乳がん・肺がん・肝臓がん、5年生存率に比べて10年生存率は大きく低下―国立がん研究センター
2016.1.20.(水)
大腸がんや胃がんでは5年生存率と10年生存率に大きな差はないが、肝臓がんや乳がんでは5年生存率に比べて10年生存率は低くなる―。このように、がんの種別によって長期的な予後の傾向が異なることが、19日に国立がん研究センター(国がん)が発表した分析結果から分かりました。
がんの種別によっては、標準的な検査・治療のあり方について見直していく必要がありそうです。
これは、国立がん研究センター中央病院・東病院、がん研有明病院、岩手県立中央病院など32施設で2004-2007年に診断治療を行った14万7354症例の5年相対生存率と、がん研有明病院、岩手県立中央病院など16施設で1999-2002年に診断治療を行った3万5287症例の10年相対生存率を集計・分析したものです。
相対生存率とは、がん以外での死因によって死亡する確率を補正した生存率で、実測生存率(死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率)を、対象者と同じ性・年齢・分布をもつ日本人の期待生存確率で割ったものです。以下の「生存率」は、すべて相対生存率のことです。
まず、全部位・全臨床病期(ステージ)の5年生存率は68.8%で、1997年の62.0%から徐々に改善しています。国がんでは「化学療法、放射線治療や早期発見技術の進歩が貢献している」と考えています。
5大がんに注目すると、▽胃がん73.1%▽大腸がん75.9%▽肺がん43.9%▽乳がん92.9%▽子宮頸がん75.1%―という状況です。また、胆のう胆道がんでは28.9%、膵がんでは9.1%と、予後が悪いことが改めて確認できます。
また、単年度ごとの5年生存率を見ると、▽全部位68.9%▽胃がん74.4%▽大腸がん75.6%▽肺がん44.2%▽乳がん93.2%▽子宮頸がん79.5%―などとなっています。
次に10年生存率を見ると、全部位・全臨床病期(ステージ)では58.2%となり、同じデータベースの5年相対生存率63.1%と比べて4.9ポイント低くなっています。
5大がんに注目すると、▽胃がん69.0%▽大腸がん69.8%▽肺がん33.2%▽乳がん80.4%▽子宮頸がん73.6%―という状況です。ここまで大規模な10年生存率の公表は初めてのことと国がんは紹介しています。
また国がんでは、1999-2002年に診断治療を行った症例の生存率を部位別に比較しており、次のような状況が明らかになりました。
▽胃がん(6413件):5年生存率70.9%→10年生存率69.0%(1.9ポイント低下)
▽大腸がん(3115件):5年生存率72.1%→10年生存率69.8%(2.3ポイント低下)
▽肺がん(6100件):5年生存率39.5%→10年生存率33.2%(6.3ポイント低下)
▽乳がん(4416件):5年生存率88.7%→10年生存率80.4%(8.3ポイント低下)
▽肝臓がん(1700件):5年生存率32.2%→10年生存率15.3%(16.9ポイント低下)
胃がんや大腸がんでは5年生存率と10年生存率に大きな変化はありませんが、肺がん・乳がん・肝臓がんでは5年生存率に比べて10年生存率は大きく低下しており、がんの種別によって長期的な予後の傾向が異なることが分かります。
これまで、がん医療に対する指標の1つとして「5年生存率」が一般的でしたが、今後は、がんの種別によって「10年生存率」を用いることも検討すべかもしれません。また、肺がん・乳がん・肝臓がんなどについては、より長期間の検査を検討するなど、標準的な検査・治療のあり方について見直していく必要もありそうです。
なお、がん医療の質向上を目指す「CQI(Cancer Quality Initiative)研究会」(代表世話人:岩手県立中央病院・望月泉院長)が8月27日に開催されます。CQI研究会は、がん医療に特化した医療ビッグデータ分析の研究会です。完全会員制で、DPCデータなどを用いてベンチマーク分析し、その結果をフィードバックすることで、各病院の医療の質向上を支援します。分析はGHCが担当しています(関連記事はこちら)。
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