病院経営は危機的、「緊急の財政的支援」「入院基本料の大幅引き上げ」「病院総合医の評価・育成支援」などを実施せよ—日病ほか
2025.6.6.(金)
病院経営が危機的な状況にあり、病院窮状を打開するための緊急の財政出動、入院基本料の大幅引き上げ、救急患者に初期対応を行う病院の安定経営確保、病院総合医の育成、地域経済の支え手でもある病院の維持を強く要望する—。
日本病院会の相澤孝夫会長・国立病院機構の新木一弘理事長・労働者健康安全機構の大西洋英理事長・地域医療機能推進機構の山本修一理事長・全国自治体病院協議会の望月泉会長・日本赤十字社医療事業推進本部の渡部洋一本部長・社会福祉法人恩賜財団済生会の炭谷茂理事長・全国厚生農業協同組合連合会の長谷川浩敏代表理事会長が6月4日、福岡資麿厚生労働大臣に宛てて、こういった内容を盛り込んだ提言「国民に適切な病院医療を安定的に提供するための提言2025」を提出しました(日病のサイトはこちら)。
入院基本料を引き上げよ、病院の地域経済活性化への貢献なども勘案せよ
Gem Medで報じているとおり、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会の6病院団体による調査で「病院経営は危機に瀕しており、いつ何時、地域の病院が突然なくなる(倒産する)可能性もある」状況が分かりました。例えば、2024年度診療報酬改定の前(2023年6-11月)・後(2024年6-11月)で比較すると、医業赤字病院は64.8%から69.0%に増加し、各種補助金を含めた経常赤字病院は50.8%から61.2%に増加していることなどが明らかになっています。

赤字病院・黒字病院の状況(6病院団体調査3 250310)
こうした状況から脱却するために、6病院団体と日本医師会は、▼2026年度診療報酬改定の「前」に期中改定を行う▼2026年度改定に向けて、「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安を廃止する▼2026年度改定で「賃金・物価上昇に応じて適切に対応する新たな仕組み」を診療報酬体系に中に盛り込む—ことを求める声明を発しています。
この日病方針に、国立病院機構・労働者健康安全機構・地域医療機能推進機構・全自病院協議会・日赤・済生会・厚生連といった病院団体も賛同し、今般、提言を福岡厚労相に提出したものです。
提言内容の大枠は以下の通りです。
(1)病院の経営支援が必要であり、2025年中の財政出動を要望する
▽医療機関、とりわけ高度医療や救急医療を提供し手術件数も多い病院は、現在、厳しい経営状況に追い込まれており、この背景には「入院基本料が適切な水準でない」「物価高騰、償還価格が設定されない医療材料費の増加、消費税負担の重さ」ことなどが重なっている
▽国民に対し、手術や検査など入院を必要とする病院医療を安定的に提供していくためには「2025年中の迅速な財政出動」を強く要望する
(2)診療報酬による入院基本料の引上げを要望する
▽【入院基本料】、とりわけ急性期一般1入院料などの「7対1入院基本料」は2006年度に創設されて以来、実質的に点数は据え置かれており(人件費増対応、消費税率引き上げ対応、加算包括化などでの増点はあるが、本体の評価が純粋に改善されたとは言えない)、大幅な増点が必要である
▽現行の入院基本料水準では、医療職の確保・教育・処遇改善、施設・設備・医療機器の維持更新等に必要な財源が確保できず、地域における持続可能な医療提供体制の維持が困難となっている
▽また診療報酬は複雑化し、加算取得のための厳格な配置基準や文書作成義務が現場に過重な負担をもたらしており、簡素化も必須である
▽さらに、将来にわたり持続可能な入院医療体制を確保するためには、国民的な理解と議論を前提としつつ、制度のあり方について「受益者負担も含めた中長期的な検討」が必要である
(3)休日夜間も「とりあえず診てくれる」病院が必要である
▽国民の多くは「とりあえず診てくれる」医療機関を休日・夜間を含めて必要としており、「かかりつけ医機能を有する医療機関」を明確にし、その役割と必要性について国民や医療関係者の理解が深まるよう取り組むことが重要である
▽「かかりつけ医機能を発揮しつつ、地域で高齢者医療のニーズが増すなかで入院医療を担う病院」の重要性についても、国民の理解が得られるよう国が取り組むことを要望する
(4)地域の病院で「【まず診る】役割を担う総合的な医師」(総合医)の強化が必要である
▽昨年(2024年)12月の「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」に先立ち、日病では昨年(2024年)11月に、医師偏在対策として、医師個人の意思を尊重した自発的な仕組みの重要性を訴えた。特に、医師を重要インフラと捉え、税制上の優遇措置や多様な働き方の推進など、医師が魅力を感じられる施策が求められる
▽少子高齢化が進む中で、特定の診療領域に偏らず、高齢者の多様な疾患に総合的に対応できる「総合医」の存在が必要不可欠であり、日病では全自病・全国国民健康保険診療施設協議会と共同で【病院総合医】の育成を進めていく
▽これらの機能に対する「診療報酬での評価」、および「病院総合医養成への支援」を強く要望する
(5)地方の生き残りと創生には「病院」の存在が不可欠である
▽全国には約8000施設の病院があり、約210万人の職員が就労している。
▽病院の約7割が「200床未満の中小病院」であり、地域の医療を支える重要な基盤となっている
▽病院は、医療提供施設としてだけでなく、「地域の重要な雇用の受け皿」としての機能も持ち、収益の過半が人件費に充てられることで、地域経済に波及効果をもたらしている
▽人口減少や働き方改革に対して、デジタルトランスフォーメーション(DX)による業務補完が求められており、こうした設備投資や人材確保には、国の積極的な財政支援が必要である
▽地方の生き残りと創生を進める上でも「病院の役割」はますます重要となることから、その存続と機能強化のために、国による支援を強く求める
提言は、6月(2025年6月)に固められる予定の骨太方針2025や、今夏(2025年夏)に予定される参院選も見据えていますが、日病の相澤会長は「まず多くの国民に病院の窮状、支援の必要性を理解してもらうことが重要である。いまだに『病院は儲かっており、そこで働く人も良い暮らしをしているのだろう』と言われることも少なくないが、決してそういった状況にはないことを国民にしっかりと理解してもらいたい」との考えをあわせて強調しています(関連記事はこちらとkこちら)。
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