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「我が国の病院医療の在り方、医療保険制度・医療提供制度の在り方」を根本から議論し、骨太方針2025年への反映目指す—日病・相澤会長

2025.1.16.(木)

病院経営が危機的な状況にある。もはやパッチワーク的な対応では問題は解決できず、「我が国の病院医療の在り方、医療保険制度・医療提供制度の在り方」を根本から議論し、見直す必要がある。そのために日本病院会で提言としてとりまとめ、骨太方針2025年への反映目指す—。

日本病院会の相澤孝夫会長が1月15日に定例記者会見を開き、こうした考えを述べました。6月下旬に取りまとめられる予定の骨太方針2025への意見反映を目指して日病内で議論が進められます。

1月15日の定例記者会見に臨んだ日本病院会の相澤孝夫会長

国民に「病院の窮状、その原因」を訴え、制度改革への理解を求めることも重要

Gem Medで繰り返し報じているとおり「病院経営の厳しさ」が増しています。日病・全日本病院協会・日本医療法人協会による病院経営定期調査では「医業収益は増加しているものの、費用増(材料費など)がそれを上回り、さらに補助金減なども手伝って、赤字病院が大きく増加し、赤字幅も大きくなっている」状況が明らかにされました。

また全国自治体病院協議会の経営状況調査では、2023年度には「10.3%の赤字」であったところ、2024年度には「14.5%の赤字」に悪化し、危機的な状況にあることが示されています。

こうした状況を放置すれば、医療機関の倒産・閉院が相次ぎ、地域の医療提供体制が崩壊してしまいます。

経営危機を解決するために「診療報酬による手当て」が考えられますが、日病幹部(会長、副会長、常任理事)の間では「単に報酬上の手当てをすれば解決する問題ではなく、医療保険・医療提供体制全体を見直されなければ根本的な解決、病院の安定的な経営はおぼつかない」との考えで一致し、提言を行っていくことを決めました。

例えば、現在の医療保険制度・診療報酬制度は「我が国が高度経済成長期にあり、人口の増加、給与水準の上昇が続く時代」に創設され、こうした時代には「より多くの患者を診療することで、収益を確保する」病院経営モデルがマッチします。しかし、現在のような「人口減少社会に入り、給与水準も上昇しない」時代には、こうした「より多くの患者を診療することで、収益を確保する」手法による病院経営が困難になってきます。

ところで、我が国の医療保険制度には、一定の制約こそあるものの(1)国民皆保険(誰しもが低い水準の患者負担で必要な医療を受けられる)(2)フリーアクセス(どの医療機関を受診してもよい)(3)自由開業制(どこで、どういった医療機関を開設してもよい)(4)出来高払い(診療行為を積み上げて報酬を請求・支払いする)—という特徴があります。日病幹部では、(1)の皆保険は維持すべきだが、(2)フリーアクセス(3)自由開業制(4)出来高払い方式—の3点については必要な見直しを検討する必要があるのではないかとの考えが浮上してきています。すでに▼(2)のフリーアクセスについては、「紹介状を持たない患者が大病院を受診する場合の特別負担」導入▼(3)の自由開業制については「医療計画等での病床数規制」▼(4)の出来高払いについてはDPC等の包括支払い制度導入—といった形で制限が始まっており、今後も「適切な医療保険制度の構築」に向けた見直し論議をすべきとの方向で、日病幹部の見解は一致していることが相澤会長から紹介されました。もちろんが、具体的な見直し内容については今後の議論を待つ必要があります。



あわせて医療保険制度の見直しを行う際には「国民、患者の理解」が必要不可欠です。例えば、(2)のフリーアクセスを制限する際には、「なぜ制限が必要なのか、従前のフリーアクセスにはどのような問題があるのか、どのように見なおせば良いのか」などを丁寧に説明すること、またその説明内容を理解してもらうための国民・患者教育も必要かつ重要であると相澤会長は指摘します。

この点に関連して日病幹部の間では、▼国民に「病院経営が危機的な状況にある」ことを理解してもらえていない▼それは「病院が国民向けて情報発信を必ずしも十分にしてこなかった」ことも一因としてある▼「こうした取り組み(例えば高度医療の導入など)をしなければならず、そのためにこの程度の負担をお願いします」などの情報発信を病院自らがしていく必要がある—との考えでも一致しています。



他方、現在の医療を取り巻く課題の1つとして「高度医療を提供するための高額な薬剤・医療材料」の在り方を根本から議論しなおすべきとの意見も出ています。この点に関連して▼償還価格が設定されていない医療材料(例えばガーゼ、グローブなど)の費用負担の在り方▼消費税問題—なども併せて議論していく必要がありそうです。

保険医療においては「消費税は非課税」とされ、医療にかかる消費税は患者ではなく、医療機関が最終負担しています。この消費税負担を補填するために、特別の診療報酬改定(消費税対応改定)が行われていますが、「十分な補填がなされていない」と感じている病院経営者は少なくありません。

また、医療材料に関しては、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が、かねてより「償還不可な医療材料費のみで診療報酬点数を超過する術式」(つまり実施するだけで赤字になる手術)が相当程度あることを指摘しています(関連記事はこちら)。さらに昨今では物価や流通経費などが高騰し、「償還価格(薬価、材料価格)を超える価格で購入しなければならない医薬品・医療材料も相当程度ある」ことも指摘されています(関連記事はこちら)。

相澤会長は「実施すればするほど病院経営が厳しくなっていく状況は構造的におかしい。病院は『収益が伸びている』と指摘されるが、それを上回るコスト増になっていることを理解してほしい」と指摘し、十分な見直し論議が必要と強調しています。



さらに、「日本の病院医療をどうしていくべきかが見えない。例えば病院が減少する一方で、都市ではクリニック(いわゆるビル診など)が増えている。都度都度、パッチワーク的な対応論議が行われるが、きちんと『我が国の病院医療をどうしていくのか』を議論し、明確化していく必要がある」との点でも日病幹部の考えは一致しています。

相澤会長は、こうした議論を今後も深め、6月下旬に閣議決定される予定の骨太方針2025に反映させるべく、提言を取りまとめる考えも明確にしています。



なお、病院経営の危機的状況を踏まえ、政府は「2025年度に期中の診療報酬改定」(入院時食事療養費の引き上げなど)を行う構えです。この点について相澤会長は「実施しないよりは多少なりとも助かるが、病院を含めた医療機関等の経営状況を改善するまでには至らないであろう。医療を取り巻く根本の課題を解決しなければ、今後の医療機関等経営は非常に厳しいものとなる」ともコメントしています。



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