がん「5年生存率」は全部位・全病期で68.6%、「10年生存率」は同じく58.3%に向上―国がん
2020.11.20.(金)
がんの5年生存率・10年生存率が向上を続けている。しかし部位・病期によって生存率は大きく異なり、例えばステージIの5年生存率を見ると、前立腺と乳(女性)では100%だが、肝では63.2%にとどまる―。
また同じ乳がん(女性)でも10年生存率を見ると、ステージIでは98.0%だが、ステージIIで88.4%、ステージIIIで63.8%、ステージIVでは19.2%に漸減してしまう—。
また10年生存率は、前立腺では98.8%、乳で86.8%、甲状腺で85.7%などと全病期で見ても、いずれも9割近くなっている―。
国立がん研究センターが11月19日に公表した「全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について5年生存率、10年生存率データ更新」から、このような状況が明らかとなりました(国がんのサイトはこちら、全国がんセンター協議会の生存率データベースはこちら)(前年の調査結果に関する記事はこちら)。
「早期発見・早期治療」や「がんとの共生」の重要性がさらに増してきていることを確認できます。
ステージIからIIIまでの前立腺がん、ステージIの乳がん、5年生存率100%を維持
国がんでは、従前から全国がんセンター協議会(全がん協)と協力して、32の加盟施設(国がん中央病院、がん研有明病院、岩手県立中央病院、九州がんセンターなど)における診断治療症例について「5年生存率」を発表しています。
また2016年1月からは、がん研有明病院、岩手県立中央病院など21施設のデータをもとにした「10年生存率」も公表しています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
今般、2010-2012年にがんの診断治療を行った14万8226症例を対象として「5年相対生存率」を、2004-2007年に診断治療を行った9万4392症例を対象として「10年相対生存率」を推計しました。
相対生存率とは、がん以外の死因(極端に言えば交通事故など)によって死亡する確率を補正した生存率を意味し、「実測生存率」(死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率)÷「対象者と同じ性・年齢分布をもつ日本人の期待生存確率」で計算されます。以下の「生存率」は、すべて相対生存率をさします。
まず5年生存率について見てみましょう。
全部位・全臨床病期の5年生存率は68.6%でした。前年の68.4%(2009-2011年にがんの診断治療を行った14万2947症例が対象)から0.2ポイント向上していますが、国がんでは「臨床的に意味のある変化は認められない」とコメント。また、1997-199年にがんの診断治療を行った症例では、5年生存率は61.8%で、今回のデータをそれに比べて「7.0ポイント」向上していますが、国がんは「多くの部位で生存率の上昇を認める一方、低下している部位も含めて、臨床的に意味のある変化は認められない」としています。より長期のスパンで生存率の推移を見ていく必要があるでしょう
部位別(全臨床病期)に見ると、次のような状況です。
【90%超】
▼前立腺:100%(前年調査に比べて増減なし)▼乳:93.6%(同0.1ポイント低下)▼甲状腺:92.6%(同0.2ポイント向上)―
【70%以上90%未満】
▼子宮体:86.3%(同0.1ポイント低下)▼咽頭:82.0%(同2.5ポイント向上)▼大腸:76.5%(同0.3ポイント低下)▼子宮頸:75.7%(同1.1ポイント低下)▼胃:74.9%(同増減なし)―
【50%以上70%未満】
▼腎臓など:69.9%(同0.5ポイント向上)▼膀胱:68.5%(同0.5ポイント低下)▼卵巣:65.3%(同0.9ポイント低下)―
【30%以上50%未満】
▼食道:48.9%(同2.9ポイント向上)▼肺:46.5%(同1.3ポイント向上)▼肝:38.1%(同1.1ポイント向上)―
【30%未満】
▼胆のう胆道:28.9%(同0.3ポイント低下)▼膵:11.1%(同1.2ポイント向上)
さらに全がん協のデータベース(KapWev)から5大がんについて病期別の5年生存率を見てみると、次のような状況です(KapWebのサイトで「かんたんデータ画面」を選択し、条件を入力して「計算」ボタンをクリックするとデータを閲覧することができます)。
「ステージが早ければ5年生存率が高い」ことが再確認でき、早期発見・早期治療の重要性が改めて確認できます。第3期がん対策推進基本計画に則り、がん検診等をさらに充実していくことの重要性を改めて認識できます(関連記事はこちらとこちら)。
【胃がん】
▼ステージI:97.7(前年調査に比べて0.5ポイント向上)▼ステージII:65.9%(同3.1ポイント向上)▼ステージIII:48.4%(同0.6ポイント低下)▼ステージIV:6.6%(同0.5ポイント低下)
【大腸がん(結腸がんと直腸がん)】
▼ステージI:99.1%(同0.3ポイント向上)▼ステージII:90.5%(同0.2ポイント向上) ▼ステージIII:84.3%(同0.5ポイント向上)▼ステージIV:22.9%(同0.2ポイント低下)
【肝がん】
▼ステージI:63.2%(同0.9ポイント向上)▼ステージII:40.7%(同3.4ポイント向上)▼ステージIII:14.3%(同0.5ポイント低下)▼ステージIV:2.8%(同1.7ポイント向上)
【肺がん(気管がんを含む)】
▼ステージI:84.6%(同1.3ポイント向上)▼ステージII:50.2%(同0.4ポイント向上)▼ステージIII:25.1%(同2.4ポイント向上)▼ステージIV:6.3%(同0.5ポイント向上)
【乳がん(女性)】
▼ステージI:100.0%(同増減なし)▼ステージII:95.8%(同0.3ポイント低下)▼ステージIII:80.8%(同0.8ポイント向上)▼ステージIV:40.0%(同増減なし)
なお、前立腺がんでは今回データでもステージI・II・IIIについて5年生存率が「100%」となりました(ステージIVでは65.6%で、前年から1.3ポイント低下)。ここからも早期発見・早期治療により「根治を目指せる」ことが伺えます。
ステージIの10年生存率、胃90.8%、大腸96.1%、乳(女性)98.0%に向上
次に10年生存率を見てみましょう。
全部位・全臨床病期の10年生存率は58.3%で、前年の57.2%(2003-2006年に診断治療を行った8万708症例を対象)から1.1ポイント向上しています。
部位別(全臨床病期)では次のとおりで、バラつきがあります。部位により前年度から増減がありますが、国がんでは「臨床的に意味のある変化は認められない」とコメントしています。
【90%超】
▼前立腺:98.8%(前年調査に比べて1.0ポイント向上)―
【70%以上90%未満】
▼乳:86.8%(同0.9ポイント向上)▼甲状腺:85.7%(同1.6ポイント向上)▼子宮体:81.6%(同0.4ポイント向上)―
【50%以上70%未満】
▼子宮頸:68.7%(同0.1ポイント低下)▼大腸:68.7%(同0.9ポイント向上)▼胃:66.8%(同1.5ポイント向上)▼咽頭:63.3%(同1.4ポイント向上)▼腎など:62.8%(同1.2ポイント低下)▼膀胱:61.1%(同1.5ポイント低下)―
【30%以上50%未満】
▼卵巣:48.2%(同2.9ポイント向上)▼肺:32.4%(同2.5ポイント向上)▼食道:31.8%(同0.9ポイント向上)―
【30%未満】
▼胆のう胆道:19.1%(同1.1ポイント向上)▼肝:16.1%(同0.5ポイント向上)▼膵:6.2%(同0.9ポイント向上)―
さらに5大がんについて病期別の10年生存率を見ると、次のようになりました(KapWebのサイトで「くわしいデータ画面」を選択し、条件を入力して「計算」ボタンをクリックするとデータを閲覧することができます)。やはりステージが早いほど、10年生存率が高いことを再認識できます。
【胃がん】
▼ステージI:90.8%(前年調査に比べて0.1ポイント向上)▼ステージII:58.6%(同3.7ポイント向上)▼ステージIII:37.0%(同1.5ポイント向上)▼ステージIV:5.9%(同1.5ポイント向上)
【大腸がん(結腸がんと直腸がん)】
▼ステージI:96.1%(同3.2ポイント向上)▼ステージII:83.3%(同2.3ポイント向上)▼ステージIII:73.4%(同0.1ポイント低下)▼ステージIV:13.3%(同0.6ポイント向上)
【肝がん】
▼ステージI:27.8%(同0.5ポイント向上)▼ステージII:17.0%(同0.5ポイント低下)▼ステージIII:6.4%(同0.3ポイント低下)▼ステージIV:2.3%(同0.1ポイント低下)
【肺がん(気管がんを含む)】
▼ステージI:67.1%(同2.3ポイント向上)▼ステージII:31.3%(同2.9ポイント向上)▼ステージIII:12.3%(同0.3ポイント向上)▼ステージIV:2.2%(同0.5ポイント向上)
【乳がん(女性)】
▼ステージI:98.0%(同0.4ポイント向上)▼ステージII:88.4%(同1.0ポイント向上)▼ステージIII:63.8%(同1.9ポイント向上)▼ステージIV:19.2%(同0.9ポイント向上)
ステージIで適切な診断治療が行われた場合、胃がんや大腸がん、乳がん患者では9割程度が10年間以上生存しています。つまり、「がん治療後の生活」が重要となってくるのです。こうした状況を受けて、第3期がん策推進基本計画では、仕事と治療の両立をサポートする体制など「がんとの共生」を重点項目に掲げています。
画期的な抗がん剤(免疫チェックポイント阻害剤など)をはじめとする新たな治療法の開発が進み、さらに遺伝子診断に基づいた「個々の患者に最適な治療法」選択が可能になってきている中では、さらなる生存率の延伸が期待され、「がんとの共生」の重要性が今後も加速度的に高まっていくと考えられます。
2018年度の診療報酬改定でも、「がんとの共生」を保険制度面でサポートするために【療養・就労両立支援指導料】が創設され、2020年度の診療報酬改定では、これを使いやすくするために「大幅改善」が行われました。今後の状況を踏まえて、例えば2022年度の次期改定で「さらなる改善」が行われ、いわゆるがんサバイバーの「さらなるQOL向上」に結びつくことに期待が集まります。
【関連記事】
がん5年生存率、全部位・全病期は68.4%、ステージI乳がんやステージI-III前立腺がんは100%―国がん
全部位・全病期のがん5年生存率は67.9%、10年生存率は56.3%―国がん
がんの3年生存率、全体72.4%・胃76.3%・大腸78.6%・肝54.2%・肺51.7%・乳95.3%―国がん
がん5年生存率、全体66.4%・胃71.4%・大腸72.6%・乳房92.2%・肝40.4%・肺41.4%―国がん
がんの3年生存率、全体72.1%、胃75.6%、大腸78.7%、肝54.6%、肺50.8%、乳房95.2%―国がん
がんの5年生存率、全体66.1%、胃71.6%、大腸72.9%、乳房92.5%、肝40.0%、肺40.6%―国がん
がんの「3年生存率」を初公表、病期・部位により3年・5年・10年の生存率推移に特徴―国がん
がんの5年生存率、全体で65.8%、乳がんで92.7%、肝臓がんで39.6%―国がん
がん標準治療が浸透しているが、乳房切除後の乳がん患者への放射線照射は7割未満―国がん
10歳代までは白血病、20歳代は胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、30歳代では乳がんが多い―国がん
がんの5年生存率・10年生存率は前年調査より若干低下、乳がんでは向上―国がん
2013年のがん罹患率、前年に続き減少し361.9、地域特性を踏まえたがん対策を—国がん
がんの5年生存率、全体で65.2%、乳がんで92.7%、肺がんで39.1%―国がん
がんの5年生存率、前立腺や乳がんでは9割超えるが、膵がんでは9.2%にとどまる―国がん
2014年のがん登録、最多は大腸がんで9万4596件―国立がん研究センター
今年(2016年)のがん罹患者は101万2000例、がんでの死亡は37万4000人―国立がん研究センター
2012年の人口10万人当たりがん患者は365.6、男性では胃がん、女性では乳がんが最多―国立がん研究センター
標準的がん治療の実施率にバラつき、「胃がんへの術後S-1療法98.8%」「リンパ節転移乳がんへの術後放射線照射61.7%」など―国がん研究センター
患者の免疫状態を正確に測定する新手法開発、抗体薬の効率的開発に期待―国立がん研究センター
乳がん・肺がん・肝臓がん、5年生存率に比べて10年生存率は大きく低下―国立がん研究センター
治療抵抗性の乳がん患者に対する新治療法、治験を開始―国立がん研究センター
がん罹患数98万例、死亡者数は37万人に―国立がん研究センター15年推計
希少がんの「四肢軟部肉腫」を適切に治療できる施設リストを公開―国がん
第3期がん対策推進基本計画を閣議決定、ゲノム医療推進や希少・難治がん対策など打ち出す
「正しいがん医療情報の提供」、第4期がん対策推進基本計画の最重要テーマに―がん対策推進協議会