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病院の経営窮状・食材費高騰などを踏まえ、入院時の食事療養費（保険給付＋患者負担）を20円引き上げ―中医協総会（1）

2024.12.26.（木）

病院の経営窮状、食材料費などの高騰を踏まえて、入院時食事療養費（保険給付と患者負担との合計額）を20円引き上げる—。

この10月から導入されている「医療上の必要性なく、後発品でなく長期収載品を選択した場合の患者特別負担（選定療養費）」により、保険薬局（調剤薬局）では患者への説明などに大きな負担が生じている点を踏まえて、【特定薬剤管理指導加算3】の「ロ」の点数を現在の「５点」から「10点」へ引き上げる（＋5点）—。

歯科診療所等において、より専門的な業務を行う歯科衛生士・歯科技工士を確保し、限られた人材で歯科医療を効率的に提供するために、▼【歯科衛生実地指導料】の「口腔機能指導加算」（10点）を2点▼【歯科技工士連携加算1（印象採得）】（50点）・【歯科技工士連携加算2（印象採得）】（70点）をそれぞれ10点—引き上げる—。

12月25日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした診療報酬上の対応（期中改定）を来年度（2025年度）に行うことが固められました。厚生労働省は「来年（2025年）4月からの実施」を念頭に置いており、今後の来年度（2025年度）予算案を編成する中で実施時期の最終調整・決定が行われます。

なお、入院時食事療養費については、「低所得者の患者負担増」に対する配慮が社会保障審議会・医療保険部会で議論・決定されます。

また、同日には「来年度（2025年度）の薬価中間年改定」の骨子が了承されており、別稿で報じます。

2024年度改定で入院時食事療養費を30円アップしたが、その後も食材費は高騰

Gem Medで報じているとおり、12月25日に福岡資麿厚生労働大臣と加藤勝信財務大臣が来年度（2025年度）の予算案編成に向けて折衝を行い、（1）入院時の食事基準額を20円引き上げる（2）口腔機能指導・歯科技工士との連携に係る加算へ上乗せを行う（3）服薬指導に係る加算への上乗せを行う―方針を決定しました。

2025年度予算案に向けた大臣折衝事項（中医協総会（1）1　241225）

この決定を踏まえ、同日の中医協詳細で（1）－（3）の具体的な内容が議論されました。

このうち（1）の「入院時の食事基準額」については、2024年度の診療報酬改定の中で「食材費等急騰により医療機関での食事提供が困難となっている状況を踏まえて、『入院における食事療養』について患者の自己負担部分が30円引き上げ」られました（関連記事はこちらとこちら）。

しかし、その後も物価の高騰は続いています（たとえば消費者物価指数（CPI、食料）を見ると、2018年度から23年度にかけて「15.0％」増であったら、同じく18年度から24年度（ただし1－10月平均）にかけて「19.5％」増と、4.5ポイント上昇している）。

食材費は2024年度診療報酬改定後も高騰を続けている（中医協総会（1）2　241225）

こうした中で、医療現場で給食管理に携わる管理栄養士・栄養士は、▼より安価な食材を提供してもらう▼価格変動が少ない食材に頻度を増やす▼冷凍食品・加工品を活用する—などの「コスト抑制」努力を続けていますが。それにも限界が来ていると指摘されるとともに、「治療の一環である食事の質が低下しかねない」事態に直面しているとも考えられます。

医療現場の工夫（中医協総会（1）3　241225）

両大臣は、こうした状況を改善し「入院での食事内容の質の維持・向上」を図る必要があると判断し、「入院時の食事基準額を20円引き上げる」方針を決定。これを踏まえて、厚生労働省保険局医療課の林修一郎課長は、例えば【入院時食事療養（I）】（1食につき）では、（1）の「（2、流動食のみ）以外の食事療養を行う場合」が現行「670円」のところ「690円」に、（2）の「流動食のみを提供する場合」が現行「605円」のところ「625円」とすることを提案しました。

2025年度診療報酬改定対応3（以下入院）（中医協総会1　241225）

この提案に対し診療側委員は、▼前回の2024年度診療報酬改定後も食材費はさらに高騰しており、配慮が必要だ。食事は治療の一環であるが、現下の状況ではその質を確保することが困難な状況である。医療の質向上を目指す時機に即した内容と言える（長島公之委員：日本医師会常任理事）▼2024年度診療報酬改定でも食材費高騰を踏まえて食事の基準額を「30円」引き上げたが、その後もさらに物価が高騰している。医療現場では「安価な食材への切り替え」などで対策しているが、それにも限界があり病院経営悪化の一因となっている。入院における食事は治療の一環であり、質の維持・確保のために引き上げをお願いしたい（太田圭洋委員：日本医療法人協会副会長）▼食材費、光熱費の高騰で「食事提供が困難になっている」との悲鳴が医療現場から出ており、その状況は委託する給食業者も同様である。是非、配慮をお願いしたい（池端幸彦委員：日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長）—と歓迎。

支払側の松本真人委員（健康保険組合連合会理事）も、「2024年度診療報酬改定論議を行った時点から、さらに食材費が上昇しており、実態を踏まえた基準額の引き上げ」は理解できると、提案内容に賛同しています。ただし松本委員は、▼経費削減と今回の基準額引き上げを組み合わせて、食事の質を下げないように留意してほしい▼患者への丁寧な説明を行ってほしい—と医療現場や厚労省に注文しています。

ところで、今回の「基準額20円引き上げ」をどう負担するのか、については社会保障審議会・医療保険部会の議論を待つ必要があります。

入院時の食費療養費、上記例で現行の「670円」、引き上げ後の「690円」は、患者負担（食材費・調理費）と保険給付（栄養管理分）の合計額です（医療機関はこの合計額を取得できる）。

現行「670円」の内訳を見てみると、次のように設定されています。
▽一般所得者：保険給付180円＋患者負担490円
▽住民税非課税世帯：保険給付440円＋患者負担230円
▽住民税非課税世帯かつ所得が一定基準に満たない70歳以上：保険給付560円＋患者負担110円

低所得者に「多くの負担」を求めることは酷ですが、「その分、医療機関も我慢してほしい」とは言えないため、低所得者では「患者負担を少なくし、保険給付を手厚く」しているのです。

2024年度診療報酬改定後の入院時食事療養費の概要（中医協総会（1）4　241225）

2024年度改定では、「食材費の高騰」に対応するために、「食材費負担者である患者」の自己負担が引き上げられました（入院時の食費は、上述のように患者が「食材費・調理費」分を負担し、医療保険が「栄養管理」分を負担すると理解されている）。

今般の見直しも、「食材費の高騰への対応」であることを考慮すれば、「患者負担部分を20円引き上げる」ことになりそうです。ただし、その場合、低所得者にも同様に「20円の負担増をお願いする」ことが妥当かを検討する必要があります。

ちなみに2024年度改定では、一般所得者で「30円の患者負担引き上げ」が行われましたが、▼住民税非課税世帯では「患者負担引き上げ幅を20円にとどめる」▼住民税非課税世帯かつ所得が一定基準に満たない70歳以上では「同じく10円にとどめる」—という配慮が行われています。

今回の見直しでも、医療保険部会においてこうした「低所得者に関する所得区分に応じた一定の配慮」が検討されます。

ほか（2）（3）では、次のような見直しが行われます。

（2）歯科診療所を受診する高齢者の患者が増加する一方で、専門的な業務を行う歯科衛生士・歯科技工士が十分に確保できておらず、今後、口腔機能の指導や義歯製作等に支障を来たすことが予想される点を踏まえ、次の対応を行う
▽歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が口腔機能に係る指導を行うことを評価する【歯科衛生実地指導料】の「口腔機能指導加算」（10点）を2点引き上げる

▽歯冠補綴物・欠損補綴物の製作にあたり、ICT活用を含め歯科医師と歯科技工士が連携して色調採得等を行うことを評価する【歯科技工士連携加算1（印象採得）】（50点）・【歯科技工士連携加算2（印象採得）】（70点）について、それぞれ10点引き上げる

2025年度診療報酬改定対応2（歯科）（中医協総会2　241225）

（3）この10月（2024年10月）から導入された「医療上の必要性なく、後発品でなく長期収載品を選択した場合の患者特別負担（選定療養費）」により、保険薬局（調剤薬局）で患者への説明などに大きな負担が生じている点を踏まえて、【特定薬剤管理指導加算3】の「ロ」の点数を現在の「５点」から「10点」（＋5点）へ引き上げる

2025年度診療報酬改定対応3（調剤）（中医協総会3　241225）

この見直し案も了承されていますが、支払側の松本委員は「歯科衛生士などは2024年度診療報酬改定で設けられたベースアップ評価料の対象となっており、（2）の対応については専門人材の確保・定着につながっているか検証する必要がある」、「【特定薬剤管理指導加算3】の「ロ」は、長期収載品から後発品へのシフトがなくとも算定できる点にそもそも疑問を感じている。2026年度の次期改定に向けて加算の立て付けや選定療養費の患者負担基準などの見直し論議を進めるべき」と注文を付けています。

厚労省は「来年（2024年）4月からの引き上げ」を念頭に置いており、今後、来年度（2025年度）予算案を編成する中で最終調整・決定が行われます。