乳がんの生存率、ステージゼロは5年・10年とも100%だがステージIVは38.7%・19.4%に低下、早期発見が重要―国がん
2021.12.27.(月)
がんの5年生存率・10年生存率は部位・ステージにより違いがあるが、概ね「早いステージ」でがんと診断された症例ほど5年生存率・10年生存率が高い―。
例えば、乳がんではステージゼロでは5年生存率・10年生存率ともに「100.0%」であるが、ステージIVになると5年生存率は38.7%、10年生存率は19.4%に低下してしまう―。
早期発見・早期治療の重要性を再確認でき、新型コロナウイルス感染症が流行する中でも、感染対策を十分に講じたうえでがん検診等を適切に受けることが重要である—。
国立がん研究センターが12月24日に公表した「全院内がん登録2009年10年生存率、2013-14年5年生存率集計」から、このような状況が明らかとなりました(国がんのサイトはこちらとこちら、院内がん登録生存率集計結果閲覧システムはこちら)(関連記事はこちら)。
ステージIからIIIまでの前立腺がん、ステージゼロの乳がんでは5年生存率100%
国がんでは、従前から全国がんセンター協議会(全がん協)と協力して、32の加盟施設(国がん中央病院、がん研有明病院、岩手県立中央病院、九州がんセンターなど)における診断治療症例について「5年生存率」を発表しています。
また2016年1月からは、がん研有明病院、岩手県立中央病院など21施設のデータをもとにした「10年生存率」も公表しています(関連記事はこちらとこちら)。
今般、2013-14年にがんの診断治療を行った87万85381症例を対象として「5年相対生存率」を、2009年に診断治療を行った29万3860症例を対象として「10年相対生存率」を推計しました。症例数の多さを見れば、結果の信頼性の高さが分かります。
相対生存率とは、がん以外の死因(極端に言えば交通事故など)によって死亡する確率を補正した生存率を意味し、「実測生存率」(死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率)÷「対象者と同じ性・年齢分布をもつ日本人の期待生存確率」で計算されます。以下の「生存率」はすべて相対生存率をさします。
まず5年生存率について見てみましょう。
全部位・全臨床病期の5年生存率は67.5%でした。「2012年-13年」にがんと診断された人の5年生存率は67.3%でしたので、「0.2ポイント向上している」と見ることもできますが、中長期的に評価していくことが重要です。
部位別(全臨床病期)に見ると、次のような状況です。がん種・ステージによって増減がありますが、やはり「中長期的な評価」が必要となります。
【胃がん】
▼全体:72.4%(2012・13診断症例に比べて0.3ポイント向上)▼ステージI:96.0%(同増減なし)▼ステージII:69.6%(同0.4ポイント向上)▼ステージIII:42.3%(同0.4ポイント向上)▼ステージIV:6.2%(同0.1ポイント低下)
【大腸がん】
▼全体:72.5%(同0.1ポイント低下)▼ステージゼロ:97.6%(同0.3ポイント向上)▼ステージI:94.5%(同0.1ポイント低下)▼ステージII:88.4%(同0.6ポイント低下)▼ステージIII:77.3%(同0.2ポイント低下)▼ステージIV:18.7%(同0.1ポイント低下)
【肝細胞がん】
▼全体:45.5%(同1.8ポイント向上)▼ステージI:63.7%(同0.8ポイント向上)▼ステージII:46.0%(同0.6ポイント向上)▼ステージIII:16.1%(同0.2ポイント向上)▼ステージIV:4.2%(同0.3ポイント低下)
【肝内胆管がん】
▼全体:20.6%(同1.7ポイント向上)▼ステージI:58.9%(同2.0ポイント向上)▼ステージII:34.6%(同1.7ポイント向上)▼ステージIII:24.2%(同1.2ポイント向上)▼ステージIV:5.6%(同増減なし)
【小細胞肺がん】
▼全体:11.6%(同0.1ポイント低下)▼ステージI:44.7%(同2.5ポイント低下)▼ステージII:31.2%(同0.1ポイント低下)▼ステージIII:17.9%(同0.2ポイント向上)▼ステージIV:1.9%(同0.1ポイント低下)
【非小細胞肺がん】
▼全体:47.7%(同0.9ポイント向上)▼ステージゼロ:96.3%(同1.6ポイント向上)▼ステージI:84.1%(同0.2ポイント向上)▼ステージII:54.4%(同0.3ポイント向上)▼ステージIII:29.9%(同1.5ポイント向上)▼ステージIV:8.1%(同0.7ポイント向上)
【女性乳がん】
▼全体:92.2%(同0.1ポイント低下)▼ステージゼロ:100.0%(同増減なし)▼ステージI:99.8%(同0.1ポイント向上)▼ステージII:95.5%(同増減なし)▼ステージIII:80.7%(同0.1ポイント向上)▼ステージIV:38.7%(同1.5ポイント向上)
【食道がん】
▼全体:47.7%(同0.2ポイント向上)▼ステージゼロ:91.2%(同0.1ポイント低下)▼ステージI:78.7%(同0.1ポイント低下)▼ステージII:50.8%(同0.5ポイント低下)▼ステージIII:26.9%(同0.1ポイント低下)▼ステージIV:8.6%(同0.6ポイント低下)
【膵臓がん】
▼全体:12.5%(同0.6ポイント向上)▼ステージゼロ:85.1%(同3.1ポイント低下)▼ステージI:51.8%(同1.6ポイント低下)▼ステージII:22.9%(同0.7ポイント向上)▼ステージIII:6.8%(同0.7ポイント向上)▼ステージIV:1.4%(同0.1ポイント低下)
【前立腺がん】
▼全体:98.4%(同0.1ポイント向上)▼ステージI:100.0%(同増減なし)▼ステージII:100.0%(同増減なし)▼ステージIII:100.0%(同増減なし)▼ステージIV:63.4%(同0.9ポイント向上)
【子宮頸がん】
▼全体:75.1%(同0.1ポイント低下)▼ステージゼロ:95.3%(同4.7ポイント低下)▼ステージI:95.6%(同0.2ポイント低下)▼ステージII:79.6%(同0.4ポイント低下)▼ステージIII:64.7%(同0.4ポイント低下)▼ステージIV:26.0%(同0.8ポイント向上)
【子宮内膜がん】
▼全体:84.2%(同0.2ポイント低下)▼ステージI:95.5%(同増減なし)▼ステージII:88.9%(同0.5ポイント低下)▼ステージIII:68.1%(同0.1ポイント低下)▼ステージIV:22.1%(同0.5ポイント低下)
【膀胱がん】
▼全体:66.2%(同0.6ポイント低下)▼ステージゼロ:96.2%(同0.9ポイント低下)▼ステージI:86.4%(同増減なし)▼ステージII:57.0%(同1.5ポイント低下)▼ステージIII:43.1%(同0.2ポイント低下)▼ステージIV:19.3%(同0.2ポイント低下)
【甲状腺乳頭濾胞がん】
▼全体:97.5%(同0.2ポイント向上)▼ステージI:98.9%(同0.2ポイント低下)▼ステージII:100.0%(同0.9ポイント向上)▼ステージIII:100.0%(同0.2ポイント向上)▼ステージIV:91.1%(同0.6ポイント向上)(未分化の場合には全体で6.3(同1.8ポイント低下)、ステージIVで6.6%(同1.3ポイント低下)、髄様の場合には全体で95.9(同1.1ポイント向上))
【喉頭がん】
▼全体:80.9%(同0.8ポイント低下)▼ステージゼロ:96.0%(同2.7ポイント低下)▼ステージI:96.5%(同1.3ポイント低下)▼ステージII:89.0%(同0.7ポイント向上)▼ステージIII:71.3%(同3.0ポイント低下)▼ステージIV:46.8%(同1.8ポイント向上)
【胆嚢がん】
▼全体:29.3%(同1.5ポイント低下)▼ステージゼロ:95.6%(同1.8ポイント低下)▼ステージI:93.2%(同0.2ポイント低下)▼ステージII:69.3%(同1.1ポイント低下)▼ステージIII:23.4%(同0.4ポイント低下)▼ステージIV:2.4%(同0.3ポイント低下)
【腎がん】
▼全体:82.7%(同0.7ポイント向上)▼ステージI:96.7%(同増減なし)▼ステージII:87.6%(同0.8ポイント向上)▼ステージIII:77.0%(同1.8ポイント向上)▼ステージIV:18.3%(同1.1ポイント向上)
【腎盂尿管がん】
▼全体:47.3%(同1.4ポイント低下)▼ステージゼロ:91.6%(同2.0ポイント向上)▼ステージI:82.8%(同2.2ポイント低下)▼ステージII:72.9%(同0.8ポイント向上)▼ステージIII:55.1%(同3.3ポイント低下)▼ステージIV:12.3%(同増減なし)
【卵巣がん】
▼全体:63.7%(同2.5ポイント向上)▼ステージI:90.8%(同0.2ポイント低下)▼ステージII:74.0%(同0.3ポイント向上)▼ステージIII:44.9%(同0.6ポイント向上)▼ステージIV:26.6%(同0.4ポイント低下)
「ステージが早ければ5年生存率が高い」ことが再確認でき、早期発見・早期治療の重要性を改めて認識できます。
ステージIの10年生存率、胃91.3%、大腸96.5%、乳(女性)99.0%に向上
次に10年生存率を見てみましょう。
全部位・全臨床病期の10年生存率は60.2%で、2007年診断症例の「60.1%」、2008年診断症例の「59.4%」と比べて向上しているように見えますが、やはり「中長期的な評価」が必要となる点に留意が必要です。
部位別(全臨床病期)では次のとおりです。
【胃がん】
▼全体:66.8%(2007・08年診断症例に比べて0.8ポイント向上)▼ステージI:91.3%(同0.4ポイント向上)▼ステージII:57.8%(同1.5ポイント向上)▼ステージIII:36.6%(同2.0ポイント低下)▼ステージIV:6.6%(同0.3ポイント低下)
【大腸がん】
▼全体:67.5%(同0.3ポイント向上)▼ステージゼロ:96.5%▼ステージI:92.6%(同1.0ポイント低下)▼ステージII:83.4%(同0.5ポイント低下)▼ステージIII:70.1%(同0.7ポイント向上)▼ステージIV:12.7%(同1.1ポイント向上)
【肝細胞がん】
▼全体:22.8%(同1.0ポイント向上)▼ステージI:34.5%(同1.1ポイント向上)▼ステージII:20.0%(同1.1ポイント向上)▼ステージIII:9.5%(同0.3ポイント向上)▼ステージIV:2.1%(同0.1ポイント低下)
【肝内胆管がん】
▼全体:10.4%(同0.5ポイント低下)▼ステージI:40.1%(同4.4ポイント向上)▼ステージII:24.5%(同5.6ポイント向上)▼ステージIII:5.4%(同2.7ポイント低下)▼ステージIV:0.7%(同0.7ポイント向上)
【小細胞肺がん】
▼全体:8.6%(同0.5ポイント低下)▼ステージI:33.8%(同1.9ポイント低下)▼ステージII:18.6%(同0.3ポイント低下)▼ステージIII:10.8%(同0.8ポイント向上)▼ステージIV:1.8%(同増減なし)
【非小細胞肺がん】
▼全体:35.0%(同0.5ポイント向上)▼ステージゼロ:64.2%▼ステージI:72.0%(同0.4ポイント低下)▼ステージII:35.0%(同0.2ポイント低下)▼ステージIII:14.2%(同07ポイント向上)▼ステージIV:2.2%(同0.2ポイント向上)
【女性乳がん】
▼全体:87.8%(同0.3ポイント低下)▼ステージゼロ:100.0%▼ステージI:99.0%(同0.1ポイント低下)▼ステージII:90.7%(同0.3ポイント向上)▼ステージIII:68.6%(同0.3ポイント向上)▼ステージIV:19.4%(同3.4ポイント向上)
【食道がん】
▼全体:34.2%(同0.6ポイント向上)▼ステージゼロ:79.7%▼ステージI:66.1%(同2.1ポイント低下)▼ステージII:38.6%(同1.2ポイント低下)▼ステージIII:19.1%(同0.3ポイント向上)▼ステージIV:7.7%(同1.9ポイント向上)
【膵臓がん】
▼全体:6.7%(同0.2ポイント向上)▼ステージゼロ:85.2%▼ステージI:35.1%(同0.3ポイント低下)▼ステージII:14.4%(同1.4ポイント向上)▼ステージIII:2.7%(同1.4ポイント低下)▼ステージIV:1.0%(同0.2ポイント向上)
【前立腺がん】
▼全体:100.0%(同1.3ポイント向上)▼ステージI:100.0%(同増減なし)▼ステージII:100.0%(同増減なし)▼ステージIII:100.0%(同増減なし)▼ステージIV:47.6%(同2.9ポイント向上)
【子宮頸がん】
▼全体:70.5%(同0.2ポイント向上)▼ステージゼロ:100.0%▼ステージI:93.1%(同0.2ポイント向上)▼ステージII:71.8%(同0.1ポイント低下)▼ステージIII:54.4%(同0.2ポイント低下)▼ステージIV:20.7%(同3.8ポイント向上)
【子宮内膜がん】
▼全体:17.6%(同65.4ポイント低下)▼ステージI:100.0%(同4.8ポイント向上)▼ステージII:95.3%(同9.9ポイント向上)▼ステージIII:87.4%(同19.3ポイント低下)▼ステージIV:69.2%(同50.3ポイント向上)
【膀胱がん】
▼全体:62.4%(同2.7ポイント低下)▼ステージゼロ:90.4%▼ステージI:81.0%(同0.9ポイント低下)▼ステージII:52.7%(同6.6ポイント低下)▼ステージIII:36.2%(同7.7ポイント低下)▼ステージIV:15.2%(同3.3ポイント向上)
【甲状腺乳頭濾胞がん】
▼全体:94.9%▼ステージI:100.0%▼ステージII:94.5%▼ステージIII:99.2%▼ステージIV:81.8%(未分化の場合には全体で7.2%、ステージIVで7.2%)
【喉頭がん】
▼全体:69.3%▼ステージゼロ:92.4%▼ステージI:88.1%▼ステージII:73.4%▼ステージIII:59.1%▼ステージIV:34.8%
【胆嚢がん】
▼全体:25.2%▼ステージI:75.9%▼ステージII:21.2%▼ステージIII:5.3%▼ステージIV:2.1%
【腎がん】
▼全体:73.7%▼ステージI:90.3%▼ステージII:79.2%▼ステージIII:64.8%▼ステージIV:10.8%
【腎盂尿管がん】
▼全体:44.6%▼ステージゼロ:86.1%▼ステージI:76.1%▼ステージII:62.9%▼ステージIII:55.6%▼ステージIV:9.6%
【卵巣がん】
▼全体:53.9%▼ステージI:87.7%▼ステージII:61.3%▼ステージIII:29.6%▼ステージIV:14.1%
ステージIで適切な診断治療が行われた場合、胃がんや大腸がん、乳がん患者では9割程度が10年間以上生存しています。つまり、「がん治療後の生活」が重要となってくるのです。こうした状況を受けて、2022年度の次期診療報酬改定でも「がんとの共生」を重要論点の1つに掲げています。
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