該当するもの、学会参加など「純粋な自己研鑽」に該当するもの、さらに論文作成や文献検索など「労働と自己研鑽の二面性を持つ」ものが存在し、この「二面性を持つ業務」をどう取り扱うのか(研鑽を妨げることはできないが、医師の健康にも配慮しなければならない)という重要な課題があることを指摘。

こうした、一般労働者と異なる「医療、医師の特殊性」に鑑みて、医師の労働を、例えば次のように考えてはどうかと提言しています。検討会の議論の行方によっては、「医師の労働法制」に関する更なる法改正なども行われることになるでしょう。

【労働時間上限の考え方】
 一般労働者では「時間外労働を原則として月45時間・年360時間までとし、特別に月100時間・年720時間までなどの例外を認める」こととされているが、医師について、その特殊性に鑑み、次のような仕組みを設ける
(1)脳・心臓疾患の労災認定基準(過労死ライン、「発症前1か月間の時間外・休日労働が概ね100時間超」「発症前2-6か月間の月平均時間外・休日労働が概ね80時間超」など)を基にした、医師の労働時間上限に関する「特別条項」を設ける(厚労省令)
(2)(1)の「特別条項」を超えざるを得ない場合には、精神障害の労災認定基準(「発病直前2か月間連続して月当たり概ね120時間以上の時間外労働」「発病直前3か月間連続して月当たり概ね100時間以上の時間外労働」など)を手掛かりに、「特別条項の特例」を設け、そうした労働を認めてよいか否かを、都道府県の医療勤務環境改善支援センターや地域医療支援センターを中心とした第三者機関で判断し、承認を得ることとする

医師の労働時間に関する「特別条項」および「特別条項の特例」のイメージ(その1)

医師の労働時間に関する「特別条項」および「特別条項の特例」のイメージ(その1)

医師の労働時間に関する「特別条項」および「特別条項の特例」のイメージ(その2)

医師の労働時間に関する「特別条項」および「特別条項の特例」のイメージ(その2)

医師の適正労働等を担保するために、第三者機関を設置し、そこが監視・支援を行うべきとの提言

医師の適正労働等を担保するために、第三者機関を設置し、そこが監視・支援を行うべきとの提言

 
【宿日直の在り方】
 現在の宿日直許可基準(1949年の厚生省通知)では、宿日直業務を「病室の定時、検脈、検温」としているが、医師の業務実態に合わず、次のように内容を見直す
▼「許可を受けた宿日直」(断続的・監視的労働で労働時間の適用除外)と「通常業務と同じ宿日直」との間に、「中間業務」を設ける
▼中間業務については、(1)拘束時間のX%(例えば25%)が労働である「中間業務1」は、X%(同25%)を勤務時間とし、相応の賃金を支払う(2)拘束時間のY%(例えば50%)が労働である「中間業務2」は、Y%(同50%)を勤務時間として、相応の賃金を支払う―といった基準、賃金ガイドラインなどを定める
▼各医療機関・診療科が「労働時間等設定改善委員会」(衛生委員会を活用)で中間業務に関する取り決めを行い、労働基準監督署に届け出る
▼都道府県の第三者委員会(上述)で個別医療機関の実態を確認し、適切な運用を担保する(アドバイスを行うなど)
医師の宿日直と一口に行っても、大きく分けて「通常業務と同程度の業務を行う」ケース、「通常業務はほとんど行わない」ケース、「通常業務を少なく実施する」ケースの3パターンがある

医師の宿日直と一口に行っても、大きく分けて「通常業務と同程度の業務を行う」ケース、「通常業務はほとんど行わない」ケース、「通常業務を少なく実施する」ケースの3パターンがある

 
【専門業務型裁量労働制の在り方】
 現在、大学病院において▼教授▼准教授▼講師―が専門業務型裁量労働制の対象であるが、「2023年以降、世界標準の教育レベルを公的に認証された医学部卒業者でなければ米国で医療に従事できなくなる」ことを踏まえて、「助教」についても対象に加える

【研修医等の在り方】
 上述の「医師の特別条項の特例」の枠組みの中で、別途、制度を定める

 
 さらに意見書では、医師の「長時間労働」を是正するための仕組みづくりが、医師の健康確保のために重要であると強調し、例えば「休日、勤務時間インターバル」「連続勤務時間規定」を導入することも提案しています。例えば、医療機関の実情に応じて、A医療機関では「連続勤務の基準時間をa時間と定め、これをb時間超えた勤務を行った場合には、勤務明けから次の勤務に入るまでのインターバルとしてc時間を確保する」といった規定を設け、これを遵守していく仕組みです。

インターバル制などを導入している医療機関は、まだまだ少数派である

インターバル制などを導入している医療機関は、まだまだ少数派である

 

医師の働き方改革には、「国民の理解・協力」が不可欠

こうした仕組みを作ることそのものは、議論に時間などは要しますが、それほど難しくはありません。難しいのは、これを適切に運用していくことです。例えば、医師の時間外労働上限を●時間と決めたとしても、患者の家族が「勤め先を抜けられない。インフォームドコンセントの時間は夜9時以降にしてほしい」と要望したり、一部の住民が「平日の日中は外来が込み合っている。夜間の救急外来を利用しよう」などと不適切な行動を続ければ、医師の負担は一向に減りません。責任感の強い医師ほど、患者・家族から、いわば「サービス残業」を強いられることになってしまいます。医師の負担軽減、ひいては地域医療の確保に向けて、我々国民全員が「適切な受診」等を心がける必要があります。

このため意見書では、「各地域の医療事情、医師の勤務実態、医療機関への適切なかかり方について、地域準の理解と協力を得ることが必要。そのための啓発活動に積極的に取り組む必要がある」と指摘。例えば「学校保健や産業保健の活用」(高等学校等で、我が国の医療の現状、それを踏まえた適正受診の在り方などを教育する)などに期待を寄せています。もっとも、国民サイドが過度に反応し、「医療を必要とする人が受診を控える」ことになっては本末転倒であり、保険者か国民へ適切に働きかけることも提案しています。

さらに、こうした制度改革には「財源が必要となる」点にも言及。診療報酬や地域医療介護総合確保基金などでの対応を検討するよう要請しています。

今後、これらの諸課題についてより具体的な検討を行い、可能なものは前倒しで進める(医師に関する働き方改革の施行は2024年4月施行)こと、施行後5年程度で状況を踏まえた見直しを検討すること、なども求めています。

労働者サイドからは意見書への疑問や、応召義務の根本的な見直しを求める声も

この意見書については、7月9日の検討会では具体的な議論は行われませんでしたが、いくつかのコメント・感想が寄せられています。

今般の意見書作成に深く携わった岡留構成員は「医師、医療の特殊性」について、改めて強調。医師の特殊性に十分配慮した労働法制となければ、医師のプロフェッショナリズムを阻害し、「ひいては患者に悪影響が出る」と強く指摘しました。

一方、労働者の立場で参加している村上陽子構成員(日本労働組合総連合会総合労働局長)は、宿日直の在り方などは検討に値するとしたものの、「意見書の方向性には疑問を感じる」と述べました。

また「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の座長も務めた渋谷健司構成員(東京大学大学院国際保健政策学教授)は、「医師の健康確保と、地域医療確保は『どちらをとるか』というトレードオフの関係にはない生産性を高めることで、両立可能な部分もある。また、時間外労働については、割増賃金を適切に支払うよう厳しく指導すれば減っていくのではないか」とコメントするとともに、「必ずしも医療の必要性がない人のアクセスをどう制限するかが重要である。意識改革では変わらない」と述べ、応召義務の見直しの必要性を強調しています。

なお、「国民の理解が重要な鍵となる」点には多くの構成員が賛同していますが、「国がイニシアチブをとって周知していく必要がある」(馬場構成員)、「国民の意識改革には時間がかかる。現在、医療現場への労働に関する指導等が行われているが、本末転倒な対応となりがちである。長期の改善計画と、それに向けた支援などが必要」(福島通子構成員・塩原公認会計士事務所特定社会保険労務士)、「子供の授業参観などには親は会社を休んで出席するので、医療に関しても『診療時間内の説明』などは可能なはずである。有給休暇などをしっかり使えるような意識改革が必要である」(戎初代構成員・東京ベイ・浦安市川医療センター集中ケア認定看護師)といった指摘がなされています。

今後の論議に備えた「ジャブ」の応酬が始まっています。
 
 
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