病院経営窮状を踏まえた「入院時の食費」アップなど厚労相が諮問、「物価等急騰に迅速に診療報酬で対応する」仕組み提案も―中医協総会(1)
2025.1.15.(水)
病院の経営窮状、食材料費などの高騰を踏まえて、入院時食事療養費(保険給付と患者負担との合計額)を20円引き上げてはどうか—。
昨年(2024年)10月から導入されている「医療上の必要性なく、後発品でなく長期収載品を選択した場合の患者特別負担(選定療養費)」により、保険薬局(調剤薬局)での患者への説明負担を考慮して、報酬上の評価を行ってはどうか—。
また、専門的な業務を行う歯科衛生士・歯科技工士を確保するために報酬上の評価を行ってはどうか—。
1月15日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、福岡資麿厚生労働大臣が小塩隆士会長(一橋大学経済研究所教授)にこうした点について検討するよう諮問しました。近く開かれる中医協総会で答申が行われ、通常の改定に照らせば「3月上旬に改定内容を踏まえた関連告示改正等→本年(2025年)4月から施行」となる見込みですが、医療機関等の準備を踏まえて告示時期が少し早まる可能性もありそうです。
なお、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)から「物価や人件費等の高騰を踏まえて、診療報酬上の対応をタイムリーに行える仕組み」の検討を提案しています。今後の議論に注目が集まります。
また、同日には「来年度(2025年度)の薬価中間年改定」の詳細も固められており、別稿で報じます。
医療機関経営の窮状踏まえ、入院時食事療養費アップなど期中の診療報酬改定を実施
Gem Medで報じているとおり、12月25日に福岡資麿厚生労働大臣と加藤勝信財務大臣が来年度(2025年度)の予算案編成に向けて折衝を行い、(1)入院時の食事基準額を20円引き上げる(2)口腔機能指導・歯科技工士との連携に係る加算へ上乗せを行う(3)服薬指導に係る加算への上乗せを行う―方針を決定しました。
この決定を踏まえ、同日の中医協総会で(1)-(3)の具体的な内容が議論され、概ねの了承が得られています。
(1)「入院時の食事基準額引き上げ」
▽食材費の高騰が2024年度の食事基準額アップ(+30円)以降も続く中、「治療の一環である食事の質が低下しかねない」事態に直面している点踏まえて、両大臣が「入院時の食事基準額を20円引き上げる」方針を決定
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▽この方針に基づいて、12月25日の中医協総会で、例えば【入院時食事療養(I)】(1食につき)について、(1)の「(2、流動食のみ)以外の食事療養を行う場合」を現行「670円」から「690円」に、(2)の「流動食のみを提供する場合」が現行「605円」のところ「625円」とすることなどを概ね了承
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▽さらに12月26日の社会保障審議会・医療保険部会で、▼20円アップは食材費高騰を勘案したもので、食材費部分に相当する「患者負担増」で対応する▼ただし低所得者には配慮を行う—方針を固める
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▽こうした方針に則り、2025年度予算案において、例えば入院時食事療養費(I)について総額を現在の「1食あたり670円」から「同690円」に引き上げ、うち患者負担について▼一般所得者は「同490円」から「同510円」に20円アップする▼住民税非課税世帯で、70歳以上の所得が一定の基準以下(前年の公的年金収入が80 万円以下など)の場合には「同110円」を据え置く▼それ以外の住民税非課税世帯では「同230円」から「同240円」に10円アップする—ことを固めた
(2)歯科診療所を受診する高齢者の患者が増加する一方で、専門的な業務を行う歯科衛生士・歯科技工士が十分に確保できておらず、今後、口腔機能の指導や義歯製作等に支障を来たすことが予想される点を踏まえ、次の対応を行う
▽歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が口腔機能に係る指導を行うことを評価する【歯科衛生実地指導料】の「口腔機能指導加算」(10点)を2点引き上げる
▽歯冠補綴物・欠損補綴物の製作にあたり、ICT活用を含め歯科医師と歯科技工士が連携して色調採得等を行うことを評価する【歯科技工士連携加算1(印象採得)】(50点)・【歯科技工士連携加算2(印象採得)】(70点)について、それぞれ10点引き上げる
(3)調剤について、2024年10月から導入された「医療上の必要性なく、後発品でなく長期収載品を選択した場合の患者特別負担(選定療養費)」により、保険薬局(調剤薬局)で患者への説明負担が大きくなっている点を踏まえて、【特定薬剤管理指導加算3】の「ロ」の点数を現在の「5点」から「10点」(+5点)へ引き上げる
1月15日の中医協総会では、福岡厚労相が中医協の小塩会長に宛てて、上記のような見直しを行うべきか否かを諮問。小塩会長は近日中に答申を行う考えを示していますが、すでに中医協では「見直しが必要である」との考えで診療側・支払側の双方が一致。
近く開かれる中医協総会での答申を経て、通常改定と同じと考えれば「3月上旬に改定内容を踏まえた関連告示改正等→本年(2025年)4月から施行」となる見込みです。もっとも、医療機関等の準備を踏まえて告示時期が少し早まる可能性もありそうです。
物価や人件費の急騰に「タイムリーに診療報酬で対応する」仕組みを診療側が提案
なお、こうした「期中改定」は物価高騰等により医療機関等の経営が非常に厳しいことを踏まえたものと言えます(関連記事はこちらとこちら)。
この点について診療側の長島委員は「医療機関、とりわけ病院経営が厳しい現状を踏まえた、また医療の質をかく保するために必要で、時機を得た対応である」と評価したうえで、「物価や人件費の高騰に診療報酬が追い付いていない。タイムリーに対応できる何らかの仕組みがいるのではないか。今後、中医協での議論が必要である」と提案しています。
保険医療機関の収益の柱は診療報酬です(開設主体により若干の違いはあるが医業収益の9割超を占める)。現下のように物価や人件費等が急騰する中では、一般企業であれば「商品の価格にコスト増分を上乗せする」手法を取りえますが、保険医療機関が「公定価格である診療報酬を自身で操作する(引き上げる)」ことはできません。コスト増を吸収するための「診療報酬改定」が行われますが、そのためには「中医協で議論を行い、諮問・答申を経る」などの手続きが必要となります。そこで、例えば「物価や人件費等が短期間に●%上がった場合には、診療報酬も自動的に引き上げる」、言わば物価スライドの導入を検討すべきとの指摘も一部にあります。
この点、かつての高度成長期(1960年代・70年代)にも物価等が急騰し、これを吸収するための「特別の診療報酬改定」が行われており、こうした意見にも一定の合理性があります。
しかし、▼診療報酬を引き上げるには財源が必要で、それは税金や保険料で賄うことになるが「国民に新たな負担を求められる」かどうかは十分に議論しなければならない(高度成長期は物価等高騰に合わせて給与水準も上がっており、負担増を吸収できたが、現在、それが可能かは十分な議論が必要となる、また予算確保を中医協で決定することはできない)▼診療報酬点数表は複雑であり、「物価が●%上がったので、報酬も●%上げる」という単純な引き上げ(物価スライド)はできない(どの点数をどの程度引き上げるべきかは、精密な議論を中医協で行わなければならない)—などの問題もあり、今後、どういった議論が進むのか注目する必要があります。
なお、日本病院会の相澤孝夫会長は、こうした期中の改定について「実施しないよりは多少なりとも助かるが、病院を含めた医療機関等の経営状況を改善するまでには至らないであろう。医療を取り巻く根本の課題を解決しなければ、今後の医療機関等経営は非常に厳しいものとなる」と1月15日の定例記者会見でコメントしています。相澤会長会見の内容は別稿で報じます。
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