介護保険利用料「2割」の高齢者を拡大すべき?2026年度内に結論を出し、第10期介護計画に反映へ―社保審・介護保険部会
2025.12.26.(金)
2027年度からの新たな介護保険事業(支援)計画(第10期計画)に向けて、介護保険制度改革論議が進んでいる。その中でペンディングとなっていた「介護サービスの利用時に2割負担(通常は1割負担)をお願いする高齢者の範囲を拡大すべきか否か」という点については、現時点では結論を出さず「第10期介護保険事業計画のスタート前まで(つまり2026年度中)に結論を出す」こととする―。
12月25日に開催された社会保障審議会・介護保険部会では、こうした点も含めて「介護保険制度改革」の内容を了承しました。今後、必要な法令改正(法律改正が必要と思われる事項も少なくない)に向けた準備を厚生労働省で進めるとともに、介護保険部会では、引き続き「2割負担をお願いする高齢者の範囲を拡大すべきか否か」という論点の議論を継続します。

12月25日に開催された「第133回 社会保障審議会 介護保険部会」
なお、仮に「2割負担をお願いする高齢者の範囲を拡大する」ことが介護保険部会で決定した場合には、2027年度に予定される介護報酬改定(通常の介護報酬改定)とあわせて、2027-29年度を対象とする第10期計画にその内容を反映することになるでしょう。どういった結論が介護保険部会で出されるのか、それを踏まえてどういった対応がなされるのか、今後の動きを注意深く見守る必要があります。
●介護保険部会意見はこちら

2027年度からの第10期介護保険事業(支援)計画に向けた介護保険部会意見1

2027年度からの第10期介護保険事業(支援)計画に向けた介護保険部会意見2

2027年度からの第10期介護保険事業(支援)計画に向けた介護保険部会意見3
「介護保険の利用料2割をお願いする高齢者」の範囲を拡大すべきか、結論は持ち越し
介護保険制度では「3年を1期」とする介護保険事業計画(市町村計画)・介護保険事業支援計画(都道府県計画)に沿って「地域のサービス提供体制をどの程度の量、確保するか、そのサービス量を確保するために保険料をどの程度に設定するか」などを定めます。
2027年度から新たな第10期計画(2027-29年度が対象期間)が始まるため、▼2025年に必要な制度改正内容を介護保険部会で固める→▼2026年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ→▼改正法等を受け、2026年度に市町村・都道府県で第10期計画を作成する→▼2027年度から第10期計画を走らせる―というスケジュールで社会保障審議会・介護保険部会の議論が進められてきました。
これまでに、例えば▼中山間地・人口減少地域でも介護サービスを確保するための特例的な仕組み(人員配置基準等の柔軟化、包括的な介護報酬設定、介護サービスを事業として提供する仕組みなど)を創設する▼登録制となる有料老人ホームの入居者に対する「ケアプラン作成+相談支援」を新たな介護保険サービスとして創設し、利用者負担を求める▼介護保険施設とショートステイにおいて、低所得者への「居住費・食費・光熱費」負担を補填する補足給付について、所得区分の細分化や給付額の見直しを行う―などの大きな見直し方向を固めています(関連記事はこちら)。
そうした中で、論点の1つである「介護サービス利用時の自己負担(利用者負担)を通常は1割であるところ、2割負担をお願いする高齢者の範囲を拡大すべきか否か」という点については介護保険部会で結論が出ていませんでした。「所得が一定程度ある高齢者には2割負担をお願いして介護費を圧縮し、結果として『現役世代の保険料負担軽減』を実現すべきである」といった賛成派委員と、「利用料の増加で介護サービス利用を控えてしまい、結果、重度化を招いてしまう恐れがあり、2割負担の対象者は拡大すべきでない」といった反対派委員との間で、意見が大きく隔たっていたためです。
また、この論点は介護保険財政(国25%・都道府県12.5%・市町村12.5%・保険料50%で負担)にも大きく影響するため、来年度(2026年度)の予算案編成に向けた上野賢一郎厚生労働大臣と片山さつき財務大臣との折衝を待つ必要もありました。
そうした中、12月24日の上野厚労相・片山財務相との折衝で次のような方針が固められましたこちら)。
▽能力に応じた負担と、現役世代を含めた保険料負担の上昇を抑える観点から、利用者負担が2割となる「一定以上所得」の判断基準の見直しを検討する必要がある
▽検討に当たっては、介護サービスは長期間利用されること等を踏まえつつ、要介護高齢者が必要なサービスを受けられるよう、▼高齢者の生活実態や生活への影響等▼2026年度に見込まれる医療保険制度における給付と負担の見直し(高額療養費の上限額引き上げなど、関連記事はこちら)▼補足給付について現在行われている預貯金等の把握に係る事務の状況—などを踏まえ、「第10期介護保険事業計画期間の開始(2027年度から)の前まで」に結論を得る
つまり「遅くとも2026年度中に結論を出す」という内容です。今後、介護保険部会で引き続き、▼2割負担の対象者を拡大すべきか、その範囲をどの程度とすべきか▼仮に拡大する場合に、急激な負担増を避けるための配慮措置として「当分の間、一定の負担上限額を設ける」あるいは「金融資産(預貯金等)の保有状況を把握し、一定額以下の者は1割負担のままとする」ことを行ってはどうか―という議論を続けることになります。
こうした点について介護保険部会委員からは、▼配慮措置の1案である「金融資産(預貯金等)の保有状況を把握し、一定額以下の者は1割負担のままとする」内容については、金融資産保有状況確認にかかる実務の実態(すでに補足給付においては確認が行われている)を十分に把握し、保険者(市町村)と十分に協議を行ってほしい。ただし、技術的な検討を行う前に、社会保障制度全体の中で「金融資産をどう把握していくべきか」を総合的に検討してほしい(大西秀人委員:全国市長会介護保険対策特別委員会委員長/香川県高松市長)▼2割負担拡大には反対であり、今後の論議は慎重かつ丁寧に行ってほしい(平山春樹委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局局長)▼介護保険制度の持続可能性確保の点で「結論の先送り」となったことは遺憾である。先送りの背景には「医療保険における負担増論議」や「高齢者の生活の厳しさ」があることは理解しているが、先送りした間も現役世代の保険料負担は重くなっている。「能力のある人には、より多く負担してもらう」という視点に立ち、配慮措置を設けたうえで2割負担対象者を最大限拡大していくべき(伊藤悦郎委員:健康保険組合連合会常務理事、鳥潟美夏子委員:全国健康保険協会理事)▼2割負担対象者を拡大すべきかどうかを検討する際には、高齢者の生活実態を十分に把握・分析することが大前提である(石田路子委員:高齢社会をよくする女性の会副理事長/名古屋学芸大学看護学部客員教授)▼物価高騰なども踏まえ「本当に2割の利用料を支払えるのか」を慎重に検討すべき(江澤和彦:日本医師会常任理事)▼高齢者の生活は多様であり配慮措置は必要であるが、「能力に応じた負担」(より高所得者には、より多くの負担をしてもらう)の仕組みを前進させていくべき。将来的にはマイナンバーと金融機関口座との紐づけを行い、正確に預貯金を把握できる仕組みを政府全体で構築すべき(野口晴子部会長代理:早稲田大学政治経済学術院教授)—など依然として多様な意見が示されています。
ところで、「仮に2026年度末ギリギリに2割負担対象者を拡大するとの結論が出た場合には、時間的に考えて、2027年度から第10期計画にその内容を反映することはできないのではないか?」とも思われます。しかし、2027年度の介護報酬改定の内容が固まるのは2027年1月末頃(2026年度末と言える)となり、それとセットで「2027年度からの第10期計画に反映させることは可能」と考えられます(介護報酬がプラス改定となれば「介護費増→保険料増」となり、2割負担対象者が拡大すれば「介護費減→保険料減」となるため、両者をセットで勘案していく)。
もっとも、保険料を設定する市町村の準備期間を十分に確保することが必要となる(とりわけ「金融資産」を勘案した配慮措置を行う場合には、相当な準備期間が必要となると考えられる)ため、大西委員は「結論が遅れれば介護保険料の設定等の事務に悪影響が出てしまう。検討スケジュールについてはしっかり管理してほしい」と厚労省に強く要望しています。
上記のように多様な意見が出ており「丁寧な議論」を行う必要はあるものの、「それほど多くの時間はない」点にも留意が必要です。今後の介護保険部会論議に注目が集まります。
このほか介護保険部会委員からは、▼市町村・都道府県が第10期計画を作成する際の拠り所となる「基本指針」を近く国が示すことになるが(2024-26年度の第9期計画に関する基本指針の記事はこちら)、そこでは「地域づくり」などを詳細に解説してほしい(山際淳委員:民間介護事業推進委員会代表委員)▼保険料負担の在り方に関する議論も十分に行うべき(平山委員)▼2040年に向けて介護保険を取り巻く環境は大きく変化し、「高齢者が増加して介護費が増加する一方、支え手となる現役世代が急速に減少していく」ため、現役世代の保険料負担は限界を突破してしまう。例えば軽度者への生活援助サービスの在り方や、介護保険全体の負担構造の在り方などについても第10期計画スタート前(つまり2026年度中)までに議論し、結論を出すべき(伊藤委員)▼給付と負担に関し、多くの項目で結論が先送りされており、これは「後の急激な負担増」に直結する。項目に優先度をつけ、優先度の高いものは次期介護保険制度改革を待たずに、早急に議論を始めるべき。またケアマネジメントにかかる利用者負担については、近い将来「幅広く導入する」方向で検討すべき(幸本智彦委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)▼軽度者の生活援助サービスを「市町村の総合事業」へ移管すべきか否かについては、「総合事業の効果」(高齢者の状態が維持・改善しているのか、など)を見て検討すべき(石田委員)▼「介護費を増やさない」施策(介護予防など)を重視していく必要がある(津下一代委員:女子栄養大学教授)▼登録制有料老人ホームの「ケアマネジメント+相談支援」への利用者負担導入が、一般のケアマネジメント(居宅介護支援)に波及していかないように留意すべき(小林広美委員:日本介護支援専門員協会副会長)▼登録制有料老人ホームの「ケアマネジメント+相談支援」サービスの創設は、いわゆる「囲い込み」(ホームが特定のケアマネ事業所の利用を半ば強制する)を助長してしまうことが懸念され、反対である点を改めて強調する(江澤委員)—などの意見も出ています。
高齢者が増加し、その一方で、支え手(財源面、サービス提供面)となる現役世代は急速に減少していくため、介護保険制度は「常に見直していかなければならない」状況にあります。その際、重要となるのは「負担を分かち合う」(皆で少しずつ負担増を受け入れる)という視点でしょう。この視点を忘れて「自分の負担増は嫌だ、だれか別の人に負担してもらってくれ」という主張を各委員が続けていたのでは、議論が成立せず、皆が不幸になってしまう点に留意が必要です。
なお、介護保険施設とショートステイにおいて、低所得者の居住費・食費・光熱費負担を補填する「補足給付」について、能力に応じた負担の観点から、所得区分の設定の精緻化を行うとともに、区分間の利用者の負担限度額のバランスをとる措置を講じることが上野厚労相・片山財務相との間で合意されています(関連記事はこちら)。
▼2026年8月から「年金収入等120万円超の所得区分の居住費の負担限度額を月3000円引き上げる
▼2027年度中に、所得区分の設定を精緻化し、年金収入等100万円超120万円以下・140万円超の所得区分について、負担限度額の見直しを行う

補足給付の見直し1(2026年8月から(青枠)・2027年8月から(赤枠)の2段階で実施)(社保審・介護保険部会1 251225)

補足給付の見直し2(2026年8月から)(社保審・介護保険部会2 251225)
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