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電子カルテ標準化や医療機関のサイバーセキュリティ対策等の医療DX、診療報酬でどうサポートするか—中医協総会

2023.4.26.(水)

全国の医療機関で過去の診療情報を活かした「質の高い医療提供」を実現したり、医療機関等の診療報酬改定対応の負担を軽減したり、サイバーセキュリティ対策を強化するなどの「医療DX」を強力に推進していく必要があるが、それを診療報酬でどのようにサポートしていくべきか—。

4月26日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論が行われました。2024年度診療報酬改定に向けた「総論」論議が本格的に始まった格好です。

過去の診療情報を活用した良質な医療、「標準規格に沿った電子カルテの普及」が重要

2024年度の次期診療報酬・介護報酬改定に向けた議論が進んでおり、4月26日の中医協総会では「医療DX」に関するキックオフ論議が行われました。

医療DXとは、「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、申請手続き、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータに関し、その全体が最適化された基盤を構築・活用することを通じて、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように社会や生活の形を変えていくこと」と定義されています(関連記事はこちら)。

例えば、「医療等の情報を患者本人や医療機関等で広く共有可能とする全国医療情報プラットフォームの構築」「電子カルテの標準化」「電子処方箋の推進」「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策」「医療機関の診療報酬改定対応を軽減するための診療報酬改定DX」などを総合的に進めていくことが求められ、これを診療報酬でどうサポートするかを今後議論していくことになります。

厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は、次の5つの論点を提示し、中医協委員に議論を要請しました。
(1)全国医療情報プラットフォームの構築や電子カルテ情報の標準化において、情報共有のために、「標準規格化された3文書・6情報」を普及促進し、医療の質向上のために活用をしていくことをどう考えるか

(2)診療報酬改定DXにおいて「共通算定モジュール導入」「診療報酬改定の施行時期後ろ倒し」は、医療機関・ベンダー等の改訂対応負担軽減を目指して検討されているが、「財政影響」や「改定結果の検証期間」などの総合的な観点からどのように考えるか

(3)電子処方箋について、医療機関や薬局・患者間での処方・調剤情報共有、マイナポータルからの情報連携を含め「薬剤情報の有効活用を通じて質の高い医療を提供する」ためにどう対応していくか

(4)サイバーセキュリティ対策について、どのように対応すべきか

(5)人口減少社会の中で医療従事者の勤務環境改善を進めるにあたり、医療DXによる取り組みを診療報酬の中で評価することについてどう考えるか



まず1つ目の全国医療情報プラットフォームは「過去の診療情報を患者自身や全国の医療機関等で確認・共有可能とする仕組み」です。すでに「レセプト情報の共有」がスタートしており、今後「電子カルテ情報の共有」(まずは診療情報提供書、退院時サマリー、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報、処方情報などの3文書・6情報からスタート)なども進められます(関連記事はこちらこちらこちら)。

「過去の診療情報」を「現在の診療」に活かすことで、より効果的で質の高い、かつ効率的な医療提供が可能になると期待され、この方向に反対する声は出ていません。

電子カルテ情報等の共有する仕組みの全体像(医療情報利活用基盤WG(1)1 230309)



ただし、この仕組みを効果あるものにするためには、全国(できればすべての)の医療機関等で「標準化された診療情報を活用できる」体制が整っていることが必要です。一部医療機関でのみ情報共有が可能となったとしても、その効果は限定的なためです(個々のケースでは効果ゼロが大半となってしまう)。

このためには「3文書・6情報などを標準規格に沿って共有できる(情報を標準規格に沿って授受できる)電子カルテシステムが全国の医療機関等に普及している」ことが求められます。この標準規格に準拠した電子カルテシステムについて「中小病院、クリニックを中心に導入費などを『医療情報化基金』を活用して支援・補助していく」方向で検討が進められています(関連記事はこちら)。

この点、診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は、「中小病院やクリニックでの電子カルテ導入状況は芳しくない」(2022年度時点で、400床以上大病院では91.2%だが、200床未満の中小病院では48.8%、クリニックでは49.9%にとどまっている)ことや、(3)の診療報酬改定DXの中で「「標準型電子カルテと一体型のモジュールを組み入れた標準型レセコンをクラウド上に構築して利用可能とする」方針が示されていることなどを踏まえ、「可能な限り早期に内容を固め、情報提供してほしい」と要望しました。後者の「標準型電子カルテ・標準型レセコン」のクラウド利用時期によって、医療機関は「それを待つべきか?早期に電子カルテを購入等すべきか?」の意思決定方針が変わってくるためです。

ただし、「電子カルテの標準化」を実現するためのハードルはまだ高く、厚労省医政局の田中彰子参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室長併任)は「近く(今春)示される『医療DXの推進に関する工程表』の中で明らかになる見込み」とコメントするにとどめています。

関連して支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「かかりつけ医が、膨大な診療情報のハブ(要)となるべきである。2024年度診療報酬改定に向け、全国医療情報プラットフォームとはじめとする『医療DX』と『かかりつけ医機能』とを絡めて議論していくべきである」とコメントしていますが、中小病院・クリニックの電子カルテ導入状況等に鑑みれば、松本委員の「かかりつけ医が情報連携のハブになる」構想は、「少し遠い将来を見据えて考えていくべき」事項と言えるでしょう。

なお、診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「過去の診療情報を共有するに当たり、現在は『患者の同意』が前提となっている。しかし、過去の情報を現在の診療に活かすことは診療の基本とも言える。『患者の同意』の在り方を考えていく必要があるのではないか」とコメントしています。この点については、「同意取得が必要な情報活用を妨げている面がある。また同意は万能ではなく、同意があっても活用が許されない情報がある」という議論が進んでおり、今後、「個人情報保護」全体に関する大きな議論に発展していく可能性を含んだ、非常に重要な論点と言えるでしょう(関連記事はこちらこちら)。

診療報酬改定の施行時期を遅らせた場合、効果検証が遅れ、次の改定論議に影響が出ないか

また(2)の診療報酬改定DXに関しては、診療報酬改定への対応負担(レセコン改修など)を軽減・標準化するために、▼改定施行時期を後ろ倒しする▼共通算定モジュール(患者の自己負担等の計算を共通算定モジュールで実施可能とするイメージ)を開発・運用する▼共通算定マスタ・コードの整備などを進める—などの方向が固められています(関連記事はこちら)。

診療報酬改定DX対応方針

診療報酬改定DXの取り組みスケジュール



例えば、現在の「4月施行」を数か月遅らせることができれば、医療機関等やシステムベンダーの負担は相当軽減されます。

しかし、改定施行時期を遅らせた場合には、「当然、新点数の施行が遅れるため、医療機関等の収益や、医療保険財政に影響が出る」(プラス改定の場合には医療機関の収益増が数か月遅れることとなり、マイナス改定の場合には医療保険財政の軽減効果が小さくなってしまう)、「改定の効果が出る時期が遅くなる→結果検証が遅れる→次期改定に向けた十分なデータが集まらない、といった弊害が出る」可能性があります。

改定の効果検証データが十分に集まらなければ、次の診療報酬改定内容にも影響が出てきます。このため「診療報酬改定の施行時期を遅らせるのであれば、改定頻度を下げ、介護報酬と同じく3年に一度にすればよいのではないか。こうすれば効果検証データも十分に確保でき、改定論議の時間も十分にとれるのではないか」と指摘する識者もおられます。

さらに、「薬価改定時期をどう考えるのか」という論点もあります。薬価改定を4月にしたまま診療報酬改定を遅らせるのか?薬価改定も診療報酬改定と同様に遅らせるのか?例えば「2度のレセコン等改修が必要になるのではないか」「改定時期を変えた方が、作業の集中を避けられるのではいか」など、様々な考え方があり、こうした議論も必要となります。

こうした点を総合的に考慮しながら「診療報酬改定DX」の具体的内容を詰めていくことになるでしょう。

なお、改定時期は「医療保険財政、つまり国費負担・改定率をどう考えるのか」という論点と関連するため、最終的には政府が判断することになります。ただし、ベンダーによる改定対応準備を考慮し「改定時期をいつにするのか」は比較的早いタイミングで決定される見込みです。



また(3)の電子処方箋は、リアルタイムに処方内容を確認可能とするもので、併用禁忌や重複投薬の回避など「医療の質向上」に非常に有用であると期待されていますが、導入医療機関・薬局はまだまだ少ないのが現状です。この点、委員や医療現場から「費用負担が大きい」、「想定外のシステムトラブルの可能性がある」、「医師の資格認証が不便である」「院内処方に対応できていない」など様々な課題が指摘されています。厚労省は「電子処方箋推進協議会を立ち上げ、関係者で丁寧に課題解消に向けて検討していく」考えを強調しています(関連記事はこちら)。

医療機関のサイバーセキュリティ対策が極めて重要となり、重層的な対応をとる

このように、全国の医療機関でICTを活用した情報連携を進める際に、大きな問題となるのが「サイバーセキュリティ対策」です。サイバー攻撃が増加する中では、多くの個人情報を扱う医療機関等ではサイバーセキュリティ対策を充実・強化することが求められますが、「医療機関等の利益率は低く、サイバーセキュリティ対策にかけられるコストが限られ、また、どうしても後回し(医療内容本体に優先的にコスト投下してしまう)になりがちである」「サイバーセキュリティ対策のための専門人材確保等も難しい」などの問題があります。

そこで、厚労省は▼「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン案」を改訂(第6.0版)し、院長などの管理者にも「サイバーセキュリティ対策の重要性」を強く認識してもらう▼都道府県・国による医療機関の立入検査において「サイバーセキュリティ対策」をチェックする▼医療機関が自らのサイバーセキュリティ対策(少なくとも「サイバー攻撃を受けてから、ごく短期間で通常診療開始が可能なように、脆弱性対策を行い、診療録等のバックアップをとる」など)を点検する「チェックリスト」を作成・公表する—方針を固めています(関連記事はこちらこちら)。

GL6.0版への見直し視点(医療等情報利活用WG4 220905)

GL6.0版では全体構成を大きく見直す予定(医療等情報利活用WG5 220905)

医療DXへの対応を診療報酬でどのように評価していくべきか

こうした医療DXを進める方向に異論・反論は出ていませんが、医療機関等で生じるコスト(システム等の導入費用、運用・保守・点検費用など)を誰がどう負担するかが大きな問題となります。

この点、「診療報酬で賄う」考え方もあれば、「補助金等で対応する」考え方もあるでしょう。また、初期導入費用は莫大となるケースが多く補助金等で対応し、運用や保守点検などのランニングコストについて診療報酬で対応するという組み合わせ手法も考えられます。

ただし、診療報酬での評価については「患者の負担増になる」「診療報酬は診療の対価である」という側面を十分に考慮しなければなりません。このため支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)や安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)、佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)らは「診療報酬で評価する場合には、患者のメリットに関するエビデンスが必要となる」旨の考えを示しています。

この点、昨年(2022年)12月末には、医療DXの基盤となる「オンライン資格確認等システムの導入」義務化に関する見直しを行い、その際にも「患者のメリットに関するエビデンス構築」の必要性が支払側委員から強く求められました。眞鍋医療会長は「結果検証調査に先立って、近く(4月下旬から)インターネットを活用し、【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】に関する調査」(例えばマイナンバーカードを活用した医療機関受診でメリットを感じられているかなど)を行う方針を提示し、了承されています(関連記事はこちら)。

医療DX評価についても、「患者のメリット」という視点も重視した議論が行われることでしょう。

なお、医療DXについては、「質の高い医療を患者が受けられる。このため、診療報酬での評価=患者負担増は当然である」との論調で議論が進むことが多いようです。しかし、医療DXには「医療従事者の負担軽減」という側面もあり、ここからは「むしろ、医療機関等の負担が減るのであれば、その分、患者側の負担を減らすべきではないか」と考える識者も少なくないことに留意が必要でしょう。様々な角度・視点に立って「診療報酬で対応すべき部分、それ以外で対応すべき部分」を切り分けていく必要があります。



今後、「幅広い内容が含まれる医療DXのうち、2024年度に向けて何が実現され、何を実施するのか」「医療DXのうち、コストを診療報酬で賄うべき部分はどこなのか(患者の負担増が認められる部分はどこなのか)」などを詰めていくことになるでしょう。



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