大腸内視鏡検査における「TXI観察法」で、ポリープや「見逃しがん」リスクとなる平坦型病変の発見率が向上、死亡率減少に期待—国がん
2025.8.7.(木)
大腸内視鏡検査において、従来の「通常光観察法」に比べて、新たな画像強調内視鏡技術である「TXI観察法」を用いることで、ポリープ発見率や、特に「見逃しがん」のリスクと考えられている「平坦型病変」の発見率が高くなる。大腸がんの早期発見による死亡率減少が期待できる—。
国立がん研究センターが7月25日に、こうした研究成果を公表しました(国がんのサイトはこちらとこちら)。
もっとも検査を受けなければこうした最新技術の恩恵を受けることはできません。国がんは、「早期発見のためには検診が重要で、毎年、便潜血検査による大腸がん検診が行われている」「検診で異常が認められた場合には『内視鏡での精密検査』が推奨されている。精密検査の必要ありとされた場合、必ず大腸内視鏡検査を受けてほしい」と強く国民に呼びかけています。
精密検査の必要がある場合は、必ず大腸内視鏡検査を受けてほしい
我が国では、大腸がんの罹患者・死亡者が年々増加しており、2023年の「人口動態統計月報年計(概数)」を見ると、死亡数も年間5万3000人超と、全がん種で2番目に多くなっています(関連記事はこちら)。
また我が国は、先進諸国の中で「大腸がんによる死亡者数が最も多い国」となっており、国がんでは「まず住民検診、職域検診、人間ドックなどに分かれているがん検診データを集約・解析し、▼厳密に精度管理が行われた体制での大腸がん検診の実施▼検診受診率・精密検査受診率の向上—を実現しなければならない」と提言しています(関連記事はこちら)。
本邦では、40歳以上の人に対して「便潜血検査による毎年の大腸がん検診」が行われています。ここで異常が認められた場合には「内視鏡での精密検査」が推奨されています。

我が国の大腸がん検診制度(2025年度時点)
大腸内視鏡検査には、▼大腸がんを早期発見できる▼大腸がんの前段階である前がん病変(ポリープ)を発見し取り除くことで、大腸がんを発症するリスクや大腸がんにより亡くなるリスクを低減できる—というメリットがあります。この点、「病変発見率の高い内視鏡を受ける」ことが重要で、特に「右側結腸の平坦型病変は『見逃しがん』のリスク因子である」ことが報告されています。
このため病変発見率の向上が重視され、これまでにも「下剤による前処置」「病変発見支援のAI機器を用いる」等の工夫がなされています。さらに、新たな病変発見技術として「TXI観察法」に注目が集まっています。
TXI観察法は、通常光の情報に基づいて、内視鏡画像の「明るさ補正」、「テクスチャー強調」、「色調強調」の3要素を最適化する新しい観察法で、腸管の奥行まで明るくし、「画像上のわずかな構造の変化や色調の変化を視認しやすくする」→「スクリーニング検査時における病変の観察性能が向上する」ことが期待されています。

TXI観察技術では、より鮮明な内視鏡画像を得られる
国がんでは今般、「TXI観察法」と、従来法である「通常光観察法」との比較試験を行いました。
【登録期間】
2023年5-10月
【登録症例】
参加施設(下記)においてスクリーニング、便潜血陽性、大腸ポリープ切除後、消化管症状の精査などを目的に大腸内視鏡検査を受けた症例
(参加施設)
・国立がん研究センター中央病院(東京都)
・筑波大学附属病院(茨城県)
・国立がん研究センター東病院(千葉県)
・静岡県立静岡がんセンター(静岡県)
・昭和大学横浜市北部病院(神奈川県)
・東京慈恵会医科大学附属病院(東京都)
・群馬大学医学部附属病院(群馬県)
・東邦大学医療センター大森病院(東京都)
【登録数】
下記6項目を用いて2群(TXI観察法群/通常光観察法群)に層別ランダム化し、956人を登録(TXI観察法群/通常光観察法群に半数ずつ登録)
・年齢(65歳未満および65歳以上)
・性別
・家族の大腸がんの罹患歴
・大腸内視鏡検査目的
・内視鏡検査を行った医師が日本消化器内視鏡学会専門医資格を有しているか否か
・実施施設
【解析項目】
(主)大腸腫瘍性病変の発見におけるTXI 観察法の有効性を、「腫瘍性病変発見数」を用いて、通常光観察法と比較して検証する
(副)大腸腺腫発見率、ポリープ発見率、平坦型病変発見率、Sessile serrated lesion(SSL、右側結腸に好発する鋸歯状病変で、大腸がんの一因と感がられている)発見率
【観察研究方法】
同意が得られた患者を「TXI観察法」と「通常光観察法」とにランダムで割り付けて大腸内視鏡検査を実施。内視鏡検査時に発見したポリープに対して治療を行い、切除した検体を用いて病理診断した結果を集計し、データ分析
この研究からは、次のような結果が得られました。
▽TXI観察法と通常光観察法とで、主解析項目の「腫瘍性病変発見数」には統計学的な有意差は認められなかった
▽副次的解析項目である「ポリープ発見率」や「平坦型病変発見率」は、TXI観察法のほうが高かった
▽副次的解析項目である「SSL発見率」も、TXI観察法のほうが高かった
→SSLは大腸腺腫と同様に内視鏡切除が必要となる

TXI観察法ではポリープ発見率などが高い
国がんでは、主解析項目の「腫瘍性病変発見数」に有意差が認められなかった背景について、「参加8施設すべてが最新の内視鏡システムを使用しており、専用モニターを用いることで4K高画質化が可能なことから、従来法である通常光観察法でもより鮮明な内視鏡画像を観察し、高い腫瘍性病変発見率が示された可能性がある」とコメントしています。
もっとも、今回の研究により「新規技術であるTXI観察法により内視鏡画像の画質が向上し、ポリープ発見率や「見逃しがん」のリスクとなる平坦型病変発見率が向上する」ことが確認されています。
大腸内視鏡検査においてポリープや病変の見逃しがあれば、その後の大腸がん発生にも影響が出ることから、「大腸内視鏡検査の画像技術が向上する」→「より多くの腫瘍性病変が大腸内視鏡検査で発見できる」→「大腸がんの死亡率が減少する」と期待されます。
国がんでは、「今後も全国の内視鏡専門医と協力し研究を進め、大腸がんの早期発見・早期治療、死亡率低下に貢献する」考えを強調しています。
もっとも、こうした最新技術の恩恵を受けるためには、まず「検査を受ける」ことが必要ですが、我が国では「大腸がんについては精密検査受診率が低い」という課題もあります。このために国がんは、国民に対して「大腸がんは、早期であれば内視鏡による発見と切除で根治が望める。早期発見のためには検診が重要で、日本においては40歳以上での便潜血検査による毎年の大腸がん検診が行われ、異常を認めた場合には『内視鏡での精密検査』が推奨されている。精密検査の必要がある場合は、必ず大腸内視鏡検査を受けてほしい」と強く呼びかけています。

我が国では大腸がん検診の精密検査受診率が低い
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