2019年度予算案を閣議決定、医師働き方改革・地域医療構想・電子カルテ標準化などの経費を計上
2018.12.27.(木)
来年度(2019年度)予算案が、12月21日に閣議決定されました。一般会計歳出は、通常分と臨時・特別分を合わせて101兆4564億円(通常分は99兆4285億円で、前年度当初予算と比べて1兆7157億円・1.8%増)を計上する大型予算と言えそうです。
このうち厚生労働省所管分は32兆351億円(一般会計、前年度当初予算と比べて9089億円・2.9%増)、うち社会保障関係費は31兆5930億円(同8857億円・2.9%増)となりました(厚労省のサイトはこちら(概要)とこちら(主要事項)、財務省のサイトはこちら(2019年度予算のポイント))(関連記事はこちらとこちら)。
目次
社会保障関係費、高齢化の範囲内に収めるが、充実分加味すれば「1兆円増」に
政府全体の社会保障関係費は33兆9907億円で、前年度に比べて1兆円余りの増加となりました。ここから、消費増税に伴う「社会保障の充実」分や「幼児教育の無償化」分を除くと4786億円程度の増加となります。薬価等の実勢価格改定(引き下げ)や介護納付金の総報酬割(40-64歳の第2号被保険者の保険料負担計算において「被用者保険の加入者数」だけでなく「負担能力」も勘案する仕組み)拡大などによって、「社会保障関係費の実質的な伸びを、『⾼齢化による増加分』に収めるとの『新経済・財政再⽣計画』の⽅針を達成できた」と財務省はコメントしています。
厚労省が所管する社会保障関係費の内訳は、「年金給付費」が11兆9870億円(社会保障関係費全体の37.9%で、前年度当初予算に比べて2.5ポイント増)、「医療給付費」が11兆9974億円(同38.0%、同2.8ポイント増)、「生活扶助等社会福祉費」が4兆3321億円(同13.7%、同1.4ポイント減)、「介護給付費」が3兆2301億円(同10.2%、同0.8ポイント増)などとなりました。ついに医療費給付が「社会保障関係費に占めるシェア」トップとなっています。
医療技術の高度化、高齢化の進展(年金制度では「マクロ経済スライド」という給付費を抑える仕組みが導入されている)などによって医療給付費は今後も増加すると見込まれています。さらなる社会保障改革において、「医療」が今後もメインターゲットになると考えられ、2020年度に予定される次期診療報酬改定でも「厳しい」状況となりそうです。
医師の働き方改革や良質な医療・介護サービス提供などが重点事項に
次に、2019年度厚労省予算案の主要事項を見ていきましょう。労働保険などの特別会計を除く「一般会計」の予算額は、上述のとおり32兆351億円(前年度当初予算と比べて9089億円・2.9%増)で、うち社会保障関係費は31兆5930億円(同8857億円・2.9%増)となりました。
安倍晋三内閣では、「人生100年時代を見据えた1億総活躍社会の実現を目指して、『全世代型社会保障の基盤強化』を行う」としており、厚労省も(1)働き方改革・人づくり革命・生産性革命(2)質の高い効率的な保健・医療・介護の提供(3)すべての人が安心して暮らせる社会に向けた福祉等の推進—の3分野を重点事項に位置付けています(2018年度と大枠としては同じ形)。
このうち(1)の働き方改革に関しては、注目される「医療従事者の働き方改革」を進めるために、今年度(2018年度)に比べて8億1000万円増の15億円が計上されています(概算要求時点では21億円の要求)。▼タスク・シフティング(医師から他職種への業務移管)等の勤務環境改善を⾏う医療機関の⽀援▼医療勤務環境改善⽀援センターによる医療機関の訪問⽀援▼看護業務の効率化に向けた取組の推進—などが行われます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
【内訳の大枠】
▼タスク・シフティング(医師から他職種への業務移管)等の勤務環境改善を⾏う医療機関の⽀援:3億9000万円(新規)
▼医師の働き方改革に向けた地域リーダー育成・病院長研修の実施:4800万円(新規)
▼医療勤務環境改善⽀援センターによる医療機関の訪問⽀援:6億円
▼「医療機関への適切なかかり方」等の国民への周知啓発(webサイト作成など):2億2000万円(新規)
▼女性医療職等のキャリア支援(キャリア支援に向けて中核的な役割を担う拠点医療機関の構築):5200万円(新規)
▼地域医療介護総合確保基金による病院内保育所への支援:下記「689億円」の内数
▼看護業務の効率化に向けた取組の推進:2700万円(新規)
また、働き方改革では「生産性の向上」が重視され、医療分野では15億円(概算要求では24億円を要求、▼保健医療情報ネットワーク稼働に情報共有に係る課題の検討・実証▼中心的ICUで複数のICU入室患者をモニタリングするTeleーICU体制整備—など)、介護等分野では44億円(同74億円を要求、▼介護ロボットの開発・活用⽀援▼ICTの活用⽀援—など)が計上されています。
さらに、経験・技能のある介護職員を中心とした「新たな処遇改善加算」を創設(213億円を計上)し、介護人材の確保・定着を目指します。
【内訳の大枠】
▼保健医療情報ネットワーク稼働に情報共有に係る課題の検討・実証:1億2000万円
▼中心的ICUで複数のICU入室患者をモニタリングするTeleーICU体制整備:5億円(新規)
▼介護ロボットの開発・活用⽀援:4億8000万円
▼介護分野におけるICTの活用⽀援:6500万円
「データヘルス改革」に722億円超を計上、NDB・介護DBの連結環境等整備
また、(2)の良質な保健・医療・介護提供に関しては、次のような項目が特に目を引きます。
▽地域医療構想をはじめとする「地域医療確保対策の推進」:706億円(前年度に比べ71億円増、概算要求時点では645億円要求、▼地域医療介護総合確保基⾦による⽀援(689億円、後述)▼都道府県の医療⾏政人材の育成—などを実施)(関連記事はこちらとこちら)
▽医師偏在対策の推進:119億円(前年度比6億円増、概算要求では120億円要求、▼「医師少数区域」等で勤務した医師の認定制度開始に向けた調査(5300万円)▼新専門医制度研修に関する⽇本専門医機構への⽀援(3億6000万円)—などを実施)(関連記事はこちら)
▽災害医療体制、健康危機管理体制の推進:94億円(前年度比89.8億円増、概算要求では55億円を要求、▼DMAT体制の強化▼災害拠点病院等の耐震化等「災害医療体制の充実」—などを実施)(関連記事はこちら)
▽健康寿命の延伸に向けた予防・健康づくり:31億円(前年度比1億円増、概算要求では63億円を要求、▼市町村による「⾼齢者の保健事業」と「介護予防」の一体的実施の先⾏事例への支援▼生活習慣病の重症化予防▼重複多剤投薬対策等—などを実施)(関連記事はこちら)
▽がんゲノム医療等の推進:56億円(前年度比11億円増、概算要求では58億円を要求、▼がんゲノム情報管理センター、がんゲノム医療提供体制の充実(がんゲノム医療中核拠点病院の機能強化や、がんゲノム医療拠点病院の新設など)▼治療と仕事の両⽴⽀援—などを実施)(関連記事はこちらとこちらとこちら)
▽難病対策の推進:12億円(前年度比5.8億円増、概算要求では11億円を要求、▼難病等の医療費助成におけるマイナンバー利活用による申請⼿続の負担軽減—などを実施)(関連記事はこちらとこちらとこちら)
▽データヘルス改革の推進:722億円(前年度比550億円増、概算要求では443億円を要求、▼National Data Base(NDB:医療レセプト・特定健診等情報を格納)と介護保険総合データベース(介護DB:介護レセプト・要介護認定情報を格納)の連結解析に向けた環境整備▼全国的な保健医療情報ネットワークの整備に向けた実証▼医療保険のオンライン資格確認等システムの開発—などを実施)(関連記事はこちらとこちら)
電子カルテの「データ連結」システム導入等を補助する、300億円のICT化基金
2019年度中(2019年10月)には消費税率の引き上げが予定されています。この一部(2兆円強)を原資に「社会保障の充実」も行われ、そこでは「地域医療介護総合確保基金の増額」(国費ベースで医療分689億円、介護分549億円)と並んで、「医療ICT化促進基金(仮称)の創設」(同300億円)がひと際、目を引きます。
この「医療ICT化促進基金(仮称)」の対象事業は、▼オンライン資格確認の導入に向けた医療機関・薬局のシステム整備費(マイナンバーカード等によるオンライン資格確認を円滑に導入するため、医療機関等での初期導入経費(システム整備・改修等)を補助する)▼電子カルテ標準化に向けた医療機関の電子カルテシステム等導入費(国の指定する標準規格を用いて相互に連携可能な電子カルテシステム等を導入する医療機関での初期導入経費を補助する)―の2つです。後者について、厚労省医政局地域医療計画課の鈴木健彦課長は、メディ・ウォッチに「電子カルテデータのコンバータシステムの導入などを考えている」とコメントしており、今後示される具体的な「どういった規格に準拠したシステムが補助対象なのか」に注目が集まります(関連記事はこちら)。
電子カルテについては、仕様がベンダー(メーカー)によって区々であることから、例えば▼地域でICTを活用した連携を行おうとしても、ベンダーが異なるとデータ連結ができず、連携の障壁となっている▼異なるベンダーの電子カルテに切り替えたいが、従前のデータが移行できず、切り替えを躊躇してしまう(ベンダーによるクライアントの囲い込みが生じている)―などの問題点があると指摘されています。このため、「国が最低限の標準仕様を定めるべき」との要望が日本医師会や日本病院団体協議会などから出されており、社会保障審議会・医療部会でも真正面から議論されています。完璧な「標準仕様」の策定には時間もコストもかかりますが、今回のICT化基金がどういった効果を生むのか(コンバータシステムによってデータ連結等の課題は解決するのか、やはり「標準仕様」の策定が求められるのか)、医療現場の動きを注視する必要があるでしょう(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
【関連記事】
異なるベンダー間の電子カルテデータ連結システムなどの導入経費を補助―厚労省・財務省
2019年度、医療・年金などの経費は6179億円増に抑え、29兆8241億円に—2019年度厚労省概算要求
2019年度予算の概算要求基準を閣議了解、社会保障費は6000億円増の要求が可能
2018年度予算案は前年度比0.3%増の97.7兆円に―厚労省分は1.4%増の31.1兆円
病院間の情報連携が求められる中で「電子カルテの標準化」が必要―日病協
「電子カルテの早期の標準化」要望に、厚労省は「まず情報収集などを行う」考え―社保審・医療部会
「電子カルテの標準仕様」、国を挙げて制定せよ―社保審・医療部会の永井部会長が強く要請
電子カルテの仕様を標準化し、医療費の適正化を促せ―四病協
医師働き方改革論議が骨子案に向けて白熱、近く時間外労働上限の具体案も提示―医師働き方改革検討会
勤務医の働き方、連続28時間以内、インターバル9時間以上は現実的か―医師働き方改革検討会
勤務医の時間外労働の上限、健康確保策を講じた上で「一般則の特例」を設けてはどうか―医師働き方改革検討会
勤務医の時間外行為、「研鑽か、労働か」切り分け、外形的に判断できるようにしてはどうか―医師働き方改革検討会
医師の健康確保、「労働時間」よりも「6時間以上の睡眠時間」が重要―医師働き方改革検討会
「医師の自己研鑽が労働に該当するか」の基準案をどう作成し、運用するかが重要課題―医師働き方改革検討会(2)
医師は応召義務を厳しく捉え過ぎている、場面に応じた応召義務の在り方を整理―医師働き方改革検討会(1)
「時間外労働の上限」の超過は、応召義務を免れる「正当な理由」になるのか―医師働き方改革検討会(2)
勤務医の宿日直・自己研鑽の在り方、タスクシフトなども併せて検討を―医師働き方改革検討会(1)
公立・公的病院の機能分化、調整会議での合意内容の適切性・妥当性を検証―地域医療構想ワーキング
地域医療構想調整会議、多数決等での機能決定は不適切―地域医療構想ワーキング
大阪府、急性期度の低い病棟を「地域急性期」(便宜的に回復期)とし、地域医療構想調整会議の議論を活性化—厚労省・医療政策研修会
地域医療構想調整会議、本音で語り合うことは難しい、まずはアドバイザーに期待―地域医療構想ワーキング(2)
公立・公的病院と民間病院が競合する地域、公立等でなければ担えない機能を明確に―地域医療構想ワーキング(1)
全身管理や救急医療など実施しない病棟、2018年度以降「急性期等」との報告不可―地域医療構想ワーキング(2)
都道府県ごとに「急性期や回復期の目安」定め、調整会議の議論活性化を―地域医療構想ワーキング(1)
都道府県担当者は「県立病院改革」から逃げてはいけない―厚労省・医療政策研修会
学識者を「地域医療構想アドバイザー」に据え、地域医療構想論議を活発化―地域医療構想ワーキング(2)
再編・統合も視野に入れた「公立・公的病院の機能分化」論議が進む―地域医療構想ワーキング(1)
2018年度の病床機能報告に向け、「定量基準」を導入すべきか―地域医療構想ワーキング
2025年に向けた全病院の対応方針、2018年度末までに協議開始―地域医療構想ワーキング
被保険者証に個人単位番号を付記し、2021年からオンラインでの医療保険資格確認を実施―医療保険部会
NDB・介護DBの連結方針固まる、「公益目的研究」に限定の上、将来は民間にもデータ提供―厚労省・医療介護データ有識者会議
NDB・介護DBの連結運用に向け、審査の効率化、利用者支援充実などの方向固まる―厚労省・医療介護データ有識者会議
NDB・介護DBの連結、セキュリティ確保や高速化なども重要課題―厚労省・医療介護データ有識者会議
NDB・介護DBからデータ提供、セキュリティ確保した上でより効率的に―厚労省・医療介護データ有識者会議
NDB・介護DBの利活用を促進、両者の連結解析も可能とする枠組みを―厚労省・医療介護データ有識者会議
NDB・介護DB連結、利活用促進のためデータベース改善やサポート充実等を検討—厚労省・医療介護データ有識者会議
市町村が▼後期高齢者の保健事業▼介護の地域支援事業▼国保の保健事業—を一体的に実施―保健事業・介護予防一体的実施有識者会議
高齢者の保健事業と介護予防の一体化、「無関心層」へのアプローチが重要課題―保健事業・介護予防一体的実施有識者会議
高齢者の保健事業と介護予防の一体化に向け、法制度・実務面の議論スタート―保健事業・介護予防一体的実施有識者会議
外来医師が多い地域で新規開業するクリニック、「在宅医療」「初期救急」提供など求める―医師需給分科会
将来、地域医療支援病院の院長となるには「医師少数地域等での6-12か月の勤務」経験が必要に―医師需給分科会
入試要項に明記してあれば、地域枠における地元の「僻地出身者優遇」などは望ましい―医師需給分科会(2)
医師多数の3次・2次医療圏では、「他地域からの医師確保」計画を立ててはならない―医師需給分科会(1)
「必要な医師数確保」の目標値達成に向け、地域ごとに3年サイクルでPDCAを回す―医師需給分科会(2)
2036年に医師偏在が是正されるよう、地域枠・地元枠など設定し医師確保を進める―医師需給分科会
新たな指標用いて「真に医師が少ない」地域を把握し、医師派遣等を推進―医師需給分科会
災害医療の充実に向け、DMAT事務局体制の強化・EMISの改善を―救急・災害医療提供体制検討会
「正しいがん医療情報の提供」、第4期がん対策推進基本計画の最重要テーマに―がん対策推進協議会
がんゲノム医療を牽引する「中核拠点病院」として11病院を選定―がんゲノム医療中核拠点病院等指定検討会
第3期がん対策推進基本計画を閣議決定、ゲノム医療推進や希少・難治がん対策など打ち出す
がんゲノム医療を提供できる中核病院を、本年度(2017年度)中に7-10施設指定—がんゲノム医療懇談会
がんゲノム医療、当面は新設する「がんゲノム医療中核拠点病院」で提供―がんゲノム医療懇談会
「MECP2重複症候群」や「青色ゴムまり様母斑症候群」など38難病、医療費助成すべきか検討開始—指定難病検討委員会
「患者申出を起点とする指定難病」の仕組み固まる、早ければ2019年度にもスタート―難病対策委員会(2)
まず指定難病と小児慢性特定疾患のデータベースを連結し、後にNDB等との連結可能性を検討―難病対策委員会(1)
患者申出を起点とする指定難病の検討、難病診療連携拠点病院の整備を待ってスタート―指定難病検討委員会