Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
GemMed塾 短期間で効果を出せるコスト削減の手法とは ~パス改善と材料コスト削減~

医療機関・患者自身で「電子カルテ情報」を共有する仕組みの大枠決定、2023年度からシステム構築開始―医療情報ネットワーク基盤WG(1)

2023.3.10.(金)

「診療情報提供書や退院時サマリーを電子的に紹介先病院の共有・送付する仕組み」「患者の電子カルテ情報の一部(アレルギー情報、薬剤禁忌、検査値など)を患者自身・全国の医療機関で確認できる仕組み」の大枠が、3月9日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)において、中島直樹主査(九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター教授)一任で取りまとめられました。細部の調整を中島主査と厚生労働省で進め、本年度内(2023年3月中)に内容を正式決定します。

来年度(2023年度)から社会保険診療報酬支払基金でシステム構築が進められ、早期の運用を目指します。

また、こうした電子カルテ情報等の共有にあたっては「標準規格で情報を授受できる電子カルテ」が求められます。上述の仕組みを早期に運用するためには、仕組みが整った段階で「標準規格で情報を授受できる電子カルテ」が一定程度普及している必要があり、国は「標準規格で情報を授受できる電子カルテ」を導入する医療機関に対する補助(関連記事はこちら)の準備を進めています。ただし、システムベンダはオンライン資格確認等システムの導入電子処方箋システムの導入にまず注力することが求められており、こうした動きもにらみながら、今後「標準規格で情報を授受できる電子カルテ」の導入支援強化などを検討・実施していくことになるでしょう。

本稿では、取りまとめ内容の大枠を概観し、詳細は別稿で見ていくことにします。

3月9日に開催された「第7回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」

全国の医療機関での患者のアレルギー情報、検査値などを確認できる仕組みを構築

Gem Medで繰り返し報じているとおり、より質の高い医療をより効率的・効果的に提供するために、「全国の医療機関や患者自身が診療情報(レセプト情報・電子カルテ情報など)を共有する仕組み」の構築・運用が進められています。この仕組みには、(A)「レセプト」情報を共有・閲覧可能とする仕組み(B)各医療機関・患者が電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み—の2つがあり、いずれも「オンライン資格確認等システム」のインフラを活用します(関連記事はこちらこちら)。

医療情報の共有・閲覧に向けて2つの仕組みが動いている(医療部会(2)2 211209)

全国の医療機関での電子カルテ情報共有するにあたり「オンライン資格確認等システムのインフラ」を活用する方針を決定(医療情報ネットワーク基盤WG1 220516)



(A)のレセプト情報共有の仕組みはすでに稼働しており、ワーキングでは(B)の各医療機関・患者が電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組みを検討しています。(B)の仕組みは、大きく次の2つに分けることができます。

(1)診療情報提供書や退院時サマリーを電子的に紹介先病院の共有・送付する仕組み
(2)患者の電子カルテ情報の一部(アレルギー情報、薬剤禁忌、検査値など)を患者自身・全国の医療機関で確認できる仕組み

まず(1)は、現在、紹介元医療機関・入院医療機関から『紙』で提供された文書(診療情報提供書や退院時サマリー)を電子化し、「紹介元医療機関→電子カルテ情報交換サービス(仮称、以下同)→紹介先医療機関」という流れで共有・送付するものです。「文書を電子化して、紹介元医療機関と紹介先医療機関で交換する」ものと考えることもできます(下図の青色の矢印で示される仕組み)。

また(2)は、個別医療機関の電子カルテの格納されている6情報(傷病名・アレルギー・感染症・薬剤禁忌・検査(救急、生活習慣病)・処方)について、電子カルテ情報交換サービス・オンライン資格確認等システム・マイナポータルを活用して、患者自身に加えて、全国の医療機関等で共有・確認できるようにするものです。例えば、初診患者について「この患者さんは、過去に●●の病気で手術し、現在◆◆の薬を服用していることが分かった。今般の◇◇治療に当たっては、その点を踏まえて、併用禁忌である○○薬の処方は控えなければならない」など、安全で質の高い医療提供が可能になると期待されます(下図の緑色の矢印で示される仕組み)。

電子カルテ情報等の共有する仕組みの全体像(医療情報利活用基盤WG(1)1 230309)



厚労省は、この仕組みを構築・運用することで、こうした安全で質の高い医療を、より効率的に提供でき、医療費の適正化にも資するため、医療を受ける患者・国民、医療を提供する医療機関、医療費を支払う医療保険者のいずれにもメリットがあると整理しています。

電子カルテ情報共有などにかかる「患者の同意」、一括同意を求める声が多いが・・・

では、(1)(2)の具体的な仕組みを眺めていきましょう。もちろん「さらに詰めなければならない部分」「将来的に検討していかなければならない部分」もある点に留意が必要です。

まず、文書・情報の共有等にあたっては「患者の同意のあること」が大前提となります。自身の預かり知らぬところで「この患者はこの病気にかかっているのか」「過去にこういう手術・治療を受けたのか」という情報が閲覧されては困るためです。

この点、▼作成した文書・電子カルテの情報を電子カルテ情報交換サービスに登録・格納するに当たっては「同意は不要」とする▼紹介先医療機関で診療情報提供書等を確認する際、医療機関で電子カルテの6情報を共有する際には、「患者の同意を必要」とする—という整理が行われました。

「確認・共有時」には同意が求められることから、前者の「登録時」には同意が不要(確認・共有時の同意で不適切活用の抑止は担保できる)と考えられ、諸外国でも同様の考え方が採用されています(関連記事はこちら)。

「確認・共有時」の同意は、(A)のレセプト情報共有と同様に「オンライン資格確認等システムにおける顔認証付カードリーダーシステム」を用いて、「自身の診療情報(感染症や検査値など)を、この医療機関で閲覧共有することを認める、認めない」を患者自身が決定する仕組みが採用されます。ただし、「6情報のすべてを一括同意(または一括拒否)する」のか、「6情報の1つ1つについて同意の有無を判断する(検査値情報は閲覧してもらってよいが、病名は閲覧不可とするなど)」のかについては、今後、さらに詰めていくことになります。

患者の同意1(医療情報利活用基盤WG(1)3 230309)

患者の同意2(医療情報利活用基盤WG(1)4 230309)



ワーキング構成員からは「一括同意で進めるべき」「一度、一括同意した場合、同一医療機関では後の同意は不要とすべき」などの声が数多く出ています。同意に係る患者・医療機関等の負担を減らし、円滑な情報利活用を可能とすることを考えた意見と言えるでしょう。

もっとも一括同意にも問題がありそうです。例えば、外傷で入院する患者が「この病院では、過去の罹患病名だけは知られたくない。他の情報は共有してもらってよいのだが・・・」と考えた場合でも、一括同意・一括拒否の選択肢しかなければ、一括拒否せざるを得なくなってしまいます。すると病院では「この患者は感染症に罹患していないか?もし罹患していれば個室対応などをとらなければならないが、患者が情報共有を一括拒否しているので、さまざまな感染症の検査をしなければならない」という事態が起こりえます。これは患者・医療機関の双方にとって「不幸」となります。

このため、厚生労働省医政局の田中彰子参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室長併任)はGem Medに対し「個別同意の選択肢も用意しておく必要があるのではないかと個人的には考えている。さらに詳細を詰めていく必要がある」とコメントしています。

電子カルテ情報などを蓄積し、そこにアクセスして情報を閲覧する仕組みを構築

文書・情報の共有は、下図のように「文書・情報を作成した医療機関が電子カルテ情報交換サービスに登録し、紹介先医療機関などが文書・情報を取得しに行く【プッシュ型】」でまず行われることになりました。紹介先医療機関等が、文書・情報を作成した医療機関等の保有する情報等を電子カルテ情報交換サービスを介して取得する【プル型】では、「高コストになる」「セキュリティ確保が難しい」などの面もあり、将来的な検討課題に位置づけられます。

文書・情報を管理する仕組み(医療情報利活用基盤WG(1)7 230309)

アレルギー情報などは5年間保存、検査値情報などは1年間保存とする考え

この【プッシュ型】の仕組みを採用する場合、「電子カルテ情報交換サービスに、情報がいつまで蓄積されるのか」が気になります。例えば短時間で蓄積情報が削除されてしまうのでは、全国の医療機関で「当該患者の過去の診療情報を活用できる」場面が限定されてしまいます。一方、「何十年も前の診療情報もすべて蓄積しておく」となれば、莫大なコストが必要になってしまいます。

厚労省は両者のバランスを考慮し、次のような整理を行いました。

【診療情報提供書や退院時サマリー】
▽「紹介先医療機関等が取得した時点で文書情報を削除する」ことを原則とする(他の医療機関がこれらの文書を閲覧することはない)

▽未受領の診療情報提供書等は6か月保存とし、その間は「上書き」可能とする

【6文書】
▽傷病名・アレルギー情報・感染症情報・薬剤禁忌情報は「5年間」程度保存する

▽検査情報は「1年間」保存する(ただし保存期間経過後も直近3回分は保存する)

▽処方情報は「100日」を限度として保存する(ただし保存期間経過後も直近3回分は保存する)

なお、処方情報については、別に稼働している電子処方箋システム都の整理も今後検討されていきます(仮に同じ情報が格納されるとなれば非効率であり、いずれかに一本化することなども検討される可能性がある)。

文書・情報の保存期間(医療情報利活用基盤WG(1)2 230309)

全国の医療機関での電子カルテ情報を共有するための「標準コード」を付与

さらに厚労省は「診療行為等の標準コード」についても整理を行いました。

いわゆる1次利用(患者の過去の診療情報を、現在の治療に活用するイメージ)においては、「診療行為等の標準コード」はどうしても必要なものではありません。極論すれば「電子カルテの画面をキャプチャーし、それを共有すれば足りる」とも思えます。

しかし、詳細な診療情報について「ただ蓄積し、必要に応じて閲覧・共有する」にとどめず、「適切な紐づけを行い、分析する」ことができれば、より優れた医療サービスの開発・提供につながると期待されます(いわゆる2次利用)。

この2次利用のためには標準コードが必須の要素となります。同じ疾患の状態を把握するための検査でも、手法や試薬などが異なれば検査値が意味するところが変わるため「比較」ができません。そこで、「●●の手法で●●試薬を用いた検査は●●●●のコード、○○の手法で○○試薬を用いた検査は○○○○のコード」などといった具合に「標準コード」を付与することで、「●●●●検査同士の数値を比較するとこう変化している。患者の状態が改善しているな」と判断可能となるのです。

ワーキングでは、(1)(2)の仕組みは「まず1次利用を念頭に置いた」うえで、「2次利用も視野に入れたものとすべき」との考えで一致しており、この点を踏まえ、厚労省で下表のような「標準コード化に向けた考え方の整理」が行われました。

標準コード化について(医療情報利活用基盤WG(1)5 230309)



なお、本来であれば「すべての情報について、最初から標準コード化を進める」ことが好ましいとも思えますが、そのためには膨大な時間とコストが必要となってしまいます。すると、例えば頻発する自然災害の折などに「標準コード付与等が整っていないので、被災患者の過去の診療情報を確認することができない」事態に陥ってしまうことになります。このためワーキングでは「まず救急・生活習慣病の分野に絞って、標準コードを付与する」考えを固めています(関連記事はこちら)。



ところで、電子カルテの情報を共有するためには「標準規格」が必要となり、これまでに情報共有に当たっては、広範に用いられている「HL7FHIR」という規格を採用する方針が固められています。この点、▼医療機関では電子カルテとの連携・未連携に関わらず文書作成ができる部門システムが利用されていることを踏まえ「診療情報提供書や退院時サマリーに関しては、HL7 FHIRの規格に準拠することを前提とし文書情報を作成するシステムについて制限しない」▼アレルギー情報や薬剤禁忌など6情報の閲覧については、医療機関等のシステム開発に係る負担を考慮し、「まずは特定健診情報や薬剤情報等の閲覧と同様にXML/PDFのファイル形式で医療機関等へ提供する」―考えもワーキングでまとまりました。



こうした仕組みについて反対意見は出ておらず「概ねの取りまとめが了承された」格好です。ただし、構成員からは様々な提案・注文が出ており(これらは別稿で報じますが)、ワーキングでは、こうした提案・注文の採否について「中島主査に一任する」ことで決着しました。

中島主査と厚労省で最終調整を行い、本年度内(2023年3月まで)に取りまとめ内容が正式決定・公表されます(ほか、親組織である「健康・医療・介護情報利活用検討会」への報告等も別途行われる)。

来年度(2023年度)から、上記の仕組みについて社会保険診療報酬支払基金でシステム開発が行われます。

もっとも、例えば「電子カルテ情報交換サービスの運用はどの主体が行い、コストは誰が負担するのか」「将来的に共有すべき文書・情報の拡大を図るべきではないか」などの検討課題も残っています。今後、これらの課題を整理し、「どの場で解決に向けた議論を進めるのか」も含めて、政府全体で議論していくことになるでしょう。

今後の検討課題(医療情報利活用基盤WG(1)6 230309)



なお、こうした「電子カルテ情報の共有」は、いわゆる医療DX推進の一環・一要素に位置づけられ、医療DX全体と歩調を合わせて進めていく点にも留意が必要です。この点、内閣官房の「医療DX推進本部」では「医療DXの推進に関する工程表(骨子案)」を明らかにし、パブリックコメントの募集を開始しました(骨子案についても別稿で報じます、パブコメサイトはこちら)。「電子カルテの共有」がいつから運用されるのかなども、今後の「医療DX推進の工程表」の中で明らかにされる見込みです。



病院ダッシュボードχ 病床機能報告MW_GHC_logo

【関連記事】

医療機関・患者自身の電子カルテ情報共有のため、まず生活習慣病・救急の診療行為で標準コード作成―医療情報ネットワーク基盤WG(2)
全国の医療機関や患者自身で「電子カルテ情報を共有」する仕組み、患者同意をどの場面でどう取得すべきか―医療情報ネットワーク基盤WG(1)
電子カルテ情報の共有、「誰がどの情報を閲覧できるか」「共有の仕組みをどう考えるか」など整理―医療情報ネットワーク基盤WG
電子カルテ情報の全国医療機関での共有、標準規格準拠電子カルテ普及等をあわせて推進―健康・医療・介護情報利活用検討会(2)
医療機関での患者レセプト情報共有、「手術」は別に個別同意を共有要件に―健康・医療・介護情報利活用検討会(1)

電子カルテ情報の共有、「国民・患者サイドのメリットは何か」を明確に―医療情報ネットワーク基盤WG
中小規模医療機関の標準準拠電子カルテ導入、基金や診療報酬活用して支援へ―医療情報ネットワーク基盤WG
電子カルテデータの共有、「キーとなる情報の明確化」が何よりも重要―社保審・医療部会(2)
ランサムウェア被害で病院が稼働不能になることも、バックアップデータの作成・適切保存等の対策を―医療等情報利活用ワーキング
救急医療管理加算、定量基準導入求める支払側と、さらなる研究継続求める診療側とで意見割れる―中医協総会(3)

電子カルテの標準化、まず「電子カルテの将来像」固め、それを医療情報化支援基金の補助要件に落とし込む―医療情報連携基盤検討会
2019年度予算案を閣議決定、医師働き方改革・地域医療構想・電子カルテ標準化などの経費を計上
異なるベンダー間の電子カルテデータ連結システムなどの導入経費を補助―厚労省・財務省

全国の病院で患者情報確認できる仕組み、電子カルテ標準化など「データヘルス改革」を強力に推進―健康・医療・介護情報利活用検討会
医療機関等で患者の薬剤・診療情報を確認できる仕組み、電子カルテ標準化に向けた方針を固める―健康・医療・介護情報利活用検討会
電子カルテの標準化、全国の医療機関で患者情報を確認可能とする仕組みの議論続く―健康・医療・介護情報利活用検討会
「健康・医療・介護情報共有方針」固まる、全国の医療機関等で薬剤・手術等の情報共有可能に―健康・医療・介護情報利活用検討会
「レセ情報とレセ以外情報」をセットで格納・共有し、効果的かつ効率的な医療提供の実現を―健康・医療・介護情報利活用検討会
全国の医療機関間で、患者の「薬剤情報」「手術情報」など共有できれば、救急はじめ診療現場で極めて有用―医療等情報利活用ワーキング
電子カルテ標準化や国民への健康情報提供(PHR)など一体的に議論し、夏までに工程表まとめる―健康・医療・介護情報利活用検討会

全国の医療機関で診療情報(レセプト・電子カルテ)を共有する仕組み、社保審・医療保険部会でも細部了承
レセ・電カル情報の全国医療機関での共有、「誰にどのようなメリットがあるか」明確化せよ―社保審・医療部会(2)