医療・介護情報の利活用、同意が大前提となっているが「利活用を阻んでいる」「同意は万能ではない」点に留意を—介護情報利活用ワーキング
2023.3.3.(金)
より質の高い介護サービス提供を目指し、介護分野においても「介護情報の標準化を行い、介護サービス事業所・施設や利用者、自治体で広く情報共有する仕組み」を構築する—。
その際、「利用者の同意」が大前提となっているが、「同意取得が適正な利活用を阻んでいる」こと、「同意は万能ではなく、同意があっても利活用が許されない場面もある」ことなどに最大限留意する必要がある—。
2月27日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会「介護情報利活用ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こうした議論が行われました。
情報を適正に利活用するため「同意に代わる仕組み」を構築すべきとの有識者意見も
医療分野と同様に、介護分野についても▼利用者の同意の下、過去の介護情報を介護事業者間で共有し、質の高い介護サービスを提供する▼利用者やその家族が、介護情報を確認して自立支援・重度化防止につながる取り組みを行う▼市町村が地域住民の介護情報を確認し、きめ細やかな介護保険運営・住民支援につなげる—仕組み(全国プラットフォーム)の構築が求められています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
ワーキングでは、「どのような情報を確認・共有可能とすべきか」「情報の利活用に向けて、どのように情報の標準化を進めるか」「どのような手法で情報の共有を行うのか」という点についての議論を始めています(関連記事はこちらとこちら)。
ところで、医療・介護情報を共有・利活用するにあたっては「患者・利用者の同意がある」ことが大前提とされています。電子カルテ情報を共有する仕組みの議論でも「患者同意をどのような形で取得するか」が重要論点の1つになっています(関連記事はこちら)。
しかし、識者の間では「同意の取得が、有用な情報の利活用を阻害している」との声(あたかも「自動車事故がゼロにならないので、自動車の運転は禁止する」ような規定となっているとの指摘もある)や、「情報の非対称性が大きな医療・介護分野などでは、同意があったとしても安易な利活用が許されない場面がある。同意は万能ではない」との声が出ています。
2月27日のワーキングでは、情報利活用の専門家である山本隆一構成員(医療情報システム開発センター理事長)と森田朗参考人(東京大学名誉教授)から、「医療・介護情報を利活用する際の同意の在り方」について意見が示されました。
両者ともに、情報利活用に当たって「同意を大前提とする」ことには、上述のような問題点があると指摘します。前者の「利活用を阻害する」という点に関しては、例えば「匿名化などを十分に行い、本人特定ができない場合でも、当該者の同意がなければ情報の共有・利活用ができない」となれば、正確な状況を把握できず、「将来のサービスの質向上」「新たなサービスの開発」などが遅れ、結果、「同意をしなかった本人」はもちろん、他の「同意した大勢」も不利益を被ることになります。
また、後者の「同意があっても利活用が許されない」場面としては、例えば遺伝情報が考えられます。例えば、あるAさんについて「遺伝的に大きな疾患に罹患する可能性が極めて高い」ことが判明し、Aさんが「この情報を顕名で(Aさんの名前を出して)利活用してかまわない」と同意したとします。しかし、遺伝情報はAさんと血のつながりのある者にも関連する事項であり、Aさんだけの同意では、顕名での利活用などは許さないと考えられます。
また、知識の乏しい一般国民では「そういった利用のされ方をするとは思わなかった」「同意した後に、こういった事態になるとは想像もつかなかった」と感じる場面でも出てきます。山本構成員・森田参考人ともに「同意は万能の免罪符ではない」と強くしてきます。
医療・介護情報を集積・分析し、さまざまな場面で利活用することは「サービスの質向上」「新たなサービスの開発」(例えば優れた新薬の開発など)などに向けて非常に重要です。そこで森田参考人は次のような「同意に代わる情報利活用の仕組み」構築を提言しました。
【1次利用】臨床現場等で生成されたデータを患者の治療・健康管理に活かすための利用(例えば、過去の診療情報を現在の傷病治療に活用するなど)
→データ主体の医療・介護を実現するために、医療・介護従事者は「同意なし」に顕名の患者情報にアクセスすることを認める
→ただし、機微情報漏洩を防ぐために医療・介護従事者には「厳格な守秘義務と、違反した場合の罰則」を課す
【2次利用】医療・介護政策の立案・医学研究・創薬等の利用
→顕名・仮名化データのいずれについても、「データ主体(ここでは患者・利用者)の権利侵害のリスクが小さい」場合には、同意なしにデータの利活用を認める
→「データ主体(ここでは患者・利用者)の権利侵害のリスク」を慎重に見極めることが極めて重要となる
非常に魅力的な「森田試案」(森田私案)ですが、現時点では「医療・介護情報の利活用に当たっては同意の取得」が求められています。この同意には「明示の同意」や「包括的同意」(一度の同意で、他の事項についても同意ありと見做す)、「オプトアウト」(反対の意思が示されない限り、同意ありと見做す)など様々な種類があると解されています。
そうした中、医療・介護分野では「黙示の同意」という考え方が採用されています(個人情報保護委員会・厚労省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイダンス」参照)。これは、例えば「診療行為を受けることに同意している場合には、当該診療にあたって必要となる諸情報の活用や他機関との情報連携についても同意していると見做せる」という考え方と言えます。
「黙示の同意」ありと見做せる場面としては、▼患者への医療の提供のため、他の医療機関等との連携を図ること▼患者への医療の提供のため、外部の医師等の意見・助言を求めること▼患者への医療の提供のため、他の医療機関等からの照会があった場合にこれに応じること▼患者への医療の提供に際して、家族等への病状の説明を行うこと—などが例示されていますが、「介護情報の利活用」に関して「黙示の同意」が認められているのかは必ずしも明確ではありません。山本構成員は、「今後、介護情報の利活用を検討する中では、『黙示の同意』が認められる方向で検討が進められる必要がある」旨の考え方を示しています。
なお、森田参考人は「『黙示の同意』はフィクションである、法的な概念として非常に大きな問題がある」(つまり、厳密には「黙示の同意=同意あり」と見做すことは、法律論からして許されない)とし、上述した「同意に代わる仕組み」の創設を急ぐべきと訴えています。
山本構成員・森田参考人の考えを踏まえた、ワーキングでの意見交換では「同意に関する煩雑な手続きを避け、その一方で同意は万能ではない点を確認し、介護情報の利活用を進める必要がある。最も重要なのは、介護情報により『質の良い介護サービス』の構築につなげることである」ことを確認。ほか、▼介護情報は、医療情報に比べて「より日常生活に密着した内容」を含んでいる点に留意する必要がある▼ケアマネジャーは様々な情報を踏まえてケアプランなどを作成する必要があるが、本人でも家族でもサービス提供者でもない。情報利活用におけるケアマネの位置付けを明確にすることが円滑な情報利活用において重要となる▼諸外国では「国保有のデータは国民からの税金で生成されている。それを一般国民が利用しない、させないことは罪である」との考え方がある。我が国でも、そうした意識改革が進むとよい▼高齢者では医療・介護双方のニーズがあり、両者の情報を十分に利活用できる仕組みを早急に構築する必要がある▼情報を利活用する者の教育・研修、情報の不正利用を監視する仕組みの構築があわせて重要である—などの意見も出ています。
今後、「要介護認定、ケアプラン、介護サービス提供(レセプト)などの情報を、誰と誰がどのような形で共有し、利活用していくか」をさらに具体的に研究・検討していくことになり(まず調査研究事業が進められる)、その際には上記の考えを十分に踏まえた制度の枠組みを考えていく必要があります。
もちろん「同意の在り方」の考えは、別に進められている「医療情報の利活用」にも跳ね返ると考えられ、今後の動きに注目する必要があります(関連記事はこちら)。
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