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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

勤務医の負担軽減目指し、業務移管など緊急に進めよ―医師働き方改革検討会(1)

2018.1.16.(火)

 勤務医の長時間労働を是正するために、事務作業などを他職種へ移管すべきだが、一部医療機関では進んでいない。直ちに、業務移管を推進する必要がある―。

 1月15日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)で厚生労働省は、こうした提言の骨子案を示しました。提言は、勤務医の労働時間短縮に向けて、検討会が医療機関に「すぐに実施すべき対策」を提示するもので、併せて厚労省に、医療機関への財政支援などを求めます。早ければ来月(2018年2月)にも取りまとめられる見込みです (関連記事はこちら)。

1月15日に開催された、「第6回 医師の働き方改革に関する検討会」

1月15日に開催された、「第6回 医師の働き方改革に関する検討会」

勤務医の長時間労働、上限規制待たずに是正すべき

 政府が推進する「働き方改革」では、「罰則付きの時間外労働の上限規制」が医師にも適用されます。しかし、医師には応召義務(医師法第19条)が課されるなどの特殊性があるため、▼上限規制の適用を5年間猶予する▼「医師に適用する規制の具体的な在り方」や「医師の労働時間の短縮策」を、検討会で議論し、来年(2019年)3月末までに結論を得る―ことが決まっています。

 1月15日の検討会では、(1)「医師に適用する規制の具体的な在り方」などに関して、検討会が今後議論を深めるべき論点(中間的な論点整理)(2)多くの医療機関で常態化してしまっている勤務医の長時間労働を是正するために、医療機関管理者が緊急的に実施すべき施策をまとめた提言―のそれぞれについて、骨子案が厚労省から示されました。医師に限らず、長時間労働によって健康が害され、過労死してしまった事例もありますが、医療現場においては「医師の長時間労働が常態化している」と指摘されます。検討会では、「上限規制を待たずに対策を講じるべき」と判断し、(2)の緊急提言を行うことを決めました。(1)については別稿でお伝えすることとし、本稿では(2)の内容を紹介します。

勤務医を雇用する全医療機関に5つの労働時間短縮策を求める

 それでは、具体的にどのような取り組みが医療機関に求められるのでしょうか。1月15日の検討会では、提言の骨子案が示されています。この中に盛り込まれた具体策は、(a)すべての医療機関で実施すべき施策(b)可能であれば実施すべき施策―に大きく分けられます。(b)は、全医療機関に求めることが現時点では難しい施策であり、「勤務医の人数が厚い」医療機関などが自主的に取り組むことが期待されます。それぞれ、どのような対策が挙げられているのか 眺めてみましょう。

 まず、(a)の「すべての医療機関で実施すべき施策」として、次の5つが挙げられています。

(1)他職種への業務移管の推進
(2)女性医師のライフイベントを踏まえた支援
(3)勤務医の在院時間の客観的な把握
(4)職員を週40時間以上労働させる協定(36協定)の自己点検
(5)職員が健康で働き続けられる職場づくりのための既存の仕組みの活用

 (1)の「業務移管の推進」に関して、提言の骨子案では、▼初療時の予診▼検査手順の説明や入院の説明▼薬の説明や服薬の指導▼静脈採血▼静脈注射▼静脈ラインの確保▼尿道カテーテルの留置(患者の性別を問わない)▼診断書等の入力(医師の確認が必要)▼患者の移動―の9つの業務を、看護師や事務職員に原則 移管すべきだと指摘しています。

 医療機関によって勤務医数や看護職員数が異なることから、厚労省は業務移管について「本来、医療機関がそれぞれ事情を勘案して、必要に応じて進めるべき施策」と位置付けています。 しかし、医師の長時間労働が常態化している中では、「医療機関が積極的に取り組むべき施策」であると検討会は考え、今般の提言に盛り込むことにしました。

 上述の9業務については、他職種への移管が多くの病院で既に進んでいることが、四病院団体協議会や全日本医学部長病院長会議の調査で明らかになっています(関連記事はこちら)。まだ移管していない医療機関では、他の医療機関がおおむね移管していることを踏まえて、「当院で業務移管を進める上で、どのような障壁があるか」などを今から整理しておくべきでしょう。

特定行為研修修了者の活用に向け、研修受講を推進せよ

 また骨子案では、2015年10月に創設された特定行為研修制度の活用に向けて、看護師に研修を受講させることを促しています。特定行為研修制度は、医師の判断を待たずに一定の診療の補助(特定行為)を行うことができる「専門的な知識と技能を身に付けた看護師」を養成するものです。具体的には、300時間超の特定行為研修を受けた看護師(以下、研修修了者)に、▼特定の患者への特定行為について、医師が手順書によって包括的に指示している▼患者の病状が、医師が手順書で示した範囲から外れていない―という条件付きで、医師の毎回の指示を省略して特定行為を実施することを認めます。もともと、在宅患者への適時適切な対応が可能な看護師を養成する目的で始まった制度ではありますが、急性期病院において、外科医が手術を行っている間の病棟患者の「腹腔ドレーン抜去」などを研修修了者に担当させることで、医師の労働時間短縮につなげるなどの効果を生んでおり、今後もさまざまな場面での活躍が期待されています。

 しかし、研修修了者数が伸び悩んでおり、厚労省が掲げる「10万人以上」という目標に対して、現状は583人(2017年6月時点)にとどまります。このため厚労省は都道府県に、今年(2018年)4月からの医療計画の中で、特定行為研修を行う「指定研修機関」の確保などに関する事項も盛り込むことを求めています。「指定研修機関」と「研修を受講したい看護師」の両方がそろえば、研修修了者が大幅に増えると期待できます(関連記事はこちら

厚労省は、特定行為研修を修了した看護師を10万人以上養成する方針。修了者数が今後激増すれば、医師の業務移管にもつながる

厚労省は、特定行為研修を修了した看護師を10万人以上養成する方針。修了者数が今後激増すれば、医師の業務移管にもつながる

 なお、「そもそも研修修了者がいない」という課題が民間病院にある一方で、大学病院に限ると、約3割が研修修了者を既に雇用しています。しかし、研修修了者を雇用する民間病院で特定行為に関する業務移管は進む一方で、大学病院では進んでいません。例えば、研修修了者を雇用する病院に限って四病協などの調査結果を見てみると、特定行為の「腹腔ドレーンの抜去・縫合」を看護師に移管した割合は、大学病院以外が14.9%なのに対し、大学病院では4.2%にとどまります。このため検討会では、大学病院において研修修了者への業務移管を特に進めるべきだと指摘しています。

 一方、(2)の「女性医師支援」に関しては、女性医師の継続的なキャリア形成が出産などで阻害されないように、短時間勤務を認めるといった対策を求めています。

36協定で定める時間数の見直しなどの検討も必要

 また検討会提言の骨子案に盛り込まれた施策のうち、(3)「勤務医の在院時間の客観的な把握」、(4)「36協定の自己点検」、(5)「健康で働き続けられる職場づくりのための仕組みの活用」の3項目は、医療機関管理者に対して▼勤務時間の管理▼健康管理―に取り組む必要性を改めて指摘するものです。

 そもそも、現行の労働基準法では、職員の労働時間は「1日8時間・1週40時間」内とされており、この基準を超えて労働させる場合は、医療機関管理者が労働組合などとの間で協定(労働基準法36条、ゆえに36協定と呼称される)を締結する必要があります。

どの業種でも、法定労働時間を超えて労働させる場合には36協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要がある

どの業種でも、法定労働時間を超えて労働させる場合には36協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要がある

 また、現行の労働安全衛生法では、▼「時間外・休日労働時間が月100時間を超える」などの基準を満たす職員がいる場合、医師による面接指導を行い、労働時間の短縮などの措置を講じる▼職員数が50人以上の場合、職員や産業医を含む衛生委員会を設置し、職員の健康障害対策などを審議させる―ことなどを、医療機関管理者に求めています。

 しかし、こうした取り組みが十分に行われていない可能性があるため、 (4)の「勤務医の在院時間の客観的な把握」として、タイムカードをチェックしたり、上司が勤務医本人から直接聞くなどして、勤務医1人1人の出退勤時間を確認する必要性を検討会は指摘しています。

 また(5)の「36協定の自己点検」においては、▼36協定の定めなく時間外労働させていないか▼36協定で定める時間数を超えて労働させていないか―を確認することや、現行の36協定で定めている超過勤務時間数が実情に見合っているか勤務医とともに検討し、例えば、「診療科AとBは時間数を減らしても問題が生じないので、診療科AとBに限って時間数を短く見直す」ような取り組みを求めています。

 (6)の「職員が健康で働き続けられる職場づくりのための仕組み」としては、上述した衛生委員会 の開催などが考えられます。検討会では、例えば、「特定の診療科や個別医師の長時間労働を是正するための対応方針を衛生委員会で検討し、業務移管のような具体策につなげる 」必要があると指摘しています。

可能であれば、時間外対応の禁止や複数主治医制の導入なども導入を

 (b)の「可能であれば実施すべき施策」に関して、検討会は次の4項目を例示しました。

▼緊急ではない患者への病状説明などについて、勤務時間外に対応しないルールを設ける
▼当直明けの勤務について、勤務時間を短縮するような配慮を行う
▼勤務時間と次の勤務時間との間に、一定の間隔を設けて、医師をしっかりと休息させる
▼1人の患者の主治医を複数人の医師が担当する「複数主治医制」を取り入れる

 検討会は、来月(2017年2月)にも開く次回会合で、上述した具体策などを「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」として取りまとめる 方針です。「緊急的な」対策が求められることから、これを踏まえて厚労省では、▼通知をすぐに発出し、医療機関に対策の実施を呼び掛ける▼医療機関が対策を実施できるように財政的な支援などを用意する―ことになるとみられます。医療機関の管理者には、この提言の取りまとめを待たずに現状(院内の規定など)を確認し、前倒しで対策を講じることが求められます。

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