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「レセ情報とレセ以外情報」をセットで格納・共有し、効果的かつ効率的な医療提供の実現を―健康・医療・介護情報利活用検討会

2020.5.19.(火)

健康・医療・介護情報の連携の一環として「全国の医療機関で、患者の医療情報を共有可能な仕組み」の構築が求められる。これが可能となれば、例えば「意識不明の救急患者等に対し併用禁忌の医薬品使用を避ける」など、医療サービスを効果的かつ効率的に提供することなどが可能となる―。

既に情報の標準化が進んでいる「レセプト」情報の共有が重要であるが、それ以外の情報(例えば検査データなど)も併せてデータベースに格納し、それを共有可能とすることで、より有用なものとなる―。

5月18日に開催された「健康・医療・介護情報利活用検討会」(以下、検討会)と、下部組織「健診等情報利活用ワーキンググループ」「医療等情報利活用ワーキンググループ」との合同会議で、こういった議論が行われました。合同会議は、新型コロナウイルスへの感染を防止するためにオンラインで実施されました。

検討会では、今夏(2020年夏)の工程表策定に向けて議論をさらに詰めていきます。

今夏(2020年夏)までに「健康・医療・介護情報連携の絵姿と工程表」を策定

公的医療保険制度・公的介護保険制度が整備されている我が国においては、質が高く、膨大な量の健康・医療・介護データが存在します。これらのデータを、セキュリティを確保した上で有機的に結合し、分析することができれば、健康・医療・介護サービスの質を高め、かつ効率的な提供も可能になると考えられ、各施策の飛躍的発展を睨んだ「データヘルス改革」が厚生労働省を中心に進められています。

データヘルス改革については、(1)がんゲノム・AI(人工知能)(2)国民が自分自身のデータを閲覧できる仕組み(PHR)(3)医療・介護現場での情報連携(EHR)(4)データベースの効果的な利活用(NDB・介護DB等の連結解析)―の大きく4分野を中心に検討が進められており、骨太方針2019(経済財政運営と改革の基本方針2019)において「今夏(2020年夏)までに2021年度以降の絵姿と工程表を策定する」ことが指示されています。

検討会では、下部組織(上述した2つのワーキンググループ)も設置し、主に(2)-(4)について総合的に検討を進め、今夏(2020年夏)の工程表策定を目指しています。5月18日の合同会議では、これまでに検討会やワーキンググループで示された意見を踏まえて、厚労省が(a)総論(b)健診・検診情報を本人が電子的に確認・利活用できる仕組みの在り方(c)医療等情報を本人や全国の医療機関等において確認・利活用できる仕組みの在り方(d)電子処方箋―について具体的な論点を提示。これに基づく意見交換を行いました(関連記事はこちらこちら)。

なお、現下の「新型コロナウイルス感染症」対策においては、医療等情報の共有・連携の重要性が改めて認識されています。未知の疾病に対しては、症例を迅速に集積し、治療法等の開発を急ぐ必要性が極めて高いためです。今般の論点には、こうした点も盛り込まれています。



まず(a)の総論に関しては、▼患者・国民にとって「有用かつ、安心・安全で、利便性の高い仕組み」とすることを第一目的としてよいか▼オンライン資格確認システム(2020年度中に稼働予定)やマイナンバー制度といった既存インフラを活用し、迅速かつ効率的な利活用を進めてはどうか▼特に新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえ、迅速なデータ利活用を進めてはどうか―などが具体的な論点となっています。

このうち健康・医療・介護データ利活用に際して重要となる「有用かつ、安心・安全で、利便性の高い仕組み」に関しては、山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)や長島公之構成員(日本医師会常任理事)らから、「利便性の重視と、安全、安心の確保とのバランスに留意すべき」旨が強く指摘されました。一般に安全を確保すれば、アクセス制限などが必要となり利便性が低下しがちです。逆に利便性を追求すれば、安全面には一定の妥協も必要となります。この点、厚労省大臣官房審議官の八神敦雄審議官(医療介護連携、データヘルス改革担当)(医政局、老健局併任)も「両者のバランスを考慮することが極めて重要である」と確認しています。



また、コストや開発時間等を考えると論点にあるように「オンライン資格確認システムやマイナンバー制度といった既存インフラを活用する」ことが重要でしょう。オンライン資格確認システムとは、医療機関等の窓口において「患者が、医療保険に加入しているか否か」などを確認できるようにする仕組みです。医療機関等の窓口にカードリーダー等を設置し「被保険者証に記載された人物と、提示者が同一かどうか」「提示された被保険者証が有効であるかどうか」などを審査支払機関とオンラインで結び、瞬時に確認するもので、2021年3月からの運用開始に向けて準備が進められています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

オンライン資格確認システムの概要(健康・医療・介護情報利活用検討会1 200518)



この点について田河慶太オブザーバー(健康保険組合連合会理事)は、「そもそもの資格確認とは異なる目的でオンライン資格確認システムを使用するのであれば、システムに係るコストをだれが負担すべきか、という点も十分に議論する必要がある」と指摘しています。



なお、データを利活用する対象者について、厚労省保険局医療介護連携政策課の山下護課長は「第一義的には医療機関等や患者等の1次利用を念頭に置いている」ことを確認しています。例えば、意識不明の状態で患者が救急搬送されたとして、「既往症は何か」「どのような医薬品が投与されているのか」「どのような医療機器が体内に埋め込まれているのか」などのデータが閲覧可能となれば、救急病院において有効かつ安全な治療法を選択できます(例えば、禁忌の薬剤投与を避けるなど)。

ただし、永井良三座長代理(自治医科大学学長)は「例えば新型コロナウイルス感染症に照らせば、フィールドデータが臨床研究に直結する面も少なくない。当初から、研究などの2次利用も視野に入れたデザインを設計しておくべきではないか」とコメントしています。

本人が健康情報等を確認出来るPHR、民間も含めた標準化等のルール作り急げ

また(b)の「健診・検診情報を本人が電子的に確認・利活用できる仕組み」(PHR、Personal Health Record)は、患者が自身の健診データ等を踏まえて「行動変容」に向かうことを期待するものです。

PHRの全体像(健康・医療・介護情報利活用検討会2 200518)



▼各種健診・検診情報の管理主体が保険者・自治体・事業主などと異なる中で、「生涯にわたる健康データ」にアクセスできるようにするためにどう考えればよいか▼オンライン資格確認等システムの構築により、まず「40歳以上の1人ひとりの特定健診情報」等が閲覧できるようになるが、どう活用していくべきか▼情報の電子化やデータ形式の標準化をどう進めていくか▼既に民間PHRサービスが展開されている状況も踏まえ、国民や関係機関等が安全で適切なサービスを選択・活用するためのルール作り等をどう考えるか▼新型コロナウイルス感染症の発生時や災害時のような非常事態に、情報をどのように利活用すべきか―などの論点が提示されています。

このうち民間PHRサービスについては、大手生命保険会社等が展開を進めています。この点について山本隆一構成員(医療情報システム開発センター理事長)は、「適切なサービスを提供する事業者もあれば、中には困った事業者もあるようだ。ルール作りを急ぐ必要がある」と強調しています(関連記事はこちら)。

この指摘は「情報の標準化」とも関連する重要論点です。例えば電子カルテについては、ベンダーが医療現場の要請を踏まえて独自に改善を進めた結果、「互換性がない」状態に陥っており、「医療情報連携を阻害している」「クライアントの囲い込みに繋がっている」(異なる製品に置き換えると過去のデータとの連結ができない)などの弊害が生じています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。データの標準化等も早急に進めることが求められます。

全国の医療機関で患者情報を共有できれば、効果的かつ効率的な医療提供につながる

一方、(c)の「医療等情報を本人や全国の医療機関等において確認・利活用できる仕組み」(EHR、Electronic Health Record)は、「全国の医療機関等で、患者の過去の治療歴等を確認出来る」環境の整備を目指すものです。例示した救急医療現場での活用はもちろん、一般的な診療においても「当該患者が他医療機関等でどのような治療を受けているのか」を確認できれば、より効果的な治療を行うとともに、重複する検査や投薬を効率化することが可能となるでしょう。

ただし、すべての医療情報を共有することは、余りに非現実的であり、コストパフォーマンスの面でも問題があります(共有の必要性や効果が低いデータもある)。このため、厚労省や総務省では、医療現場の声も踏まえて「共有すべき最低限のデータ」(ミニマムデータ)の研究を進めています。

共有すべき医療情報項目のイメージ(健康・医療・介護情報利活用検討会3 200518)



この点、我が国では保険医療機関等が診療報酬等請求に用いる「診療報酬明細書」(レセプト)の情報を活用することが有用と考えられます。全国一律に統一された様式で集約されており、すでに「一定の標準化が確立している」と考えられるからです(関連記事はこちら)。

例えば、▼高齢者や意識障害の救急患者など「本人や家族から情報が得られない場合」でも、抗血栓薬等の薬剤情報や過去の手術・移植歴、透析、特定健診情報等を把握できる▼高齢者をはじめとして複数の医療機関等を受診する患者について、集約された薬剤情報等を把握することができる(重複投薬の防止や併用禁忌の確認など)▼高齢者や認知症等の患者など「本人が覚えていない、うまく話せない場合」でも、過去の受診した医療機関名等の情報を正確に把握でき、必要な医療情報の照会・入手や、医療従事者による確認負担が軽減される▼非常時で「かかりつけ医等にかかることが困難な場合」「オンライン診療等が行われる場合」などに、薬剤情報や傷病名等から、重症化リスクのある患者や継続が必要な治療などを把握できる―といったメリットが期待できます。

ただし、レセプトは請求書・明細書であり、データの共有等が可能になるまで「サービス提供(治療等)から1か月以上の時間」がかかります。したがって、例えば複数の医療機関に受診する患者がいたとして、当該患者に処方等された医薬品の情報をリアルタイムでは共有できないなどの限界もあります。

山本構成員は、こうしたレセプトデータの限界を十分に認識することの重要性を説くとともに、「レセプト以外のデータも格納できるようにすることで、非常に有用なデータベースになる」と提案しています。例えば▼新型コロナウイルス感染症のPCR検査等の結果▼ヘモグロビンA1cデータ―などを同時に格納することで、レセプトデータと付け合わせ、「治療への応用」「研究への応用」が可能になってくると期待されるのです。

こうした「レセプト以外の医療情報」については、別に▼情報の標準化▼医療機関外へ提供する仕組み―などを検討する必要があり、「格納すべきデータの範囲」などと合わせて十分に検討していくことが必要となります。

この点に関連して宮田裕章構成員(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授)は、「レセプトや電子カルテにとどまらず、別に『WEB等でリアルタイムの情報を共有できる仕組み』の検討をする必要がある」と提言しています。現下の新型コロナウイルス感染症治療などでは、まさにこの「リアルタイムの情報共有する」ことが重視されており、新興感染症対策の一環という面でも、この仕組み構築を早急に進めていく必要があるでしょう。



なお(d)の電子処方箋については、まさに新型コロナウイルス感染症対策の中で「その重要性、必要性」が強く認識されており、▼患者の利便性▼国民の誰もが利用できる仕組み(全国展開が必要)▼医療機関・薬局の負担軽減▼オンライン資格確認システムの活用―などを検討していくことになります。

この点に関連して山口構成員は、「重複投薬等を避けるために、また適切な調剤を行うために、医療機関から薬局に患者情報(疾病名や状態など)をリアルタイムで共有する仕組みが必要となってくる。その際には、患者が『この情報は知られたくない。共有しないでほしい』という項目も出てくる。その点をどう考えるべきか」と問題提起。ただし、「併用禁忌」などを薬局で十分に確認する必要もあり、難しい論点になりそうです。



検討会では、こうした意見も踏まえて「今夏(2020年夏)の工程表策定」に向けた議論をさらに進めていきます。

なお、構成員からは「新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中では、安全性よりも利便性等が重視されがちである。平時の情報連携と、有事の情報連携とを分けて議論すべき」(長島構成員)との指摘もありますが、厚労省では「平時から、有事対応を考慮した情報連携の在り方を考えていく必要がある」として、健康・医療・介護情報の連携に当たっては「平時と有事とのいずれに対応可能な仕組み」を検討していくことになりそうです。



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新型コロナ感染防止のため、臨時・特例的に「初診からのオンライン診療」認める―オンライン診療指針見直し検討会
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各都道府県に「新型コロナ感染患者の診療拠点となる公立・公的病院」を設置せよ―四病協
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