「収益の最大化」「病床利用率の確保」から脱却し、「医療の価値」向上を―GHCが2016年度改定セミナーを開催
2016.3.22.(火)
お伝えしているとおり、2016年度の診療報酬改定に備えるため、GHCは19日、都内で改定セミナーを開催しました。
厚生労働省保険局医療課の林修一郎補佐から改定内容や留意点について説明していただいたほか、GHC社長の渡辺幸子とマネジャーの湯浅大介から、今後、病床再編時代を生き抜く為に戦略的な病床戦略をどう策定し、どう実行すべきかをお話しています。
またGHCの会長で、米国グローバルヘルス財団の理事長であるアキよしかわはセミナー冒頭に挨拶。昨年上梓した「日本医療クライシス」(アキよしかわ、渡辺さちこ著、幻冬舎)の中で、「看護必要度の生データ提出」についてGHCがいち早く注目していた点を強調しています。
ここでは渡辺と湯浅の講演内容を紹介しましょう。
渡辺は、今後の病院経営に当たって「収益の最大化」のみに着目した発想から脱却しなければいけないと強調します。多くの急性期病院は増収減益傾向。今後もし、医業収益が飛躍的に伸びない、または医療ニーズが縮小するなら、これまでの「収益を最大化する」モデルから「、減収となっても利益を維持するあるいはまたは増益を目指す」モデルへの戦略シフトが必要となります。そのためには、病床機能の適正化(適正病床数を視野に急性期病床のダウンサイジングも含む)やコストコントロールは必須と渡辺は指摘しまです。
ここで渡辺が最も重視すべきと説くのは、「医療の価値(=質/コスト)」という概念です。これは米国メイヨークリニックが提唱するもので、GHCでも創立当初から「医療の価値を高める」(医療の価値の方程式)ための支援を続けています。
具体的には、(1)医療の質を上げる(2)医療のコスト下げる―この2点を行うことで、「医療の価値」が高まります。
例えば、アウトカムが同じであれば、入院よりもコストの低い外来でその医療を提供したほうが、価値は高くなります。同様に、同じ予定手術や検査でアウトカムが同じであれば、在院日数の短い方が価値は高い。しかし、病院によっては「7対1を届け出ており、看護職員の人件費を賄うために、病床利用率を高めに維持する必要がある。そのため外来で行える医療を入院で行う、または不要に入院日数を延ばす」という戦略を採っていないでしょうか。現在の急性期病床数が自院にとって本当に適正なのでしょうか。渡辺は「病床利用率向上」の呪縛を解きから、「常に患者のために『医療の価値』を第一に考えてほしい」と訴えます。
また、2016年度の診療報酬改定で最も注目を集めている「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)の見直しについて、渡辺は「データの精度」が最大の課題であると指摘します。
過去4年のGHCの分析・研究によれば、多くの病院ではデータの精度は必ずしも高くありません。DPCデータと看護必要度のデータをGHCが分析したところ、例えば、ある公立病院では輸血製剤の請求をしているにもかかわらず、看護必要度A項目の「輸血や血液製剤の管理」にチェックがなされていないケースがあります。また、免疫抑制剤に至っては、請求はなされているものの、看護必要度A項目の「専門的な治療・処置」にまったく反映されていないことも分かりました。
これらは過小評価(請求していながら、看護必要度に反映されていない)と言えます。
一方、看護必要度のデータ上はチェックされているものの、レセプトには載っていない(請求されていない)項目もあります。こちらは過剰評価で、意図的でないとしても重症度割合を過剰に申告していることになるので問題視されるでしょう。実は多くの病院で、過剰評価が過小評価を上回っていることがGHCの分析・研究で明らかになっていります。
渡辺は、「こうしたデータ精度を向上させなければ、『うちの病院では25%を軽くクリアできる』と考えていても、実態は過剰が過小を上回り、25%を切る可能性がある」と指摘します。
2016年10月分からDPCのHファイルとして看護必要度の生データ提出が義務化されるため、データ精度の向上は、多くの病院にとって喫緊の課題となります。
GHCでは、次世代型病院経営支援ツール「病院ダッシュボード」に4月新たに「看護必要度分析」の機能を搭載し、次のような分析を可能としています。
▽自院の状況を時系列で把握することが可能で、「病棟ごとの重症患者割合」を可視化できる
▽自院のデータ精度(創傷処置、呼吸ケア、モニタリング、輸血血液製剤、専門的処置)を把握するとともに、他院との比較が可能である
▽病棟別、診療科別、疾患別などの状況も把握でき、「どこから対策をとればよいか」「どの疾患に力を入れれば重症患者割合の向上に寄与しやすいか」などを検討できる
「看護必要度分析」には上記に加え、今夏、▽疾患別ベンチマーク、▽看護必要度を用いた病床戦略などのソリューションを追加予定です。
さらに渡辺は、今後の人口動態などを総合的に勘案すると、「病院は単独(スタンドアローン)では生き残れない」のではないかとも見通します。
わが国は人口減少社会に突入しており、また高齢化の進行も急激なペースで進んでいます。高齢化に伴い医療ニーズ(患者数)は増加しますが、病床機能分化が進むと、急性期の病態でない患者は回復期や慢性期病床で診ることになるので、急性期病床のニーズはその分減ります。さらに、平均在院日数のさらなる短縮や入院医療の外来へのシフトが進む中では、ますます急性期病床のニーズは減少していくでしょう。
また渡辺は、「症例数と医療の質(例えば医療安全)は相関する」ことを紹介。これは米国メイヨークリニックやスタンフォード大学とGHCの共同研究から明らかになったもので、膝関節置換術や結腸切除術(開腹と腹腔鏡)の事例を用いて、年間の症例数が少ないほど合併症の発症率が高まる結果を示しました。これらを総合的に考慮すると、「病院の統合による症例の集約化」が今後の重要な選択肢の1つになると渡辺は指摘しています。
GHCマネジャーの湯浅は、2016年度改定を踏まえた上で「外部環境の変化に、内部環境の見直しで向き合う必要がある」と強調しました。
外部環境としては、まず地域人口の高齢化が挙げられます。先にも述べましたように、高齢化が進展する中では急性期の医療ニーズが減少します。
また、診療報酬改定によって「急性期の基準」が厳格化することも外部環境の変化と言えます。2016年度改定では看護必要度が見直され、7対1入院基本料を維持することが難しい病院・病棟も出てくることが予想されます。
湯浅は、多くの病院では「出来高時代に設定された病床数」を抱えているが、▽急性期医療らしさの追求▽在院日数の短縮―によって、「稼働率低下による医業収入の落ち込み」が生じており、今後、できるだけ早期に「明確な戦略を打ち立てることが必要」を訴えます。
では病院の戦略を立てる際に、何に気を付ければよいのでしょう。
この点について湯浅は、(1)看護必要度の基準値(2016年10月からは25%)を大幅に上回るか?(2)増患が十分に見込めるか?―という2点が急性期病院にとってのポイントになると指摘します。
(1)で重症患者割合25%以上を大幅にクリアできるのであれば、現状(7対1)の維持という選択肢を採ることになります。
また(1)で25%の大幅クリアが難しいとなれば、(2)の増患見込みを考慮することになります。地域のニーズを踏まえて急性期患者の増加が見込まれるのであれば、やはり現状(7対1)を維持するという選択肢が考えられます。
しかし、(1)の25%クリアが難しく、(2)の増患も見込めない場合には、▽10対1への転換▽回復期リハビリや地域包括ケア、療養への転換▽病棟群単位の入院基本料―といった選択肢を現実的なものとして考慮する必要があります。
さらに状況によっては「ダウンサイジング」を検討する必要もあるでしょう。
こうした大きな方向を示した上で、多くの病院ではやはり(1)の25%クリアという課題に直面することになります。この点について湯浅は「在院日数短縮」と「外科系疾患確保」がポイントになると指摘。
その上で、在院日数短縮の必要性が高い疾患に対し、特に重点的に退院支援を行い、退院困難患者を早期に抽出した後に「栄養サポートチーム(NST)、栄養指導・摂食機能療法などのチーム医療に繋げ、骨太な退院支援を心がけてほしい」と提案しています。
ただし、在院日数の短縮は病床稼働率を下げることにもつながりかねません。ここで湯浅は、手術件数の増加を検討することも提案。具体的には(1)内部業務改善(2)患者の確保(3)執刀医の確保(4)枠の確保(5)手術件数の増加―という順を追っていくことが重要と指摘しています。
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