2024年度の費用対効果制度改革に向けた論議スタート、まずは現行制度の課題を抽出―中医協
2023.4.28.(金)
4月26に開催された中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会(以下、専門部会)で、2024年度の費用対効果評価制度改革に向けたキックオフ論議が始まりました。
まず「2022年度の制度改革」後の状況を検証して、現行制度の課題をあぶり出し、対策を検討していきます。
費用対効果評価制度の改革に向けた論議開始
我が国の公的医療保険制度では、安全性・有効性の確認された医療技術は「すべて保険適用する」ことが原則です。しかし、医療技術の高度化(例えば脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)、白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)といった超高額薬剤の保険適用など)が進み、医療保険財政が厳しくなる中では、新規の医療技術を保険適用する際などに「経済面を考慮する」ことが不可欠となってきています。
そこで、中医協では2012年度から「費用対効果評価」の導入に向けた検討を進め、試行錯誤を経て2019年4月から制度化(本格運用)されました。
費用対効果評価の仕組みは非常に複雑ですが、「高額である」「医療保険財政に大きな影響を及ぼす」などの要件を満たした新薬・新医療機器について、「類似の医薬品・医療技術等に比べて、費用対効果が優れているのか、あるいは劣っているか」をデータに基づいて判断。「費用対効果が優れている」と判断されれば価格(薬価、材料価格)は据え置きとなり、「費用対効果が劣っている」と判断されれば価格の引き下げが行われます。また、「費用が少なくなる一方で、効果が優れている・あるいは同じである」という、いわば「きわめて費用対効果が優れている」製品については、価格の引き上げも行われます。従前の「安全性」「有効性」に加えて、新たに「経済性」の評価軸を設けるものです。
これまでに「25品目」について評価が行われ(薬価等に反映される)、現在「17品目」が評価対象になっています。
このように医療保険制度において重要な位置を占めるに至っている費用対効果評価制度については、2022年度の前回改定において▼速やかな分析を行う仕組みにする▼価格調整についてより明確なルールを設ける▼分析体制を強化する—ことを目指した改革が行われました(関連記事はこちら)。
2024年度の次期診療報酬改定に合わせ、改めて「費用対効果評価制度改革」を実施することになりますが、4月26日にはそのキックオフ論議が行われ、次のようなスケジュール案が厚生労働省保険局医療課医療技術評価推進室の中田勝己室長から提案され、了承されました。
▽4月26日(今回):キックオフ
▽7月頃:費用対効果評価専門組織からの意見について(ここで現行制度の課題、課題解消に向けた論点などが示される)
▽8月:関係業界からのヒアリング(1)
▽9月:分析プロセスの見直しを議論
▽10月:価格調整方法の見直し、分析体制の在り方を議論
▽11月:関係業界からのヒアリング(2)
▽12月:2024年度改革の骨子とりまとめ
▽年明け(2023年)1月:2024年度改革内容のとりまとめ
費用対効果評価専門組織は、「現行の費用対効果評価制度に則り、個別製品の費用対効果評価案(効果に比べて費用が妥当か、高いかなどの判断)作成」を行います。この評価案作成の過程で「現行制度の問題点、課題」が浮上するため、ここから出される意見が制度改善に向けて非常に重要になるのです。
中田医療技術評価推進室長は、この組織から示される意見をベースとして「制度改革論議を進めてもらう」考えを示しています。
なお、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「保険適用の可否にも費用対効果評価制度を導入する」点についても将来の、あるいは副次的な検討課題にすべき旨をコメントしています。
費用対効果評価は、上述のとおり「効果に見合った価格設定となっているか」を判断する仕組みであり、我が国では「一度、保険適用を行い、償還価格を設定する」→「その後、保険償還価格が、効果と見合ったものかを判断する」という形で導入されています。
しかし、たとえば英国では「公的医療補償サービスの対象とするか否か」の判断にも用いられており、支払側委員は、かねてから「英国等に倣い、保険適用時に費用対効果評価制度を導入することで、無用な費用増を避けることができる」と指摘しています。
頷ける部分もある指摘ですが、現在の評価体制(主にマンパワー)を考慮すると、保険適用時に費用対効果評価を導入すれば、「保険適用までに長期間がかかる(短く見積もっても1年半程度)ため、最新の医療技術へのアクセスが大きく阻害されてしまう」という問題点があります。
我が国も「費用対効果評価を行う人材育成」が進められていますが、やはり時間がかかることから、松本委員の指摘する「保険適用時の制度導入」は、かなり遠い将来の検討課題となりそうです。
肺がん患者の遺伝子変異7項目を同時検出する新検査法などの保険適用を承認
なお、同日に開催された中医協総会では、新たな医療機器・臨床検査の保険適用、新たな在宅自己注射指導管理料の対象薬剤追加が次のように承認されています(同日の医療DXに関する中医協論議の記事はこちら)。
【新たに保険適用される医療機器】(本年(2023年)6月保険適用予定)
▽振戦・パーキンソン病の運動障害・ジストニアの症状軽減のために身体に埋め込み、脳深部(視床、視床下核、淡蒼球内節)に一側・両側電気刺激を与える「メドトロニックPercept RC」(新機能区分、保険償還価格は232万円)
【新たに保険適用される臨床検査】(本年(2023年)5月保険適用予定)
▽血漿・血清中の抗血小板第4因子(抗PF4)-ヘパリン複合体 IgG 抗体を検出する検査法(420点)
▽肺がん患者の遺伝子変異7項目を同時検出する検査法(1万2500点)
【新たな在宅自己注射指導管理料の対象薬剤】
▽既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の治療に用いる「ビメキズマブ(遺伝子組換え)」(販売名:ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ、同皮下注160mgオートインジェクター)
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