2026年度診療報酬改定や病院経営維持に向け、8月下旬の概算要求に間に合う形で政府に具体的な要望を行う—日病・相澤会長
2025.7.30.(水)
病院経営が危機的な状況にあることを政府も認識し骨太方針2025に、医療・介護をはじめとする社会保障予算について、これまでの「高齢化の伸び」に加えて、「人件費・物価高騰」や「病院経営安定」などを勘案した増額・加算を行う方針が明示された—。
日本病院会では、これらの実現に向けて「喫緊の対応」「2026年度診療報酬改定での大幅引き上げ」「将来の医療提供体制改革」などを、8月下旬の来年度(2026年度)予算概算要求に向けて「具体的な要望」を行う—。
日本病院会の常任理事会(7月23日)で、こうした点を確認したことが、7月30日に定例記者会見に臨んだ相澤孝夫会長から明らかにされました。

7月30日の記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長
病院経営は厳しく、今のままでは「賞与の減額」→「スタッフの離職」につながってしまう
Gem Medで報じているとおり、病院経営が非常に厳しい状況にあります。
このため日病では、福岡資麿厚生労働大臣や加藤勝信財務大臣らに宛てて、次のような「病院経営支援」を行ってほしいと強く要請しています(関連記事はこちらとこちら)。
(1)病院の経営支援が必要、2025年度中の財政出動が必要
(2)診療報酬による入院基本料の引き上げが必要
(3)休日夜間も「とりあえず診てくれる」病院が必要
(4)地域において「まず診る」役割を担う総合的な医師=総合医が不足しており、医師偏在対策としても病院での総合診療機能の強化が必要
(5)地方の生き残りと創成には「病院」の存在が不可欠
ところで、政府は近く、来年度(2026年度)の予算案編成に向けて概算要求を取りまとめます(8月下旬。その後、各省庁と財務省が折衝をして各省庁の要求内容を整理し、年末に予算案を閣議決定する)。予算案の中には「診療報酬改定」や「病院経営支援に向けた補助金」等の経費が盛り込まれるため、「概算要求時点でそうした内容が盛り込まれるか否か」がファーストステップとして非常に重要となります。
この点、日病幹部(会長、副会長、常任理事)の間では「8月下旬の概算要求に間に合うように、要望内容をより具体化して提出・提案したほうが良いのではないか。これまで大きな方向を要望し、具体的な内容は政府にお任せしてきたが、それでは、なかなか病院の希望に沿った形での実現が叶わなかった。より具体的に数字なども盛り込んで●●をしてほしいと要望し、地域医療提供体制を守っていく必要がある」との議論が行われています。
例えば(1)の病院経営支援に関しては、「コロナ禍前より病院経営は厳しく、そこに物価増・人件費増が加わり、病院経営の悪化が深刻化している」点を踏まえて、本年度(2025年度)中の緊急的な支援(特別交付金など)を実施することを求めていますが、より具体的に「どういった部分に補助を行ってほしいのか」などを詰めていくことになります。
また(2)では、2006年度以降、実質的に「据え置き」となっている入院料の水準について、「入院医療を提供する病院の基本的な評価が不十分である」点、「他の公共料金は大きく引き上げられてきている」(例えば郵便はがきは3割超、最低賃金は1割超、生活保護費も1割超)点などを踏まえて、やはり「入院料についても最低10%以上の点数引き上げが必要」との考えでまとまりつつあります(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
さらに(3)(4)では、地域包括医療病棟の施設基準緩和や病院総合医の診療報酬での評価を要望します。
相澤会長は、未曽有の高齢社会になる我が国では「地域密着型」の病院が地域医療を守る必要があり、この整備が今後さらに重要になることを強調。地域密着型病院では「外来ではかかりつけ医機能を発揮して、高齢患者を総合的・包括的に診療する」「外来患者の状態が悪化した場合には、病棟(地域包括医療病棟など)で受け入れ、総合的・包括的な対応を行い、自宅復帰を目指す」機能を持つことが重要であり、こうした機能を発揮するために「病院総合医」の育成が必要になるとも指摘しています(もちろん、自院での対応が困難な重症患者については、より高機能な病院に紹介する)。
しかし、地域包括医療病棟は「施設基準が厳しい」と指摘され、その届け出状況は芳しくありません(本年(2025年)6月14日時点で、全国で175施設)。厳しい施設基準として、例えば「看護必要度」や「ADL低下患者5%未満」などがあげられており、今後、具体的に「どの施設基準をどのように緩和すべきか」を詰めていきます(例えばADL低下患者割合を●%に緩和すべきなど要望するイメージ)(関連記事は(こちら)。
また病院総合医については、例えば▼病棟等に配置されている場合の評価、24時間配置されている場合の上乗せ評価▼病院総合医による多職種連携、在宅療養支援、退院支援等の評価▼病院総合医配置が定着した場合の在宅復帰率等のアウトカムに絡めた評価—などを段階的に研究・導入することを求めていきます。
他方(5)に関しては、次のような様々な意見が出ており、今後、調整が進められます。
▽病院の建て替え、設備更新の支援を求める(建設費補助単価の引き上げ、補助要件の弾力化(地域医療構想調整会議での了承要件や、機能転換・病床削減要件等の緩和など、関連記事はこちら)
▽補助に関する自治体間差異の解消を求める
▽医療DX導入・運用の支援(ICT機器導入等の初期費用支援メニューは準備されているが、ランニングコストの支援がなされていないため、両者の支援充実を求めていく、関連記事はこちら)
▽看護師、介護福祉士、リハビリ専門職などについては病院や医師会が養成学校を運営して育成している部分が大きいが、メディカル・スタッフの育成は「本来、国がなすべき」ことを「病院や医師会が代替」していると考えられ、育成委託料などを国が負担すべき旨を求める
このうち、ICT化・DX推進に関しては「オンプレミス中心の病院システムをクラウドに移行していく」方針を国が打ち出しています(関連記事はこちらとこちら)。
この点についてICTの専門家は「オンプレミス型の病院情報システムから、クラウド型システムへの移行は、実は『イニシャルコストの平準化』などが行われているのみで、必ずしもコストダウンにはつながらない」との指摘があります(関連記事はこちら)。
例えば、オンプレミス型では「X万円の初期投資+毎月の保守費用Y万円」の費用がかかるとすると、5年間使用した場合には[X+60(5年×12か月)Y]万円がかかります(このほかに診療報酬改定対応必要等が発生することもある)。
費用の標準化とは、クラウド型に移行すると、毎月[「X÷60」+「Y」]万円の利用料がかかるイメージです。
初期に係る費用は「クラウド型の方が安く済む」ように見えるが、「5年分の全体の費用を見れば、オンプレミス型でもクラウド型でも大きく変わらない」構造にあると考えられるのです。
この点、「ICT導入の初期費用は補助するが、ランニングコストは補助しない」という現在の政府の考え方が厳格に維持された場合、「クラウド型への移行」によって「ICTに関する補助が大きく減殺されてしまう」ことにもつながりかねません(上記例では、オンプレミス型では「X万円」の一部が補助されるが、クラウド型では、極端に考えれば「すべてランニングコストであり、補助はしない」ということもありうる)。相澤会長はじめ日病幹部は、こうした点も見据えて「ランニングコストへの補助」を強く要望していくものと考えられます。
日病幹部は、さらに「内容の具体化」に向けた議論・調整を進め、8月下旬の概算要求に間に合うように政府に対して要望を行う構えです。
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