新型コロナウイルス治療薬「レムデシビル」を薬事承認、妊婦や肝機能・腎機能低下者などには投与すべきでない
2020.5.8.(金)
初めての新型コロナウイルス感染症の治療薬として「レムデシビル製剤」(販売名:ベクルリー点滴静注液100mg、同点滴静注用100mg)が特例で薬事承認されたが、対象患者は「PCRで陽性と判断された入院中の、SpO2が94%以下などの重症患者」とし、妊婦や肝機能・腎機能に問題のある患者などには投与すべきでない―。
また、レムデシビルの使用によって、肝機能・腎機能に障害が現れるおそれがあることから、定期的に臨床症状や肝機能・腎機能の検査をすることが求められる―。
厚生労働省は5月7日に通知「レムデシビル製剤の使用に当たっての留意事項について」を示し、こうした点を医療現場等に要請しました(厚労省のサイトはこちら)。有効性・安全性が十分に確認されていないため、使用にあたっては特段の注意が必要です。
重症(SpO2が94%以下など)の入院患者を対象に投与すべき
レムデシビルについては、初めての新型コロナウイルス感染症治療薬として5月7日に薬事承認されましたが、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の規定に基づき、「国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するために緊急に使用されることが必要な医薬品」として、臨床試験の成績が極めて限定的な中で「特例的に承認」されたものです。つまり、有効性・安全性が十分に確認されているとは言い難い状況です。
このため、厚労省では、レムデシビルを新型コロナウイルス感染症の治療に使用するに当たり、以下のような点に注意することを強く求めています。
まず、本剤の効能・効果は「SARS-CoV-2による感染症」(新型コロナウイルス感染症)であり、厚労省は「病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(2020年1月に中華人民共和国から世界保健機関(WHO)に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る)であるものに限る」ことを確認しています。
そのうえで、患者選定に当たっては次の基準を参考にすることが求められます。「重症の入院患者に限定して投与する」ことが求められ、妊婦や腎機能・肝機能低下者などには投与を回避することが求められていると言えるでしょう。
【適格基準】(いわば投与すべき患者の選定基準)
▽PCR 検査においてSARS-CoV-2が陽性(新型コロナウイルス陽性)
▽酸素飽和度(SpO2)が94%以下、酸素吸入またはNEWS2スコア4以上
▽入院中
【除外基準】(いわば投与してはならない患者の基準)
▽多臓器不全の症状を呈する患者
▽継続的に昇圧剤が必要な患者
▽ALTが基準値上限の5倍超
▽クレアチニンクリアランス30mL/min未満、または透析患者
▽妊婦
あわせて、本剤を使用する医療機関等では次のような点にも留意することが求められます。
▽今後の臨床試験・治験データにより「推奨される至適用法・用量」が変更される可能性があること。
▽本剤については、「肝機能障害患者について、ALTが基準値上限の5倍以上の患者では投与しないことが望ましい」と、「腎機能障害患者について、本剤投与で腎機能障害が悪化するおそれがあり、特に重度な腎機能障害患者では、『治療上の有益性』が『危険性』を上回る場合のみ投与する」とされており、これらを踏まえて本剤の投与を判断する
▽本剤については、「急性腎障害、肝機能障害が現れることがあり、投与前・投与中は、毎日、腎機能検査・肝機能検査を行い、患者の状態を十分に観察する」ことが求められており、有害事象の早期発見のために臨床症状や臨床検査値を適切にモニタリングすべきである。具体的には、▼白血球▼白血球分画▼ヘモグロビン▼ヘマトクリット▼血小板数▼クレアチニン▼グルコース▼総ビリルビン▼AST▼ALT▼プロトロンビン時間―の測定や、必要に応じて尿検査の実施を検討する(臨床試験での安全性確認指標)
▽製薬メーカーの実施する「全例調査」などに協力する
製薬メーカーには、次のような義務が課せられます(薬機法施行例第28条)。臨床試験段階では十分に確認されていない有効性・安全性について、実際の臨床現場におけるデータも踏まえて事後的に確認する狙いがあります。
▽本剤の有効性・安全性に関する情報は極めて限られていることから、製薬メーカーは現在進行中の治験・臨床試験の成績が得られ次第、当該成績をとりまとめて速やかに報告する
▽本剤の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害または死亡の発生を知ったときは、速やかに報告する
▽本剤が特例承認を受けたものであること、承認の趣旨について、医療関係者・患者等に説明され、理解されるために必要な措置を講じる
▽本剤の販売・授与の相手方、相手方ごとの販売数量・授与数量を必要に応じて報告する
このほか製薬メーカーには、次のような取り組みも求められます。
▽医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施する
▽一定数の症例データが集積されるまで、全症例について副作用情報等の安全性・有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じる
▽安全性に関する追加的評価に基づき、適正使用に必要な措置を講じる
▽「有効性・安全性に係る最新の情報」を医療従事者が容易に入手可能となるよう必要な措置を講じる
▽「本剤投与が適切と判断される症例のみを対象に、あらかじめ患者等に有効性・安全性に関する情報が文書で説明され、文書で同意を得てから初めて投与される」よう、医師に要請する
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