がん標準治療が浸透しているが、乳房切除後の乳がん患者への放射線照射は7割未満―国がん
2018.8.3.(金)
がん診療連携拠点病院などにおいて、腎・肝機能障害などで標準治療を実施できなかったケースを除くと、「臨床ステージI-IIの非小細胞がん患者に対する外科治療・定位放射線治療」や「組織学的ステージII・IIIの進行胃がんに対するS-1またはCapeOXによる術後化学療法」などの標準治療実施率は約99%に達し、標準治療の浸透が伺える。一方、「再発のリスクが高く乳房切除を行った乳がん患者に対する術後の放射線治療」は、同じ標準治療であるが実施率は66.6%にとどまっている―。
国立がん研究センター(国がん)が8月2日、こういった調査結果を発表しました(国がんのサイトはこちら)(前年(2013年)の標準治療実施状況に関する記事はこちら)。
がん医療「内容」の均てん化に向け、QIを設定し標準治療の実施状況を追跡
我が国では、死因の第1位を「がん」が独走しています。がん対策として、▼予防としての生活習慣改善▼早期発見を目指す各種検診の充実と受診勧奨▼がん医療(手術療法、化学療法、放射線療法)の充実▼希少がん・難治性がんの研究推進▼世代におうじたがん対策(小児、AYA世代、高齢者)▼がんリハビリテーションの充実▼がんゲノム医療の推進▼仕事と治療の充実▼がんと診断された時からの緩和ケア実施―など、さまざまな取り組みが行われています。
このうち「がん医療の均てん化」に関しては、「がん診療連携拠点病院や地域がん診療病院の指定」を中心とした医療提供体制の均てん化が目立ちます。日本全国のどの地域に住んでいても、等しく優れたがん医療を受けられる体制を目指すものです。これに関連して、「がん医療の内容(治療内容)」に関する均てん化も重要なテーマの1つとなっています。我が国のがん対策の礎となる「第3期がん対策推進基本計画」でも、科学的根拠に基づいた「標準治療」を推進していく考えが、随所に散りばめられています(第3期がん対策推進基本計画に関する厚労省のサイトはこちら)(関連記事はこちら)。
そうした中で、国立がん研究センターでは、「標準治療」が全国でどの程度実施されているのかを従前より調査。今般、「2014年の標準治療実施状況」をまとめ、公表しました。調査対象は、がん診療連携拠点病院を中心とする424施設で、2014年にがんと診断された56万5503名(うち胃・大腸・肝・肺・乳房の5大がんと診断された患者は23万875名)で、次の9つの代表的な標準治療をQI(Quality Indicator)として、その実施状況を調べています。
(1)胃がん(根治手術を受け、組織学的ステージII・III(pT1、pT3N0除く)の進行がん)に対する【S-1またはCapeOXによる術後化学療法】の施行
(2)大腸がん(組織学的ステージIII)に対する【術後8週間以内の標準的補助化学療法】の施行
(3)肺がん(臨床ステージI-IIの非小細胞がん)に対する【外科治療、または定位放射線治療】の実施
(4)肺がん(術後ステージII、IIIAの非小細胞がん、完全切除)に対する【プラチナ製剤を含む術後化学療法】の実施が
(5)乳がん(乳房温存術、70歳以下)に対する【術後全乳房照射】の実施
(6)乳がん(乳房切除、再発ハイリスク(T3以上でN0を除く、または4個以上のリンパ節転転移)に対する【術後照射】の実施
(7)肝がん(初回の肝切除術を受けた肝細胞がん)に対する【ICG15分停滞率の治療開始前測定】の実施
(8)横断(すべてのがんで、催吐高リスクの抗がん剤の処方)に対する【予防的制吐剤(セロトニン阻害剤+デキサメタゾン+アプレピタント)】の同時使用
(9)横断(すべてのがんで、外来での麻薬開始)に対する【緩下剤】の同時あるいは、麻薬開始以前1か月以内の処方
これら9つの標準治療実施率を見ると、例えば、(7)の「肝がん患者に対する【ICG15分停滞率の治療開始前測定】や(3)の「肺がん患者に対する【外科治療、または定位放射線治療】」などは約9割ですが、(6)の「乳房を切除した乳がん患者への【術後照射】」や(4)の「肺がん患者への【プラチナ製剤を含む術後化学療法】」は5割に達していません。
もっとも、腎機能障害や肝機能障害などにより抗がん剤が使用できない場合や、患者が「手術は受けたくない。抗がん剤は使いたくない」と希望している場合など、標準治療の実施ができないケースも少なくありません。
こうしたケースを除外した「実質的な標準治療の実施率」を見ると、(1)「胃がん患者への【S-1・CapeOXによる術後化学療法】」、(2)「大腸がん患者への【術後8週間以内の標準的補助化学療法】」、(3)「肺がん患者への【外科治療、定位放射線治療】」、(4)「肺がん患者への【プラチナ製剤を含む術後化学療法】」、(5)「乳房温存乳がん患者への【術後全乳房照射】」、(6)「肝がん患者への【ICG15分停滞率の治療開始前測定】」の6項目は90%を超え((3)はほぼ100%実施と言える)、(8)「催吐高リスク抗がん剤使用時の【予防的制吐剤(セロトニン阻害剤+デキサメタゾン+アプレピタント)】の同時使用」と(9)「麻薬開始時の【緩下剤】使用」も約8割となっています。
また前年(2013年)と比較すると、(1)「胃がん患者への【S-1・CapeOXによる術後化学療法】」(前年に比べて実施率が0.5ポイント増、(3)「肺がん患者への【外科治療、定位放射線治療】」(同0.4ポイント増)、(4)「肺がん患者への【プラチナ製剤を含む術後化学療法】」(同0.4ポイント増)、(8)「催吐高リスク抗がん剤使用時の【予防的制吐剤(セロトニン阻害剤+デキサメタゾン+アプレピタント)】の同時使用」(同1.5ポイント増)、(9)「麻薬開始時の【緩下剤】使用」(同1.8ポイント増)と9項目中5項目で標準治療の実施率が向上しています。
ただし、(6)「乳房切除乳がん患者への【術後照射】」については、実質的な標準治療の実施率(理由のある標準治療の未実施を除く)は66.6%にとどまり、また前年に比べて実施率が4.5ポイントも低下してしまいました。今後、標準的治療を実施できないかった理由などを詳細に調べていく必要がありそうです。
なお、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、がん医療の質向上を目指す「CQI研究会」の事務局を務めています。ここでは、がん診療連携拠点病院を初めとする全国のがん診療病院が、自院のDPCデータを持ち寄り、病院の実名入りでベンチマークを実施。参加病院では、他院の状況を踏まえながら、自院の取り組み改善に向けた方策を探っています(CQI研究会に関するGHCサイトはこちら)。
【関連記事】
第3期がん対策推進基本計画踏まえ、都道府県がん対策も早急な見直しを―厚労省・健康局
第3期がん対策推進基本計画を閣議決定、ゲノム医療推進や希少・難治がん対策など打ち出す
10歳代までは白血病、20歳代は胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、30歳代では乳がんが多い―国がん
がんの5年生存率・10年生存率は前年調査より若干低下、乳がんでは向上―国がん
2013年のがん罹患率、前年に続き減少し361.9、地域特性を踏まえたがん対策を—国がん
がんの5年生存率、全体で65.2%、乳がんで92.7%、肺がんで39.1%―国がん
がんの5年生存率、前立腺や乳がんでは9割超えるが、膵がんでは9.2%にとどまる―国がん
2014年のがん登録、最多は大腸がんで9万4596件―国立がん研究センター
今年(2016年)のがん罹患者は101万2000例、がんでの死亡は37万4000人―国立がん研究センター
2012年の人口10万人当たりがん患者は365.6、男性では胃がん、女性では乳がんが最多―国立がん研究センター
標準的がん治療の実施率にバラつき、「胃がんへの術後S-1療法98.8%」「リンパ節転移乳がんへの術後放射線照射61.7%」など―国がん研究センター
患者の免疫状態を正確に測定する新手法開発、抗体薬の効率的開発に期待―国立がん研究センター
乳がん・肺がん・肝臓がん、5年生存率に比べて10年生存率は大きく低下―国立がん研究センター
治療抵抗性の乳がん患者に対する新治療法、治験を開始―国立がん研究センター
がん罹患数98万例、死亡者数は37万人に―国立がん研究センター15年推計
希少がんの「四肢軟部肉腫」を適切に治療できる施設リストを公開―国がん
【2018年度診療報酬改定答申・速報6】がん治療と仕事の両立目指し、治療医と産業医の連携を診療報酬で評価
ACP等の普及に向けて多くの提案、「医師少数地域での勤務経験」の活用法に期待集まる―社保審・医療部会(2)
無痛分娩の安全性確保に向け、麻酔科専門医等の配置や緊急時対応体制などを要請―社保審・医療部会(1)
胸部食道がん、平均値では胸腔鏡手術のほうが開胸手術よりも術後日数が長い―CQI研究会
ベンチマークと臨床指標でがん医療の均てん化を推進―CQI研究会、8月開催
大腸がんの在院日数、短縮傾向もなお病院格差-CQI研究会が経年分析
乳がんの治療法、放射線実施率など格差鮮明―CQI研究会、臨床指標20項目を調査
前立腺がん手術、在院日数最短はダヴィンチ、合併症発生率は?―第10回CQI研究会
医療経済学者がキャンサーナビゲーターになった(1)―「アジアの疾病」
医療経済学者がキャンサーナビゲーターになった(2)―「戦場を失くした戦士」
がん患者の不安と徹底して向き合い導く「キャンサーナビゲーション」って何だ?
優れた医療を日本に-全米屈指のクィーンズメディカルセンターでGHCが研修(1)
医療スタッフの生産性向上は日本でも必須の課題に-全米屈指のクィーンズメディカルセンターでGHCが研修(2)
がん医療の臨床指標を定め、自院と他院のベンチマークすることで医療の質が向上―がん研有明病院とGHCが共催セミナー
ステージ3Bの医療経済学者、がんで逝った友への鎮魂歌