がん5年生存率、全部位・全病期は68.4%、ステージI乳がんやステージI-III前立腺がんは100%―国がん
2020.3.19.(木)
がんの5年生存率・10年生存率ともに前年調査より若干向上したが、部位・病期によって生存率は大きく異なる。例えばステージIの5年生存率を見ると、前立腺と乳(女性)では100%だが、肝では62.3%にとどまる。また同じ乳(女性)でも、ステージIIでは96.1%、ステージIIIでは80.0%、ステージIVでは40.0%と漸減してしまうことから、早期発見・早期治療が非常に重要である―。
また10年生存率は、前立腺では97.8%、乳で85.9%、甲状腺で84.1%などとなっており、今後ますます「がんとの共生」(治療と仕事の両立など)が極めて重要な政策課題となってくる―。
国立がん研究センターが3月17日に公表した「全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について5年生存率、10年生存率データ更新」から、このような状況が明らかとなりました(国がんのサイトはこちら(概要)とこちら(5年生存率)とこちら(10年生存率))(前年の記事はこちら)。
前立腺がんステージIからIIIまで、乳がんステージI、前年に続き5年生存率100%
国がんでは、従前から全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)と協力して、32の加盟施設(国がん中央病院、がん研有明病院、岩手県立中央病院、九州がんセンターなど)における診断治療症例について「5年生存率」を発表。さらに2016年1月からは、がん研有明病院、岩手県立中央病院など20施設のデータをもとにした「10年生存率」も公表しています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
今般、2009-2011年にがんの診断治療を行った14万2947症例を対象として「5年相対生存率」を、2003-2006年に診断治療を行った8万708症例を対象として「10年相対生存率」を推計しました。
相対生存率とは、がん以外の死因(極端に言えば交通事故など)によって死亡する確率を補正した生存率を意味し、「実測生存率」(死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率)÷「対象者と同じ性・年齢分布をもつ日本人の期待生存確率」で計算されます。以下の「生存率」は、すべて相対生存率をさします。
まず5年生存率について見てみましょう。
全部位・全臨床病期の5年生存率は68.4%でした。前年の67.9%(2008-2010年にがんの診断治療を行った14万675症例が対象)から0.5ポイント上昇していますが、国がんでは「臨床的に意味のある変化は認められない」とコメントしています。より長期のスパンで生存率の推移を見ていく必要があります
部位別(全臨床病期)に見ると、次のような状況です。
【90%超】
▼前立腺:100%(前年から増減なし)▼乳:93.7%(同0.2ポイント低下)▼甲状腺:92.4%(同0.4ポイント低下)
【70%以上90%未満】
▼子宮体:86.4%(同0.7ポイント向上)▼大腸:76.8%(同0.2ポイント向上)▼子宮頸:76.8%(同0.6ポイント向上)▼胃:74.9%(同増減なし)―など
【50%以上70%未満】
▼腎臓など:69.4%(同5.0ポイント向上)▼膀胱:69.0%(同2.0ポイント向上)▼卵巣:66.2%(同1.8ポイント向上)
【30%以上50%未満】
▼食道:46.0%(同0.1ポイント向上)▼肺:45.2%(同1.6ポイント向上)▼肝:37.0%(同0.4ポイント向上)
【30%未満】
▼胆のう胆道:28.6%(同0.6ポイント向上)▼膵:9.9%(同0.7ポイント向上)
さらに5大がんについて病期別の5年生存率を見てみましょう。「ステージが早ければ5年生存率が高い」ことが再確認でき、早期発見・早期治療の重要性が改めて確認できます。第3期がん対策推進基本計画に則り、がん検診等をさらに充実していくことが重要です(関連記事はこちらとこちら)。
【胃がん】
▼ステージI:97.2(前年調査から0.2ポイント低下)▼ステージII:62.8%(同1.1ポイント低下)▼ステージIII:49.0%(同0.7ポイント向上)▼ステージIV:7.1%(同0.2ポイント向上)
【大腸がん(結腸がんと直腸がん)】
▼ステージI:98.8%(同0.3ポイント向上)▼ステージII:90.3%(同0.4ポイント向上) ▼ステージIII:83.8%(同0.4ポイント低下)▼ステージIV:23.1%(同1.1ポイント向上)
【肝がん】
▼ステージI:62.3%(同0.7ポイント向上)▼ステージII:37.3%(同1.3ポイント向上)▼ステージIII:14.8%(同0.2ポイント向上)▼ステージIV:0.9%(同0.8ポイント低下)
【肺がん(腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、その他)】
▼ステージI:83.3%(同1.3ポイント向上)▼ステージII:48.8%(同0.4ポイント低下)▼ステージIII:22.7%(同1.4ポイント向上)▼ステージIV:5.8%(同0.9ポイント向上)
【乳がん(女性)】
▼ステージI:100.0%(同増減なし)▼ステージII:96.1%(同0.1ポイント向上)▼ステージIII:80.0%(同0.8ポイント低下)▼ステージIV:40.0%(同1.5ポイント向上)
なお、前立腺がんでは今回データでもステージI・II・IIIについて5年生存率が「100%」となりました(ステージIVでは66.9%、1.0ポイント向上)。ここからも早期発見・早期治療により「根治できる」ことが伺え、その重要性が伺えます。
ステージIの10年生存率、胃90.7%、大腸92.9%、乳(女性)97.6%に向上
10年生存率に目を移してみましょう。
全部位・全臨床病期の10年生存率は57.2%で、前年の56.4%(2002-2005年に診断治療を行った7万285症例を対象)から0.8ポイント向上しています。
部位別(全臨床病期)では次のとおりで、やはりバラつきがあります。部位により前年度から増減がありますが、臨床的に意味のある変化は認められません。
【90%超】
▼前立腺: 97.8%(前年から2.1ポイント向上)
【70%以上90%未満】
▼乳:85.9%(同2.0ポイント向上)▼甲状腺:84.1%(同0.2ポイント低下)▼子宮体:81.2%(同1.2ポイント向上)
【50%以上70%未満】
▼子宮頸:68.8%(同0.2ポイント低下)▼大腸:67.8%(同1.5ポイント向上)▼胃:65.3%(同1.2ポイント向上)▼腎など:64.0%(同0.7ポイント向上)―など
【30%以上50%未満】
▼卵巣:45.3%(同0.3ポイント向上)▼肺:30.9%(同0.1ポイント向上)▼食道:30.9%(同0.6ポイント向上)
【30%未満】
▼胆のう胆道:18.0%(同1.8ポイント向上)▼肝:15.6%(同1.0ポイント向上)▼膵:5.3%(同0.1ポイント低下)
さらに5大がんについて病期別の10年生存率を見ると、次のようになりました。
【胃がん】
▼ステージI:90.7%(同1.1ポイント向上)▼ステージII:54.9%(同3.4ポイント向上)▼ステージIII:35.5%(同1.1ポイント低下)▼ステージIV:4.4%(同1.3ポイント低下)
【大腸がん(結腸がんと直腸がん)】
▼ステージI:92.9%(同1.9ポイント向上)▼ステージII:81.0%(同2.0ポイント向上)▼ステージIII:73.5%(同0.9ポイント低下)▼ステージIV:12.7%(同1.7ポイント向上)
【肝がん】
▼ステージI:27.3%(同1.0ポイント向上)▼ステージII:17.5%(同1.5ポイント向上)▼ステージIII:6.7%(同0.6ポイント向上)▼ステージIV:2.4%(同増減なし)
【肺がん(腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、その他)】
▼ステージI:64.8%(同0.3ポイント向上)▼ステージII:28.4%(同0.7ポイント向上)▼ステージIII:12.0%(同1.1ポイント低下)▼ステージIV:1.7%(同1.0ポイント低下)
【乳がん(女性)】
▼ステージI:97.6%(同1.5ポイント向上)▼ステージII:87.4%(同1.1ポイント向上)▼ステージIII:61.9%(同2.5ポイント向上)▼ステージIV:18.3%(同2.4ポイント向上)
ステージIで適切な診断治療が行われた場合、胃がんや大腸がん、乳がん患者では9割程度が10年間以上生存しています。こうした状況を受けて、第3期がん策推進基本計画では、仕事と治療の両立をサポートする体制など「がんとの共生」を重点項目に掲げています。
画期的な抗がん剤(免疫チェックポイント阻害剤など)をはじめとする新たな治療法の開発が進み、さらに遺伝子診断に基づいた「個々の患者に最適な治療法」選択が可能になってきている中では、さらなる生存率の延伸が期待され、「がんとの共生」の重要性が今後も加速度的に高まっていくと考えられます。
2018年度の診療報酬改定でも、「がんとの共生」を保険制度面でサポートするために【療養・就労両立支援指導料】が創設され、2020年度の診療報酬改定では、これを使いやすくするために「大幅改善」が行われており、活用に大きな期待が集まります。
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