「医師の自己研鑽が労働に該当するか」の基準案をどう作成し、運用するかが重要課題―医師働き方改革検討会(2)
2018.9.20.(木)
宿日直の許可基準を「現代の医療現場」にマッチしたものに見直していくとともに、例えば「宿日直明けの勤務について、一定のインターバルを置く」などの勤務環境改善策を講じることで、医師の長時間・過重労働を是正していく必要がある。また、症例検討や学会準備などの、いわゆる「自己研鑽」について、近く厚生労働省が「労働に該当するのか、純粋な自己研鑽なのか」の切り分け案を示し、これに基づいて「切り分けの妥当性」や「運用の確保」などに関する議論を行っていく—。
9月19日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)では、こういった点についても議論になりました。
宿日直の許可基準を現代版に見直すとともに、勤務環境改善もセットで議論
お伝えしているように、医師の働き方改革の実現に向けて、(1)タスクシフトや患者の受診の仕方など「今後目指していくべき医療提供の姿」(2)応召義務など「医療の特殊性」(3)宿日直の取扱いや時間外労働の上限など「制度」—という3分野の議論を併行的・総合的に進めています。
9月19日の検討会では、(2)の応召義務、(3)の宿日直・自己研鑽について議論を深めました。今回は「宿日直」「自己研鑽」に関する議論を眺めてみましょう。
このテーマは、9月3日の前回会合でも議題に上がり、宿日直については「まず、許可基準を現代の医療現場にマッチするよう見直してはどうか」との方向が厚生労働省から提示されています。構成員からは、この方向に異論は出なかったものの「医師の健康確保も併せて検討していくべき」「宿日直の問題は、人員不足や賃金などとは別のテーマとして捉えるべき」などといったなど注文が付いていました(関連記事はこちら)。厚労省は、こうした注文も踏まえ、例えば、次のように検討の方向をブラッシュアップさせています。
▽「医師の長時間・過重労働の是正が重要」との指摘を受け、今後、「当直明けの勤務の在り方」など勤務環境改善を通じた医師の健康確保についても議論を深める
▽宿日直許可基準について、現代の医療の実態を踏まえて、「何が業務(労働)に当たるのか」という切り分けを整理していく。その際、具体的な医療行為等が「業務に該当するか否か」を予め類型化しておくことが必要となる
▽宿日直許可基準の見直しについては、「例えば5年間程度の猶予期間を設けるべき」などの指摘を受け、見直し時期についても併せて検討する
▽「人手が不足している」「賃金支払いが過重になってしまう」という理由・観点で「宿日直許可基準を見直す」(いわば宿日直許可基準を緩めたり、特例を設ける)ことは、今般の改正労働基準法の趣旨(労働者の健康確保等)に照らして認められない
▽ただし、医師の少ない地域等では、医療政策上の対応を進めつつ(例えば医師確保対策など)、かつ医師の健康確保に配慮した上で、当面「時間外労働の上限を高く設定する」などの対応が図れないか、という面での検討も行う
今後、こうした検討方向に沿って、例えば「宿日直明けの勤務に対する配慮(インターバルの設定など)」など勤務環境改善策も含めて、さらに議論を深めていくことになります。
労働と自己研鑽との切り分け基準、厚労省が近く具体案を示し、それをベースに議論
自己研鑽については、▼労働に近いもの▼自身の知識・技術の向上のためのもの▼両者の性格を併せ持つもの―があり、この切り分けをどのようにしていくのか(基準の設定)、さらに、その基準に沿ってどのように運営していくのか、が重要論点となっています。
「労働に近い」ものが、「それは自己研鑽であり、労働とはみなさない(時間外に行っても割増賃金は支払わない)」とされれば、それは医師に不当な労働を強いることにつながります。一方、「医師個人のスキルアップのため」のものが、「これも労働であり、割増賃金を支払え」となれば、医療機関経営に悪影響をもたらします。また、曖昧な基準で「労働時間が増えては困るので、自己研鑽等はしないでほしい」とされれば、医師のモチベーション低下、知識・技術水準の低下につながり、結果として患者・国民が不利益を被ってしまいます。
さらに、仮に基準が明確にされたとしても、ある業務が「労働に該当するのか」「自己研鑽に該当するのか」の判断は、医師でなければ判断が困難な部分もあり、労働基準監督署などが適切に運用できるのか、という問題もあります。
厚労省は前回会合に、「労働とは言えないのではないか」という項目案を示しており、さらに詳細な「基準」案を作成し、近く検討会での議論に供する考えを示しています。この点、今村聡構成員(日本医師会副会長)らは「厚労省の基準案をスタート地点として、運用なども含めた議論を行うことになる。基準案を早急に示してほしい」と要請しています。
また裵英洙構成員(ハイズ株式会社代表取締役社長)は、基準の運用について「ある行為が労働に該当するのか、純粋な自己研鑽なのか、国などで一元的に管理する必要がある。労働基準監督署によって、監督官によって判断が異なれば現場は大混乱に陥る」と指摘。
ところで「自己研鑽」との文言からは、初期臨床研修医や専門医を目指す専攻医が対象になると思われますが、山本修一構成員(国立大学附属病院長会議常置委員長、千葉大学医学部附属病院長)は「医学・医療は常に発展しており、例えば特定機能病院の病院長であっても、常に自己研鑽して知識・技術を磨く必要がある」と指摘し、対象は医師全般とすべき旨を指摘しています。
厚労省の基準案が待たれますが、とくに「労働の性格と、自己研鑽の性格とを併せ持つ」ものについては非常に切り分けが難しいでしょう。これをどのように取り扱っていくのか注目が集まります。
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