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大腸がんの罹患数・死亡数低下に向け、まず住民検診、職域検診、人間ドック等に分かれている「がん検診データ」を集約し実態把握を—国がん

2025.3.28.(金)

我が国は、先進諸国の中で「大腸がんによる死亡者数が最も多い国」となっている。こうした状況を改善するために、まず住民検診、職域検診、人間ドックなどに分かれている「がん検診データ」を集約・解析し、▼厳密に精度管理が行われた体制での大腸がん検診の実施▼検診受診率・精密検査受診率の向上—を実現しなければならない—。

国立がん研究センターが3月27日に大腸がん対策を推進するための「大腸がんファクトシート」を公開し、こうした考えを明らかにしました(国がんのサイトはこちら(プレスリリース)こちら(大腸がんファクトシート)こちら(大腸がんファクトシートプロジェクト))。

大腸がん内視鏡検査のがん検診としての実施、現在、有効性検証研究が走っている

我が国では、大腸がんの罹患者・死亡者が年々増加しており、2023年の「人口動態統計月報年計(概数)」を見ると、男女ともに「もっとも死者数の多いがん種」になっています(関連記事はこちら)。

こうした罹患者・死亡者の原因の1つとして「1992年より実施されている便潜血検査(対策型検診)が、同様の検診を行っている他国と比較して十分な効果を発揮していない」ことを国がんは指摘します。

がん検診については「国内で統一され、一元管理される」ことが理想ですが、我が国では▼様々な検診(住民検診、職域検診、人間ドックなど)がバラバラに実施されている▼自治体の実施する住民検診「以外」は法的根拠がなく(エビデンスに基づかない検診も行われている)、データも公表がされていない—ことなどにより、「検診の全体像」が把握できていません。この課題は、厚生労働省のがん検診の在り方に関する検討会でも、繰り返し指摘されています。さらに検診受診率も十分ではなく、2023年度の地域保健・健康増進事業報告では、大腸がん検診(自治体による住民検診)の受診率は全体で6.8%にとどまり、10%未満の自治体が56.7%を占めていることなどが明らかにされています。

国がんではこうした状況を改善するために、大腸がんに関する知見と今後の方策をまとめた「大腸がんファクトシート」を作成。とくに「大腸がん検診の問題点」を議論し、今後取り組むべき課題を明らかにしており、今後の「大腸がん検診の改善」に活かされることが期待されます。

「大腸がんファクトシート」は、次の6章で構成されています。
(1)大腸がんの病態(大腸の解剖、大腸がんの病態(定義・症状・肉眼型・病理)、発がんメカニズム、病期分類と予後)
(2)日本の大腸がん罹患・死亡の動向(現状、推移、諸外国との比較、将来推計)
(3)大腸がんのリスク(生活習慣に関連する要因、その他の要因)
(4)大腸がん検診(検診の有効性評価、検診プログラムと精度管理、職域における大腸がん検診の現状と課題)
(5)大腸がんの治療(治療戦略の概要、内視鏡治療とサーベイランス、外科治療とサーベイランス、薬物療法/放射線療法)
(6)今後の方策

このうち(2)日本の大腸がん罹患・死亡の動向の「諸外国との比較」では、▼我が国は、1980年代には米国等と比べて死亡率は低かったが、その後上昇し、1990年度には諸外国と同水準となった▼その後、男女ともに死亡率は減少しているが、諸外国よりも減少ペースが鈍く、結果、直近では先進諸国の中で「大腸がんによる死亡率が最も高い国」となった—ことなどが紹介されています。

大腸がん年齢調整死亡率の国際比較(75歳以上、男性)(大腸がんファクトシート1 250327)

大腸がん年齢調整死亡率の国際比較(75歳以上、女性)(大腸がんファクトシート2 250327)



また(3)大腸がんのリスクでは、日本人では▼「喫煙」「飲酒」が「確実」な大腸がんのリスク因子である▼「肥満」「高身長」が「ほぼ確実」な大腸がんのリスク因子である—こととともに、「身体活動によって大腸がんのリスクを下げられる可能性がある」ことを明らかにしました。ほかにも、「加工肉、赤身肉の摂取は大腸がんの発症を高めるリスクとなりうる」、「コーヒー、食物繊維、カルシウム、魚由来の不飽和脂肪酸の摂取は大腸がんの発症を下げる可能性がある」ことも示しています。

大腸がんのリスク因子(大腸がんファクトシート3 250327)



他方、(4)の大腸がん検診では、「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版において、▼「便潜血検査免疫法」がグレードA(利益:あり、不利益:中等度以下)として対策型、任意型の両方の検診で推奨されている▼「全大腸内視鏡検査」は現時点ではグレードC(利益:あるが、証拠の信頼性は低い、不利益:あり)として対策型検診では推奨されず、任意型検診として十分な情報共有のもと個人の判断に委ねて行う—とされていることを明確化しています。後者の「全大腸内視鏡検査」を検診として行った場合の有効性については、現在複数の大規模試験が進んでおり、その結果に注目が集まります。

大腸がん検診の推奨グレード(大腸がんファクトシート4 250327)



さらに(6)の今後の方策では、次のような提言がなされています。
▽大腸がんの1次予防
→日本人は、体質や生活習慣が海外諸国と異なる
→「日本独自の研究」の一層の発展により「日本人に最適な大腸がんの予防法」を確立する必要がある

▽大腸がんの2次予防(検診、関連記事はこちら
→受診率・精検受診率の向上
→「実施主体に左右されない、全国統一プログラムによる検診」の実施
→有効性の証明された受診勧奨の強化
→便潜血検査の精度管理(検査キットの統一、カットオフ値の標準化)
→がん検診の意義に関する国民、検診従事者、医療者それぞれへの情報提供
→職域検診に対する精度管理の導入とそのための法整備

▽大腸内視鏡検診導入における課題の解決
→現在進行中の大規模試験による有効性の証明
→大腸内視鏡検査の処理能力の把握
→検診対象者の条件設定
→偶発症の頻度調査
→診療と検診の明確な棲み分け
→PHR(Personal Health Record)を活用した検査歴、検診受診歴の把握



国がんでは、「大腸がんの罹患数・死亡数を減らすには、▼厳密に精度管理が行われた体制での大腸がん検診の実施▼検診受診率・精密検査受診率の向上—が必要であると指摘し、まず「住民検診、職域検診、人間ドックなどに分かれているデータを集約し、全国レベルで現状を把握する方法を確立する」ことが重要であると強調します。厚生労働省のがん検診の在り方に関する検討会でも、たびたび指摘されている論点であり、今後の研究・検討に期待が集まります。

また、注目される「大腸内視鏡検査」については、「がん検診としての有効性」検証が進んでいますが、「有効である→がん検診として実施する」ことになった場合に備えて、▼対象者▼処理能力▼精度管理▼安全性▼検査歴—などの検討も今から進めておくことが必要と提案しています。



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