2024年度診療報酬改定「基本方針」論議始まる、物価急騰への対応や医療保険制度の持続可能性確保など重視―社保審・医療保険部会(1)
2023.8.25.(金)
2024年度の次期診療報酬改定では、「物価やエネルギー費などの急騰にどう対応するか」「国民皆保険の持続可能性をどう確保するか」「医師働き方改革をどうサポートするか」「医療DX推進の道筋をどうつけていくか」などが重要視点になる—。
8月24日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった改定基本方針策定議論が始まりました。別に医療部会でも議論が進められ、12月上旬に策定となる予定です。なお、同日の医療保険部会では「マイナンバーカードと保険証との一体化」論議も行われており、別稿で報じます。
医療保険部会・医療部会、内閣、中医協で、診療報酬改定論議の役割分担
2024年度の次期診療報酬改定に向けた議論が中央社会保険医療協議会(中医協)を中心に進んでいます。
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【診療報酬改定DXはじめ医療DXに関する記事】
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ところで、かつて中医協を舞台とした「汚職事件」(「中医協委員に金品を授受し、自身に有利な改定内容を導く」など)が生じ、その背景として中医協の所掌範囲・権限があまりに大きくなり過ぎたことが指摘されました。
そこで2006年度の診療報酬改定から、▼改定の基本方針を社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する▼改定率(つまり財源配分の大枠)を内閣が予算編成過程で決める▼基本方針と改定率を受け、中医協で改定内容を詰める―という役割分担が行われています。
今般、医療保険部会で2024年度改定の基本方針」策定論議がスタートしました。言わばキックオフとなった8月24日には、各委員から「2024年度の次期診療報酬改定では、こういった点を重視すべきではないか」とのフリートークが行われました。目立つものを眺めてみましょう。
物価急騰等への対応、医療保険の持続可能性確保などが2024改定の重要視点
まず、昨今の物価・エネルギー費・人件費等の急騰への対応に関する意見が注目されます。保険診療においては、医療の価格は診療報酬という「公定価格」が設定され、一般企業のように「物価等が高騰したので価格に転嫁する」という手段はとれません。この点、骨太方針2023には、2024年度の診療報酬改定に向けて「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」旨が示されており、猪口雄二委員(日本医師会副会長)は「とりわけ、入院時食事療養費は30年近く見直されておらず、病院の給食部門は赤字が続いている。また外部の給食業者も、現在の価格では提供困難であるとしており、骨太方針2023に沿った改定内容を実現すべき」と強調。池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)も同旨の考えを述べています。
また、少子高齢化が進行する中で「医療保険制度、国民皆保険制度を維持」するために、効率化・合理化をこれまで以上に推進すべきとの指摘も、医療保険者代表委員(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長、安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)や費用拠出者代表委員(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員、横本美津子委員:日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)らから数多く出されました。少子化は「医療人材の不足」にも直結し、この点からも効率的な医療提供体制の確保が求められる点にも留意が必要です。
また医療費が増嵩を続け「国民が負担しきれない額」になれば、医療保険制度は事実上破綻してしまいます。そうなれば、国民が「1-3割の自己負担で良質な医療を受ける」ことができなくなり、また多くの医療機関の経営が不安定となってしまいます。国民の健康生命、地域の医療提供体制を維持するためにも「医療保険制度、国民皆保険制度を維持」が重要になる点を忘れてはなりません。
より具体的に「2022年度改定の効果・影響を十分に検証し、さらに効率的・合理的な入院・外来医療提供体制の構築、後発医薬品・長期収載医薬品の価格見直し、医療DXの推進による効率的な医療提供等をさらに推進する必要がある」(佐野委員)、「企業は経済成長の好循環に向けて賃金アップに努めており、この好循環を妨げないような対応を行うべき(例えば「保険料の大幅増」につながる改定内容は賃金増による好循環に水を差してしまう)」(横本委員)などの意見が出ています。
関連して伊奈川秀和委員(東洋大学福祉社会デザイン学部教授)は「人口動態は地域によって大きく異なっており、それは地域医療提供体制、すなわち医療人材確保にも大きく影響してくる。高齢化がさらに進む地域、高齢者すら減少していく地域など様々であり、エビデンスに基づく議論を進めるべき」と指摘しました。
さらに、医療提供体制改革の重要テーマにもなっている「かかりつけ医機能の推進」を重視すべきとの指摘も出ています。池端委員は「24時間・365日対応というかかりつけ医機能は、1人の医師で担うことはできない。病院を含めた地域医療提供体制全体の中でかかりつけ医機能をどう果たしていくのかを考えるべき」と訴えています。
また、2024年度から新たな勤務医の長時間労働規制(原則として年間960時間以内、例外的に救急医療などの地域医療確保に必要な場合、研修医など短期間に多くの症例を経験する必要がある場合には1860時間以内)が適用されます(いわゆる【医師働き方改革】)。このため「2022年度の前回診療報酬改定により、医師働き方改革が進んでいるのかを検証し、2024年度改定で必要な対策を強力に進めるべき」(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)、「勤務医の健康確保と、良質な地域医療提供体制確保とを両立する診療報酬上の対応、地域医療介護総合確保基金での対応を維持・継続すべき」(猪口委員)などの意見が出ています。
このほか、▼医療DXの診療報酬による推進▼新興感染症対策の診療報酬によるサポート▼同時改定であることを踏まえた「医療・介護連携」の推進▼現下の状況を慎重に検証したうえでのコロナ感染症対応臨時特例の在り方検討—なども重要視点であることが確認されました。
ところで、高齢の救急搬送患者・急性期患者について「急性期一般1などの急性期病棟について介護力、リハビリ力を強化して対応すべきか」、それとも「すでに介護力、リハビリ力が一定程度備わっている地域包括ケア病棟で対応すべきか」という議論があります。この点、前者の考え方に対して任和子委員(日本看護協会副会長)は「病院において介護福祉士等が看護補助者として勤務するケースがあるが、急性期病棟への介護福祉士配置を進めるための診療報酬上の評価創設(例えば「介護福祉士配置加算」など)には明確に反対する。看護力の強化で対応すべき」との考えを示しました。これに対して池端委員は「医療機関に勤務する介護福祉士等の専門性を全く考慮していない暴論である」と極めて強い不快感を提示。池端委員はGem Medにも「専門職である介護福祉士に対しあまりにも失礼であり、理解できない」とコメントしています。高齢の救急搬送患者・急性期患者にどのように対応すべきかは、2024年度診療報酬改定における最重要論点の1つとも言え、今後、どのような議論が行われるのか注目が集まります。
なお、患者・一般国民代表の立場で医療保険部会に参画する袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会副理事長)は「患者本位の医療を実現するような報酬上の対応を行ってほしい。今でも医師等に言われるがままに医療を受けざるを得ないケースが散見される」と厳しく指摘しています。チーム医療の輪の中心には「患者」がいることを全ての関係者が再認識する必要があります。
医療保険部会および、近く議論をスタートさせる医療部会では、今後もこうした検討を進め、12月初旬から中旬にかけて「基本方針」を決定します。
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