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「時間外労働の上限」の超過は、応召義務を免れる「正当な理由」になるのか―医師働き方改革検討会(2)

2018.9.6.(木)

 メディ・ウォッチでもお伝えしているとおり、医師の働き方改革に向けては、(1)タスクシフトや患者の受診の仕方など「今後目指していくべき医療提供の姿」(2)応召義務など「医療の特殊性」(3)宿日直の取扱いや時間外労働の上限など「制度」—という3分野の議論を併行的・総合的に進めていくことになっています。

 9月3日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)では、(1)のタスクシフトや、(2)の応召義務について、関係学会や有識者を招き、構成員との意見交換も行われました。

9月3日に開催された、「第9回 医師の働き方改革に関する検討会」

9月3日に開催された、「第9回 医師の働き方改革に関する検討会」

 

「時間外労働上限」と「応召義務」との関係を、研究班で整理

 医師法第19条第1項では「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合、正当な事由がなければ拒んではいけない」旨が規定されています。これがいわゆる「応召義務」であり、一般の労働者と異なる「働き方改革の難しさ」の要因の1つとなっています。

もちろん法文にあるように「正当な理由」があれば、勤務医が診療を断ることも可能で、三谷和歌子参考人(弁護士)は、旧厚生省通知や裁判例などから、「正当な理由」を次のように整理しました。通常診療では「医師を過剰労働から解放する」ために、比較的広範に「正当な理由」を認める一方で、救急診療では「患者の生命」を重んじ、極めて狭く限定していることが分かります。

【全般】「社会通念」によって判断する
▼通常診療:「患者の迷惑行為」や「度重なる医療費不払い」など
▼救急診療:事実上不可能に限定

検討会で論点となるのは、「医師にも罰則付きの『時間外労働の上限』が設けられるが、『時間外労働が上限を超えている』ことが、『正当な理由』に該当するか、どうか」という点です。

三谷参考人は、法解釈上「時間外労働が上限を超過していることは、正当な理由に該当しうる」可能性を指摘しましたが、「それが正しい解釈であろうか」と疑問を提示。自身もメンバーとなっている厚労省の「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈についての研究」班において、「時間外労働の上限規制」と「応召義務」との関係を詳しく整理していく必要性を強調しました。次回以降の検討会に、研究結果が報告される予定です。

法規や裁判例などからは、「時間外労働」上限規制は、診療を断る「正当事由」に該当する可能性がある(応召義務違反とならない)が、この解釈でよいのか、両者の調整を考えていく必要がある

法規や裁判例などからは、「時間外労働」上限規制は、診療を断る「正当事由」に該当する可能性がある(応召義務違反とならない)が、この解釈でよいのか、両者の調整を考えていく必要がある

 

タスクシフトに向け、「多職種の養成」や「病院の集約化」などが重要論点に

 また(1)のタスクシフトについては、日本外科学会と日本麻酔科学会から具体的な提案・提言が行われました。

 医師について「時間外労働の上限」を決めたとしても、医師の業務内容・量が現在とまったく変わらないのであれば、その上限は画餅に帰してしまうでしょう。そこで、「医師でなくても遂行・実施可能な業務は、できる限り他職種に移管していく」タスクシフトが必須とされているのです。医師働き方改革の重要な指針の1つとなっている「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の報告書でも、タスクシフトの重要性が強く指摘されています(関連記事はこちら)。

 この点、日本外科学会では、外科医においては、若手の時期に一定の手術症例を経験し「腕を磨く」ことが重要であり、手術以外の業務について「抜本的なタスクシフト」を実施する必要があると強調(特定行為研修制度では十分なタスクシフトができない)。ただし、同時に、業務を移管可能な「他職種の育成・教育」の重要性を指摘しています。医療の質低下は決して許されないためです。

 さらに、症例数確保などのために「施設の集約化」の必要性も指摘しました。グローバルへルスコンサルティング・ジャパン(GHC)と米国メイヨークリニックやスタンフォード大学との共同研究では、「症例数と医療の質(例えば医療安全)は相関する」ことが明らかになっており、外科学会の提言は極めて重要なものと言えます(関連記事はこちら)。

膝関節置換術において、症例数と合併症発生率との間には逆相関がある

膝関節置換術において、症例数と合併症発生率との間には逆相関がある

 
また、日本麻酔科学会では、個々の麻酔医に係る負担を軽減するために、多職種が協働・役割分担をする「周術期管理チーム」の創設を推進しています(今年(2018年)4月1日時点で、看護師1672名、薬剤師113名、臨床工学技士8名が、周術期管理チームとして学会からの認定を受けている)。

周術期管理チームの導入によって、麻酔科医の負担軽減はもちろん、「術後合併症の減少」などの医療の質向上、「早期離床、早期退院」などの医療経済的メリットも大きいと言います。例えば東邦大学医学部附属大森病院では、周術期管理チームの導入によって、▼患者の高齢化や麻酔困難化が進む中での予定手術件数の増加(導入前(2011年度)→導入後(2016年度)の比較で8.7%増加)▼平均在院日数の短縮(同2.4日短縮)▼術後入院日数の短縮(同1.7日減)—という成果が上がっています。手術件数の増加は、収益にもダイレクトに関連しますし、平均在院日数の短縮等は、医療の質向上はもちろん、診療密度の向上といった経営面への効果もあります。

周術期管理を、多職種で実施することで、麻酔医の負担が軽減すると考えられる

周術期管理を、多職種で実施することで、麻酔医の負担が軽減すると考えられる

東邦大学大森病院では、周術期管理チームの導入後、手術件数が増加や在院日数短縮などの成果が出ている

東邦大学大森病院では、周術期管理チームの導入後、手術件数が増加や在院日数短縮などの成果が出ている

 
麻酔科学会では、この周術期管理チームをさらに推進するために、「周術期診療の臨床能力を持つ医療職種」の養成制度の創設などを強く要望しました。

 
こうしたタスクシフトの重要性は、検討会の構成員も同じ認識で、推進方向性には異論でていません。もっとも、「業務を移管される多職種(例えば看護師)側も、既に多忙である」(城守国斗構成員:日本医師会常任理事)、「業務を移管可能な職種の養成や雇用には費用がかかる。余力のある病院だけが恩恵を受けられるという仕組みは好ましくない。全国の多くの病院にすぐれた多職種がいきわたるようにすべきであろう」(裵英洙構成員:ハイズ株式会社代表取締役社長)といった注文が出ており、今後、より深い議論に入っていきます。

 
ところでタスクシフトに向けてハードルの1つとして「患者の意識」があげられます。例えば、医師からの説明1つをとっても「主治医自ら説明してほしい。しかし、私(患者の家族)は仕事があるので、夜の9時に説明の時間をとってほしい」などと要望するケースは、そう珍しくはありません。これを「主治医以外の、チームに所属する医師等の説明でよい」(これも重要なタスクシフトの1つ)と患者が意識を変えることが重要となるのです。厚労省は、「患者の医療のかかり方」に関する懇談会を近く設置する予定を明らかにしています。
医師働き方改革検討会(1)の1 180903
 
 
病院ダッシュボードχ 病床機能報告MW_GHC_logo

 

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