2021年、がん新規登録数はコロナ禍前水準に戻りつつある!ただし胃がんは回復せず背景分析が待たれる―国がん
2023.2.15.(水)
2020年には、新型コロナウイルス感染症が大流行したことも影響し「がんの新規登録数」が減少したが、2021年に入ると新規登録件数は回復してきている—。
ただし、「胃がん」については減少したままであり(2019年と21年を比べると男性で8.0%減、女性で7.8%減)、その背景分析が待たれる―。
国立がん研究センター(国がん)が2月14日に公表した「がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2021年全国集計報告書」から、こうした状況が明らかになりました(国がんのサイトはこちら(プレスリリース、概要)とこちら(詳細、都道府県別・個別病院別のデータを掲載))(2020年全国集計に関する記事はこちら)。
2021年に入り、がん新規登録(=診断)の状況はコロナ禍前の水準に戻りつつあるが・・・
「がん診療連携拠点病院等院内がん登録全国集計」は、院内がん登録のデータを集計し、▼がんの種類▼進行度(病期)▼治療の分布―を把握することで、国や都道府県のがん対策に役立てること等を目的とした調査です。2007年にがん診断が行われた症例から集計が行われ、今回は2021年にがんと診断された109万9864件(870施設(がん診療連携拠点病院453施設、小児がん拠点病院6施設、都道府県推薦病院340施設、任意でデータを提出した病院71施設))を対象に分析が行われました。また、後述するように今回は2018-21年の登録症例を対象にした特別集計も行われています。
まず、2021年の登録症例についての分析結果を見てみましょう。
がん診療連携拠点病院等における▼胃がん▼大腸がん▼肝臓がん▼肺がん▼前立腺がん▼乳がん―の登録数と年次推移(2010年から21年の診断)を見てみると、次のような状況が分かりました。
【胃】
●男性
▽2010年:4万6147→▽2011年:4万7772→▽2012年:5万562→▽2013年:5万2807→▽2014年:5万2702→▽2015年:5万3839→▽2016年:5万3195→▽2017年:5万2988→▽2018年:5万2585→▽2019年:5万3238→▽2020年:4万7220→▽2021年:4万8963
●女性
▽2010年:1万9384→▽2011年:2万156→▽2012年:2万1138→▽2013年:2万2458→▽2014年:2万2619→▽2015年:2万3045→▽2016年:2万2667→▽2017年:2万2766→▽2018年:2万2226→▽2019年:2万3237→▽2020年:2万337→▽2021年:2万1415
【大腸】
●男性
▽2010年:4万4066→▽2011年:4万6959→▽2012年:5万445→▽2013年:5万4601→▽2014年:5万6712→▽2015年:5万9678→▽2016年:5万9405→▽2017年:6万627→▽2018年:6万1372→▽2019年:6万4569→▽2020年:6万188→▽2021年:6万3801
●女性
▽2010年:2万9208→▽2011年:3万1528→▽2012年:3万3691→▽2013年:3万6929→▽2014年:3万7884→▽2015年:4万121→▽2016年:4万444→▽2017年:4万744→▽2018年:4万1104→▽2019年:4万4229→▽2020年:4万1786→▽2021年:4万4841
【肝臓】
●男性
▽2010年:1万6929→▽2011年:1万7178→▽2012年:1万6749→▽2013年:1万7266→▽2014年:1万7036→▽2015年:1万7148→▽2016年:1万6731→▽2017年:1万6561→▽2018年:1万7092→▽2019年:1万7386→▽2020年:1万6826→▽2021年:1万7013
●女性
▽2010年:7468→▽2011年:7534→▽2012年:7397→▽2013年:7394→▽2014年:7234→▽2015年:5514→▽2016年:7020→▽2017年:6673→▽2018年:6637→▽2019年:6779→▽2020年:6437→▽2021年:6441
【肺】
●男性
▽2010年:4万3736→▽2011年:4万5799→▽2012年:4万7585→▽2013年:5万255→▽2014年:5万1420→▽2015年:5万3074→▽2016年:5万4207→▽2017年:5万6353→▽2018年:5万7463→▽2019年:6万1272→▽2020年:5万9239→▽2021年:6万1370
●女性
▽2010年:1万9345→▽2011年:2万369→▽2012年:2万1608→▽2013年:2万2762→▽2014年:2万3988→▽2015年:2万5078→▽2016年:2万6291→▽2017年:2万7471→▽2018年:2万8308→▽2019年:3万571→▽2020年:2万8994→▽2021年:3万1034
【前立腺】
●男性
▽2010年:4万2256→▽2011年:4万7874→▽2012年:4万8341→▽2013年:5万527→▽2014年:5万846→▽2015年:5万5424→▽2016年:5万3916→▽2017年:5万7111→▽2018年:5万9705→▽2019年:6万3846→▽2020年:5万9938→▽2021年:6万5158
【乳房】
●女性
▽2010年:5万4231→▽2011年:5万7148→▽2012年:6万309→▽2013年:6万4552→▽2014年:6万6069→▽2015年:7万1216→▽2016年:7万2231→▽2017年:7万2397→▽2018年:7万5173→▽2019年:8万2445→▽2020年:7万89454→▽2021年:8万5336
2020年には新型コロナウイルス感染症に伴う「受診控え」などにより「登録数の減少」が目立ちましたが、21年になると感染対策の充実などが周知され、登録数は回復してきているように見えます。
ただし「胃がん」では新規登録者が低調なことが分かります。2019年→21年の増減率を見ると、▼胃がん(男性8.0%減、女性7.8%減)▼大腸がん(男性1.2%減、女性1.4%増)▼肝臓がん(男性2.1%減、女性5.0%減)▼肺がん(男性0.2%増、女性1.5%増)▼男性前立腺がん2.1%増▼女性乳がん3.5%増—という状況です。
この点は厚生労働省の「がん検診の在り方に関する検討会」でも注目され、例えば「コロナ感染防止のために内視鏡検査(胃カメラ)を控えるケースがあるのではないか」「胃がんの重要原因の1つであるヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)対策が進み、胃がん罹患が減少しているのではないか」などさまざまな推測がなされています。今後の研究分析に期待が集まります(関連記事はこちら)。
また「2020年の発見遅れ」が「2021年の発見増」に跳ね返っている(通常よりも大幅な増加につながっている)状況は今のところ見られていません。
国がんでは、新規登録者数とコロナ感染症の流行状況とを月別に比較したうえで、「初回の緊急事態宣言は登録数の減少と関係が予測されるが、その後は『緊急事態宣言の発出中に登録数が減少する』状況にはない。新規がん登録数の減少は単一の原因ではなく、その時期によって様々な原因が複合して影響していた」(つまり、単純にコロナによる受診控えと捉えることはできない)と見ています。
2021年と19年を比較すると、検診での発見・検診以外での発見・治療法に若干の変化
また、今回の分析では、2018-21年の4年間をとおして院内がん登録データの提出があった786施設(拠点病院449施設、小児拠点6施設、推薦病院・任意病院331施設)における414万8502症例を対象にした特別集計・特別分析も行われています。そこからは次のような点が明らかになりました。
▽新規登録者数は、2018-19年平均と比べて、20年には4.1%減少、21年には1.1%増加している
▽検診でのがん発見例は、2018-19年平均と比べて、20年には13.3%減少、21年には1.3%減少している
▽一方、検診以外でのがん発見例(非検診発見例)は、同じく2018-19年平均と比べて、2020年には2.2%減少、21年には2.0%増加している
▽2021年診断例について治療方法をコロナ禍前の2019年と比較すると次のような状況である
▼外科的・鏡視下治療:2.1%減
▼内視鏡的治療:2.6%減
▼放射線治療:1.7%増
▼化学療法:1.1%増
▼内分泌療法:2.3%増
今後もさらなる分析・研究を行い「新興感染症蔓延時にも継続して良質ながん医療を受けられる」体制の整備などにつなげていくことに期待が集まります。
【関連記事】
がん検診が「適切に実施されているか」を担保するための基準(プロセス指標)を科学的視点に立って改訂—がん検診あり方検討会(4)
市町村による子宮頸がん・乳がん検診の受診率向上に向け、SNS活用・学校や民間事業者との連携等進めよ—がん検診あり方検討会(3)
職域で行われるがん検診、「子宮頸がん・乳がんがオプション」設定で受診のハードルに!早急な改善を!—がん検診あり方検討会(2)
コロナ禍でも「がん検診」実施状況は回復してきているが、「がん登録」「がん手術」等で実施状況の回復に遅れ―がん検診あり方検討会(1)
コロナ禍のがん検診は「住民検診」で落ち込み大、精検含め受診状況の迅速な把握を―がん検診あり方検討会(1)
コロナ感染症で「がん検診の受診控え」→「大腸がん・胃がん手術症例の減少」が顕著―がん対策推進協議会(1)
胆道がんの手術後標準治療は「S―1補助化学療法」とすべき、有害事象少なく、3年生存率も高い―国がん・JCOG
血液検体を用いた遺伝子検査(リキッドバイオプシー)、大腸がんの「再発リスク」「抗がん剤治療の要否」評価に有用―国がん・九大
千葉県の国がん東病院が、山形県鶴岡市の荘内病院における腹腔鏡下S状結腸切除術をオンラインでリアルタイム支援―国がん
抗がん剤治療における薬剤耐性の克服には「原因となる融合遺伝子を検出し、効果的な薬剤使用を保険適用する」ことが必要—国がん
2cm以上でも転移リスクの少ない早期大腸がんでは、「内視鏡的粘膜下層剥離術」(ESD)を治療の第1選択に—国がん
開発中の「血液がん用の遺伝子パネル検査」、診断や予後の予測でとくに有用性が高い—国がん
BRCA1/2遺伝子変異、乳・卵巣・膵・前立腺がん以外に、胆道・食道・胃がん発症リスク上昇に関連―国がん等
乳がんの生存率、ステージゼロは5年・10年とも100%だがステージIVは38.7%・19.4%に低下、早期発見が重要―国がん
全がんで見ると、10生存率は59.4%、5年生存率は67.3%、3年生存率は73.6%―国がん
2020年のコロナ受診控えで「がん発見」が大幅減、胃がんでは男性11.3%、女性12.5%も減少―国がん
「オンライン手術支援」の医学的有用性確認、外科医偏在問題の解消に新たな糸口―国がん